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不幸見のヴィーゼ
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雪のように真っ白な草原がどこまでも続き、満天の星がちかちかと輝いている。そんな夜の白い草原をヴィーゼはどすどすと歩いていた。
「なによなによっ、お父さんとお母さんのばーかっ」
ヴィーゼは手で思いきり白い草を薙ぎ払いながら進む。
ヴィーゼは両親と喧嘩をした。もうすぐ学校が夏休みになる。友人が一緒に旅行に行こうと誘ってくれたので、両親に行きたいという旨を伝えた。もちろん友人の両親も一緒だ。それにも関わらず両親は許してくれなかった。どれだけ話をしようとしても「友人宅に迷惑がかかるからだめ」としか言わない両親に腹が立ったヴィーゼは、飛び出してきたのだ。
「迷惑だったら誘ったりしないじゃん。ふんっだ」
バサッと力いっぱいふわふわとした草に感情をぶつける。
この真っ白な草原はヴィーゼにとってちょうどいい場所だった。家から離れているし、遊具などもないので友人も同級生も来ない。そのため悲しいことや腹が立つことがあったときにこの草原を訪れていた。そのときヴィーゼは足の裏に地面よりも固いものを感じた。しかしすでに遅かった。
「きゃっ」
思いきり尻餅をついてしまったヴィーゼはすぐには立ち上がれなかった。
「いったたた……なんなのよ、もうっ」
ヴィーゼは自身の尻をさすりながら怒鳴った。目線の先になにかの影があった。
「なにこれ?」
ヴィーゼは草の根を分けて拾い上げた。それは水晶玉だった。ヴィーゼの顔よりは小さいが、両手で抱えなければ持てない大きさだった。
「なんで水晶玉がこんなところに?」
その水晶玉は濁りも傷もない完璧な透明度だった。向こう側の景色が上下反転して写っている。
「それにしてもきれい……。こんなに立派な水晶玉なんて見たことないわ」
そのとき、水晶玉に写っている景色が溶かした飴のように歪んだ。
「えっ?」
景色はヴィーゼの驚きなど知ったことではないとでもいうように溶け続ける。そして水晶玉の中に現れたのは二人の人影だった。よくよく見るとそれはヴィーゼの両親だった。水晶玉の中のヴィーゼの両親は恐怖の表情を浮かべていた。そして家の中を逃げ回っていた。テーブルの上にあった食器がひっくり返る。玄関には見知らぬ男が二、三人立っていて、その手には長い剣や短剣を持っていた。男たちは逃げ回るヴィーゼの両親を背中から切りつけた。両親が床に倒れる。父の下には今日の夕飯であるシチューがこぼれていた。
「な、なにこれ?」
ヴィーゼの背中に冷や汗が流れた。水晶玉の中の男たちは引き出しや棚を乱暴に漁り始めていた。血の気が引きそうな光景にヴィーゼは水晶玉から目をそらした。
「な、なんだったの? 今のは……」
ヴィーゼは水晶玉の中を覗き込まないようにしつつ、全体をいろんな角度から見た。とくになにか仕掛けがあるわけではなさそうだった。ヴィーゼはもう一度水晶玉を覗いた。先程の続きらしき様子が映し出される。よく知った顔の村人たちが炎の中を逃げている。背後からは知らない男たちが、手に持った武器で村人たちを襲っていた。次々と村人が倒れる。炎はよく見ると何軒もの家から出ていた。
「な、なにこれ。これじゃあまるで盗賊にでもあったみたい……」
そのときヴィーゼははっとした。近頃近くの村が盗賊に襲われたらしいという話を聞いたことを思い出した。
「もしかして今、村が襲われてる?」
ヴィーゼは水晶を抱えて村まで走って戻った。鼓動が速いのは走っているからではないとヴィーゼはわかっていた。
「お父さん、お母さんっ」
