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「ほらっ、手伝ってくれるんでしょう? さっさと始めましょう」
「うん、私がんばるね」
あたしは気を取り直してくろゆりを促した。掴みきれない何かに気を取られても時間の無駄だ。だってここには遊びに来たわけじゃないのだから。
一面ガラス張りのリビングに差し込む夕焼けを受けて赤く染まるくろゆりの表情が、やけにあどけなく見えて、やっぱり胸のざわつきが気のせいではないと自覚してしまう。
そんな気持ちを払拭しようと、あたしは一度大きく深呼吸して、婉曲な聞き方などかなぐり捨ててはっきりと問い掛けることにした。
「それで、視線に慣れる手段っていうの? 緊張しないコツみたいなものがあるの?」
「えーとね、観客はみんな野菜。そう思い込むの」
あたし専属の演技指導と名乗りを上げて、がんばると胸を張って見せたくろゆりの口から紡がれた助言がそれだった。
はっきりいって拍子抜けだった。
芸能界にのみ伝わる緊張を解く秘訣みたいなものとか、どう見ても眉唾物でしかない呼吸法とか、はたまた一発で全ての悩みを解消してしまう裏技の足ツボ。
そんな、労せずして問題を解決に導く近道があると思っていたわけではない。もちろんそのつもりだったけれど、ほんの少しくらいは初めて耳にする特別な何かを期待していたのだ。
それなのに、それなのになんて思ってしまうのは勝手に肩透かしを食らった気になっている現れだろうけれど、「観客はみんな野菜だと思え」だなんて子供だまし過ぎやしないだろうか。
「……なんていうか、思った以上に普通ね。なにか一般人には想像も付かない解決方法みたいなのがあるのかと思ってた」
「うーん、じゃあ野菜じゃなくて果物でもいいよ」
「そういうことじゃなくって」
本当は頭ではわかっているのだ。
あたしを見ているのは人ではない、感情も心も持っていない、害意も悪意もあるはずのない無機物に過ぎないのだと思い込んで自分を納得させるしかないのだ。
それはきっと間違ってはいないのだけれど、あたしが視線を恐れる原因の全てを語っていないせいでくろゆりは完全には理解していないのだ。
あたしが視線に怯えて声を詰まらせているのは単純な緊張だけではないことを。視線に恐怖を感じるのは観客からだけに留まらず、同じ舞台の上に立つキャストからの視線も含まれるのだ。さすがに共演者を野菜や果物と思い込むのは無理がある。
「思い込むことに慣れることが重要なの」
「慣れる?」
「うん。もっと踏み込むなら、思い込んで慣れていることを演じるの」
「思い込んで慣れていることを演じる……」
こくりと頷いたくろゆりは、見てて、と前置きするなり視線を落として目を閉じた。そして、数秒の後に音もなく顔を上げた。
するとそこには、どこまでも気だるそうな半眼で、この世の全てをつまらなさそうに達観して見ていた、あの最終選考の合宿中に日本全国に放送されていたツンダルのくろゆりの姿があった。
それまでまとっていた柔らかな雰囲気をずるりと剥き取ったみたいに、突然あたしの目の前に別の人格が顔を覗かせた。そんな、変貌と呼ぶに相応しい変化だった。
「周りからの視線が、自分に何を期待して何を求めているのかを一度全て受け入れる。そのうえで私は、その全てを面倒臭いから無視するって決めて、無視し続けることに慣れて、慣れた自分を演じてたの」
淡々と抑揚なく紡ぐくろゆりの冷たい半眼に見つめられ、あたしは微動だに出来なくなった。
問答無用であの最終選考特番に釘付けになった時と同じ感覚に陥っていた。つまるところ、とても強い憧れと嫉妬心が同時に渦巻いた。
「朱乃ちゃんは、剥き出しの心を露わにし過ぎてるんだよ。だからダイレクトに周りからの感情が突き刺さっちゃう」
