ホテル・コットンフラワーからの招待状

翼 翔太

文字の大きさ
5 / 22

3.ホテル・コットンフラワー その2

しおりを挟む
 再び目を開けると、そこはまゆかの知った町ではなかった。道には茶色と白のレンガがしかれており、別のドアへ導くようにたくさんのテディベアが左右に列を作っていた。
 ドアの前には若い男の人と女の人がいた。それぞれの肩にはウサギのぬいぐるみとテディベアがのっている。女の人が笑顔で言った。
「まあ、小さな旅人さんとお友達ね。ようこそ、コーリへ。招待状か通行証はお持ちかしら?」
 まゆかは首をたてにふって、招待状を渡した。女の人は「はい、確かに」と確認したあと、招待状に日付スタンプを押して、まゆかに返してくれた。
「コーリに来るのは初めてですか?」
 なんと、女の人の肩にのっていたウサギのぬいぐるみがしゃべったのだ。
「本当にぬいぐるみが生きてるんだっ」
「はい、生きてます。といっても、すべてではありませんが。マイスターによってつくられたぬいぐるみだけが、心を宿して命を得ます」
「マイスターってなに?」
 まゆかが首をかしげると、ウサギのぬいぐるみは胸をはって答えてくれた。
「生きたぬいぐるみをつくれる職人たちのことです。ぼくをつくった父さんも、とっても腕のいいマイスターなんですよ」
「すごいね」
「はい。あ、そうだ。この世界に入ると、ときどき連れてきたぬいぐるみが、命を宿すことがあります。なのでびっくりしないでくださいね」
 もしもミルクが動いたり話したりできるようになったら。まゆかはコーリに入るのが楽しみになった。
「それでね、ぼくの父さんはね、とってもすごいんですよ。あっという間に兄弟を生み出すんです。まるで魔法です。それから服のセンスもとってもよくって……」
「ジュジュ、おしゃべりしすぎよ。ごめんなさいね、小さな旅人さん。この子、しゃべるのが好きで」
「だいじょうぶです」
 するとテディベアを肩にのせた男の人が、ドアを開けてくれた。広場らしき場所が向こう側に見える。
「さあ、小さな旅人さんとお友達さん、どうぞ」
 女の人にそう言われ、まゆかはコーリに入るための異世界ゲートを抜けた。
 まゆかの世界ではまだまだ朝の顔だった空は、こちらではお昼のようだった。
広場には大きなベンチと小さなベンチがとなり同士で並んでおり、人間やぬいぐるみが座っている。広場では子どもとぬいぐるみが鬼ごっこをしていたり、おばあさんとぬいぐるみがしゃべったりしている。
(すごい。ぬいぐるみがあちこちにいる)
 ふと、左腕がトントンとたたかれた。見てみると、そこにはミルクがいるだけ。するとミルクが顔を上げた。
「まゆかちゃん」
「ミルクっ?」
「まゆかちゃん、ぼく、動けるよっ。まゆかちゃんとお話もできるっ」
「すごいっ。ミルクと話せるなんて夢みたい。きてよかった」
 まゆかはミルクを強く抱きしめた。
「ま、まゆかちゃん。苦しいよお」
「あ、ごめんね。うれしくて、つい」
「えへへ、ぼくもうれしいよ」
 ミルクがにっこり笑った。表情まで変えられるようになるなんて。本当に命が宿ったのだ。
「あ、まゆかちゃん。あの子、見て」
 まゆかはミルクが指したほうを見た。そこにはミルクと同じくらい白いウサギのぬいぐるみが立っていた。持っている紙には【遠藤まゆか様 ホテル・コットンフラワー】と書かれている。
(もしかして、あのぬいぐるみが手紙に書いてあった、おむかえの人? いや、人ではないんだけど)
 まゆかが迷っているとミルクが腕の中から飛び出して、ウサギのぬいぐるみに近づいた。
「こんにちは。ぼくはミルク」
「こんにちは、ミルクくん。ボクはケリー。今、ホテルに来る予定のお客さんを待ってるんだ」
「これ、まゆかちゃんのこと?」
「知ってるの?」
「うん。ぼく、まゆかちゃんといっしょにきたの。あの子だよ」
 ミルクがまゆかを指した。どうするのがいいのだろう。するとケリーというウサギのぬいぐるみがこちらにかけ寄ってきた。
「遠藤まゆか様ですか?」
「あ、う、うん」
 まゆかがうなずくと、ケリーはぺこりと頭を下げた。
「お待ちしておりました。ホテル・コットンフラワーのケリーといいます。おむかえにきました。ホテルまでご案内します。まずは馬車に乗りましょう」
