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《愛の言葉》
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柚月が追いかけていると、嵯峨の優しい声がする。
「久しぶりやな……かずき。もう……10年経ったんやなぁ……」
近づくと、手足の長い、目も白内障らしい老犬が、ぬくぬくとしたペット用のベッドで丸くなっていた。
「この子は?」
「……優希ちゃんの愛犬のかずきです。飼い始めたのが5年生……今は14才ですね。でも、賢い子ですよ。目は悪くなっているそうですが、毎日の散歩は欠かさないとか。おいはんや実里くんと周囲をチェックするそうです」
「……あら? 子犬……2匹?」
「おいはんが捨てられている子を良く拾うそうです。ある程度大きくなって、貰われていくんですが、この子たちだけはかずきから離れないそうで」
かずきは、モフモフの毛玉を懐に入れだっこしている。
モゾモゾ……と毛玉が動くと、クリクリとした丸い瞳が二対見える。
「……あら、毛色はシュナウザーみたいですけど、姿はプードルみたいですね」
「可愛いですよね……優希ちゃんは性別の虐待……女だから~しろ。女だから兄をたてろ……それに、姉だから弟妹の面倒を見ろ、妹だから言うことを聞け……聞かないと兄には手で……母親や母方の祖母や叔母には言葉や無視……で、本当に参っていました。かずきだけが心の支えやったそうです。それと、片想いだと思っていた主李くんと、同じ読書が趣味だった実里くん、幼馴染みの柳沢翡翠さんだけ……」
「柳沢……?」
「ある日、主李くんが優希ちゃんと実里くんと龍樹ちゃんと一緒に美術館にいったそうです。そこで、祐次くんのお兄さんの祐也くんやその先輩たちに会い、仲良くなって昼食に行こうと誘いました。そうすると、優希ちゃんの当時持っていた携帯電話に、実のお兄さんが『はよ戻ってこいや! くずが……』と言うような酷い言葉や、かずきに暴力を振るっている音声が留守電に……優希ちゃんはパニックを起こしてあきまへんでした。サキの弟の醍醐から電話を貰って、駆けつけました。かずきは祐也くんのお父さんが獣医だったので、入院して命をとりとめ、元気になってから、先に転院、転校した優希ちゃん達の元に……ここにすむようになったんです」
「ゆうき、アイラウー!」
かずきが喋る。
「ゆうき、アイラウー!」
「まぁ! 素敵な騎士さんね」
「……裁判では、お父さん側に引き取られて、こちらに養女に入ったのです。手続きは私が。幸せになってくれて本当に嬉しいです。祐也くんの事件も……祐也くんには大変でしたが……」
「でも、私もそうですが、嵯峨さんのお力に、優しさに救われた人もいると思いますよ」
柚月は微笑む。
嵯峨は、何かを決意したように見つめる。
「あの……少し、お話を聞いて戴けませんか?」
「はい」
門を出て、道路を渡り、糺の森を歩く。
街の中に大きな森がある……周囲は木々により音が阻まれ、人がさほどいない時には静かである。
「凄いですね……静かです。ここが糺の森……」
「『糺す』と言うのは、正しいか否かを問い質すという意味があるそうです。神聖な森なのです」
「そうなんですね。身を清められる感じがしますね」
周囲を見回す。
嵯峨は、思いきったように柚月を見る。
「あ、あの……突然と思われるかと思いますが、私と結婚して戴けませんか?」
「……えっ? あ、あの、あの……」
「貴方が結婚していた方が、観月ちゃんを引き取るのに有利だからとか、そう言った理由で提案した訳でもありませんし、そ、それに、私の収入とかあればどうこうとかそういうのではありません! それに、実は趣味も掃除とか、庭にガーデニングとか……えと、そうじゃなく、前に……お会いした時に、優しい人だと思っていました。看護師の仕事を本当に明るく、患者さんである子供さん、そのご家族にも真摯に優しく接して、私事が大変だろうに、年下だというのにこんなにも凄い人がいるのだと思っていました」
嵯峨は手をそっと握る。
「5年前は仕事上で、でも、本当にお別れした後も時々思い出して……でも、あの電話に本当に驚きました。私は結婚をしていませんし、子供もいません。出来れば、観月ちゃんを娘として、貴方と3人で家族になりたい。結婚して戴けませんか?」
「で、ですが……私で良いのですか?……地位も仕事もなく……宝物と言えば、観月です……」
「柚月さんもでしょう? 今は、贈るものはありません。でも、3人で幸せになりたいと思いますし、その為なら頑張れると思います。駄目でしょうか?」
「……あ、あの……」
頬を上気させ、涙ぐむ。
