君のことを本当に……?

刹那玻璃

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《足》……距離近づく

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 ところで柚月ゆづきは、病院に弁護士の北山錦きたやまにしきと共に向かい、院長や婦長と相談の上、『一身上の都合により退職』を選択する。
 祐次ゆうじが巻き込まれた事件で病院に迷惑がかかるのは困るのと、観月みづきの親権と養女にする裁判で頻繁に休みをとるようになったら……と言うこともある。

「本当に、お世話になりました。申し訳ございません」
「君には本当に頑張って貰っていたから、このようなことになるとは、残念だね……」
「本当に……落ち着いたら、戻ってきて頂戴ね」
「ありがとうございます。姪の親権と養女にする手続きをして……落ち着いたら」

 頭を下げる。
 そして、待たせていたシィを足にして、荷物を取りに向かい、そしてホテルに到着する。

「あ、あの……本当に、ここでしょうか?」
「えぇ、本当にここよ? 数日ここにいて、色々情報を集めなくてはいけないの。確か嵯峨さがも別室取っている筈よ」
「数日が過ぎたら……」
「観月ちゃんのいるところか、逆に私たちの事務所のあるところか、シィの兄のサキの辺りに頼むわ」

 思った以上に大事になっているらしい。
 先程は、自宅のマンションに戻っていたら、隠れるように数人のカメラマンがいた。
 困ったものである。

「あの、お金は……」
「経費で落とすので気にしないで。あぁ、さ、大原さん戻られたのね?」

 ホテルの入り口のテーブルで、何かを熱心に読んでいた嵯峨が顔をあげた。

「早かったな……それに、柚月さん。お疲れではありませんか? 後で、錦とやり取りをしますので、お伺いしますね」
「というか、あんた、スウィートルームって何よ?」
「情報が漏れても困るし、ここのスウィートルームにはベッドルームが3つある」
「……まぁいいわ」



 そして、彪流たけるの方はと言うと、家に連れ戻され、祖父の前に正座で怒鳴られていた。

「お前がここまで愚かとは思わんかった! どうするんぞ!」
「だ、だから謝って、ツイッターを消して、それで終わり……」
「で、済まないから言っているのです! 本当に……」

 祖母は涙ぐむ。

「私たちには良く解らないから、お隣の方にTwitterというものを見て貰ったら、もう、収拾がつかない状態だって……貴方の同級生の祐次ゆうじくんは性犯罪者だ。未成年で子供がいる。警察に通報しろ、だの、ここでは言えないもっと酷いことを書かれているのですよ!」
「だって俺は……」

 彪流は知らない。

 彪流のメッセージで、祐次の父は自主退社寸前であり、観月の叔母は退職する羽目になった。
 生活基盤を失うことになったのである。
 その、今後のことも考えていないのである。

「じ、じいちゃん。正座、もうギブ!」
「黙れ!」

と孫を怒鳴り付けていると、アメリカから一時中国の上海に向かった両親が、上海から直行便に飛び乗って戻ってきた。

「どういうことだ! 彪流!」
「えっと、学校のクラスメイトがいて、写真にとって送ったら、何か撮ったらいけなかったみたいで……」
「撮ったらいけないって、お前は何を書いたんだ!」
「えっ?えっと、同じクラスの不知火祐次しらぬいゆうじが子供抱いてて、女の子と話しながら歩いてたから『不知火、何してるんだ? 子供抱いて、あいつの子かな?』って……」
「この馬鹿者が!」

 彪流の父が、ヘラヘラしている息子を叩く。

「向こうの弁護士にTwitterを確認しろとあった。それだけでなく、お前の友人のところに送られてきたLINEも、一緒にいたと言う同級生の女の子に対しても、酷い電話と内容に私はめまいがした」
「でも、あれ位、普通……」
「バカか! 日本はアメリカ程、恋愛観にルーズじゃない! 男は18才で結婚、それ以前に子供を作ったなんて言われたら、高校にいられなくなり退学! 仕事を探しても、噂で失墜した名誉毀損のせいで仕事は探せず、給金の安い、そしてきつい仕事をするしかなくなる。それに、噂になった女の子も同様だ! 周囲には噂になり、人にこそこそとやってもいないことを言いふらされ、辛い思いをするんだ!」
「……!」
「それなのに、お前は一体何を考えているんだ! その程度も解らなかったのか! 理解できなかったのか?」

 父親の怒りに小さくなる。

「……だ、だって……普通にとって……」
「本人の許可をとったのか?」
「……とってない……」
「では、お前は勝手に撮ったんだな? で、流した」
「……」
「お前が全面的に悪い! 謝罪はしたのか?」

 ますます小さくなり、小声で、

「同級生たちが出ていった……向こうの弁護士さんが、名刺を置いていって……」
「弁護士! 父さん!」
「この人じゃ」

名刺を差し出され、頭をかきむしる。
 外国生活が長い彼でも、名前の知っている有名な人物である。

「……全く……お前は、誰を敵にしたか分かるまい……もう、裁判を起こさないように、頼むしかない……」

 彪流の父の大和やまとは電話番号を押す。
 しばらくして、電話がかかる。

『はい、大原ですが』
「申し訳ありません。武田彪流の父、大和と申します。息子が申し訳ないことを……それで……」
『失礼ですが、被害者である不知火祐次くんの名誉毀損。お父さんである寛爾かんじさんは、会社から出社して欲しくないと連絡が。それに、御自宅には取材陣が殺到、家の外に陣取ったり庭などを荒らした、周辺の家に迷惑をかけたと警察が呼ばれました』
「……っ!」
『それに、お子さんの撮られた写真には別に二人撮られておりまして、赤ん坊のお父さんからも肖像権について相談を受けました。そして、もう一人の女の子……被害者の同級生でしたが、彼女の叔母さんに当たる方も、会社に迷惑がかかると退職されましたが……?』