「馬車。あたし、乗ったことない」
「そうですか。本当は歩いても行けるんですけど、ボクの足じゃおそくなってしまうので。馬車はこっちです」
 ケリーが先頭を歩く。ミルクがこちらを見上げて尋ねてきた。
「ぼくもいっしょに歩いていい?」
「もちろん」
 まゆかの返事を聞いたミルクは「やったー」と言いながら、うでの中から抜け出した。
 まゆかはいつもよりゆっくりと歩いて、ケリーのあとについていった。ミルクはときどき、くるくるとおどっている。
 ゆっくり進み、五分ほど歩くと【馬車待合所】と書かれた小屋があった。ちょうど馬車が二台きている。そのうちの明るい茶色の馬車には【ホテル・コットンフラワー】と書かれている。どうやらホテル専用の馬車のようだ。
 馬と馬車のあいだの席に座っていたおじいさんが、しゃきしゃきと下りて踏み台を用意してくれた。
「どうぞ、お乗りください」
 ほほえんだおじいさんにお礼を言って、ミルクを抱えて馬車に乗る。赤いシートの座席は想像していたよりもふかふかで、六人は乗ることができそうなくらい広かった。
「ぼくもまゆかのとなりに座る」
 ミルクがそう言うので、まゆかは自分の右どなりにミルクを座らせた。ミルクは座ったまま、はねている。おじいさんに乗せられたケリーは、まゆかとミルクのむかいの席に座った。
「それじゃあ、出発しますよ」
 おじいさんがそう言うと、馬車が進みはじめた。ガタンゴトンと体が上下にゆれる。
「遠藤様、馬車は五分ほどでホテルに着きます。コーリは、はじめてですか?」
「えっと、はじめて。異世界にきたのも、はじめて」
「そうですか。遠藤様が当ホテルを気に入ってくれるとうれしいです」
 まゆかは大事なことを思い出し、ケリーに聞いた。
「あの、お金っていくらくらいになる? お年玉も全部持ってきたんだけど」
 おこづかいやお年玉を合わせて、二万円。はたして足りるだろうか。
「大人の方でしたら泊まった日数と部屋の代金を合わせた金額をもらっていますけど、遠藤様のような方はお気持ちでいただいています」
「お気持ち?」
「はい。遠藤様が払いたいと思った金額を、帰るときに払っていただければ、だいじょうぶです」
 まゆかは胸をなで下ろした。これで安心して泊まることができる。
 まゆかは窓の外を見た。カフェやレストランらしきものもあるが、ぬいぐるみ店が多いような気がする。ふと、あることに気がつく。ぬいぐるみの店の中には、同じマークの入った看板を出しているところがあるのだ。人とぬいぐるみが握手をしている場面と、糸のとおった針が描かれている。
「ねえ、あのマークってなに?」
 まゆかが窓の外を指さした先を見たケリーが教えてくれた。
「マイスターの印ですね。ボクのような、生きているぬいぐるみを生み出せる工房、もしくは販売をしているお店は、つけるのが義務になっています」
「へえ。つけないとどうなるの?」
「父さんが言うには、警察に捕まるそうです。マイスターでもないのに、印を出しても捕まるんだとか」
「お父さんがいるの?」
 ケリーはうなずいた。
「つくってくれた人のことを父さん、母さんと呼びます。ボクが遠藤様やミルク様と会えたのは、父さんがボクをつくってくれたからです」
 ミルクもお客さんだと認めたからか、くんづけから様呼びになっている。
「へえ。会ってみたいなあ」
「当ホテルの支配人でもあるので、機会があれば会えると思います。ホテルにいるぬいぐるみは、みんな父さんにつくられたんですよ」
「何人くらい、いるの?」
「ええっと……たくさんです。フロント係やそうじ係、料理係もぬいぐるみです。ホテルで人間は父さんと、シェフのガルニーさんだけです」
 そのとき、馬車が大きくはねた。まゆかの体が小さく浮き、ミルクやケリーは転んでしまった。地面に石でも転がっていたのだろうか。
「まゆかちゃん、だいじょうぶ?」
「うん、ミルクはだいじょうぶ?」
「びっくりしたけど、飛んだみたいだったよ。すごかった」
「いいなあ」
 まゆかはもう一度外を見た。窓から入ってくる風が心地いい。
(本当に、異世界にきたんだ)
 馬車は馬のひづめの音をさせながら、ホテル・コットンフラワーへと進んだ。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

