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ついに劇はラストシーンへと差し掛かった。
「――ジュリエット! ああ、僕の愛しい人。応えてくれジュリエット!」
仮死状態となったジュリエットを見て、本当に死んでいると思い込んでしまったロミオ。
「――ああ、ジュリエット……。君がいる場所へ僕も向かおう。この毒薬を手に入れていて良かった……」
ロミオは一息に毒薬を飲み干して倒れる。
一呼吸後に、あたしはゆっくりと身を起こし倒れているくろゆりの身体を抱き上げる。
「――ロミオ! あなたがここにいることは神父様から聞いていました。……それなのにどうして」
くろゆりが手放して傍らに落ちた毒薬を拾い上げ、
「――なぜ薬を残しておいてくれなかったのですか? 私も同じ毒薬で死にたかった……。ロミオ、私たちが離れることはもうありません。これからは、永遠に共にいるのだから」
くろゆりの衣装の腰元から短剣を抜き取り、ボリュームの上がっていく音響に合わせて自らの胸に突き刺す演技をし、くろゆりに覆い被さるようにあたしは倒れた。
ゆっくりと照明が落とされナレーションが入る。
「――モンタギュー家とキャピュレット家の両家が目にした光景は、幸せそうに微笑みロミオの胸に寄り添うように倒れたジュリエットの姿でした。その姿はまるで眠っているように見えました」
静かにエピローグが語られるナレーションに合わせて、上がった時と同じ速度でゆっくりと緞帳が下りる。
あたしたちの、ロミオとジュリエットが終わった。
まだ下りきらない緞帳を待っていられないみたいに、観客席から押し寄せる勢いで拍手の渦が巻き起こった。
それはきっと、万雷の拍手だなんて表現しても決して過言ではないと思えた。
あたしは覆い被さったまま大嫌いなくろゆりを抱き締めて、声を上げて泣いていた。
うわああああん、うわああああん――
そんなあたしを抱き締め返して、くろゆりも泣いていた。
うわああああん、うわああああん――
お互いの埋め切れないものを補い合うみたいに抱き締めあった。
かけがえのないはずだった片割れに触れたみたいに、もともと一つだったものが元に戻ろうとするみたいに、あたしたちはきつくきつく抱き締めあって泣いた。
そんなあたしたちの泣き声は、割れんばかりの止まない拍手に掻き消されていた。
だから、負けじと声を張り上げて、泣いた。
ほんのわずかな欠片でさえも決して逃すまいと、かき集めるみたいに抱き締めあった。競い合うみたいにがむしゃらにしゃくり上げた。
くろゆりの背中に、刻み付けるみたいに爪を立てた。
深く、皮膚を切り、肉を裂いて二度と消えない傷になればいい。ずっとずっと残り続ける傷痕になればいいと思った。
色鮮やかに耀いて舞い踊る蝶の羽に、焼き尽くされ灰になって崩れるより早く、永遠に残り続ける傷を付けてやるんだ。
あたしは大嫌いなくろゆりと、喉が千切れるくらいに声を上げてぽろぽろと涙を零した。
そんな姿を、幼いあたしとまゆりんが手を繋いで眺めていた。
固く結ばれた二人のちいさな手は、これから大きくなっていく夢を握り締めているみたいに見えた。
観客席とステージを隔てた緞帳が下りきってなお、鳴り止まない拍手が降り注いであたしたち二人を濡らした。
「――ジュリエット! ああ、僕の愛しい人。応えてくれジュリエット!」
仮死状態となったジュリエットを見て、本当に死んでいると思い込んでしまったロミオ。
「――ああ、ジュリエット……。君がいる場所へ僕も向かおう。この毒薬を手に入れていて良かった……」
ロミオは一息に毒薬を飲み干して倒れる。
一呼吸後に、あたしはゆっくりと身を起こし倒れているくろゆりの身体を抱き上げる。
「――ロミオ! あなたがここにいることは神父様から聞いていました。……それなのにどうして」
くろゆりが手放して傍らに落ちた毒薬を拾い上げ、
「――なぜ薬を残しておいてくれなかったのですか? 私も同じ毒薬で死にたかった……。ロミオ、私たちが離れることはもうありません。これからは、永遠に共にいるのだから」
くろゆりの衣装の腰元から短剣を抜き取り、ボリュームの上がっていく音響に合わせて自らの胸に突き刺す演技をし、くろゆりに覆い被さるようにあたしは倒れた。
ゆっくりと照明が落とされナレーションが入る。
「――モンタギュー家とキャピュレット家の両家が目にした光景は、幸せそうに微笑みロミオの胸に寄り添うように倒れたジュリエットの姿でした。その姿はまるで眠っているように見えました」
静かにエピローグが語られるナレーションに合わせて、上がった時と同じ速度でゆっくりと緞帳が下りる。
あたしたちの、ロミオとジュリエットが終わった。
まだ下りきらない緞帳を待っていられないみたいに、観客席から押し寄せる勢いで拍手の渦が巻き起こった。
それはきっと、万雷の拍手だなんて表現しても決して過言ではないと思えた。
あたしは覆い被さったまま大嫌いなくろゆりを抱き締めて、声を上げて泣いていた。
うわああああん、うわああああん――
そんなあたしを抱き締め返して、くろゆりも泣いていた。
うわああああん、うわああああん――
お互いの埋め切れないものを補い合うみたいに抱き締めあった。
かけがえのないはずだった片割れに触れたみたいに、もともと一つだったものが元に戻ろうとするみたいに、あたしたちはきつくきつく抱き締めあって泣いた。
そんなあたしたちの泣き声は、割れんばかりの止まない拍手に掻き消されていた。
だから、負けじと声を張り上げて、泣いた。
ほんのわずかな欠片でさえも決して逃すまいと、かき集めるみたいに抱き締めあった。競い合うみたいにがむしゃらにしゃくり上げた。
くろゆりの背中に、刻み付けるみたいに爪を立てた。
深く、皮膚を切り、肉を裂いて二度と消えない傷になればいい。ずっとずっと残り続ける傷痕になればいいと思った。
色鮮やかに耀いて舞い踊る蝶の羽に、焼き尽くされ灰になって崩れるより早く、永遠に残り続ける傷を付けてやるんだ。
あたしは大嫌いなくろゆりと、喉が千切れるくらいに声を上げてぽろぽろと涙を零した。
そんな姿を、幼いあたしとまゆりんが手を繋いで眺めていた。
固く結ばれた二人のちいさな手は、これから大きくなっていく夢を握り締めているみたいに見えた。
観客席とステージを隔てた緞帳が下りきってなお、鳴り止まない拍手が降り注いであたしたち二人を濡らした。
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