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過去回想のモブ編

第15話 襲撃ーもう1つの戦い4

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side:エドワード

周囲の人間を守りながら戦うことに慣れていないエドワードはパルバフェットのレーザー攻撃の被害を見誤っていた。

その結果、シスターマリアが大怪我を負った。
パルバフェットの攻撃は彼女の左肩を抉っており、直径3cmほどの穴が出来ていた。
傷口はレーザー光によって穿たれると同時に焼かれているため出血事体は少量だ。
大量出血によるショック死という最悪のパターンに陥らずに済んだのは幸いだった。
また、怪我した本人が気を失っているというのも幸いした。

もし仮に、怪我したことでパニック状態になって騒ぎ立てたら悪目立ちして悪魔から狙われる可能性も大いに考えられる。
そういった意味で、場を乱さないでくれる状態というのはありがたい。

僕はシスターマリアに駆け寄り、治癒魔法を掛けた。
傷口をふさぐ事はできないが出血の低減と体力回復はできたはず。

状態確認のため僕はシスターマリアを鑑定する。

ステータス

名前:元イーレ村のマリア(※禁則事項)
年齢:永遠の18歳(※禁足事項)
性別:女
種族:人間
状態:負傷(重度)
HP:45/354
MP:120/478

スキル:
[ステータス偽装]・・・本物のステータスとは別に偽装したステータスを設定することが出来る。簡易鑑定などでは見破れない。

「はっ?」
思わぬ鑑定結果に僕は思わず間抜けな声を出していた。

シスターマリアは負傷してはいるが命は取り留めたようだった。
そんなことよりも、気になるのはスキルと(※禁足事項)という記述。

今まで鑑定してきたステータスでこのような表示は見たことが無い。
ということは、十中八九スキルのステータス偽装による効果だろう。

そうなると気になるのは名前のところ。(年齢も気になるけどシスターマリアが敏感なのでスルー)


だけど、ニジゲンの世界ではシスターマリアに言及しているシナリオは無い。
彼女が重要人物では無いのかそれともゲームでは既に死亡しているからストーリーと関わらないということなのか、――。

このまま思考の海に潜りそうになり、ハッとなった。

そうだ、今は悪魔パルバフェットと戦っている最中だ。
余計なことを考えている暇はない。
というか隙を見せたら即死亡の可能性すらある。

慌てて向き直ったところ、パルバフェットの様子がおかしい。
右手で頭を抱え、苦悶の表情を浮かべているではないか。

「ぐっ、あぁぁぁ」
苦しみながら何かに耐えている、そんな声が漏れ出ていた。

「はぁはぁっ。
 け、契約違反だと。これがペナルティ?
 馬鹿な。私は契約に忠実に行動して来たはず。
 なぜこのような仕打ちをするのです?」

パルバフェットはその場に立ったまま微動だにせず、そこに居ない誰かに絶叫し訴えかけている。
その台詞の中に気になる言葉があった。

僕は自分の推測が当たっているか確かめるべく、スキルを使う。

スキル〈サトリ〉
このスキルは特定の相手の思考のを読み取ることが出来る能力。
この能力を十全に使うことが出来れば、かなり強い能力と言える。

ただ、僕はこのスキルを自分の持つ〈複製〉スキルでコピーして取得している。
〈複製〉でスキルを取得した場合、本来の能力の劣化コピー版になってしまう。

僕の〈サトリ〉の能力の場合、相手の思考の中でも、表層に出てきている思考しか読むことができない。読み取る思考を取捨選択できないのだ。

だから、相手が何を考えているのかを推測したうえでスキルを発動させないと目的の情報を読み解くことが出来ない。

だが、動揺しているパルバフェットは、僕の知りたいことを考えているはずだ。
だからこそ、〈サトリ〉が効果を発揮する。

「さあ、教えてくれ。〈サトリ〉」
すると、パルバフェットの声が脳に直接響いてきた。

『契約では顕現した場所にいるアリステン=フォードなる人物を除くイーレ村の住民の殺害だ。
 顕現時に鑑定眼で鑑定たが、アリステン=フォードなる人物の存在は確認できていない。
 つまり、この場所にいるのはイーレ村の住民だけのはずだ。
 なのにあのシスターが怪我を負った瞬間に、ペナルティになったのは何故だ。』

『契約対象外ニタイスル攻撃ヲ確認。対象者ハ死亡シテイナイタメ、罰則ペナルティレベル3、一定時間拘束シマス。
 罰則ペナルティ終了マデ後1分。』

パルバフェットがその場に立ったまま動かなくなったのは契約違反に伴うペナルティが発生したからだった。

悪魔の現界は契約履行中に限られる。
そもそも悪魔はこことは違う、いわば異世界に住んでいる。

ではなぜ、彼等はこちらの世界に現界してくるのか。
簡単に言えば、彼等はこちらの世界でいう冒険者だからだ。

冒険者がギルドを通じて調査依頼や討伐依頼を遂行するように、悪魔たちも向こうの世界のギルドから依頼を受けている。
つまり、こちらの世界には出稼ぎでやってくる感覚らしい。

このことはニジゲンの作中に現れる悪魔インフの独白によって言及されている。

悪魔は契約を履行している間はレインボーワールドの世界で契約に触れない範囲でなら自由に活動できる。
ただし、契約に縛られている以上、契約に反する行為が行われた場合はペナルティが発生する。
そのペナルティは違反行為の重大性に応じてレベルが分かれている。
たしか、レベル3の場合は身体の自由が一定時間奪われたうえに、全身に激痛が走る仕様になっていた気がする。

