新月の光

恵あかり

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第三部「凛廻」(完結)

20 比翼の鳥

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 二人きりの静かな午後。
 ただ寄り添う温もりだけで満たされる時間。
 屋敷の回廊で陽を浴び、風を嗅いで鳥の声に時を知る。
 このような平穏を、犀星も玲陽も長く心に祈り続けてきた。今は、遠ざかった孤独さえ懐かしかった。
 犀星の膝に頭を預け、玲陽は回廊に寝転んでいた。手のひらを犀星の脇腹に当て、その存在を確かめるように、時折指先が動かした。
「星」
 もう何度目か数えることもない甘えた呼び声。回廊の板に広がった玲陽の長い髪が、柔らかな光をはらんでぼんやりと光っていた。その輝きにも劣らぬ優しさで、犀星は玲陽に口づけた。頬に触れる唇の感触に、玲陽が深く息を吸って目を閉じた。
 犀星の膝で甘える。
 それがどれだけ、待ち望んだ喜びであるか知れなかった。帯に顔をすり寄せ、長く息を吐く。
 くすぐったそうに犀星の喉が鳴った。思わず、玲陽は笑い声を立てた。
 犀星は背を丸め、包むように玲陽を抱いた。
 ふわりと香る犀星の襟に、玲陽の全身が自然と震えた。
 心の隅で、出かけていった玲凛のことが気になったが、その思いすら溶かして流すように、犀星の指が髪を撫でた。
 一瞬、玲陽は罪を感じた。
 自分がここで犀星と戯れている間に、妹は危ない目に合っているかもしれないのだ。
 兄として、玲陽の胸に小さな棘が刺さった。その棘すら、犀星のささやかな呼び声が、いとも簡単に抜き捨ててしまう。
 私はもうだめだ。
 玲陽は目を閉じた。
 ただぬくもりに身を委ねながら、玲陽はうつらうつらとしていた。
 犀星もどこか気の抜けた顔で、まるで猫でもあやすように指で玲陽の体をたどり、気まぐれに額や頬に口づけを落とした。
 屋敷の外では、常に複数の暁隊士が警備に当たっていた。だが、涼景の配慮で、彼らが中へ入ってくることは無かった。
 大切な人と水入らずで過ごす時間は、何にも代えがたい。
 夜眠るときは二人だが、こうして日の光の中で二人きりになることは稀であった。日中はいつも誰かがそばにいて、その目を気にし、その隙間を縫うように互いの姿を追いかけていた。
 こうして思う存分に相手を感じられる明るい時間は、もう長く味わっていなかった。
 犀星の記憶が、ふっと過去に飛んだ。
 玲陽のいなかった年月、自分はどうやって呼吸をしていたのか覚えていなかった。
 昔の自分がすっぽりと抜け落ちているようで、わずかに怖さがあった。
 人を強く思うことは、その分、自分が弱くなるのかもしれない。その思いが強ければ強いほど、一人では生きられなくなりそうだった。かつて耐えられた辛さにすらもろく崩れた。
 胸が震え、犀星は腕に力を込めた。苦しくはないだろうかと思うほどに、玲陽を抱き寄せたが、玲陽は抵抗する素振りもなかった。
 もう放せない。
 半分眠っているのか、玲陽の閉じられたまぶたは白く、美しかった。
 犀星がずっと記憶の中で見つめていた玲陽は、黒い瞳に黒い髪をしていた。なのに、遠い昔から玲陽の姿はこうであったような気がした。
 外見がどれほど変わろうと、その内側は遠い日のままであった。
 幼い頃の面影、共に過ごしたあの日々は、時の彼方で、今も輝きを放っていた。
 徐々に犀星のまぶたも重くなった。
 そのたびに、玲陽の髪を絡めとり、指先で熱を感じた。
 細い腰に締められた帯が、玲陽の呼吸に合わせて静かに上下していた。
 生きている。
 このぬくもりは喜びなのだ、と、犀星は笑みを浮かべた。
 誰も見る者のない透き通るその笑顔に、初夏の日差しがひとしずくとどまった。
 わずかに開いた唇から音もなく、大切な人の名がこぼれ落ちた。