再び視線を落とすと、くろゆりはすっかり口調を戻して、へらっと笑顔を浮かべながら肩を竦めた。
ほんの一瞬であたしの心をかき乱したツンダルのくろゆりは完全に姿を消していた。
「……テレビのあれって、演技、だったの?」
「演技というか、常に人目に晒されていることを意識しないように、無視し続けることを選んで慣れた結果かな? 自分を守るためにまとった鎧みたいなもの……、かな? うまく説明出来なくてごめんね。演じていたって言われればそうかもしれないし、あれも私自身といっても間違いじゃない」
「……アンタでも、人目に晒されることが、誰かの視線が怖かったりするの?」
ほとんど無意識に自分の口から零れ出た問い掛けにぎくりとしてしまった。
するわけない、するわけがないじゃないか。いったい何を訊いているのだろう。
たったいま目の前で度肝を抜かされたばかりじゃないか。ツンダルのくろゆりは最終選考で圧倒的な実力をもって一位を勝ち取り、勝ち取った挙げ句にわざわざ辞退したような超一流なのだ。そんな立っているステージがそもそも違うくろゆりが、誰からのどんな視線を怖がって怯えるというのだ。
あたしみたいな面接で落選した凡人とどうして同じ土俵でものを考えているのか、根本的な部分から勘違いしている自分が恥ずかしくなった。
「……怖かったよ、ずっと。挫けて心がポッキリ折れちゃったけど、手を差し伸べて励ましてもらえたの。だから、もう一度だけ頑張ってみようって立ち上がれた――」
あたしの考えとは裏腹に、くろゆりが初めて自分を卑下するみたいに視線を落とした。
「だから、弱ってる朱乃ちゃんを絶対に励まして立ち上がらせてみせる。そのために私がんばるから」
すぐに視線を上げ直すと、改めて強い決意を湛えた瞳でまっすぐにあたしを見つめてきた。
その力強さに気圧されて、あたしは堪らず視線を逸らしてしまう。条件反射だ。別に怖かったわけじゃない。
そもそも、だから、ってどういうことなのよ。ぜんぜん意味がわからない。
けれど、あのくろゆりでさえも衆目に晒されることが怖かっただなんて驚きだった。思い込むとか慣れるとか、慣れていることを演じるとか、いまいちなにをいっているのかこんがらがって実感できなかった。
それでも、なんだか少しだけホッとした気分だった。ツンダルのくろゆりとはいえ超常の存在なんてことはなく、ちゃんとあたしと同じ人間なのだと思い至った。初めて対等に、同じ目線の高さにくろゆりが降りてきたみたいな気分になった。だからといって、あたしの現状が改善したわけでもないのに。
「あと、これはあんまりいいたくはないんだけど……」ここまでの口ぶりが嘘みたいに急にいい淀んでから、くろゆりが続ける。「現実問題としてロミオ役の彼がすごい演技派って噂は学校内外の常識なんでしょう? ……だったら、みんなそっちに注目するわ」
自分が察しの良い方とは思わないけれど、くろゆりがいい淀んだ理由がわかった。
「……だから、あたしの演技なんて誰も見ない、ってこと?」
「朱乃ちゃんの演技に限らず、たぶん他のキャストも含めて……」
いいにくそうに口元を歪めている様から、単なる予想を口にしているわけではないことが窺えた。
それはそうだろう、確かにそうに違いない。
観客が何より期待しているのは噂の演劇王子こと遠野くんの演技を見ることなのだ。全ての視線は遠野くんへと注がれる。だからそれを隠れ蓑にすれば、緊張せずに済むのではないかと。
初めて具体的に示された策はどうにも後ろ向きすぎたけれど、言葉尻を濁して困り眉で視線を落とすくろゆりの姿が少し不憫に思えておかしかった。
「わかってるわよそんなこと。気にしないで良いわよ。……この際、利用出来るものは何だって利用させてもらうわ」
「……うん。でも、私は朱乃ちゃんしか見てないから」