左左左右右左左  ~いらないモノ、売ります~

菱沼あゆ
児童書・童話
 菜乃たちの通う中学校にはあるウワサがあった。 『しとしとと雨が降る十三日の金曜日。  旧校舎の地下にヒミツの購買部があらわれる』  大富豪で負けた菜乃は、ひとりで旧校舎の地下に下りるはめになるが――。

【奨励賞】おとぎの店の白雪姫

ゆちば
児童書・童話
【第15回絵本・児童書大賞 奨励賞】 母親を亡くした小学生、白雪ましろは、おとぎ商店街でレストランを経営する叔父、白雪凛悟(りんごおじさん)に引き取られる。 ぎこちない二人の生活が始まるが、ひょんなことからりんごおじさんのお店――ファミリーレストラン《りんごの木》のお手伝いをすることになったましろ。パティシエ高校生、最速のパート主婦、そしてイケメンだけど料理脳のりんごおじさんと共に、一癖も二癖もあるお客さんをおもてなし! そしてめくるめく日常の中で、ましろはりんごおじさんとの『家族』の形を見出していく――。 小さな白雪姫が『家族』のために奔走する、おいしいほっこり物語。はじまりはじまり! 他のサイトにも掲載しています。 表紙イラストは今市阿寒様です。 絵本児童書大賞で奨励賞をいただきました。

少年騎士

克全
児童書・童話
「第1回きずな児童書大賞参加作」ポーウィス王国という辺境の小国には、12歳になるとダンジョンか魔境で一定の強さになるまで自分を鍛えなければいけないと言う全国民に対する法律があった。周囲の小国群の中で生き残るため、小国を狙う大国から自国を守るために作られた法律、義務だった。領地持ち騎士家の嫡男ハリー・グリフィスも、その義務に従い1人王都にあるダンジョンに向かって村をでた。だが、両親祖父母の計らいで平民の幼馴染2人も一緒に12歳の義務に同行する事になった。将来救国の英雄となるハリーの物語が始まった。

ナナの初めてのお料理

いぬぬっこ
児童書・童話
ナナは七歳の女の子。 ある日、ナナはお母さんが仕事から帰ってくるのを待っていました。 けれど、お母さんが帰ってくる前に、ナナのお腹はペコペコになってしまいました。 もう我慢できそうにありません。 だというのに、冷蔵庫の中には、すぐ食べれるものがありません。 ーーそうだ、お母さんのマネをして、自分で作ろう! ナナは、初めて自分一人で料理をすることを決めたのでした。 これは、ある日のナナのお留守番の様子です。

「いっすん坊」てなんなんだ

こいちろう
児童書・童話
 ヨシキは中学一年生。毎年お盆は瀬戸内海の小さな島に帰省する。去年は帰れなかったから二年ぶりだ。石段を上った崖の上にお寺があって、書院の裏は狭い瀬戸を見下ろす絶壁だ。その崖にあった小さなセミ穴にいとこのユキちゃんと一緒に吸い込まれた。長い長い穴の底。そこにいたのがいっすん坊だ。ずっとこの島の歴史と、生きてきた全ての人の過去を記録しているという。ユキちゃんは神様だと信じているが、どうもうさんくさいやつだ。するといっすん坊が、「それなら、おまえの振り返りたい過去を三つだけ、再現してみせてやろう」という。  自分の過去の振り返りから、両親への愛を再認識するヨシキ・・・           