 玲陽の肩を支えながら、犀星はひとつの気がかりを思い出した。
 かつて、玲陽は背中の火傷について打ち明けてくれた。
 焼印を押した男のことを、玲陽は覚えていた。
『目の色は、あなたと同じ』。
 あれから犀星は心当たりを訪ねて回った。異国には青い目を持つ者がいる。かつて何人か、この国を訪れたこともある。
 だが、現在、宝順によって国は閉ざされ、外との国交は限られていた。最近ではそのような者を見かけたという話も聞かなかった。
 十年前、歌仙に現れたのは何者だったのか。
 手がかりはなく、ただやたらと胸は騒いだ。
 思い詰めて、本当にあの時、自分は都にいたかと、何度も周囲に確かめた。
 何かの間違いで、玲陽恋しさに気が狂い、自分がしでかしたのではないかとさえ疑った。だが、犀星が都を出ていないことは間違いなかった。
 安心して良いのか、犀星にはわからない。
 もし本当に玲陽を傷つけた人間が目の前に現れたら、自分はどうなるのだろう。それを思うと、犀星にもその先が読めなかった。
 かつて、目の前の惨状に我を忘れ、命を切り裂いた感覚が蘇った。
 俺は同じ手で、大切な人に触れている……
 息が苦しくなり、考えることから逃げ、玲陽の顔を見ると心が楽になる。
 この人に生かされている。
 それは犀星の命そのものであり、逃れられない鎖のようでもあった。穏やかに、胸の中に折り重なっていく想いは、どこか、切なく苦しいのだ。
 わずかに伏せた睫毛が震え、犀星はまた、琥珀の髪を弄んだ。唇を寄せ、香りに浸る。その間も、玲陽は静かに眠り続けた。
 玲陽の眠りは、犀星の安息であった。
 今でも、玲陽は夜中にうなされて目を覚ますことがあった。その度に、犀星も胸が痛んで涙が浮かんだ。
 長く細く息を吐き、犀星はまたさらに目を細めた。手のひらから伝わる玲陽の呼吸と規則的な鼓動が、自分のものと重なってゆく。どちらがどちらに取り込まれているのかわからない、不思議な一体感が身を包んだ。
 自然と犀星の目が玲陽の背をたどる。ちょうど心臓の裏側で、視線が止まった。
 柔らかい綿の墨色の着物の下に、痛々しく刻まれた呪縛の傷。
 それを思い出して、犀星の心臓がぎゅっと縮んだ。
 玲陽は多くを語らないが、古傷は日々痛み、穏やかな眠りすら縁遠いものにしてしまっていた。
 その傷は、玲陽に安息を許さない。
 玲陽を思う時、たとえ一瞬でも長く心安く眠れることを祈らずにはいられない。
 風が、北から柔らかく吹いてきた。冷たくはないその風は、なぜか犀星の肩を震わせた。
 背中に冷水を流されたようで、反射的に身を縮め、玲陽抱きしめた。傷に触れないよういたわりながら、それでも堪えられず、腕が玲陽の体に深く沈んだ。
 小さな呻きと、身じろぎをして、玲陽がそっと目を開いた。
 犀星は、わずかに首をかしげた。
「すまない、起こすつもりはなかった」
 琥珀色の緩んだ瞳が犀星を見上げる。まだ眠りの中にいるのか、視点が定まらず、表情は和らいだままであった。
「星」
 丸い声が犀星を呼ぶ。
 応じて犀星が微笑もうとした時、再び風が吹いた。
 今度は確かに異様な気配があった。黒いものが視界の端を横切った気がして、犀星は素早く顔を上げた。
 中庭は、いつもの通り、淡い色彩の中に畑の緑が際立つだけである。
「気のせいか……」
「どうしたんですか」
「いや……胸が騒いだ」
 犀星の手が、しっかりと玲陽を掴んでいた。それは情ではなく、警戒や不安による力だった。玲陽は息を浅くした。そっと腕を伸ばして、犀星の首の後ろに回した。
 遠くを見ていた犀星の目が、玲陽に戻った。青と金色が絡まり合う。
 鼻先が触れ、暖かい息が混じった。玲陽の唇がわずかに震えた。
 その時、鋭い悲鳴が表から響いた。
 同時に立ち上がると、回廊を駆け抜け、二人は門の外へ飛び出した。
 異変はすぐにわかった。