「わ、私でよければ……娘と一緒に……」
「ありがとうございます! じゃ、じゃぁ、あのっ! 観月ちゃんに……わ、私の娘になって下さいと……で、電話をかけて良いでしょうか……ね? 嫌がられますか……? 柚月さんに……」
本当に困ったような……心配そうな顔に柚月はつい吹き出した。
「ゆ、柚月さん? 笑わなくても……」
「いえ、観月に優しいお父さんが出来たと思って……嬉しいです」
「ほ、本当ですか?」
「はい」
観月の電話が鳴った。
一応確認すると柚月だった為、クリックする。
「もしもし、お姉ちゃん?」
『あ、観月ちゃんですか?』
「あ、嵯峨さん。こんばんは」
観月は声が弾む。
柚月の電話から声が聞こえるということは、祐次のお母さんの愛が良くなっているのだろうと思ったのだ。
「嵯峨さん。お姉ちゃんと一緒ですか?」
『えぇ……そ、それで、観月ちゃんに伝えたいことがあるんだけれど……』
「はい」
電話の向こうで、珍しく言葉に詰まった嵯峨が、ゆっくりと告げる。
『み、観月ちゃん。つい先、柚月さんに私はプロポーズをしました。結婚して下さいと、伝えました』
「えっ?」
ビックリする観月の声に慌てたのか、
『そ、それで、柚月さんに、私は観月ちゃんのお父さんになりたいと、伝えました。……あの、子育てもしたことはありません。でも、恋人もいませんし、観月ちゃん以外の子供はまだいません!……もし、私が嫌いでなければ……その……私の娘に、なってくれませんか?』
「……お、お父さんに? 私の……?」
『い、嫌でしょうか?』
電話に耳を当てたまま、観月は瞳を潤ませる。
「お、お母さんをよろしくお願いします。そ、それに……本当に、嬉しいです。お、お父さん……ありがとうございます!」
『……! お、お父さんと呼んでくれるんですか……ありがとう……』
あちら側でも涙ぐむ声に、観月を心配して近づく祐次たちに、
「祐次くん!おね……お母さんと嵯峨さんが結婚するの! 嵯峨さんが、私のお父さんになってくれるって!」
「嵯峨さんが!」
「うわぁ、それはおめでとう! 観月ちゃん。観月ちゃんのお父さんが嵯峨さんか……かっこいいなぁ」
「嵯峨にいはん……娘、嫁に出せるんかいな……絶対に溺愛して、嫁に出さんと思うわ……」
祐也の台詞の後に、嵯峨の幼馴染みである醍醐は呟いた。
醍醐の予言はぴったりと当たり、後日、正式に養子縁組をして結婚した嵯峨は、柚月が呆れる程観月を溺愛するデレデレの父親となるのだった。
「久しぶりやな……かずき。もう……10年経ったんやなぁ……」
近づくと、手足の長い、目も白内障らしい老犬が、ぬくぬくとしたペット用のベッドで丸くなっていた。
「この子は?」
「……優希ちゃんの愛犬のかずきです。飼い始めたのが5年生……今は14才ですね。でも、賢い子ですよ。目は悪くなっているそうですが、毎日の散歩は欠かさないとか。おいはんや実里くんと周囲をチェックするそうです」
「……あら? 子犬……2匹?」
「おいはんが捨てられている子を良く拾うそうです。ある程度大きくなって、貰われていくんですが、この子たちだけはかずきから離れないそうで」
かずきは、モフモフの毛玉を懐に入れだっこしている。
モゾモゾ……と毛玉が動くと、クリクリとした丸い瞳が二対見える。
「……あら、毛色はシュナウザーみたいですけど、姿はプードルみたいですね」
「可愛いですよね……優希ちゃんは性別の虐待……女だから~しろ。女だから兄をたてろ……それに、姉だから弟妹の面倒を見ろ、妹だから言うことを聞け……聞かないと兄には手で……母親や母方の祖母や叔母には言葉や無視……で、本当に参っていました。かずきだけが心の支えやったそうです。それと、片想いだと思っていた主李くんと、同じ読書が趣味だった実里くん、幼馴染みの柳沢翡翠さんだけ……」
「柳沢……?」
「ある日、主李くんが優希ちゃんと実里くんと龍樹ちゃんと一緒に美術館にいったそうです。そこで、祐次くんのお兄さんの祐也くんやその先輩たちに会い、仲良くなって昼食に行こうと誘いました。そうすると、優希ちゃんの当時持っていた携帯電話に、実のお兄さんが『はよ戻ってこいや! くずが……』と言うような酷い言葉や、かずきに暴力を振るっている音声が留守電に……優希ちゃんはパニックを起こしてあきまへんでした。サキの弟の醍醐から電話を貰って、駆けつけました。かずきは祐也くんのお父さんが獣医だったので、入院して命をとりとめ、元気になってから、先に転院、転校した優希ちゃん達の元に……ここにすむようになったんです」
「ゆうき、アイラウー!」
かずきが喋る。
「ゆうき、アイラウー!」
「まぁ! 素敵な騎士さんね」
