君のことを本当に……?

刹那玻璃

文字の大きさ
29 / 50

《愛の言葉》

しおりを挟む
 柚月ゆづきが追いかけていると、嵯峨さがの優しい声がする。

「久しぶりやな……かずき。もう……10年経ったんやなぁ……」

 近づくと、手足の長い、目も白内障らしい老犬が、ぬくぬくとしたペット用のベッドで丸くなっていた。

「この子は?」
「……優希ゆうきちゃんの愛犬のかずきです。飼い始めたのが5年生……今は14才ですね。でも、賢い子ですよ。目は悪くなっているそうですが、毎日の散歩は欠かさないとか。おいはんや実里みのりくんと周囲をチェックするそうです」
「……あら? 子犬……2匹?」
「おいはんが捨てられている子を良く拾うそうです。ある程度大きくなって、貰われていくんですが、この子たちだけはかずきから離れないそうで」

 かずきは、モフモフの毛玉を懐に入れだっこしている。
 モゾモゾ……と毛玉が動くと、クリクリとした丸い瞳が二対見える。

「……あら、毛色はシュナウザーみたいですけど、姿はプードルみたいですね」
「可愛いですよね……優希ちゃんは性別の虐待……女だから~しろ。女だから兄をたてろ……それに、姉だから弟妹の面倒を見ろ、妹だから言うことを聞け……聞かないと兄には手で……母親や母方の祖母や叔母には言葉や無視……で、本当に参っていました。かずきだけが心の支えやったそうです。それと、片想いだと思っていた主李かずいくんと、同じ読書が趣味だった実里くん、幼馴染みの柳沢翡翠やなぎさわひすいさんだけ……」
「柳沢……?」
「ある日、主李くんが優希ちゃんと実里くんと龍樹たつきちゃんと一緒に美術館にいったそうです。そこで、祐次ゆうじくんのお兄さんの祐也ゆうやくんやその先輩たちに会い、仲良くなって昼食に行こうと誘いました。そうすると、優希ちゃんの当時持っていた携帯電話に、実のお兄さんが『はよ戻ってこいや! くずが……』と言うような酷い言葉や、かずきに暴力を振るっている音声が留守電に……優希ちゃんはパニックを起こしてあきまへんでした。サキの弟の醍醐だいごから電話を貰って、駆けつけました。かずきは祐也くんのお父さんが獣医だったので、入院して命をとりとめ、元気になってから、先に転院、転校した優希ちゃん達の元に……ここにすむようになったんです」
「ゆうき、アイラウー!」

 かずきが喋る。

「ゆうき、アイラウー!」
「まぁ! 素敵な騎士さんね」
「……裁判では、お父さん側に引き取られて、こちらに養女に入ったのです。手続きは私が。幸せになってくれて本当に嬉しいです。祐也くんの事件も……祐也くんには大変でしたが……」
「でも、私もそうですが、嵯峨さんのお力に、優しさに救われた人もいると思いますよ」

 柚月は微笑む。
 嵯峨は、何かを決意したように見つめる。

「あの……少し、お話を聞いて戴けませんか?」
「はい」

 門を出て、道路を渡り、ただすの森を歩く。
 街の中に大きな森がある……周囲は木々により音が阻まれ、人がさほどいない時には静かである。

「凄いですね……静かです。ここが糺の森……」
「『ただす』と言うのは、正しいか否かを問い質すという意味があるそうです。神聖な森なのです」
「そうなんですね。身を清められる感じがしますね」

 周囲を見回す。
 嵯峨は、思いきったように柚月を見る。

「あ、あの……突然と思われるかと思いますが、私と結婚して戴けませんか?」
「……えっ? あ、あの、あの……」
「貴方が結婚していた方が、観月ちゃんを引き取るのに有利だからとか、そう言った理由で提案した訳でもありませんし、そ、それに、私の収入とかあればどうこうとかそういうのではありません! それに、実は趣味も掃除とか、庭にガーデニングとか……えと、そうじゃなく、前に……お会いした時に、優しい人だと思っていました。看護師の仕事を本当に明るく、患者さんである子供さん、そのご家族にも真摯に優しく接して、私事が大変だろうに、年下だというのにこんなにも凄い人がいるのだと思っていました」

 嵯峨は手をそっと握る。

「5年前は仕事上で、でも、本当にお別れした後も時々思い出して……でも、あの電話に本当に驚きました。私は結婚をしていませんし、子供もいません。出来れば、観月みづきちゃんを娘として、貴方と3人で家族になりたい。結婚して戴けませんか?」
「で、ですが……私で良いのですか?……地位も仕事もなく……宝物と言えば、観月です……」
「柚月さんもでしょう? 今は、贈るものはありません。でも、3人で幸せになりたいと思いますし、その為なら頑張れると思います。駄目でしょうか?」
「……あ、あの……」