「そういうご機嫌取りいらないから」
「ううん、私は朱乃ちゃんしか見ない。だから、本番までにいっぱい練習して視線に慣れよう。慣れる術を身につけよう。きっと大丈夫だから」
いいながら、まるで濁りのない瞳が改めてまっすぐにあたしを捕らえる。
「……じゃあ、さっさと練習始めましょ」
なぜだか気恥ずかしくなり、あたしはリュックから台本を引っ張り出すために視線を逃がした。
くろゆりも岸から手渡された予備の台本を手に、二人でリビングの床にぺたりと向かい合って座り込む。くろゆりからの提案で改めて読み合わせから始めることにした。こうしているいまも当然のように、くろゆりの視線は余すことなくあたしに向かって注がれ続けていた。
――利用出来るものは何だって利用させてもらう。
それは遠野くんに当たるスポットライトの影に隠れることだけを指していったわけじゃない。
あのオーディション最終選考で日本中を魅了したくろゆりの演技力を、その片鱗だけでも手を伸ばせば触れてしまえる距離で感じられるかもしれないのだ。ずるかろうが打算といわれようが卑怯と思われようが往生際が悪かろうが、これはチャンスだ。思わぬ形で降って湧いた、恐怖心を克服する絶好のチャンス。
「――昨夜の仮面舞踏会で私を踊りに誘ってくださったあのお方。やさしく親切で踊りを終えた後もとても楽しくいろいろなお話をしてくださったわ」
台本に視線を落としたままうわずった声でなんとかセリフを紡ぎ、合否を窺うみたいにそろそろと上目遣いで正面のくろゆりを見る。
あいかわらず逸らすことなくあたしを見据えたままの目元が、ほんのわずかに柔らかく弧を描いているように見えた。
決して急かさないし、追い詰めたりもしない。圧迫感を与えない優しい視線だと思った。
途端に胸の奥からざわざわする感覚が込み上げてきて、それがなんだかこそばゆくて、あたしは背筋を伸ばして読み合わせに集中することにした。
「うん、私がんばるね」
あたしは気を取り直してくろゆりを促した。掴みきれない何かに気を取られても時間の無駄だ。だってここには遊びに来たわけじゃないのだから。
一面ガラス張りのリビングに差し込む夕焼けを受けて赤く染まるくろゆりの表情が、やけにあどけなく見えて、やっぱり胸のざわつきが気のせいではないと自覚してしまう。
そんな気持ちを払拭しようと、あたしは一度大きく深呼吸して、婉曲な聞き方などかなぐり捨ててはっきりと問い掛けることにした。
「それで、視線に慣れる手段っていうの? 緊張しないコツみたいなものがあるの?」
「えーとね、観客はみんな野菜。そう思い込むの」
あたし専属の演技指導と名乗りを上げて、がんばると胸を張って見せたくろゆりの口から紡がれた助言がそれだった。
はっきりいって拍子抜けだった。
芸能界にのみ伝わる緊張を解く秘訣みたいなものとか、どう見ても眉唾物でしかない呼吸法とか、はたまた一発で全ての悩みを解消してしまう裏技の足ツボ。
そんな、労せずして問題を解決に導く近道があると思っていたわけではない。もちろんそのつもりだったけれど、ほんの少しくらいは初めて耳にする特別な何かを期待していたのだ。
それなのに、それなのになんて思ってしまうのは勝手に肩透かしを食らった気になっている現れだろうけれど、「観客はみんな野菜だと思え」だなんて子供だまし過ぎやしないだろうか。
「……なんていうか、思った以上に普通ね。なにか一般人には想像も付かない解決方法みたいなのがあるのかと思ってた」
「うーん、じゃあ野菜じゃなくて果物でもいいよ」
「そういうことじゃなくって」
本当は頭ではわかっているのだ。
あたしを見ているのは人ではない、感情も心も持っていない、害意も悪意もあるはずのない無機物に過ぎないのだと思い込んで自分を納得させるしかないのだ。