戻ってきた村はいつもと変わりがなかった。燃えたあとも逃げている人もいない。
「どういうこと?」
ヴィーゼはゆっくり観察しながら家に戻ることにした。食卓を囲んでいるのか楽しそうな声がかすかに聞こえる。
「さっきのはなんだったの?」
ヴィーゼはその場で立ち止まって考えた。もう一度水晶を覗いたが、映し出されたものの内容は変わらなかった。
「今の状況を映しているんじゃなかったら、過去? でも過去ならおかしい。どの家にも燃えた形跡なんてないし、みんな楽しそう。それに夕食が今日と同じなんてことある? ……まさか、これって未来を映し出してるの?」
そう考えるとすべてが繋がるような気がした。
「今日の夕食が映ってたってことは、今日盗賊が来るんだ。急いで皆に知らせなくっちゃ」
ヴィーゼは急いで家に帰った。
乱暴にドアを開けると母親がシチューを盛りつけているところだった。
「お父さん、お母さんっ」
「こら、もっと静かにしなさい」
「ほら、ごはんになったら帰ってくるって言ったでしょう?」
呑気な父と母にヴィーゼは水晶玉のことを話した。二人とも最初は信じてくれなかった。しかしヴィーゼが水晶玉の内側を見せると顔色を変えた。
「ヴィーゼ、一緒に村長のところに行くぞ。母さんは荷物をまとめて」
「ええ」
「うん」
ヴィーゼとヴィーゼの父は村長の家に急いだ。村長も水晶の中を覗くと大変驚いていた。そして村人全員に荷物をまとめて近くの洞くつへ避難するように指示した。
洞くつの中は暗くて寒かった。その中で三日ほど過ごし全員が村に帰るとすべての家が焼かれていた。どの家も黒焦げだった。
「家はまた建て直せる。今回だれも傷つかなくってよかった。
これもヴィーゼと水晶玉のおかげだ。ありがとう、ヴィーゼ」
ヴィーゼは村の皆に「ありがとう」と言われた。心がむずがゆかった。
これをきっかけにヴィーゼは水晶玉を使って、村人や村に迫りくる不幸を見て未然に防ぐようになった。
彼女はのちに『不幸見のヴィーゼ』と呼ばれ、多くの人を救った。
「なによなによっ、お父さんとお母さんのばーかっ」
ヴィーゼは手で思いきり白い草を薙ぎ払いながら進む。
ヴィーゼは両親と喧嘩をした。もうすぐ学校が夏休みになる。友人が一緒に旅行に行こうと誘ってくれたので、両親に行きたいという旨を伝えた。もちろん友人の両親も一緒だ。それにも関わらず両親は許してくれなかった。どれだけ話をしようとしても「友人宅に迷惑がかかるからだめ」としか言わない両親に腹が立ったヴィーゼは、飛び出してきたのだ。
「迷惑だったら誘ったりしないじゃん。ふんっだ」
バサッと力いっぱいふわふわとした草に感情をぶつける。
この真っ白な草原はヴィーゼにとってちょうどいい場所だった。家から離れているし、遊具などもないので友人も同級生も来ない。そのため悲しいことや腹が立つことがあったときにこの草原を訪れていた。そのときヴィーゼは足の裏に地面よりも固いものを感じた。しかしすでに遅かった。
「きゃっ」
思いきり尻餅をついてしまったヴィーゼはすぐには立ち上がれなかった。
「いったたた……なんなのよ、もうっ」
ヴィーゼは自身の尻をさすりながら怒鳴った。目線の先になにかの影があった。
「なにこれ?」
ヴィーゼは草の根を分けて拾い上げた。それは水晶玉だった。ヴィーゼの顔よりは小さいが、両手で抱えなければ持てない大きさだった。
「なんで水晶玉がこんなところに?」
その水晶玉は濁りも傷もない完璧な透明度だった。向こう側の景色が上下反転して写っている。
「それにしてもきれい……。こんなに立派な水晶玉なんて見たことないわ」
そのとき、水晶玉に写っている景色が溶かした飴のように歪んだ。
「えっ?」