 屋敷の警備に当たっていた暁隊の隊士が、何人も道に座り込んでいた。中には、抜いた刀を握ったままの者もいる。皆、肩で息をし、うめき声を漏らして、喉や口のあたりを抑えていた。
「何があった!」
 犀星が近くの一人に駆け寄った。血走った目で隊士は犀星を見上げて口を動かしたが、言葉は出なかった。大きく開けられた喉の奥に、ちらりと黒いものが見えて、犀星は顔を歪めた。
「陽、傀儡だ!」
 玲陽の顔から血の気が引いた。
 隊士が、救いを求めるように二人に手を伸ばした。とっさに玲陽を腕にかばい、犀星が体を引いた。
「やります」
 玲陽はためらわず、犀星の腕をくぐり抜けると、隊士と唇を重ねた。両腕でしっかりと隊士の頭を固定し、深く息を吸う。
 傀儡喰らい。
 隊士を救うにはそれしかなかった。
 玲陽の向こうで、ゆらりと他の隊士たちが立ち上がった。
 犀星は素早く割って入り、状況を見た。
 狭い裏路地に三人の隊士が立っている。どの顔にも生きた気配はなく、目は虚ろで、体が不規則に痙攣を繰り返していた。
 かつて犀遠がそうであったように、すでに意思疎通のできない状態であった。力なく開いた口からは言葉ではない音が漏れた。
 犀星の背後で、玲陽が苦しそうに息を乱すのがわかった。
 抱きしめて励ましたいが、今はこの傀儡憑きから玲陽を守ることが先決だった。
「歌仙様、ご無事ですか!」
 表通りの方から二人の隊士が駆け込んできた。仲間たちの様子に戸惑い、状況を飲み込めないままに惑う。
 突然、犀星の脇をすり抜けて、二匹の黒い蛇が、二人の口に飛び込んだ。
「!」
 恐怖の叫びを上げて、二人が地面に膝をついた。
 その間に、三人の傀儡付きが犀星に体を向けた。うち、二人はすでに刀を手にしている。
 犀星は一瞬ためらい、それから大太刀を構えて、腰を落とした。
 傀儡が抜けて脱力した隊士を横たえ、玲陽は犀星の背中を見た。
 傀儡喰らいの苦しみで朦朧としながら、玲陽は己を叱咤した。よろめきながら立ち上がるが、腹に突き刺さる激痛に片膝が崩れた。
「時を稼ぐ」
 犀星の顔に緊張が走り、こめかみを一筋、汗が伝った。
 屋敷は路地の果てにあり、逃げ場はない。
 浄化の苦しみの底から、玲陽が自分を呼ぶ声がした。
「陽、無理をするな……」
 犀星の言葉を待たず、傀儡憑きが一斉に犀星に襲いかかった。
 三本の刀が次々とひらめき、振り回された。
 立ち筋は正確ではないが、傀儡憑き特有の加減を知らない力が容赦なく、刀身に乗って犀星の太刀を打った。勢いを逃し、滑らせ、体を翻す。
 突然の修羅場に、犀星は敏捷に反応した。三人の刀をさばき、玲陽をかばいつつ踏みとどまった。
 複数を一度に相手するには限界があった。暁隊の屈強さは驚異だった。その肉体を操つり、無尽蔵の体力を発揮する傀儡憑きを相手に、長期戦は避けねばならない。
 乱雑な太刀筋に翻弄されながら、犀星は素早く攻撃を交わし、隙をついて強く打って出た。一人の体勢を崩し、その隙に二人をさばく。剣術に体術を交え、牽制して距離を離す。
 剣戟の響きが、路地に溢れる。靴が土を滑り、乾いた音を立てた。土煙が膝下に立ち込め、風が旋風を巻いて視界を曇らせた。
 一撃を、犀星は体勢を低めて全身で受け止めた。体が押され、後ろにずり下がった。そのまま押し返すには、一撃は重過ぎた。横からもう一人が腹を狙った。地面に転がり、寸でのところで避けたが、体が壁に阻まれ逃げ場を失う。
 三人目の刃が、鋭く突き出された。着物が裂け、脇腹に鋭い痛みが走った。体勢を立て直すより早く、次の一撃が降ってきた。隊士が振り下ろした刀が犀星の眉間を狙う。犀星の全身が総立ち、四肢が凍りついた。
 隊士の刀が額を割るより早く、白い影が間に踊り込んだ。
 ひときわ大きな金属音が響き、玲陽が自らの大太刀で極どい一撃を受け切った。
 その隙に、犀星は飛び跳ねるように立ち上がった。
 見れば、駆けつけた隊士二人も既に傀儡に体を支配され、こちらに刃を向けていた。