それはきっと間違ってはいないのだけれど、あたしが視線を恐れる原因の全てを語っていないせいでくろゆりは完全には理解していないのだ。
あたしが視線に怯えて声を詰まらせているのは単純な緊張だけではないことを。視線に恐怖を感じるのは観客からだけに留まらず、同じ舞台の上に立つキャストからの視線も含まれるのだ。さすがに共演者を野菜や果物と思い込むのは無理がある。
「思い込むことに慣れることが重要なの」
「慣れる?」
「うん。もっと踏み込むなら、思い込んで慣れていることを演じるの」
「思い込んで慣れていることを演じる……」
こくりと頷いたくろゆりは、見てて、と前置きするなり視線を落として目を閉じた。そして、数秒の後に音もなく顔を上げた。
するとそこには、どこまでも気だるそうな半眼で、この世の全てをつまらなさそうに達観して見ていた、あの最終選考の合宿中に日本全国に放送されていたツンダルのくろゆりの姿があった。
それまでまとっていた柔らかな雰囲気をずるりと剥き取ったみたいに、突然あたしの目の前に別の人格が顔を覗かせた。そんな、変貌と呼ぶに相応しい変化だった。
「周りからの視線が、自分に何を期待して何を求めているのかを一度全て受け入れる。そのうえで私は、その全てを面倒臭いから無視するって決めて、無視し続けることに慣れて、慣れた自分を演じてたの」
淡々と抑揚なく紡ぐくろゆりの冷たい半眼に見つめられ、あたしは微動だに出来なくなった。
問答無用であの最終選考特番に釘付けになった時と同じ感覚に陥っていた。つまるところ、とても強い憧れと嫉妬心が同時に渦巻いた。
「朱乃ちゃんは、剥き出しの心を露わにし過ぎてるんだよ。だからダイレクトに周りからの感情が突き刺さっちゃう」
再び視線を落とすと、くろゆりはすっかり口調を戻して、へらっと笑顔を浮かべながら肩を竦めた。
ほんの一瞬であたしの心をかき乱したツンダルのくろゆりは完全に姿を消していた。
「……テレビのあれって、演技、だったの?」
「演技というか、常に人目に晒されていることを意識しないように、無視し続けることを選んで慣れた結果かな? 自分を守るためにまとった鎧みたいなもの……、かな? うまく説明出来なくてごめんね。演じていたって言われればそうかもしれないし、あれも私自身といっても間違いじゃない」
「……アンタでも、人目に晒されることが、誰かの視線が怖かったりするの?」
ほとんど無意識に自分の口から零れ出た問い掛けにぎくりとしてしまった。
するわけない、するわけがないじゃないか。いったい何を訊いているのだろう。
たったいま目の前で度肝を抜かされたばかりじゃないか。ツンダルのくろゆりは最終選考で圧倒的な実力をもって一位を勝ち取り、勝ち取った挙げ句にわざわざ辞退したような超一流なのだ。そんな立っているステージがそもそも違うくろゆりが、誰からのどんな視線を怖がって怯えるというのだ。
あたしみたいな面接で落選した凡人とどうして同じ土俵でものを考えているのか、根本的な部分から勘違いしている自分が恥ずかしくなった。
「……怖かったよ、ずっと。挫けて心がポッキリ折れちゃったけど、手を差し伸べて励ましてもらえたの。だから、もう一度だけ頑張ってみようって立ち上がれた――」
あたしの考えとは裏腹に、くろゆりが初めて自分を卑下するみたいに視線を落とした。
「だから、弱ってる朱乃ちゃんを絶対に励まして立ち上がらせてみせる。そのために私がんばるから」
すぐに視線を上げ直すと、改めて強い決意を湛えた瞳でまっすぐにあたしを見つめてきた。
その力強さに気圧されて、あたしは堪らず視線を逸らしてしまう。条件反射だ。別に怖かったわけじゃない。
そもそも、だから、ってどういうことなのよ。ぜんぜん意味がわからない。