大人で子供な師匠のことを、つい甘やかす僕がいる。

takemot
児童書・童話
 薬草を採りに入った森で、魔獣に襲われた僕。そんな僕を助けてくれたのは、一人の女性。胸のあたりまである長い白銀色の髪。ルビーのように綺麗な赤い瞳。身にまとうのは、真っ黒なローブ。彼女は、僕にいきなりこう尋ねました。 「シチュー作れる?」  …………へ?  彼女の正体は、『森の魔女』。  誰もが崇拝したくなるような魔女。とんでもない力を持っている魔女。魔獣がわんさか生息する森を牛耳っている魔女。  そんな噂を聞いて、目を輝かせていた時代が僕にもありました。  どういうわけか、僕は彼女の弟子になったのですが……。 「うう。早くして。お腹がすいて死にそうなんだよ」 「あ、さっきよりミルク多めで!」 「今日はダラダラするって決めてたから!」  はあ……。師匠、もっとしっかりしてくださいよ。  子供っぽい師匠。そんな師匠に、今日も僕は振り回されっぱなし。  でも時折、大人っぽい師匠がそこにいて……。  師匠と弟子がおりなす不思議な物語。師匠が子供っぽい理由とは。そして、大人っぽい師匠の壮絶な過去とは。  表紙のイラストは大崎あむさん(https://twitter.com/oosakiamu)からいただきました。

アリアさんの幽閉教室

柚月しずく
児童書・童話
この学校には、ある噂が広まっていた。 「黒い手紙が届いたら、それはアリアさんからの招待状」 招かれた人は、夜の学校に閉じ込められて「恐怖の時間」を過ごすことになる……と。 招待状を受け取った人は、アリアさんから絶対に逃れられないらしい。 『恋の以心伝心ゲーム』 私たちならこんなの楽勝! 夜の学校に閉じ込められた杏樹と星七くん。 アリアさんによって開催されたのは以心伝心ゲーム。 心が通じ合っていれば簡単なはずなのに、なぜかうまくいかなくて……?? 『呪いの人形』 この人形、何度捨てても戻ってくる 体調が悪くなった陽菜は、原因が突然現れた人形のせいではないかと疑いはじめる。 人形の存在が恐ろしくなって捨てることにするが、ソレはまた家に現れた。 陽菜にずっと付き纏う理由とは――。 『恐怖の鬼ごっこ』 アリアさんに招待されたのは、美亜、梨々花、優斗。小さい頃から一緒にいる幼馴染の3人。 突如アリアさんに捕まってはいけない鬼ごっこがはじまるが、美亜が置いて行かれてしまう。 仲良し3人組の幼馴染に一体何があったのか。生き残るのは一体誰――? 『招かれざる人』 新聞部の七緒は、アリアさんの記事を書こうと自ら夜の学校に忍び込む。 アリアさんが見つからず意気消沈する中、代わりに現れたのは同じ新聞部の萌香だった。 強がっていたが、夜の学校に一人でいるのが怖かった七緒はホッと安心する。 しかしそこで待ち受けていたのは、予想しない出来事だった――。 ゾクッと怖くて、ハラハラドキドキ。 最後には、ゾッとするどんでん返しがあなたを待っている。

独占欲強めの最強な不良さん、溺愛は盲目なほど。

猫菜こん
児童書・童話
 小さな頃から、巻き込まれで絡まれ体質の私。  中学生になって、もう巻き込まれないようにひっそり暮らそう!  そう意気込んでいたのに……。 「可愛すぎる。もっと抱きしめさせてくれ。」  私、最強の不良さんに見初められちゃったみたいです。  巻き込まれ体質の不憫な中学生  ふわふわしているけど、しっかりした芯の持ち主  咲城和凜(さきしろかりん)  ×  圧倒的な力とセンスを持つ、負け知らずの最強不良  和凜以外に容赦がない  天狼絆那(てんろうきずな)  些細な事だったのに、どうしてか私にくっつくイケメンさん。  彼曰く、私に一目惚れしたらしく……? 「おい、俺の和凜に何しやがる。」 「お前が無事なら、もうそれでいい……っ。」 「この世に存在している言葉だけじゃ表せないくらい、愛している。」  王道で溺愛、甘すぎる恋物語。  最強不良さんの溺愛は、独占的で盲目的。

処理中です...