「五人か」
 犀星はちらりと玲陽を見た。
 額に汗が浮き、頬に垂れている。息が酷く乱れ、呼吸の音がした。まだ、傀儡を浄化しきれていない。
 それでも玲陽のまなざしは強かった。
「全員、喰らいます」
 その言葉に犀星は耳を疑った。
「だめだ、おまえがもたない!」
「助けるにはそれしか……」
 その苦しみを想像して、犀星が険しく顔を歪めた。玲陽は素早く目配せした。
「大丈夫、私には、あなたがいます」
 犀星の顔に、多くの感情が駆け抜けて、最後は静かな覚悟が宿る。鋭く蒼い目が、隊士たちを見回した。
「わかった、突破して、彼らの退路を断つ。町に出られると厄介だ」
「はい」
 乾いた風が土埃を巻き上げた。
 狭い道を塞ぐように、五人の影が立ちはだかっていた。左右は高い木塀に囲まれている。
 刃が初夏の光を受けてまばゆく光る。傀儡憑きたちの瞳は虚ろで、明らかに人の意思はない。
 やるしかない。
 犀星が一歩、前へ出た。蒼い髪が風に舞い、視線は冷ややかに敵の動きを探った。その横で、玲陽が静かに黒衣の裾を払った。金の瞳に光が宿る。
「陽、表を」
「承知」
 短い言葉。それだけで呼吸が合う。
 二人の間に、風が通る。
 五人の隊士が同時に動いた。
 金属の軋む音が路地の空気をつんざいた。玲陽が一歩踏み込み、敵の斬撃を肩越しに受け流した。素早く隊士の腕を掴み、捻るように地へ押し伏せる。
 その動きの間に近づいた二人目の剣を、犀星がひらりとかわした。そのまま数歩壁を走って飛び上がり、柄の底を鎖骨の下に打ち込んだ。無音のまま、敵が崩れ落ちた。
 呼吸がひとつ、ふたつ。
 互いの息づかいだけが、耳の奥に響く。
右二うじ
 玲陽の声が、犀星に届く。犀星は頷かず、ただ足音で応えた。ふたりの動きが重なり、刃と刃の間を、舞うようにすり抜け、互いに背を預けた。
こう
 間を空けずに犀星が指示する。足運びが鏡写しに入れ替わる。玲陽が左へ跳び、犀星が右へ流れる。すれ違う瞬間、風圧が生まれ、衣の裾が擦れ合った。
 二人の動きはまるで一つの生き物だった。敵の剣が空を斬り、勢い余って体勢を崩した。その隙に玲陽が肘でみぞおちを突き、犀星が肩を打って体勢を崩した。
 残る隊士たちが、突進してきた。
 犀星が低く呟く。
跳礎ちょうそ
 玲陽が前へ走り出す。犀星はその背に足をかけ、跳躍した。玲陽はその反動を利用して、身をひねり敵の腕を払った。
 空中で犀星が手を差し伸べていた。玲陽はその手を掴んだ。二人の掌が触れた瞬間、風が弾け、敵の頭上を飛び越えた。
 揃って着地し、振り返る。
 一度は倒れた隊士たちが、よろめきながら立ち上がっていた。犀星は玲陽を守って一歩出た。
 騒ぎに気付いた人々が悲鳴をあげ、それを聞きつけた三番隊が集まってくる。
「彼らを抑えろ! 傷つけるな!」
 犀星の声に、三番隊が傀儡付きに飛びかかった。予想外の力に苦戦しつつも、数の有利を生かして数人がかりで捩じ伏せた。
 玲陽は一番近い隊士に駆け寄った。犀星は帯を解いて袍を脱ぐと、玲陽の顔をそっと隠した。犀星の着物の下で、玲陽は隊士から傀儡を喰らった。白い喉が震え、腹の中に膨れ上がる圧力を感じて、低く呻く。
 傀儡が離れた隊士は一気に力が抜け、気を失った。
 犀星は玲陽を胸に抱き、浄化が済むまで共に耐えた。
 玲陽の消耗は激しく、息も絶え絶えに悶える力すら削られていく。それでも、一人が落ち着くと、すぐに次を飲み込んだ。その度に、場の混乱は次第に鎮まっていった。犀星の配慮に守られて、玲陽は最も見られたくない姿を知られることなく、密やかに、そして壮絶に、悪意を飲み込み続けた。
 遠巻きに様子を見ていた人々をかき分けて、蓮章が姿を見せた。その時、玲陽は最後の一人を傀儡から解放し、犀星の襟にしがみついて震えていた。
「何が……」
 と、言いかけて、蓮章は黙った。
 ただじっと、犀星を見下ろす。
