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土井さん2
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土井さんと話してから三日が経った。夕食でお母さんが口を開いた。
「そういえばこの辺に手芸店があるみたいね」
お母さんの一言でようやく、京は『クラフトショップ モリス』のことを報告するつもりだったことを思い出した。
「見てきたよ。布がたくさんあって、端切れも売ってた」
「あら、そうなの。それじゃあ行ってみようかしら。……京もいっしょに行く?」
京は少し迷った。お母さんと行ったら、ほかの子たちに見られても「お母さんのしゅみが、パッチワークだから」と説明すれば、ビーズのことはばれないだろう。それに土井さんとも会えるかもしれない。
最後に話した日から、土井さんとは会っていない。京から会いに行くと、クラスの子に『転校してきたばかりなのになぜ?』と言われそうだからだ。
でも土井さんとはまた話してみたい。そう思った京はお母さんの提案にうなずいた。
さっそく次の日、家に帰ってからお母さんといっしょに『クラフトショップ モリス』に行った。お店の中を見たお母さんはうれしそうな声を上げた。
「あら、思ったよりもいろんな布があるわね。まあ、ウィリアム・モリスのがらまであるわ」
お母さんは吸い寄せられるように、布のコーナーへ行った。京は二階へ上がって作業場をのぞく。するとそこには、ぬいものをしている土井さんがいた。京は勇気を出して声をかけてみることにした。
「土井さん」
すると土井さんがこちらをふりむいて、うれしそうに笑った。
「あ、えっと、小川さんだよね。どうしてここに?」
「お母さんにここのこと話したら、きてみたいって」
「そうなんだ。あ、となり座る?」
土井さんがとなりのいすを引いてくれたので、お礼を言って腰を下ろした。
「なにつくってるの?」
「ねこ。顔だけなんだけど、ブローチにしてもいいかなーって」
土井さんは「こんなの」と言ってつくっているものを見せてくれた。三毛ねこで、右耳には茶色、左ほほに黒のフェルトがぬいつけられていて、顔と後ろは白のフェルトが使われている。目は黒い糸を玉どめしているようだ。
「かわいいっ」
「えへへ、ありがとう。ぬい終わって、綿入れて、安全ピンつけたら完成なんだ」
土井さんはにこにこしながら答えた。京は気になったので尋ねることにした。
「完成したやつって、どうしてるの?」
「自分で使ったり持ってたりすることもあるし、ほしいって言ってくれた人にあげることもあるよ」
京は自分で使うよりも、友達によくあげていた。そのためからかわれたとき、うで前を証明できなかった。一つでも持っとけばよかった、と今でも思う。
京は心が重くしずんでいくのを感じた。すると目の前に白いフェルトでつくられた、うさぎの顔のマスコットが置かれた。ほほの左側にはオレンジ色の人参がくっついている。
「あげる」
「え、でも……」
「いいよ。なんとなく、この子が小川さんのところに行きたがってる気がするから」
土井さんはにっこり笑った。京はうさぎのマスコットを手にとった。後ろに安全ピンがついているので、ブローチなのだろう。
「でも小川さんとまた話せてうれしい。もう一度おしゃべりしてみたいって思ってたから」
「わ、わたしも。でも土井さんのクラス知らないし、ほかの子に『転校してきたばっかりなのに、なんでほかのクラスの子となかよしなの?』って聞かれそうでこわくて」
「じゃあさ、ここでおしゃべりしない? このお店って、わたしたちくらいの年の子って、あんまりこないんだ」
土井さんの提案はとてもすてきに感じられた。京がうなずくと、土井さんは「じゃあ決まり」とうれしそうに笑った。
「じゃあさっそく、今週の土曜日のお昼とかどう?」
「うん、だいじょうぶ」
そのとき階段を上がってくる足音がした。お母さんだ。
「京、帰るわよ」
「はーい。じゃあ、またね」
「うん、またね」
京は土井さんと別れた。階段を下りていると、前にいるお母さんが尋ねてきた。
「お友達?」
「うん。別のクラスの子。土井さんっていうの」
「あら、いいわね。家にも呼んでいいからね」
「うん、ありがとう」