 頬を上気させ、涙ぐむ。

「わ、私でよければ……娘と一緒に……」
「ありがとうございます! じゃ、じゃぁ、あのっ! 観月ちゃんに……わ、私の娘になって下さいと……で、電話をかけて良いでしょうか……ね? 嫌がられますか……? 柚月さんに……」

 本当に困ったような……心配そうな顔に柚月はつい吹き出した。

「ゆ、柚月さん? 笑わなくても……」
「いえ、観月に優しいお父さんが出来たと思って……嬉しいです」
「ほ、本当ですか?」
「はい」



 観月の電話が鳴った。
 一応確認すると柚月だった為、クリックする。

「もしもし、お姉ちゃん?」
『あ、観月ちゃんですか?』
「あ、嵯峨さん。こんばんは」

 観月は声が弾む。
 柚月の電話から声が聞こえるということは、祐次ゆうじのお母さんのめぐみが良くなっているのだろうと思ったのだ。

「嵯峨さん。お姉ちゃんと一緒ですか?」
『えぇ……そ、それで、観月ちゃんに伝えたいことがあるんだけれど……』
「はい」

 電話の向こうで、珍しく言葉に詰まった嵯峨が、ゆっくりと告げる。

『み、観月ちゃん。つい先、柚月さんに私はプロポーズをしました。結婚して下さいと、伝えました』
「えっ?」

 ビックリする観月の声に慌てたのか、

『そ、それで、柚月さんに、私は観月ちゃんのお父さんになりたいと、伝えました。……あの、子育てもしたことはありません。でも、恋人もいませんし、観月ちゃん以外の子供はまだいません!……もし、私が嫌いでなければ……その……私の娘に、なってくれませんか?』
「……お、お父さんに? 私の……?」
『い、嫌でしょうか?』

電話に耳を当てたまま、観月は瞳を潤ませる。

「お、お母さんをよろしくお願いします。そ、それに……本当に、嬉しいです。お、お父さん……ありがとうございます!」
『……! お、お父さんと呼んでくれるんですか……ありがとう……』

 あちら側でも涙ぐむ声に、観月を心配して近づく祐次たちに、

「祐次くん!おね……お母さんと嵯峨さんが結婚するの! 嵯峨さんが、私のお父さんになってくれるって!」
「嵯峨さんが!」
「うわぁ、それはおめでとう! 観月ちゃん。観月ちゃんのお父さんが嵯峨さんか……かっこいいなぁ」
「嵯峨にいはん……娘、嫁に出せるんかいな……絶対に溺愛して、嫁に出さんと思うわ……」

祐也の台詞の後に、嵯峨の幼馴染みである醍醐だいごは呟いた。



 醍醐の予言はぴったりと当たり、後日、正式に養子縁組をして結婚した嵯峨は、柚月が呆れる程観月を溺愛するデレデレの父親となるのだった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

バイトの時間なのでお先に失礼します!~普通科と特進科の相互理解~

スズキアカネ
恋愛
バイト三昧の変わり者な普通科の彼女と、美形・高身長・秀才の三拍子揃った特進科の彼。 何もかもが違う、相容れないはずの彼らの学園生活をハチャメチャに描いた和風青春現代ラブコメ。 ◇◆◇ 作品の転載転用は禁止です。著作権は放棄しておりません。 DO NOT REPOST.

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか? そのほかに外伝も綴りました。

春の雨はあたたかいー家出JKがオッサンの嫁になって女子大生になるまでのお話

登夢
恋愛
春の雨の夜に出会った訳あり家出JKと真面目な独身サラリーマンの1年間の同居生活を綴ったラブストーリーです。私は家出JKで春の雨の日の夜に駅前にいたところオッサンに拾われて家に連れ帰ってもらった。家出の訳を聞いたオッサンは、自分と同じに境遇に同情して私を同居させてくれた。同居の代わりに私は家事を引き受けることにしたが、真面目なオッサンは私を抱こうとしなかった。18歳になったときオッサンにプロポーズされる。

