言葉を探そう

刹那玻璃

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ラブシチュエーション

同じサークルの先輩後輩関係~活動報告より~

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 今日は晴れ渡ったいい日になった。



 小宮千彩子こみやちさこ、通称ちいちゃんと呼ばれている彼女は、大学1年生。
 サークルのイベントで、二泊三日で愛媛県今治市から自転車で本州に渡ることになった。
 自転車はレンタルであり、本州側についたら、今度は、呉に移動して船で戻ってくる。
 レンタルの自転車は今治市で借りても、置く場所を伝えておけば大丈夫になっている。
 この事はサークルの部長の左近桜弥さこんおうやが詳しく、色々教えてくれた。



「おい、ちい。お前も、もうちょっとサークルのイベントに参加しろ。飲み会に行けとかは当然言ってないし、お前、他のメンバーから浮いてるぞ?」

 サークルは読書サークルである。

 千彩子は、学食のカードにお金を入れて、住んでいるアパートの家賃と携帯、電気ガス水道代と残りはなけなしのお金で大学の図書館のカードを作ったのだ。
 この読書サークルは、知る人ぞ知るある作家の所属したサークルだったが、その作家はもう学校にいない。
 その上当時のメンバーも全て退学、行方不明と言われていた。
 しかし、桜弥は、図書館で時間ギリギリまでじっとしていた千彩子に声をかけて、サークルに誘ってくれたのだ。

 今回のイベントは、夏休みに入り二泊三日でしまなみ海道を抜けて、その間にあるいくつかの美術館やバラ園、大山祇神社おおやまづみじんじゃを見学し、夜は、ネットで予約した安い宿で泊まる。
 それで、楽しもうと言うことだったらしい。
 最初は断ろうと思ったが、桜弥の言葉に頷いたのだった。



 自転車で海の上を走り抜ける。
 いや、こいではいるが滑っているような感じだ。
 海の風が爽やかにながれ、橋は小さい島を繋いでいく。

 ちょっと海をみた。
 瀬戸内海は凪が多いと聞いたが、小さい島や岩が集まる辺りは波が荒い。

「これが村上水軍の実力って訳ね……この島々の間を抜け、京の都を目指す大内氏を阻んだ……」

 愛媛県では『村上海賊』とは呼ばない。
『村上水軍』という。
 元々、今治に越智家があり、その分家が村上氏、これから向かう大三島の神社の神職だった、大祝氏おおほうりしも分家になるのだ。

「おーい、ちい。あんま、ペースあげるな。へたばるぞ」
「はい! 到着したら、先輩、よろしくです!」
「おら、俺は荷物持ちか!」
「私は、荷物じゃありません~!」

 べーっと舌を出す。

 桜弥はひょろっとしているが、周囲の人に聞くとかなり鍛えているらしい。
 自転車も楽々、軽々と漕いでいる。

 実は、千彩子はだいぶんへたばっていた。
 桜弥の言った通り、ペース配分を誤っていた。
 何で他の部員と一緒じゃなくて、前に走って休憩できる場所を探す桜弥に食いついてきたんだろう……。
 わからないけど、あの背中を見ると追いかけたくなるのだ。
 そして、まだ並べないから、追い付きたい。

 桜弥の自転車が止まった。
 へとへとになったのを隠しつつ、自転車を止める。

「あのなぁ……ペース配分を考えろと言っただろうが!」

 いつもは穏やかな桜弥が怒っていた。
 自転車を降りて、千彩子を降ろすと、すぐそばのベンチに連れていかれる……のだが、ヨタヨタヘロヘロ……。

「ほらみてみろ! このど阿呆!」

 部活一のちびでガリガリの千彩子は抱えられ、ベンチで寝かされる。

「えっと……ごめんなさい、出来ません! すみません!腹筋鍛えてません!」
「運動不足! ついでに何食ってんだ!」
「えーと、もやし炒め! 塩コショウでいいんです! もやしの安いお店見つけました! ご飯も勿体ないので、お粥にして……!」

 クゥゥ……

お腹が鳴った。
 何でこんなときに鳴るんだ!
 ちゃんと、お茶碗一杯ぶんのご飯を、3等ぶんにして、一つはおにぎりに、一つはお粥に、残りは冷凍庫に入れてきたのに!

