君のことを本当に……?

刹那玻璃

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《彪流(たける)》

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 話は変わる。



 事件の当事者である少年はあの事件から学校にも行けず、ネット環境も電話を取り上げられ、祖父の自宅にほぼ軟禁されていた。
 家の回りではテレビや新聞、雑誌記者がいて、カーテンをそっと開けるとカメラの視線が自分に突き刺さるような気がした。
 厳格でかくしゃくとした祖父が時々表に出ては周囲に謝罪し、祖母は泣きながら家に引きこもり、好きだった庭の手入れをやめてしまった。
 二人はやつれ、食事も隣家の奥さんが差し入れして貰うようになっていた。
 彪流は一年ちょっと経つが、隣家の家族の顔も名前も知らなかった。
 祖父母は挨拶をしに行きなさいと何度も言っていたが、動物病院と言うことだけしか知らなかったのだった。



 周囲が取り囲まれた状態の家で、父はネットや情報をやり取りし、土曜日になって、

「……判った。不知火しらぬいくんの両親は京都で入院しとる。病院名は教えて貰えんかった。でも、状況は芳しくないらしい」
「命に?」

憔悴しきった祖母は息子を見る。

「いや、母さん。それが病院長が厳しく情報をブロックしとるらしい。でも、特にお母さんが……奥さんが持病が再発して、救急搬送されたみたいで、それを色々つてを頼ってみたんだ。これ以上は解らない」
「救急搬送……」
「で、彪流たける? お前、被害者の不知火くんと一緒にいた女の子は……」
大塚観月おおつかみづき……」
「その子の親権問題で裁判の準備がされとる。あの子は母親が亡くなっていて、父親は単身赴任。叔母さんに育てて貰っていて、音信不通になっていた父親から親権を叔母に移すらしい。で、かなり困難やったけど、不知火くんの従兄がおるところが判った。もしかしたら不知火くんがおるかもしれん。会いに行って、裁判をせんとって貰うように頼んでくる!」
「やめぇ!」

 彪流の祖父は息子の大和やまとを止める。

「悪いんは彪流や! それに、育てたんはお前にわしらや!」
「でも、父さん!」

 祖父は息子に近づくと手を振り上げた。

 バーン!

大和は吹っ飛んだ。

「お前は何をやっとるんだ! 息子の彪流は、同級生の個人情報を、写真を安易に流して騒ぎになった! 悪いんは彪流や! わしやばあちゃんはあれ程、謝罪をして回りよるのに、父親のお前がこそこそと何をしよる! 個人の情報を安易に流して、騒ぎになった彪流に反省が少ないと思とったら、お前がどれだけ大事か教えておらんのか! お前は、世界が自分中心に回っとると思うとんのか! そがいに言うなら、お前と彪流は家から出ていけ! もう、わしらも疲れたわ! お前が出ていかんのなら、わしらが……わしとばあちゃんが出ていくわ!」
「父さん!」
「黙れ! 亜沙子あさこ行くで」

 祖父の伊佐矢いさやは、よろよろと立ち上がる妻を支えるようにして、奥に入っていった。

「父さん! 母さん!」

 伊佐矢と亜沙子は前もって連絡していたらしく、隣家との通路を抜けて入っていった。
 そして、二人は隣家の夫婦と共に車で出ていったのだった。

「……お前が悪いんや!」
「……知るかよ! 俺は日本におりたなかった! おれって言うたんは親父だろ!」

 良く似た親子は怒鳴り合うのだった。



 そして、隣の家に移った老夫婦を車に乗せたのは、安部朔夜あべさくやとせとか夫妻である。
 動物病院をしている為、犬の吠える声など迷惑はかかっていないかと定期的に夫婦は挨拶をしていた上に、10年前の事件の時にも、迷惑をかけたと度々老夫婦に頭を下げに来ていた。

