ホテル・コットンフラワーからの招待状

翼 翔太

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3.ホテル・コットンフラワー その3

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 町のにぎやかな風景から、緑の多い穏やかな景色に変わる。木々のなかに、一軒の建物が見える。パンフレットと同じ見た目だ。馬車がホテル・コットンフラワーの前で止まる。
「着きましたよ」
 おじいさんがまた踏み台を用意してくれた。
「いい時間をお過ごしください」
「はい。ありがとうございました」
「ありがとうっ、おじいさん」
 まゆかとミルクがお礼を言うと、おじいさんに降ろしてもらったケリーが前を進む。
「こちらです」
 ドアはまゆかの到着を待っていたかのように、大きく開いていた。まゆかはケリーとミルクのあとに続く。
 ホテルの中に入ると、目の前に大きなカウンターがあった。【フロント】と大きく書かれた看板がつられている。
「フロントで手続きしますので、こちらへ」
 フロントに近づくと、別のぬいぐるみがカウンターの下から姿を現した。黒いスーツを着たテディベアだ。名札には【ジャック】という名前と【フロント責任者】という文字が書かれている。
「いらっしゃいませ。お名前をうかがっても?」
「えっと、遠藤まゆか、です」
 ジャックはカウンターの内側に置いてあるノートを確認している。
「まゆかちゃん、フロントっていうところ、ぼくも見たい」
「いいよ」
 まゆかはミルクを抱き上げ、カウンターの上にのせた。ケリーはまゆかの足元に立っている。ミルクが興味深そうにカウンターの内側を見下ろしているなか、ジャックが一人でうなずいた。
「はい、たしかに本日からのお泊りですね。当ホテルのことについてお話したいのですけど、いいですか?」
 まゆかがうなずくと、ジャックが説明をはじめた。
「このホテルは、心に傷を負った人が泊まるところです。宿泊日数はとくに決まっていません。もうこのホテルにいる必要がない、と思ったら、このフロントにご帰宅することを伝えてください。代金のお支払いなどの、手続きをしますので」
「いつでもいいの?」
「ええ、もちろん。なかにはホテルが始まってから、ずっと泊まっているかたもお客様もいるので」
 ホテルができて、どれくらいかはわからないが、よほど深い傷があるのだろう。
 ジャックの説明は続く。
「お食事の時間は朝が七時から九時、夜が五時から八時のあいだです。お昼ごはんが必要な場合は前日にフロントに言ってください。あと、お食事の時間も毎回お聞きしますね」
 まゆかはもう一度うなずく。ジャックは小さな引き出しの中から鍵をとり出し、まゆかの前に置いた。
「こちらがお部屋の鍵になります。外におでかけのときは、フロントに預けてください。それじゃあ、ケリー。遠藤様をお部屋にご案内を」
「はいっ。遠藤様、こちらです」
 ミルクを床に下ろして、まゆかはケリーのあとをついて行った。おくにあるドアにむかっているようだ。このドアも開けっ放しにされている。働いているぬいぐるみたちが、移動しやすくするためかもしれない。
「こちらの右にあるのが、食堂です。お食事はこちらでおねがいします」
「うん、わかった」
 まゆかはうなずいた。
 泊まる部屋はどうやらフロントや食堂がある建物とは別のようで、一瞬外に出る。頭の上には屋根があり、雨にぬれる心配はなさそうだ。まゆかのふだんの歩幅でなら十歩も進めば泊まる建物に入れるだろう。
 小さな坂道を通って、二階まで上がる。そして【二〇三】と書かれたドアの前でケリーが立ちどまった。
「こちらが遠藤様のお部屋です。お部屋の道具やお風呂などは、自由にお使いください。今日の夜ごはんは何時にしましょう?」
「えっと、それじゃあ……六時くらいでもいい?」
 いつも家でごはんを食べるときの時間だ。ケリーは「わかりました」とうなずいた。
「それでは、ボクはこれで失礼します」
「うん、ありがとうね」
 ミルクがケリーに近づいて、右手を差し出した。
「ケリーくん、また会おうね」
「ええ、ぜひ」
 ケリーも手を出し、ミルクとあくしゅをしたあと、ぺこりとおじぎをして立ち去った。
「ケリーくん、いい子だったねー」
「そうだね。じゃあ、入ろうか。ミルク」
「うんっ」
 まゆかはくすんだ金色の丸いドアノブを回した。
 ベージュのかべ紙にワインレッドのじゅうたん、チョコレートのような落ち着いた色の家具。まるで大人になったような気分だ。よく見ると、かべ紙にはツタと花がうっすらと描かれている。
「わあっ。広いね、まゆかちゃんっ」
「そうだね。……わあ、ベッドも大きい」
 まゆかは荷物をその場に置いて、思いきりベッドに飛びこんだ。ふかふかの布団とスポンジケーキのようなベッドに受けとめられる。
(ショートケーキにダイブしたら、こんな感じかも)
 まゆかがそんな風に思って目を閉じると、もぞもぞと動いているのがわかった。目を開けると、ミルクがベッドの上にいた。どうやらベッドによじ登ってきたようだ。
「わあ、お布団ふわふわだね」
「そうだね。すっごく気持ちいいね」
 まるでだれかに包まれているような感覚にまゆかは安心してしまい、そのまま眠ってしまった。
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