 両親を事故で無くし、奨学金で大学に入って生活はきついのだ。
 だからなるべく、電気も使わないようにしている。
 優しい大家さんは、テレビ、洗濯機、冷蔵庫、エアコン、電子レンジを提供してくれたし、水道料金を共益費としてくれた。

 ドケチな生活をして、1円でも貯めておかないと……。
 そう思って、なけなしのお小遣いでこのイベントに参加した。
 学食が食べられないので、もやしや安い玉ねぎ、人参を下処理して冷凍庫に入れて、ご飯はまとめて炊いてラップで包んで冷凍庫に、ミニトマトの苗を育てて、お米の磨ぎ汁や、お風呂のお湯を与えていた。

 恥ずかしさで顔をおおう。
 知られたくなかったのに……。
 時期外れの服を着ているのも……古着も……。

「口開けろ」

 言われた通り口を開けると、コロンと口の中に塩味の効いた、甘い味が口一杯に広がる。

 顔から手を離し、桜弥を見る。

「塩飴。汗をかくと塩分が不足する。それと疲労回復に甘いもの。水分をとってしばらく寝てろ」
「うぅぅ……」

 離れていこうとした腕を、服の袖をつかむ。

「なんだ?」
「先輩いないと寂しい……」

 べそをかく。
 桜弥は苦笑して……。

「そこの自販機で、スポーツドリンクを買ってくるだけだ」

 頭をなで離れる。

 その間に、次々に先輩や同級生が到着する。

「ちいちゃん! 早いよ~!」
「そうそう、あの桜弥先輩に食いつくとは、流石!」
「鬼部長に!」
「誰が鬼だ!」

 スポーツドリンクを二本持った桜弥が、睨みながら千彩子の額に当てる。

「大丈夫か?」
「あ、ありがとうございます……」
「急に起きるな。まずは、ゆっくり起きて、で、肩貸してやるから。で、飲め。ゆっくりだぞ? 一気にも駄目だ」
「はい……ありがとうございます……」

 言われた通り少し身を起こし、ヘロリとよろけかかるのを、横に座った桜弥が支える。

「はい。もう、それで首か脇を冷やせ。こっちのを飲め」
「すみません……」

 コクンコクン……

飲んでいる千彩子の首に、交換したペットボトルを当てている桜弥を見て、

「あー、良いなぁ。先輩。俺も、俺も!ジュース!」
「先着順1名のみ。自分達で買え」
「ズルー!」

 千彩子が慌てて、

「お金払います……」
「お前はいいの。一人のみ。他のは各々休憩。もう少しで到着する。少し休んで出発だ」
「でも、先輩。飲んでないですよ? 買ってきま……」
「これを飲むから、いい。ちい。飴、ちゃんと嘗めること。ゆっくり飲めるだけ飲む。飲みすぎても辛い」

頷き、両手でペットボトルを持ってちびちびとのむ。
 口の中の久しぶりの甘い飴に、頬もほころぶ。

「ハムスター系か?」
「先輩……やっぱり買いましょう……?」
「大丈夫っていってるだろ」

 キャップの開けて、飲む。

「ぬるくなってますよ‼ 先輩」
「いいの。もうちょっともたれてろ」

 手が伸び、頭を包むと引き寄せる。

「はーい……」
「よし」



 その二人のラブラブシーンを見せつけられているメンバーは、

「ちいちゃん、俺も狙ってたのに!」
「くー!」
「あんたたちじゃ無理ね。それに、先輩だってあれ、見せつけてるもの」
「そうそう。ちいちゃんに一目惚れだったんでしょ? 先輩が。いいじゃない」



 日差しは降り注ぐ……しかし、風はむせかえる様なものではなく、海風が優しく流れていたのだった。
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