 玲陽を抱きしめ、犀星は静かに泣いていた。

 意識をなくした玲陽を抱き、犀星は寝室の板戸を静かに閉めた。
「せめて、止血くらいしろ」
 蓮章は扉の合わせ目に声をかけた。中から返事が返ってくることはなかった。犀星は自分の傷さえ放置して、玲陽だけを見ていた。
 回廊に追い出された蓮章は、不満顔で戸の前に立ち、中庭へ目を向けた。
 ここからは、犀星の寝室に向かう道が一望できた。
 誰も通すな、と言われた以上、それは絶対である。日頃の素行がどうであれ、ひとたびそれが命令となれば、蓮章は迷いなく忠義に従った。
 中庭と渡り廊下へ目を向け、黙り込む。
 暁隊の警備中の不手際は、三番隊を始め、左派にとって格好の笑いの種だ。だがそれよりも、玲陽の疲弊と、鬼気迫る犀星の様子の方が何倍も気になった。医者は呼ばなくていい、と犀星は言った。玲陽に関わることである。犀星が甘い判断をするとも思われず、蓮章は余計な勧めはしなかった。だが同時に、万が一に備えて、安寿の元に知らせを送っていた。
 歌仙親王と玲陽が、何らかの争いに巻き込まれ、危機を脱するために戦いを余儀なくされた。そしてあろうことか、二人を襲ったのは警備に当たっていた暁隊士であり、当時、彼らは自我を喪失していた。
 犀星と玲陽は危機を脱したが、犀星には刃による負傷があり、玲陽は原因不明の昏睡状態である。
 意識を取り戻した隊士は、傷はないものの直前の記憶が欠落し、酷く混乱していた。守るべき犀星に刃を向けたことは、涼景からの信頼を糧に生きる隊士にとって、あまりに大きな落胆だった。涼景は親王宅を蓮章に預け、暁番屋に向かった。傷ついた彼らの心を支えられるのは、涼景を置いて他にいなかった。
 周囲に集まっていた人々も混乱して、状況を説明できる者はいなかった。
 そんな不透明な現状において、蓮章がやらねばならないことは、明白だった。
 戸を開けないこと。
 それだけだ。
 犀星は腹に傷を負っていた。幸い致命傷ではないが、戦闘の最中、庇いもせずに動いたため、着物には広く出血が沁みていた。
 玲陽に外傷は見られなかった。ただ、強い毒に侵されたように、体を痙攣させ、呻き、意識が薄れていた。蓮章が駆けつけた時は、犀星にしがみつく力が残されていたものの、すぐにそれも尽き果て、呼吸すら途切れるのがそばで見ていてもはっきりとわかった。
 玲陽のことは俺に任せて、誰も近づけるな。
 それだけをきつく命じて、犀星は寝室に引きこもったのだった。
 静かに立つ蓮章の耳が、ぴくりと震えた。
 板の戸は分厚く、音を遮断する。それでも時折、息遣いと木が軋む音が聞こえた。殺しきれない乱れた呼吸と呻きが、幾度となく伝わってきた。
 そんなはずはないだろう、と思いながら、その声の中に混じる色気を感じて、蓮章は首を振った。
 俺はどうかしている。今は陽の命を助けることが第一のはず。まさか……
 左右異色の瞳が昼の明かりの中で揺れた。
 太陽が頭上を過ぎ傾き始めても、何も手を打てず、しかしこの場を動くこともできなかった。
 傷ついた玲陽は、犀星に預けることが最善だとわかっていても、ぼんやり立っているだけというのは、蓮章の性分に合わなかった。無意識に庭の中を視線が彷徨った。蝉の声がまた、聞こえ始めた。
 門の方で騒がしい声が上がった。蓮章は顔を向けた。
 姿を見る前から、誰が来たかの想像は容易だった。声が若く、足音が慌ただしい。
 すぐに、回廊を走って玲凛と東雨が姿を見せた。蓮章は板戸にもたれていた体を起こすと、二人の進路に立った。
「蓮章様!」
 東雨が疲れた顔で息を切らして、蓮章を見上げた。服は濡れて、川にでも落ちたようである。
「東雨、どうした、その格好」
「いろいろあったので」
 東雨は呼吸を整えた。玲凛がたまらない、という顔で首を伸ばした。
「陽兄様が倒れたって、街の人が……兄様たちは、寝室ですか?」
 蓮章はちら、と板戸を見て、
「ああ、開けるな、と親王の命令だ」
