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安倍晴明の章

家の阿鼻叫喚は何のその……

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 大好きな兄たちと兄のお友達である紫蘭しらんと共に歩いていると、

「あら? 紫蘭、子麟しりん子鵬しほう……キャァァ! 可愛い! もしかして妹ちゃん?」

 その声に見ると、スタイルの良い女性がいた。
 しかし、知的な瞳でキラキラしている。

「あ、初めまして。私は諸葛果しょかつかです。よろしくね?」
「お姉様! えっと、私は趙龍花ちょうろんほわです。初めまして」

 深々と頭を下げる。

「いやぁぁん~! 可愛いわ! 桃花タオホワお姉様にそっくり!」

 今日の果のファッションは、グラビアアイドル並みの美貌とスタイルを最大限に生かした、しかも一歩間違えれば周囲の人が目のやり場に困るような格好である。

「なぁなぁ、果。その格好なんだよ」
「あら、これはニッポンの文化! 『コスプレ』ですわ。ニッポンは富士山、ニンジャ、武士、お殿様と、寿司とアニメとこれですわ!」

 かなり誤った認識である。
が、口にはしない。

「それとこれは、あるゲームのキャラクターの格好ですの。お姉様に見て戴こうと思って。それに、お姉様にも似合いそうなメイド服を作ってみたのですわ!」

 びらーんとバッグの中のものを広げ、兄弟が又かと呆れ、紫蘭は鼻血を噴く。

「わぁぁ! 紫蘭! 何してるんだ?」
「座って、俯く! 鼻を押さえる!」

 子麟の一言は、最近言われている鼻血の止め方である。
 昔は仰向け、首をトントンと叩く、ティッシュを詰めるなどあったものの、仰向けは血液が口の中に入るので良くないのと、首を叩くのも意味はなく、ティッシュは取る時に塞がりかけた傷が開くので、やめた方がいいらしい。
 血が流れても拭きつつ、俯いて止まるまで安静がいいのだという。

 紫蘭に手当てをしつつ、

「母上は、それ着ないと思うけど?」
「あら、貴方達の前では着ないでしょうけど、将軍には見せるんじゃないかしら?」
「変態か! 家の父は……」
「あら、将軍が決めることでしょう? でも可愛いじゃない。このメイド服。私が考えたのよ。ミニスカ、肩は開けて、でも襟首はきちんと留めて、白いエプロンドレスに、ヘッドドレス。靴下と言うよりもガーターベルトで、ハイヒールよ!」
「紫蘭が想像するからやめろ!」
「あら、じゃぁ、逆に現代のチャイナドレスにして、太ももまでスリットとか……いやいや、そこまで過激じゃなくてゴスロリにしちゃおうかしら。その時にはお揃いで妹ちゃんも……! ピンクとブルーで色違い」
「「それはよろしく!」」

 兄弟の声が揃う。

 さすがはマザコンとシスコンの兄弟である。

「あら、もっと考えたらいいのに、残念だわ」
「いや、果の頭の中をどうにかしろよ! あぁ、龍花、気にするな。果は……」
「お姉様、かっこいい! 龍花も! 龍花も着たいです! んっと『こすぷれ』ってわかんない……でも、着たいです!」

 拳を固めいい放つ妹に、愕然とする兄達……。

「いや、いやいや! 龍花。やめよう! お兄様が可愛いの選んであげるから!」
「そうだよ! 龍花? 兄ちゃん、一杯選んであげるから、な?」
「でも、キラキラ……」
「大丈夫! 家には新しく、沢山衣装を揃えるから! 母上と色違いのお洋服もドレスも作るからね?」
「そうだよ。約束するから」



 こちらはこちらで別の阿鼻叫喚の世界……。
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