『冷徹社長の秘書をしていたら、いつの間にか専属の妻に選ばれました』

鍛高譚
恋愛
秘書課に異動してきた相沢結衣は、 仕事一筋で冷徹と噂される社長・西園寺蓮の専属秘書を務めることになる。 厳しい指示、膨大な業務、容赦のない会議―― 最初はただ必死に食らいつくだけの日々だった。 だが、誰よりも真剣に仕事と向き合う蓮の姿に触れるうち、 結衣は秘書としての誇りを胸に、確かな成長を遂げていく。 そして、蓮もまた陰で彼女を支える姿勢と誠実な仕事ぶりに心を動かされ、 次第に結衣は“ただの秘書”ではなく、唯一無二の存在になっていく。 同期の嫉妬による妨害、ライバル会社の不正、社内の疑惑。 数々の試練が二人を襲うが―― 蓮は揺るがない意志で結衣を守り抜き、 結衣もまた社長としてではなく、一人の男性として蓮を信じ続けた。 そしてある夜、蓮がようやく口にした言葉は、 秘書と社長の関係を静かに越えていく。 「これからの人生も、そばで支えてほしい。」 それは、彼が初めて見せた弱さであり、 結衣だけに向けた真剣な想いだった。 秘書として。 一人の女性として。 結衣は蓮の差し伸べた未来を、涙と共に受け取る――。 仕事も恋も全力で駆け抜ける、 “冷徹社長×秘書”のじれ甘オフィスラブストーリー、ここに完結。

里帰りをしていたら離婚届が送られてきたので今から様子を見に行ってきます

結城芙由奈@コミカライズ連載中
恋愛
<離婚届?納得いかないので今から内密に帰ります> 政略結婚で2年もの間「白い結婚」を続ける最中、妹の出産祝いで里帰りしていると突然届いた離婚届。あまりに理不尽で到底受け入れられないので内緒で帰ってみた結果・・・? ※「カクヨム」「小説家になろう」にも投稿しています

ざまぁに失敗したけど辺境伯に溺愛されています

木漏れ日
恋愛
天才魔術師セディが自分の番である『異界渡りの姫』を召喚したとき、16歳の少女奈緒はそれに巻き込まれて、壁外という身分を持たない人々が住む場所に落ちました。 少女は自分を異世界トリップに巻き込んだ『異界渡り姫』に復讐しようとして失敗。なぜかロビン辺境伯は少女も『異界渡りの姫』だと言って溺愛するのですが…… 陰陽の姫シリーズ『図書館の幽霊って私のことですか?』と連動しています。 どちらからお読み頂いても話は通じます。

病弱な彼女は、外科医の先生に静かに愛されています 〜穏やかな執着に、逃げ場はない〜

来栖れいな
恋愛
――穏やかな微笑みの裏に、逃げられない愛があった。 望んでいたわけじゃない。 けれど、逃げられなかった。 生まれつき弱い心臓を抱える彼女に、政略結婚の話が持ち上がった。 親が決めた未来なんて、受け入れられるはずがない。 無表情な彼の穏やかさが、余計に腹立たしかった。 それでも――彼だけは違った。 優しさの奥に、私の知らない熱を隠していた。 形式だけのはずだった関係は、少しずつ形を変えていく。 これは束縛? それとも、本当の愛? 穏やかな外科医に包まれていく、静かで深い恋の物語。 ※この物語はフィクションです。 登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。

結婚する事に決めたから

KONAN
恋愛
私は既婚者です。 新たな職場で出会った彼女と結婚する為に、私がその時どう考え、どう行動したのかを書き記していきます。 まずは、離婚してから行動を起こします。 主な登場人物 東條なお 似ている芸能人 ○原隼人さん 32歳既婚。 中学、高校はテニス部 電気工事の資格と実務経験あり。 車、バイク、船の免許を持っている。 現在、新聞販売店所長代理。 趣味はイカ釣り。 竹田みさき 似ている芸能人 ○野芽衣さん 32歳未婚、シングルマザー 医療事務 息子1人 親分(大島) 似ている芸能人 ○田新太さん 70代 施設の送迎運転手 板金屋(大倉) 似ている芸能人 ○藤大樹さん 23歳 介護助手 理学療法士になる為、勉強中 よっしー課長(吉本) 似ている芸能人 ○倉涼子さん 施設医療事務課長 登山が趣味 o谷事務長 ○重豊さん 施設医療事務事務長 腰痛持ち 池さん 似ている芸能人 ○田あき子さん 居宅部門管理者 看護師 下山さん(ともさん) 似ている芸能人 ○地真央さん 医療事務 息子と娘はテニス選手 t助 似ている芸能人 ○ツオくん(アニメ) 施設医療事務事務長 o谷事務長異動後の事務長 雄一郎 ゆういちろう 似ている芸能人 ○鹿央士さん 弟の同級生 中学テニス部 高校陸上部 大学帰宅部 髪の赤い看護師(川木えみ) 似ている芸能人 ○田來未さん 准看護師 ヤンキー 怖い

処理中です...