 玲凛が睨む。疲れているのか、その視線には遠慮も労わりもない。露骨な不満が突き刺さる。
「蓮章様、また、役立たずだったんですか?」
 玲凛の一言は鋭い。
「すまない。ここへ来た時には、もう、全部終わっていた」
「陽兄様……」
 玲凛が東雨を押しのけ、早足に板戸に手を伸ばした。
「待て、凛!」
 蓮章が、慌てて立ち塞がった。
「開けるなと言ってるだろ。二人とも、無事だ」
 おそらく。
 蓮章は全てを言わず、期待にすがった。
「今、親王が介抱をしている。心配ない、任せておけばいい」
「陽兄様、怪我したんですか?」
「いや、疲れただけだろう。怪我をしたのは親王の方だ」
「若様がお怪我を?」
 飛び込んできた東雨を、蓮章は押し返した。
「深手じゃない。止血をすれば問題ない」
「どうしてこんなことになってるのよ?」
「それは俺が聞きたい」
 蓮章はすり抜けようとする玲凛の袖を鷲掴んだ。
「若様! ご無事ですか!」
 反対の手で、東雨の帯を引いた。
「静かにしろ、休ませてやれ」
 回廊に、三人の大声、もみ合う衣擦れと足音がせわしなく響いた。
 それでも板戸の奥は、重たい静寂だけで満たされていた。
 蓮章は全力で二人を下がらせると、とりあえず回廊の隅に座らせ、自分は板戸の前に戻った。どっと疲れが出た。
「悪いが、誰も通すな、と言われている」
 蓮章は息を整えて首を振った。
「陽兄様に何かあったら、許さないから」
 玲凛は悔しげに蓮章を睨んだ。東雨が不安そうに、
「若様なら、きっと、最善の方法を選んでくれるはずだけど」
「それはわかってるけど……」
 玲凛は唇を噛んだ。犀星を信用していないわけではないが、玲陽に関することとなれば、やはり心配でならない。
「そうだ」
 東雨が、思い出したように口を開いた。
「蓮章様、ここに、黒い蛇が来ませんでしたか?」
「黒い蛇?」
 蓮章は首をかしげて、庭の草の間や畑の畝を見た。
「いや、見かけていないが」
「動物の蛇じゃありません」
 東雨は首を振って、
「空中を浮かんで移動する、怪物です」
「あ」
 蓮章は息を呑んだ。自然と、玲凛の顔を見た。
「凛、それは、前に花街で見たやつか?」
 玲凛は頷いた。
「伍江の上流で大量発生したの。それが、陽兄様の印に引き寄せられて、この辺りまで来た可能性がある。近くで、傀儡に取り憑かれた人……自我をなくして、大暴れした人はいなかった?」
「そういうことか」
 蓮章の脳内で、すべてがつながった。
「ここの警備に当たっていた暁隊士が六名、突然、豹変した。親王と陽はそれを沈めて……」
「つまり、傀儡喰らいをしたと……?」
 玲凛が顔を歪め、東雨も肩を抱いた。
「六人、全部?」
「ああ、犠牲者はいない。皆、意識を取り戻している」
 玲凛がぐしゃり、と着物を握った。
 六体分の傀儡喰らい。計り知れない玲陽の消耗と、それを補う犀星の献身。
 誰に知られることもなく、儀式のように戸の向こうで粛々と続く痛み。
「自殺行為よ、そんなの」
「え……」
 東雨が怯えた目を玲凛に向けた。
「陽兄様はもちろんだけど、星兄様の負担も相当……」
「若様が危ないのか!」
 東雨が跳ね上がる。
「ダメよ、今は任せるしかないんだから」
「でも……」
「私たちにできることは何もない」
 強く握った玲凛の指が白く震えていた。
 東雨は深く呼吸を繰り返した。蓮章は目を細めた。
「待つしか、ないの」
 そうは言ったものの、玲凛にはいつもの勢いがない。ゆっくりと、東雨は座り直した。
 玲凛の視線がそれを追った。
 蓮章を責めるより前に、自分の無力を認めなばならない。
 亀池の混乱が蘇った。理解不能の状況下であったとは言え、東雨を守りきれなかったことは事実である。さらに、取り逃がした傀儡が玲陽を傷つけた。癒すことさえ、犀星に頼るしかない。全てが、玲凛には許せなかった。
 無力が、悔しくてならない。
