【一旦完結】回想モブ転生~ヒロインの過去回想に登場するモブに転生した~

ファスナー

文字の大きさ
55 / 56
過去回想に映りこむモブ編

第53話 辺境伯事変―対悪魔5 決着

しおりを挟む
 悪魔インポリーが召喚された時、彼にとって脅威と呼べる存在は2人だけだった。

1人は罠にかけ<支配>で操っている少年。
少年の魔力量は人間の中ではかなり高く、使い方次第では苦戦を強いられただろう。
だが、まだ未成熟な子どもに過ぎなかった。
案の定、精神面を突けば脆くも崩れ落ちた。

もう1人はセーバスと名乗った執事の男。
魔力量も多いうえに武術の心得があるのか隙が無いと言う点でも脅威だが、特徴的なのはこの男の持つスキルだ。
スキル<ペテン>の詳細は分からないだけに慎重にならないといけない。
幸運だったのは少年を庇った愚かな執事がセーバスの友人と言うことだ。
その執事を人質にとるとセーバスはすぐに抵抗を辞めた。

やはり、人間と実に愚かで面白い生き物だ。
悪魔インポリーは上機嫌だった。

「我が忠実なる僕《しもべ》よ。
 最初の命令はセーバスと名乗る執事を倒すことだ。さぁ、行け。」

しかし、エドワードはその場から動かない。
「命令を、違う。俺が…俺こそが主人公だ。俺の邪魔をするな。
 速やかに命令を実…。俺は俺だ―――。」

エドワードはブツブツと独り言を繰り返している。
まだ、命令の効きが悪いのかと怪訝に思った悪魔インポリーは重ねて命令を下す。

「お前に重ねて命令を下す。
 今すぐお前はセーバスと名乗る執事を倒すのだ。」

しかし、悪魔インポリーは再度命令をしてもエドワードからの反応が無い。

「おい、俺の命令を聞くんだ。」
悪魔インポリーは声を荒げる。

「黙れ。俺に命令するな。」
低く重たい声でエドワードはそう告げると、顔を上げて悪魔インポリーを見た。

直後、悪魔インポリーは無意識に後ろに飛び退いていた。
エドワードと目が合った瞬間、獰猛な獣が獲物を狙うような視線を浴びて本能が恐れたのだろうか。

(俺が視線だけで恐怖しただと。馬鹿な。
 それになぜアイツに俺の<支配>が効いていない?
 この短い時間の間に<支配>を誰かが解いたってのか?
 
 いや、待て。それはおかしい。
 俺はまだ<魔法無効化>を展開中だ。
 半径1m以内は俺以外誰も魔法が使えないはず。
 
 他者に影響を与えるスキルは俺の持ってる魔道具で感知できる。
 その魔道具に反応が無かった以上、その可能性も無い。
 
 そうなると自力で<支配>から抜け出したのか?)

「貴様、どうやって俺の<支配>から逃れた?」
悪魔インポリーは警戒心を露わにしてエドワードに問いかける。


「支配だと?
 なるほど、頭の隅で囁きかけていたあれのことか。
 それなら残念だったな。
 生意気にも俺の意識を奪いにきたから強引にねじ伏せてやった。
 まぁ、ようは気合いだな。」

「馬鹿なっ。
 精神魔法は気合でどうにかなるもんじゃ…。
 いや待て。
 先程から違和感を覚えていたがその口調は何だ?
 雰囲気もまるで違うし別人のようではないか。」

そこで悪魔インポリーは気づいた。

「貴様、な?
 俺の<支配>を打ち破るために。」

精神魔法は精神に作用する魔法であるがゆえに、揺るがぬ精神力があれば太刀打ちできる。
だからこそ、そうさせないために精神的ダメージを与えてきたはずだった。
だが、自身に強力な暗示をかけることでそれに対抗してきた。

「ご明察。は精神的に弱いからな。
 暗示をかけることで俺となり、てめぇの<支配>とやらから抜け出したのよ。
 さぁ、最終ラウンドといこうじゃねーか。」
エドワードは煽るような笑みを浮かべた。

「<支配>を破ったからと言って調子に乗るなよ、ガキが。
 手駒にしようかと思ったがとんだ厄介者のようだな。
 面倒だ、ここで殺してやる。<火槍>」

悪魔インポリーの魔法がエドワードに飛来する。

「<氷壁>」
対するエドワードは障壁を展開。

「馬鹿め。<魔法無効化>は有効なままだぞ。」

悪魔インポリーの言う通り、<氷壁>が構築されるとすぐに崩れ出した。
<火槍>を<氷壁>が一瞬防いだがすぐに消失。

しかし、エドワードは冷静に次の魔法を唱えた。

「<掌握>」

エドワードの詠唱によって、直前まで迫っていた<火槍>が90度方向きを変えた。
方向を変えられた<火槍>は悪魔インポリーに向かっていく。

「くそっ、なんだその魔法は?」
悪魔インポリーは<土壁>を展開し、<火槍>を防いだ。

「デタラメな事しやがって。
 魔法戦じゃ予想外の事をしてきやがる。
 なら格闘戦だ。<身体強化>」

悪魔インポリーは再び<身体強化>を発動。
<土壁>によってエドワードから死角となったことを利用して、超スピードで移動する。

次に現れたのはエドワードの背後。
エドワードはまだ悪魔インポリーの存在に気付いていない。
がら空きの背中に向けて手刀を振り下ろす。
(俺に気付く事もなく死ね。)