けれど、あのくろゆりでさえも衆目に晒されることが怖かっただなんて驚きだった。思い込むとか慣れるとか、慣れていることを演じるとか、いまいちなにをいっているのかこんがらがって実感できなかった。
それでも、なんだか少しだけホッとした気分だった。ツンダルのくろゆりとはいえ超常の存在なんてことはなく、ちゃんとあたしと同じ人間なのだと思い至った。初めて対等に、同じ目線の高さにくろゆりが降りてきたみたいな気分になった。だからといって、あたしの現状が改善したわけでもないのに。
「あと、これはあんまりいいたくはないんだけど……」ここまでの口ぶりが嘘みたいに急にいい淀んでから、くろゆりが続ける。「現実問題としてロミオ役の彼がすごい演技派って噂は学校内外の常識なんでしょう? ……だったら、みんなそっちに注目するわ」
自分が察しの良い方とは思わないけれど、くろゆりがいい淀んだ理由がわかった。
「……だから、あたしの演技なんて誰も見ない、ってこと?」
「朱乃ちゃんの演技に限らず、たぶん他のキャストも含めて……」
いいにくそうに口元を歪めている様から、単なる予想を口にしているわけではないことが窺えた。
それはそうだろう、確かにそうに違いない。
観客が何より期待しているのは噂の演劇王子こと遠野くんの演技を見ることなのだ。全ての視線は遠野くんへと注がれる。だからそれを隠れ蓑にすれば、緊張せずに済むのではないかと。
初めて具体的に示された策はどうにも後ろ向きすぎたけれど、言葉尻を濁して困り眉で視線を落とすくろゆりの姿が少し不憫に思えておかしかった。
「わかってるわよそんなこと。気にしないで良いわよ。……この際、利用出来るものは何だって利用させてもらうわ」
「……うん。でも、私は朱乃ちゃんしか見てないから」
「そういうご機嫌取りいらないから」
「ううん、私は朱乃ちゃんしか見ない。だから、本番までにいっぱい練習して視線に慣れよう。慣れる術を身につけよう。きっと大丈夫だから」
いいながら、まるで濁りのない瞳が改めてまっすぐにあたしを捕らえる。
「……じゃあ、さっさと練習始めましょ」
なぜだか気恥ずかしくなり、あたしはリュックから台本を引っ張り出すために視線を逃がした。
くろゆりも岸から手渡された予備の台本を手に、二人でリビングの床にぺたりと向かい合って座り込む。くろゆりからの提案で改めて読み合わせから始めることにした。こうしているいまも当然のように、くろゆりの視線は余すことなくあたしに向かって注がれ続けていた。
――利用出来るものは何だって利用させてもらう。
それは遠野くんに当たるスポットライトの影に隠れることだけを指していったわけじゃない。
あのオーディション最終選考で日本中を魅了したくろゆりの演技力を、その片鱗だけでも手を伸ばせば触れてしまえる距離で感じられるかもしれないのだ。ずるかろうが打算といわれようが卑怯と思われようが往生際が悪かろうが、これはチャンスだ。思わぬ形で降って湧いた、恐怖心を克服する絶好のチャンス。
「――昨夜の仮面舞踏会で私を踊りに誘ってくださったあのお方。やさしく親切で踊りを終えた後もとても楽しくいろいろなお話をしてくださったわ」
台本に視線を落としたままうわずった声でなんとかセリフを紡ぎ、合否を窺うみたいにそろそろと上目遣いで正面のくろゆりを見る。
あいかわらず逸らすことなくあたしを見据えたままの目元が、ほんのわずかに柔らかく弧を描いているように見えた。
決して急かさないし、追い詰めたりもしない。圧迫感を与えない優しい視線だと思った。
途端に胸の奥からざわざわする感覚が込み上げてきて、それがなんだかこそばゆくて、あたしは背筋を伸ばして読み合わせに集中することにした。
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