 息子が軽く考えたことが、最悪の結果を呼んでいる。

『申し訳ありませんが、裁判は免れないとご理解下さい。貴方のお子さんのTwitterが一人の少年だけでなく周囲を巻き込んでしまったのです。どうぞ、今でも理解されていないと思われますが、お子さんによくよくお伝え下さい。それと、海外に逃がしたりなさらないよう、最低限のマナーと礼儀をお持ち下さい。『同級生の写真を撮り、ありもしない情報を流した』それがどういう結果になるのか、お子さん自身、そして父親であるそちらにもご理解して戴ければと思います。失礼します』

 電話が切れ、大和はガックリと肩を落とした。

「……もう駄目だ。彪流を海外に逃がすことも無理だ……。今更Twitterを消すことも出来ない……相手の弁護士からの記者会見を待つしかない……」
「そ、そんな! 祐次とちびつきに謝って……」
「無理に決まっているだろう! 昔、お前に何度も伝えただろう? 父さんが生まれた頃に、オイルショックと言う事があったと! トイレットペーパーや粉ミルク、紙おむつが品薄になって……」
「う、うん……」
「それは、ある噂が流れたんだ! 石油が高額になり、それと共にそういった日用品が品薄になると。それで買い占めが起こって、本当におじいちゃんやおばあちゃんが大変だったと! 噂は噂を呼び、広まっていく、パンデミック……病気……例えばインフルエンザや新型肺炎の大流行のようなもの! パニックも起こるんだ! 沈静化するまでどれだけかかるか! その上、お前の同級生はもう学校にも通えないだろう……ご両親は家には取材陣が殺到し戻ることが出来ない。会社には出勤できず、休むしかない上に、会社から遠回しに退職してくれと言われることになるだろう。現に女の子の叔母と言う方も、姪である少女の為に取材陣が殺到しては職場に迷惑がかかると、もう退職してしまったそうだ。特に、お前が噂を流した人達の家族は、この街にいられないだろう!」

 大和はテーブルを叩く。

「お前に、あれ程高校受験前に言ったな? お前は物事を甘く考える癖がある。もっと考えて行動しろと! 2年間、お前は何をしていたんだ! 情けない!」



 嵯峨は電話を切ると、錦が近づいてくる。

「何やっているのよ。取材陣が集まっているわよ」
「……加害者の父親が、裁判にはしてくれるな。と言おうとしていたので、怒鳴り付けた」
「あらまっ。確か父親は……」
「奥方がアメリカの大財閥のご令嬢で、武田大和」
「あら、テレビでこの間も出てたわね」

 錦はニヤリと笑う。

「で、観月ちゃんのお父さんを調べてみたが、もうすでに2年前家族に内緒で、大病院の院長のご令嬢と結婚していて、子供がいるそうだ」
「あらあら……じゃぁ、柚月さんに親権譲って良いじゃない」
「この事件で、自分も慰謝料を得る可能性がある。先に戸籍に親権を移すべきだろう」

 眉間にシワを寄せる。

「結婚している父親に、育てているけれど仕事をやめた叔母……柚月さんが不利だ」
「あら、柚月さんが再婚して、その旦那と二人で育てますって言えば良いじゃない」
「柚月さんの再婚相手がいないだろうが」
「嵯峨がなればいいのよ。いい加減身を固めたら? それに柚月さん、どこに預けるのよ。大学入学して実家に帰ってないんでしょ? 柚月さんを連れて帰って結婚します。娘がいますって報告して預けてらっしゃいよ」
「……親父に会いたくない……婆さんにも」

 心底嫌そうに呟く。

「あんた、一応、大原財閥の御曹司でしょうが。今は勝手できるけど、いつかは受け継ぐんでしょ?」
「……伏見ふしみがいたら……」
「伏見は妾の子じゃない。おばあさまがものすごく毛嫌いしていたでしょ」
「悪い奴じゃない。悪いのは婆さんと親父! 私やおかあはんには優しい自慢の弟で息子だった……」

 苦しげに呟く。

 伏見は異母弟である。
 父の浮気で生まれた子で、温厚な母も自分の息子だと引き取り可愛がっていたが、祖母が追い出そうとして、反発した嵯峨は体調を崩していた母と、弟を連れ家出した。
 それからは一度も連絡を取らず、自力で大学に合格し、弁護士になった。

 仲が良くて可愛がっていた。
 母も分け隔てなく育ててくれた。
 だが、母は18年前、弟は5年前に病気で逝ってしまった。
 二人をもっと気にかけていたらと自分を責めたが、それからも実家との距離は離れたままである。

「……いい加減実家に帰りなさいよ。おじさまもおばあさまも良い歳よ?」
「……この仕事が終わってからだな」
「この意地っ張り」

 悪態をつくが、首をすくめ、

「じゃぁ、記者会見には私も同席するわ」
「頼む」

二人はホテルに用意された、会議室に向かって歩き出したのだった。
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