「……裁判では、お父さん側に引き取られて、こちらに養女に入ったのです。手続きは私が。幸せになってくれて本当に嬉しいです。祐也くんの事件も……祐也くんには大変でしたが……」
「でも、私もそうですが、嵯峨さんのお力に、優しさに救われた人もいると思いますよ」
柚月は微笑む。
嵯峨は、何かを決意したように見つめる。
「あの……少し、お話を聞いて戴けませんか?」
「はい」
門を出て、道路を渡り、糺の森を歩く。
街の中に大きな森がある……周囲は木々により音が阻まれ、人がさほどいない時には静かである。
「凄いですね……静かです。ここが糺の森……」
「『糺す』と言うのは、正しいか否かを問い質すという意味があるそうです。神聖な森なのです」
「そうなんですね。身を清められる感じがしますね」
周囲を見回す。
嵯峨は、思いきったように柚月を見る。
「あ、あの……突然と思われるかと思いますが、私と結婚して戴けませんか?」
「……えっ? あ、あの、あの……」
「貴方が結婚していた方が、観月ちゃんを引き取るのに有利だからとか、そう言った理由で提案した訳でもありませんし、そ、それに、私の収入とかあればどうこうとかそういうのではありません! それに、実は趣味も掃除とか、庭にガーデニングとか……えと、そうじゃなく、前に……お会いした時に、優しい人だと思っていました。看護師の仕事を本当に明るく、患者さんである子供さん、そのご家族にも真摯に優しく接して、私事が大変だろうに、年下だというのにこんなにも凄い人がいるのだと思っていました」
嵯峨は手をそっと握る。
「5年前は仕事上で、でも、本当にお別れした後も時々思い出して……でも、あの電話に本当に驚きました。私は結婚をしていませんし、子供もいません。出来れば、観月ちゃんを娘として、貴方と3人で家族になりたい。結婚して戴けませんか?」
「で、ですが……私で良いのですか?……地位も仕事もなく……宝物と言えば、観月です……」
「柚月さんもでしょう? 今は、贈るものはありません。でも、3人で幸せになりたいと思いますし、その為なら頑張れると思います。駄目でしょうか?」
「……あ、あの……」
頬を上気させ、涙ぐむ。
「わ、私でよければ……娘と一緒に……」
「ありがとうございます! じゃ、じゃぁ、あのっ! 観月ちゃんに……わ、私の娘になって下さいと……で、電話をかけて良いでしょうか……ね? 嫌がられますか……? 柚月さんに……」
本当に困ったような……心配そうな顔に柚月はつい吹き出した。
「ゆ、柚月さん? 笑わなくても……」
「いえ、観月に優しいお父さんが出来たと思って……嬉しいです」
「ほ、本当ですか?」
「はい」
観月の電話が鳴った。
一応確認すると柚月だった為、クリックする。
「もしもし、お姉ちゃん?」
『あ、観月ちゃんですか?』
「あ、嵯峨さん。こんばんは」
観月は声が弾む。
柚月の電話から声が聞こえるということは、祐次のお母さんの愛が良くなっているのだろうと思ったのだ。
「嵯峨さん。お姉ちゃんと一緒ですか?」
『えぇ……そ、それで、観月ちゃんに伝えたいことがあるんだけれど……』
「はい」
電話の向こうで、珍しく言葉に詰まった嵯峨が、ゆっくりと告げる。
『み、観月ちゃん。つい先、柚月さんに私はプロポーズをしました。結婚して下さいと、伝えました』
「えっ?」
ビックリする観月の声に慌てたのか、
『そ、それで、柚月さんに、私は観月ちゃんのお父さんになりたいと、伝えました。……あの、子育てもしたことはありません。でも、恋人もいませんし、観月ちゃん以外の子供はまだいません!……もし、私が嫌いでなければ……その……私の娘に、なってくれませんか?』
「……お、お父さんに? 私の……?」
『い、嫌でしょうか?』
電話に耳を当てたまま、観月は瞳を潤ませる。
「お、お母さんをよろしくお願いします。そ、それに……本当に、嬉しいです。お、お父さん……ありがとうございます!」
『……! お、お父さんと呼んでくれるんですか……ありがとう……』
あちら側でも涙ぐむ声に、観月を心配して近づく祐次たちに、
「祐次くん!おね……お母さんと嵯峨さんが結婚するの! 嵯峨さんが、私のお父さんになってくれるって!」
「嵯峨さんが!」
「うわぁ、それはおめでとう! 観月ちゃん。観月ちゃんのお父さんが嵯峨さんか……かっこいいなぁ」
「嵯峨にいはん……娘、嫁に出せるんかいな……絶対に溺愛して、嫁に出さんと思うわ……」
祐也の台詞の後に、嵯峨の幼馴染みである醍醐は呟いた。
醍醐の予言はぴったりと当たり、後日、正式に養子縁組をして結婚した嵯峨は、柚月が呆れる程観月を溺愛するデレデレの父親となるのだった。
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