作中のインフは悪知恵が働き、この契約の仕様を逆手に取っていた。

契約は術者と悪魔が双方同意することで成立する。
ただし、その契約内容に解釈の余地が生まれると術者と悪魔側で解釈のズレが生じることがある。

例えば名指しで指名した相手を殺害する契約になっていた場合、内容が具体的なため解釈の余地は発生しない。
だが、王都に赴き王位継承権を持つ者の殺害する契約になっていた場合、王都であればどこでもよく、王位継承権を持つ人物であれば殺害するのは誰でもいいと言うことになる。
その場合、実行犯である悪魔本人の解釈に委ねられる。

だから、ニジゲンの世界に登場する悪魔インフは契約の抜け穴を使って好き放題していたという。

今回の契約内容ならば、解釈の余地が残されている。
力を示しさえすれば聞く耳を持ってくれるというならやるしかないね。

「〈バインド〉」
僕は拘束魔法を発動して動けないままでいるパルバフェットを四肢を拘束した。

拘束してから数秒後、魔法の負荷が高くなった。
どうやらペナルティの効果が切れたらしい。

パルバフェットは拘束の魔法を強引に破ろうと藻掻いている。
僕は拘束魔法が破られないように、魔力の出力を上げていく。
最終的に僕の魔力がパルバフェットを上回った。

「あなたは拘束されてもはや死に体。正攻法ではありませんが僕の勝ちということで認めて下さいますね?」

「ああ、認めよう。私の負けだ。
 気にすることはない。私は言ったはずですよ。形は問わない。私を屈服させてみよ、とね。
 見事に私は屈服させられた。それだけのこと。」
パルバフェットはそう言って笑った。

戦闘で力を見せての勝利ってわけじゃなかったけど、勝ちは勝ちだ。今はそれを誇ろう。

「さて、パルバフェットさんに聞きたいことがあります。あなた契約違反しましたね?」

悪魔パルバフェットは少し逡巡したものの口を開いた。

「・・・隠しても意味なさそうですね。その通りです。
 ですが聞きたいのはそんなことではないでしょう。本題は何ですか?」

僕は深呼吸を一つ。
心を落ち着かせて頭をクリアにしろ。さぁ、交渉の時間だ。

「まず、契約内容を教えて下さい。」

「いいでしょう。契約では顕現した場所でイーレ村の住民を皆殺しにすること。
 ただし、例外がある。アリステン=フォードという人物は殺害対象外となっている。」

「なるほど」
頷いてみせる。まぁ、既に〈サトリ〉のスキルで内容把握してるんだけどね。

「うん、パルバフェット。
 契約依頼の達成と僕達の生存。どちらもクリアする方法があると言ったら話に乗るかい?」

「是非も無い。私はエドワード、君に負けた。
 悪魔にとって敗北とはすなわち従属を意味する。勝者の意見に従おう。」

  ***

side:悪魔パルバフェット

「ほ、本当だったのか…。」
悪魔パルバフェットは驚愕していた。

エドワード少年には驚かされてばかりだった。
まだ10歳という若さで、しかも人間という種族的ハンデを持ちながらあれほどの強さを持っている。
だが、それ以上に驚いたのは契約内容に触れた時だった。

「契約内容はイーレ村の住人の殺害ですよね。
 おそらくパルバフェット、あなたは僕達をイーレ村の住人だと思い込んでいますがそれは間違いです。
 僕を含めここに居る皆はイーレ村を棄てた人間です。
 つまり、イーレ村の住人であるため、契約内容に該当する人物はいません。ほら、これで契約達成でしょ?」
 
エドワード少年からその説明を聞いた時、私は呆れた。
それはもはや屁理屈やこじつけといった部類の言葉遊び。
常識的に考えて、そんな解釈が通るはずがない。
そう思っていた私は頭が固かったらしい。

「何を言ってるんですか。屁理屈でも言葉遊びでもありません。
 現にあなた、シスターマリアに怪我を負わせてペナルティを受けましたよね。」

なるほど、何故ペナルティが発生するのか謎でしたが、すでにイーレ村の住人ではないとなれば頷ける。だが、いや確かめてみればいいか。

「契約確認」
契約内容のチェックする時や依頼完了した時に唱えると確認が始まる。

『契約内容確認-–
 ステータス ヲ 更新。
 スキャン中。
 …スキャン完了。
 依頼 ノ 完了 ヲ 確認。
 オツカレサマデシタ。
 帰還シークエンスに移行します。』

なんと契約完了してしまったではないか。

我ら悪魔を相手に戦うことのできる胆力と実力があり、知力も洞察力に優れた10歳の少年。
私はそんなエドワード少年に惚れこんでしまった。

「…、契約は完了した。私はこれから帰還することになる。
 借りを作るのは悪魔として癪に障る。これを渡しておこう。」

私がエドワードに渡したのは契約書のスクロール。

「使いたくなったら連絡したまえ。割安で引き受けよう。」

久しぶりの現界だったので少々名残惜しいが次回召喚された時まで楽しみにしておこう。
恐らく、そう遠くない未来に呼び出されるだろう。

「それなら今から一仕事頼みたいんだけど良いかな?」
そんなことを考えていたら速攻で依頼してきた。

この依頼主は悪魔使いが荒いようだ。

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