「あんた、ほんとに大丈夫なの」
 玲凛は恐る恐る、東雨に尋ねた。
 東雨は足をぶらつかせながら、上目遣いに玲凛を見上げた。
「何が?」
「ほら、黒い蛇、何匹も……」
「思い出させるなよ」
 東雨は顔をしかめた。
「あの時は怖かったし苦しかったけど、もう、平気」
「平気って……」
 玲凛は視線を足元に落としながら、考え込んだ。理解を超えることが多すぎた。
 東雨は顔を上げた。
「俺のことより、陽様の方が……」
「陽兄様は、大丈夫」
 玲凛は自分に言い聞かせるように、
「星兄様が、ちゃんとやってくれると思うから……」
 犀星が何をしているのか、玲凛には想像がついた。だが、それを東雨に話す気にはならない。
「よくわからないけれど、大変なんだろ?」
 東雨が、眼差しを板戸へ向けた。
「大丈夫よ。だって星兄様は……あんたの若様は強いんでしょ。だったら心配ない」
 東雨は首を横に振った。
「若様は強いけど……弱いよ」
 それだけ言って口を閉じる。その様子は、犀星を心配こそすれ、自分の体の辛さは感じさせない。
 東雨は数体の傀儡を飲み込んだ。通常ならば一体で気がふれる。精神が支配され、体の自由を失う。そして恐怖に翻弄されるように周囲を傷つける。それが、こうして平気な様子を見せるのが、玲凛には解せなかった。
 さらに、あれだけ広範囲に傀儡や巨大な塊が発生した理由、それが消えたわけも、わからないままだった。
 陽兄様に聞いてみようか。
 玲凛は顔を上げた。蓮章の背中の向こうで、戸はしっかりと閉まったまま静かにしていた。
 太陽がゆっくりと巡っていった。流れる雲も蝉の音もいつもと変わらず、犀星の屋敷だけ、息苦しい世界に閉じ込められていた。
 表の方で声がした。
 蓮章がいち早くそれに気づき、目を向けた。案内する暁隊に、低く答える声がした。角を曲がって現れたのは、場違いなほどの風格を湛えた左近衛隊長だった。
「何事です?」
 蓮章は思わず、姿勢を正した。備拓の訪問は異例極まりない。
 東雨はまだ湿った襟を正して立ち上がった。対照的に、玲凛は親類でも迎えるようにくつろいでいる。備拓は足を止め、腰から深く礼をした。
「突然にすまぬ。礼を失するとは承知しているが、どうしても様子を伺いたく」
 顔を上げると、すぐに東雨たちに向く。
「そなたら、無事であったか」
「はい」
 東雨はしっかりと頭を下げた。それから、泣きそうな顔でおずおずと、
「あの、夕泉様は……」
「ご無事で奏鳴宮へお戻りになられた。こたびのこと、そなたらには大変世話になったと仰せだ」
 東雨は緊張して、しっかりと膝を閉じ、手を揃えた。
「申し訳ありませんでした!」
 東雨から、思わず、大きな声が出た。
「夕泉様に、失礼な態度をとってしまって……」
 備拓は首を振った。
「そのことで歌仙様にお話ししたく、こうして参ったのだ」
 東雨は涙をぐっと堪えた。
 臣下の失態は、主の責任である。ただでさえ犀星は辛い状況に置かれているというのに、自分のためにさらに負担をかけるのかと、身が縮んだ。
「歌仙様はどちらに?」
 備拓は蓮章を振り返った。
「それが……」
 蓮章は板戸を目で示した。
 閉じられたまま、奥は静まっている。
「こちらもいろいろあって、決して開けるな、とのこと」
「そうであったか」
 備拓は板戸の側に進み出た。蓮章はそっと脇によけた。
 備拓は丁重に頭を下げた。
「玲親王殿下。左近衛隊長・備拓にございます」
 厳かに呼びかける。蓮章の鋭い耳が、戸の奥でかすかに蠢く音をとらえた。素早く着物を着付け、帯を締める気配がした。
 備拓は姿勢を崩さず、
「順を踏まず、お目通り願いました非礼をお詫び申し上げます。殿下にお伝えしたきことがあり、急ぎ参上いたしましてございます」
 かたり、と小さく戸が揺れた。内側から細く開き、白い中衣をまとっただけの犀星が現れた。
