待ち合わせはモリスで

翼 翔太

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『クラフトショップ モリス』

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 新しい学校に通うようになって、初めての土曜日になった。お昼ごはんを食べ終わった京は、通学路以外のところを歩いてみることにした。
「お母さん、ちょっと出かけてくる」
「どこ行くの?」
「このへんになにがあるかわかっておきたいから、適当に歩いてみる」
「そう。車や知らない人に気をつけるのよ」
「はーい。いってきまーす」
 京はまず学校にむかう道とは反対方向に歩を進めた。しばらくまっすぐ歩いていると、ドラッグストアが見えた。ドラッグストアをさらに進むと川に着く。川にはつりをしているおじさんがいた。
 京は一度家の前まで帰ってきた。そして今度は学校へむかう方向へ進む。最初の角を曲がる。五分くらい進んだとき、お店らしきものを見つけた。入口の上には看板がかかっていて、『クラフトショップ モリス』と書かれている。文字は青銅のような色で、教科書のようにかっちりしている。聞いたことがない店名なので、チェーン店ではないのかもしれない。
 ビーズをばかにされるまで、京はお母さんといっしょに手芸店によく行った。お母さんはパッチワークをつくるのに必要な端切れを、京はビーズを買った。お母さんに「その色のビーズはまだあるでしょ」とよく言われたことを思い出した。
 しかしビーズは減っていない。ビーズを見ると、和久井たちに笑われたことを思い出してしまうから。京は通り過ぎようとした。しかし一歩進んだところで足がとまる。お店の中にはきっと、きらきらと輝く、色とりどりのビーズが並んでいるだろう。ビーズ売り場は京にとって、一番心がおどる場所だった。あの美しさにもうずいぶんと触れていない。
 手芸屋さんなど、もう入る必要ない。
 頭ではそう思っているのに、足は動いてくれなかった。京はふと思いついた。
「そうだ、お母さんのため。お母さんが使う端切れがあるかを見に行こう」
 京はそんな風に自分に聞こえるように言い訳をして、『クラフトショップ モリス』に入った。
 店の中は、前の家から行っていた手芸店よりせまそうだった。けれどよく見ると、おくに階段があるので二階にも行けそうだ。まずは一階を見て回ることにする。
 入口付近にはレジがあった。ほかには『ワンピースを作ってみよう!』と書かれた画用紙といっしょに、ワンピースを着たマネキンが立っていた。商品のたなは五列ある。それらとは別に右側二列分はかさ立てを大きくしたような入れものや、布がたくさん置かれているテーブルがある。青、白、ピンク。模様のあるもの、ないもの。たくさんある布はどれもきれいでかわいらしい。
 むかって右から順番に見ていくことにした。布は前もって決まった大きさに切られたものだけでなく、巻かれた状態の大きなものもあった。もちろん端切れもあり、袋につめられていくつも売られている。青地に鳥が描かれているものもあれば、ピンク色の無地の布などがあり、袋ごとに入れられている布はちがっていた。いろんな模様のものがあり、お母さんが喜びそうだ。
 布が置かれている場所のとなりにある商品だなを見た。そこにはスナップボタンやファスナーなどの手芸用品が並んでいる。
 さらにそのとなりには、宝石のように美しいビーズたちがたくさんあった。小指のつめにも満たないくらい小さなビーズもあれば、指の関節一つ分くらいもある大きなものもある。京は透明できらきらしたビーズが好きだが、商品だなには木でできたものや、透けていないものもあった。
 並んでいる四列のたなは全部ビーズや、ビーズでなにかつくるときに使うものばかりかもしれない。ひさしぶりのきらびやかな空間に、京の歩くペースは自然とゆっくりになった。
 二階がどんな風になっているのか気になったので、京は階段を上がってみることにした。
 二階は一階に比べて商品だなの数が少なかった。そこには毛糸や編みものに使う道具、レジンやアクセサリーをつくるときに使うパーツなどがあった。レジンとはとうめいで、紫外線で固まる液体のことだ。レジンとパーツを組み合わせてアクセサリーをつくる人も多いのを、京は聞いたことがあった。見たことがあるレジンのアクセサリーは、まるでガラスのようにきれいだった。
 おくをのぞいてみると、大きなテーブルがある。そこには一人の女の子がいた。黒い髪は肩につくかつかないかくらいの長さで、真剣に手元を見ている。年は京と同じくらいだろう。右手には糸がとおされた針を、左手にはぬい合わされたフェルトを持っている。テーブルには女の子のものらしい裁ほう箱や針山がある。
なにをしているのか気になっていると、女の子が顔を上げた。ぱちっと目が合う。先に口を開いたのは女の子だった。
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