景色はヴィーゼの驚きなど知ったことではないとでもいうように溶け続ける。そして水晶玉の中に現れたのは二人の人影だった。よくよく見るとそれはヴィーゼの両親だった。水晶玉の中のヴィーゼの両親は恐怖の表情を浮かべていた。そして家の中を逃げ回っていた。テーブルの上にあった食器がひっくり返る。玄関には見知らぬ男が二、三人立っていて、その手には長い剣や短剣を持っていた。男たちは逃げ回るヴィーゼの両親を背中から切りつけた。両親が床に倒れる。父の下には今日の夕飯であるシチューがこぼれていた。
「な、なにこれ?」
ヴィーゼの背中に冷や汗が流れた。水晶玉の中の男たちは引き出しや棚を乱暴に漁り始めていた。血の気が引きそうな光景にヴィーゼは水晶玉から目をそらした。
「な、なんだったの? 今のは……」
ヴィーゼは水晶玉の中を覗き込まないようにしつつ、全体をいろんな角度から見た。とくになにか仕掛けがあるわけではなさそうだった。ヴィーゼはもう一度水晶玉を覗いた。先程の続きらしき様子が映し出される。よく知った顔の村人たちが炎の中を逃げている。背後からは知らない男たちが、手に持った武器で村人たちを襲っていた。次々と村人が倒れる。炎はよく見ると何軒もの家から出ていた。
「な、なにこれ。これじゃあまるで盗賊にでもあったみたい……」
そのときヴィーゼははっとした。近頃近くの村が盗賊に襲われたらしいという話を聞いたことを思い出した。
「もしかして今、村が襲われてる?」
ヴィーゼは水晶を抱えて村まで走って戻った。鼓動が速いのは走っているからではないとヴィーゼはわかっていた。
「お父さん、お母さんっ」
戻ってきた村はいつもと変わりがなかった。燃えたあとも逃げている人もいない。
「どういうこと?」
ヴィーゼはゆっくり観察しながら家に戻ることにした。食卓を囲んでいるのか楽しそうな声がかすかに聞こえる。
「さっきのはなんだったの?」
ヴィーゼはその場で立ち止まって考えた。もう一度水晶を覗いたが、映し出されたものの内容は変わらなかった。
「今の状況を映しているんじゃなかったら、過去? でも過去ならおかしい。どの家にも燃えた形跡なんてないし、みんな楽しそう。それに夕食が今日と同じなんてことある? ……まさか、これって未来を映し出してるの?」
そう考えるとすべてが繋がるような気がした。
「今日の夕食が映ってたってことは、今日盗賊が来るんだ。急いで皆に知らせなくっちゃ」
ヴィーゼは急いで家に帰った。
乱暴にドアを開けると母親がシチューを盛りつけているところだった。
「お父さん、お母さんっ」
「こら、もっと静かにしなさい」
「ほら、ごはんになったら帰ってくるって言ったでしょう?」
呑気な父と母にヴィーゼは水晶玉のことを話した。二人とも最初は信じてくれなかった。しかしヴィーゼが水晶玉の内側を見せると顔色を変えた。
「ヴィーゼ、一緒に村長のところに行くぞ。母さんは荷物をまとめて」
「ええ」
「うん」
ヴィーゼとヴィーゼの父は村長の家に急いだ。村長も水晶の中を覗くと大変驚いていた。そして村人全員に荷物をまとめて近くの洞くつへ避難するように指示した。
洞くつの中は暗くて寒かった。その中で三日ほど過ごし全員が村に帰るとすべての家が焼かれていた。どの家も黒焦げだった。
「家はまた建て直せる。今回だれも傷つかなくってよかった。
これもヴィーゼと水晶玉のおかげだ。ありがとう、ヴィーゼ」
ヴィーゼは村の皆に「ありがとう」と言われた。心がむずがゆかった。
これをきっかけにヴィーゼは水晶玉を使って、村人や村に迫りくる不幸を見て未然に防ぐようになった。
彼女はのちに『不幸見のヴィーゼ』と呼ばれ、多くの人を救った。
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