京は『友達』という言葉をゆっくりかみしめながら、お母さんといっしょに家に帰った。
「そういえばこの辺に手芸店があるみたいね」
お母さんの一言でようやく、京は『クラフトショップ モリス』のことを報告するつもりだったことを思い出した。
「見てきたよ。布がたくさんあって、端切れも売ってた」
「あら、そうなの。それじゃあ行ってみようかしら。……京もいっしょに行く?」
京は少し迷った。お母さんと行ったら、ほかの子たちに見られても「お母さんのしゅみが、パッチワークだから」と説明すれば、ビーズのことはばれないだろう。それに土井さんとも会えるかもしれない。
最後に話した日から、土井さんとは会っていない。京から会いに行くと、クラスの子に『転校してきたばかりなのになぜ?』と言われそうだからだ。
でも土井さんとはまた話してみたい。そう思った京はお母さんの提案にうなずいた。
さっそく次の日、家に帰ってからお母さんといっしょに『クラフトショップ モリス』に行った。お店の中を見たお母さんはうれしそうな声を上げた。
「あら、思ったよりもいろんな布があるわね。まあ、ウィリアム・モリスのがらまであるわ」
お母さんは吸い寄せられるように、布のコーナーへ行った。京は二階へ上がって作業場をのぞく。するとそこには、ぬいものをしている土井さんがいた。京は勇気を出して声をかけてみることにした。
「土井さん」
すると土井さんがこちらをふりむいて、うれしそうに笑った。
「あ、えっと、小川さんだよね。どうしてここに?」
「お母さんにここのこと話したら、きてみたいって」
「そうなんだ。あ、となり座る?」
土井さんがとなりのいすを引いてくれたので、お礼を言って腰を下ろした。
「なにつくってるの?」
「ねこ。顔だけなんだけど、ブローチにしてもいいかなーって」
土井さんは「こんなの」と言ってつくっているものを見せてくれた。三毛ねこで、右耳には茶色、左ほほに黒のフェルトがぬいつけられていて、顔と後ろは白のフェルトが使われている。目は黒い糸を玉どめしているようだ。
「かわいいっ」
「えへへ、ありがとう。ぬい終わって、綿入れて、安全ピンつけたら完成なんだ」
土井さんはにこにこしながら答えた。京は気になったので尋ねることにした。
「完成したやつって、どうしてるの?」
「自分で使ったり持ってたりすることもあるし、ほしいって言ってくれた人にあげることもあるよ」
京は自分で使うよりも、友達によくあげていた。そのためからかわれたとき、うで前を証明できなかった。一つでも持っとけばよかった、と今でも思う。
京は心が重くしずんでいくのを感じた。すると目の前に白いフェルトでつくられた、うさぎの顔のマスコットが置かれた。ほほの左側にはオレンジ色の人参がくっついている。
「あげる」
「え、でも……」
「いいよ。なんとなく、この子が小川さんのところに行きたがってる気がするから」
土井さんはにっこり笑った。京はうさぎのマスコットを手にとった。後ろに安全ピンがついているので、ブローチなのだろう。
「でも小川さんとまた話せてうれしい。もう一度おしゃべりしてみたいって思ってたから」
「わ、わたしも。でも土井さんのクラス知らないし、ほかの子に『転校してきたばっかりなのに、なんでほかのクラスの子となかよしなの?』って聞かれそうでこわくて」
「じゃあさ、ここでおしゃべりしない? このお店って、わたしたちくらいの年の子って、あんまりこないんだ」
土井さんの提案はとてもすてきに感じられた。京がうなずくと、土井さんは「じゃあ決まり」とうれしそうに笑った。
「じゃあさっそく、今週の土曜日のお昼とかどう?」
「うん、だいじょうぶ」
そのとき階段を上がってくる足音がした。お母さんだ。
「京、帰るわよ」
「はーい。じゃあ、またね」
「うん、またね」
京は土井さんと別れた。階段を下りていると、前にいるお母さんが尋ねてきた。
「お友達?」
「うん。別のクラスの子。土井さんっていうの」
「あら、いいわね。家にも呼んでいいからね」
「うん、ありがとう」
京は『友達』という言葉をゆっくりかみしめながら、お母さんといっしょに家に帰った。
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