 それより多かったのは伊佐矢は元々、やんちゃ坊主の一平やお転婆娘のくれないひめ、その3人を嗜める祐也ゆうやの柔道の師匠であった。

 ちなみに、長男の大和は留学した入れ替わりに戻ってきた祐也が養子になったので、大和は祐也を知らない。
 つまり、足元から大和は情報を手にできていないのである。

「……はぁ……本当に申し訳ない。朔夜……」
「いえ、先生には昔からお世話になってますし。お疲れでしょう?」

 2頭の子犬をゲージに入れ乗せていくつもりだった夫婦は、事件後隣家の老夫婦を心配し、食事や何かを差し入れ、そしてずっとここにいては参ってしまいますよと外出を誘ったのである。
 ちなみに朔夜は大和と相性が悪く、無視していたし、情報をあれこれしているようだと聞いていた為、伊佐矢に告げ口していたりする。

「亜沙子おばさま。祐也はおばさまに会いたがっていますわ」
「でも、迷惑をかけたのに……」
「おばさまじゃないでしょう? それに、祐次くんは本当に良い子ですよ?」
「こんな縁があるのに、私の孫は……」

 嘆く夫婦に、朔夜は、

「少しゆっくりしましょう?先生」

と車を息子の家のある方向に回したのだった。



 途中、娘夫婦に連絡をして、知人をお祭りに連れていく事を告げると、末っ子でさとい媛が、

『もしかして師匠? でも、お疲れじゃない? お母さん』

 表情の余り出ない方である媛だが、柔道の昔の恩師である伊佐矢夫婦をとても尊敬し、顔を見せていたのだが、最近は忙しい上に、父から大和が戻っていることを聞き、家には向かうが、伊佐矢に挨拶を控えていた。
 伊佐矢と亜沙子は尊敬し、実の祖父母のように大好きだが、大和のことは嫌いだった。

「息子さんとお孫さんがストレスを悪化させて辛いのですって。のんびりして戴こうと思って」
『それは良いわね。じゃぁ、お母さん。伝えておくわね?』

 電話が切れる。
 そして媛が、姉の紅(くれない)に電話をかけた。

『媛~。そっちはどう? 先は話せなかったでしょ?』
「それがね?」

 媛は説明する。

『はぁ? あの、お隣の武田のおじいちゃん……先生の孫が、例の情報を流した祐次のクラスメイトの馬鹿? しかも、根性悪大和にいが、息子のやらかしたことを反省しないで、ネットや自分達の知り合いの情報をありったけ駆使して、叔父さんや叔母さん、観月ちゃんの個人情報を引き出してるですって?』

 紅の夫のウェインがすぐ電話を回し、別の車の嵯峨に聞こえるようにする。

「武田先生は奥さんと毎日頭を下げて回って大変なのに、大和って言うその人、自分は謝罪もせずに息子にネットで情報をばらまくなっていいながら、自分はハッキングすれすれで人の情報盗み見て、観月ちゃんの居場所を特定しようとしてるみたい」
「……ぶっ潰す」

 低い声が響き、

「うちの可愛い娘の観月の情報を……調べて訴える!」

嵯峨である。

『それに、めぐみさんの情報を漏らしたんは、あの院長か!』
「いえ、それが、叔母さんの情報は病院側……特に院長が厳しく制限したそうですよ。院長先生って……」
「嵯峨のおとうはんや。入院しとるんは大原総合病院」

 媛の横で運転しているのは標野しめのである。
 後ろにいるのは、標野の両親と甥姪である。

「おいはんも頑固な人や。特に個人情報を漏らすんはせぇへんわ」
「そうなんだ……でも、じゃぁ……」
賢樹さかきがいいよった。柚月ゆづきはんの兄が、宮坂のお嬢はんと結婚したとか……あそこからやないか?」

 嵐山らんざんは孫を膝にのせる。

「全く……でも、あかね? 今年も蛍が綺麗やったらえぇなぁ?」
「うん! それに、あきちゃんたちと遊ぶのも楽しみ!」
「そうやなぁ。穐斗あきとも大きゅうなったやろか?」