 襟元はゆるく、髪は撫でつけた跡があったがほどかれたまま、乱れていた。裾もしっかりと重なっていない。白い素足が目を引いた。夕方に近い日の光に、体の線がぼんやりと光るように浮き出してた。何より、その表情があまりにも妖しすぎた。
 蓮章はかすかに顔をこわばらせた。東雨の頬に朱が差し込んだ。玲凛は犀星よりも、部屋の中の玲陽を探って伸び上がった。その視線を遮るように、犀星は後ろ手に戸を閉めた。
 備拓は思わず一瞬、目を上げ、すぐに戸惑いも露わに顔を伏せた。
 犀星の息はまだわずかに落ち着きがなく、目は遠くを向いて視点が定まらず、青の瞳が潤んでいた。肌にはうっすらと汗の気配がある。黙って回廊の柱に手をつき、そっと身を持たせかけた。
 立っているだけで辛い。
 一目で限界を超えていることが、誰の目にも明らかだった。
 玲凛が唇を噛む。
 東雨が今にも駆け寄りたいと言う顔で、じっと我慢した。
 蓮章は意識しながらも、目をそらした。
 備拓は誰より、狼狽えた。
 見てはならないものを見た。
 堅物の備拓にも、それはわかった。
 だが、同時に現実感がない。
 まだ日も高い時刻である。
 何をなさっていた?
 答えは容易に想像がつくのに、理解はしがたかった。
 以前にも似たような思いをしたことがあった。
 備拓が視線を逸らした先に、蓮章のどこか儚げな横顔があった。
 五亨庵界隈の規範は、一体どうなっているのだ。
 厳格な武官育ちの備拓には、想像もつかない世界だった。
 一瞬、法廷での夏史の言葉が蘇った。
 規律の乱れ。
 あやつが言った事は、真実やもしれん。
 そんな考えが脳裏を掠めた。
「備拓」
 気だるい吐息とともに、犀星が呼んだ。それだけで、背中を撫でらたような感覚が備拓を襲った。あってはならぬこと、と思いながらも、背徳的な欲を掻き立てる罪深い声だった。
「このような姿で済まぬ」
 犀星は目を細めた。
「話とは?」
 短い言葉にも、喉が掠れているのがはっきりとわかった。備拓は勤めて感情を殺した。視線が床の板目を意味もなく行き来した。
「……本日、夕親王殿下が玄武池をご訪問なさいました。その際、怪奇なる現象あり、玲姫様、近侍殿、に救われてございます」
 犀星は備拓の向こうに、視線を投げかけた。しかし、いまだ定まらず、どこまで見えているのかわからない頼りなさだった。備拓は精一杯に平生を装いながら、
「我が力が至らぬばかりに、お二人にご負担をかけてしまったこと、また、身を挺して我が主人あるじをお守りくださったことに対し、謹んでお礼を申し上げたく、参上した次第」
 東雨は備拓の言葉を聞きながら、玲凛と目を合わせた。
 東雨のした事は、備拓にとっていたく感動することであり、感謝すべきことであった。
 犀星の唇が優しい笑みを浮かべた。玲凛も東雨も、見逃さなかった。
 陽兄様、無事だ!
 玲凛は犀星の笑みを、そう受け取った。
 若様が喜んでくれた。
 東雨は、その日一日で起きたすべての恐ろしいことが吹き飛んだ。
 犀星は長く息を吐いた。
「兄上のお役に立てたことを嬉しく思う。知らせに感謝申し上げる」
 犀星の声があまりに艶めいて、備拓はいたたまれず、後じさった。
「玲親王殿下におかれましては、大変にお疲れなご様子……」
 一刻も早く、この場を去りたい。
 備拓は言葉を選びながら続けた。
「これにて、失礼仕ります」
 もう、無理だ。
 更に頭を下げてから、ちらりと蓮章に目を向けた。
 蓮章がこくりと頷いた。
 それを合図に、備拓は逃げるように回廊を走り去った。その背中は、訪れた時とは別人のように小さかった。
「若様!」
 待ちかねていた東雨が駆け寄り、涙まじりに犀星を見上げた。
「大きい声を出すな、いろいろと響く……」
 真っ青になって力尽き、犀星は回廊に座り込んだ。もう、立っていることもできなかった。
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