次の瞬間、エドワードが振り向いた。
(なに?気づいただと?だがもう遅い。)

構わず手刀を振り下ろす悪魔インポリー。

「<掌握>」
エドワードが魔法を放つ。
すると悪魔インポリーの手刀が右に引っ張られ狙いがソレた。
それでもエドワードの左腕を切断するに至る。

その結果に悪魔インポリーはニヤリと嗤うが、直後エドワードの顔を見て硬直した。

エドワードは大怪我を負ったにもかかわらず不気味な笑みを浮かべているではないか。
その瞳には狂気が宿っているように見える。

(なんだ?
 自分の腕が切断されたんだぞ。何故笑っていられる?)
その直後、悪魔インポリーの意識が途切れた。

悪魔インポリーの首は切断されていた。

エドワードの右手には魔法で生成した<氷剣>を握られていた。

悪魔インポリーの攻撃に気付いたあの瞬間、回避は不可能と判断して、左腕を犠牲にして悪魔インポリーを討ったのだ。


「へっ…ざまぁみやがれ。
 勝負は俺の勝ちだ。
 やっぱり俺が主人公なんじゃねーか。
 死亡フラグだか強制力だか知らねーが、俺の邪魔するものはすべて潰して…や…る。」
エドワードはそう言うと気を失って倒れた。

「見事だ。エドワード君。」
セーバスはエドワードに駆け寄り、手持ちのポーションで応急処置を施していく。
セーバスはエドワードが一命を取り留めたことを確認し、治療室に運ぶよう指示を出していく。

その後、首謀者だったキルミィは捕らえられ、広間にはセーバスと悪魔インポリーの死体だけが残った。

「どうせ死んでないんだろ?」

「何だバレてたか。つまんねぇ」
死んだはずの悪魔インポリーが立ち上がる。
切断されたはずの首はつながっている。

「安心しろ。僕がちゃんと殺してやるよ。」


セーバスは短剣を悪魔インポリーに投擲する。

「当たるかよ。」
悪魔インポリーに簡単はそれを当然のように避けた。

「いや、当てる。」
再びセーバスは短剣を悪魔インポリーに向けて投擲。

「<操剣>」
セーバスは風魔法を使って投擲した短剣を操作することて直線的だった動きが複雑なものに変わった。

「ちっ、<風壁>」
悪魔インポリーは舌打ちして前方に風の障壁を展開して前から襲い来る短剣を防いだ。

「だから当たらねぇって。」
悪魔インポリーはくるりと反転して、後ろから迫りくる短剣を避ける。
左ほほにわずかに赤い線が出来ていた。

それはセーバスが最初に投げた短剣だった。
その短剣は悪魔インポリーに避けられた後、セーバスの<操剣>によってブーメラン軌道を描き、背後から悪魔インポリーに迫っていったのだ。

「なんだ?身体が痺れてやがる。
 てめぇ短剣に何仕込みやがった?毒か?」

悪魔インポリーは自身に解毒の魔法を掛けようとするが魔力がうまく練れない。

「どうなってる?
 身体の痺れが戻らねぇぞ。」

「それは毒じゃ無いんだ。
 超高濃度の薬なんだよ。
 人間の魔力器官を壊す作用があるんだけど悪魔にも効いてよかったよ。」
狼狽する悪魔インポリーにセーバスは笑顔で語りかける。

悪魔インポリーは自分の死を悟った。

悪魔が最後に見たのは悪魔《セーバス》の笑顔だった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

40歳のおじさん 旅行に行ったら異世界でした どうやら私はスキル習得が早いようです

カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
部長に傷つけられ続けた私 とうとうキレてしまいました なんで旅行ということで大型連休を取ったのですが 飛行機に乗って寝て起きたら異世界でした…… スキルが簡単に得られるようなので頑張っていきます

家族と魔法と異世界ライフ!〜お父さん、転生したら無職だったよ〜

三瀬夕
ファンタジー
「俺は加藤陽介、36歳。普通のサラリーマンだ。日本のある町で、家族5人、慎ましく暮らしている。どこにでいる一般家庭…のはずだったんだけど……ある朝、玄関を開けたら、そこは異世界だった。一体、何が起きたんだ?転生?転移?てか、タイトル何これ?誰が考えたの?」 「えー、可愛いし、いいじゃん!ぴったりじゃない?私は楽しいし」 「あなたはね、魔導師だもん。異世界満喫できるじゃん。俺の職業が何か言える?」 「………無職」 「サブタイトルで傷、えぐらないでよ」 「だって、哀愁すごかったから。それに、私のことだけだと、寂しいし…」 「あれ?理沙が考えてくれたの?」 「そうだよ、一生懸命考えました」 「ありがとな……気持ちは嬉しいんだけど、タイトルで俺のキャリア終わっちゃってる気がするんだよな」 「陽介の分まで、私が頑張るね」 「いや、絶対、“職業”を手に入れてみせる」 突然、異世界に放り込まれた加藤家。 これから先、一体、何が待ち受けているのか。 無職になっちゃったお父さんとその家族が織りなす、異世界コメディー? 愛する妻、まだ幼い子どもたち…みんなの笑顔を守れるのは俺しかいない。 ──家族は俺が、守る!