 嵐山からすると、嫁の孫である穐斗はひ孫になるが、茜たちと同年代であり、何故かおっとりと愛らしい穐斗は嵐山が大好きで、先日も、

「嵐山おじいちゃん。櫻子さくらこおばあちゃん来てね?」

と絵はがきが届き、喜んだものである。
 ちなみに定期的に写メが送られてくる。

「今年は、おとうはん。えぇことがありそうや」

 標野は、ハンドルを回した。



 約一時間半で、会場に到着する。
 上に駐車場があるが、登る前に下ろして貰い、特に菓子を作ってきた標野は車の運転を媛と交代し、売り場に運ぶ。
 一緒に入ってきた一行に、

「あ、シィお兄ちゃん! 予約があったんよ?」
「はぁ、そうなんか。ありがとうさん。蛍ちゃんに……べっぴんはんやなぁ……どないしたん」

 兄の紫野むらさきのと共にブースに入りつつ、可愛らしいメイドさんの格好に近いエプロンドレスにヘッドドレスの二人を見る。

「えと、似合いませんか?」
「いやいや~、べっぴんはんやなぁって、あ、観月ちゃん。おとうはんとおかあはん来とるで?」
「えっ!」

 視線を移すと、手を握り立っている嵯峨と柚月に気がつき、

「お、お父さん! お母さん! お帰りなさい!」

駆け寄ってきた娘に、嵯峨は照れくさそうに、

「ただいま帰りました。元気そうで良かった。それに可愛いですね」
「祐也お兄ちゃんにして戴いたんです」
「そうなんですね。お父さんはその髪型教わって手伝おうかと思いますよ」

親子の様子を標野は、

「何か、嵯峨が壊れとらんか? サキ」
「いや、あれが本性らしい」

紫野は弟の作った菓子を並べ、チェックする。
 そして横を見て、

「かいらしいドールハウスやなぁ。売約済みて……」
「サキお兄ちゃん。ひなお兄ちゃんが私と観月ちゃんにって。凄いでしょ?」
「ほんまやなぁ……テディベアもぎょうさんあるし、羊毛フェルトのグッズも多いなぁ」
「はーい! 私も頑張ったのよ? それにこの一体は、観月ちゃんが作ったの!」

 すると、ナチュラルメイクの金髪の女性が、食い入るようにテディベアを見つめると、

「pretty! キュート! 何てcharming!」
「コラコラ、ヴィヴィ。子供たちに買い物、わがまま言うなっていってるのに、ヴィヴィが言ってどうする」
「だって、一平! この子!」

それは、観月が私用に時間をかけてしまい、売り物が出来なかった為、余ったモヘアで小さい型紙を見つけて作ったものである。
 売れるというよりも、場所を埋めようと置いたのだ。
 それに、風遊ふゆや蛍、祐也に比べ本当に初心者である。
 それなのに……。

「あの、私の作ったもので……風遊さんや祐也お兄さんたちに比べると……まだ始めて5体目なんです」
「5体目?」
「はい」

 観月は申し訳無さそうに頭を下げる。

「素敵だわ! 幾らかしら?」
「え、えぇぇ! あの、あの、蛍さん!」
「ヴィヴィ、5000円でーす!」

 蛍はにっこり笑う。

「えぇぇ? 安すぎない?」
「ん? だって、サイン入ってないし。観月ちゃん。ベアの足の裏に「Miduki Oohara」ってサインと、『Dear Vivi』に日付けをお願いね?」

 油性ペンを渡し、観月は緊張しつつ書いて渡すと、ヴィヴィは嬉しそうに微笑んだ。

「ありがとう! 小さいテディベア作家さん。こんな可愛いベアは初めてだわ。そして初めまして。祐次の姉のヴィヴィよ? よろしくね」
「は、初めまして。大塚観月……いえ、大原観月です。お会いできて嬉しいです」
「風遊に聞いていたわ。それに本当に可愛い! ウェイン! 観月ちゃんよ!」

 観月の周囲は、キラキラした空気に包まれたのだった。
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