『身長185cmの私が異世界転移したら、「ちっちゃくて可愛い」って言われました!? 〜女神ルミエール様の気まぐれ〜』

透子(とおるこ)
恋愛
身長185cmの女子大生・三浦ヨウコ。 「ちっちゃくて可愛い女の子に、私もなってみたい……」 そんな密かな願望を抱えながら、今日もバイト帰りにクタクタになっていた――はずが! 突然現れたテンションMAXの女神ルミエールに「今度はこの子に決〜めた☆」と宣言され、理由もなく異世界に強制転移!? 気づけば、森の中で虫に囲まれ、何もわからずパニック状態! けれど、そこは“3メートル超えの巨人たち”が暮らす世界で―― 「なんて可憐な子なんだ……!」 ……え、私が“ちっちゃくて可愛い”枠!? これは、背が高すぎて自信が持てなかった女子大生が、異世界でまさかのモテ無双(?)!? ちょっと変わった視点で描く、逆転系・異世界ラブコメ、ここに開幕☆

男子高校生だった俺は異世界で幼児になり 訳あり筋肉ムキムキ集団に保護されました。

カヨワイさつき
ファンタジー
高校3年生の神野千明(かみの ちあき)。 今年のメインイベントは受験、 あとはたのしみにしている北海道への修学旅行。 だがそんな彼は飛行機が苦手だった。 電車バスはもちろん、ひどい乗り物酔いをするのだった。今回も飛行機で乗り物酔いをおこしトイレにこもっていたら、いつのまにか気を失った?そして、ちがう場所にいた?! あれ?身の危険?!でも、夢の中だよな? 急死に一生?と思ったら、筋肉ムキムキのワイルドなイケメンに拾われたチアキ。 さらに、何かがおかしいと思ったら3歳児になっていた?! 変なレアスキルや神具、 八百万(やおよろず)の神の加護。 レアチート盛りだくさん?! 半ばあたりシリアス 後半ざまぁ。 訳あり幼児と訳あり集団たちとの物語。 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜 北海道、アイヌ語、かっこ良さげな名前 お腹がすいた時に食べたい食べ物など 思いついた名前とかをもじり、 なんとか、名前決めてます。     *** お名前使用してもいいよ💕っていう 心優しい方、教えて下さい🥺 悪役には使わないようにします、たぶん。 ちょっとオネェだったり、 アレ…だったりする程度です😁 すでに、使用オッケーしてくださった心優しい 皆様ありがとうございます😘 読んでくださる方や応援してくださる全てに めっちゃ感謝を込めて💕 ありがとうございます💞

悪役令息、前世の記憶により悪評が嵩んで死ぬことを悟り教会に出家しに行った結果、最強の聖騎士になり伝説になる

竜頭蛇
ファンタジー
ある日、前世の記憶を思い出したシド・カマッセイはこの世界がギャルゲー「ヒロイックキングダム」の世界であり、自分がギャルゲの悪役令息であると理解する。 評判が悪すぎて破滅する運命にあるが父親が毒親でシドの悪評を広げたり、関係を作ったものには危害を加えるので現状では何をやっても悪評に繋がるを悟り、家との関係を断って出家をすることを決意する。 身を寄せた教会で働くうちに評判が上がりすぎて、聖女や信者から崇められたり、女神から一目置かれ、やがて最強の聖騎士となり、伝説となる物語。

男女比1:15の貞操逆転世界で高校生活(婚活)

大寒波
恋愛
日本で生活していた前世の記憶を持つ主人公、七瀬達也が日本によく似た貞操逆転世界に転生し、高校生活を楽しみながら婚活を頑張るお話。 この世界の法律では、男性は二十歳までに5人と結婚をしなければならない。(高校卒業時点は3人) そんな法律があるなら、もういっそのこと高校在学中に5人と結婚しよう!となるのが今作の主人公である達也だ! この世界の経済は基本的に女性のみで回っており、男性に求められることといえば子種、遺伝子だ。 前世の影響かはわからないが、日本屈指のHENTAIである達也は運よく遺伝子も最高ランクになった。 顔もイケメン!遺伝子も優秀!貴重な男!…と、驕らずに自分と関わった女性には少しでも幸せな気持ちを分かち合えるように努力しようと決意する。 どうせなら、WIN-WINの関係でありたいよね! そうして、別居婚が主流なこの世界では珍しいみんなと同居することを、いや。ハーレムを目標に個性豊かなヒロイン達と織り成す学園ラブコメディがいま始まる! 主人公の通う学校では、少し貞操逆転の要素薄いかもです。男女比に寄っています。 外はその限りではありません。 カクヨムでも投稿しております。

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

処理中です...