新月の光

恵あかり

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外伝 玲(不定期連載)

狂戯を喰む

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【本編との接続】
本編の十年前の物語。
『第一部「星誕」』後、『第二部「紅葉」』前がおすすめです。

★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
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​ 都へ入ってふた月が過ぎようとしていた。
 馴れない宮中の習慣の中で過ごす息詰まる毎日に、犀星はすっかり疲れ果て、屋敷に戻ると、身支度もそこそこに、牀に倒れ込んだ。
 歌仙を自由に駆けまわっていた十五歳の少年に、国が求めた格式はあまりに重たい束縛だった。
 立ち居振る舞い、言葉遣い、目線の使い方、身分の差による対応、食習慣、そして膨大な竹簡の山。学ぶべき知識は途方もなかった。
 故郷で父から教えられた訓戒は、あらゆる場面で犀星の感情を揺さぶった。信じる価値観を否定され、その度に胸が激しく波だった。
 初めのうちは、感情的な行動を抑えることができなかった。露骨に態度に出てしまい、周囲をひやひやさせた。だが、たとえどれほど反発しようとも、三百年の慣習を覆す力はない。争えば争うほどに、生きづらさが身に染みた。
 何より理不尽を感じたこと、それは、自分が礼を失すると、自分の周囲の者が責められるという事実だ。
 しだいと、犀星は表情を強張らせ、表に出さなくなった。
 感情が消えることはない。だが、見せなければよい。
 ただそれだけのこと。
 犀星は心を閉ざし、表面上はおとなしく例にならった。決して容易なことではなかったが、犀星の、現実に立ち向かおうとする意志は固かった。
 必ずや、都で権力と地位を手に入れ、何に脅かされることもない自分となる。そして、故郷に置き去りにしてしまった、たったひとりの大切な人を呼び寄せる。
 それだけが犀星の願いであり、誓いだった。
 その姿を、誰よりも近くで見ていたのは、八歳になったばかりの東雨である。
 宝順帝に見込まれ、犀星の侍童として、そのそばで世話を焼いた。
 幼いながら、東雨は主人の身のまわりのことを器用にこなした。物覚えが早く、機転も効く。明るく素直でまっすぐな気性は、人嫌いの犀星の心さえ静かになぐさめた。
 東雨は年齢に似合わず、物事をよく知る子どもであった。
 犀星の頑固で融通が効かない気質をすぐに見抜き、それに合わせて先回りし、事前に周囲の不満を遠ざけた。着るものひとつ、歩く道ひとつ、東雨がさりげなく手を貸し、目配せした。それもあって、周りの犀星を見る目は徐々に変わっていった。
 目前に迫った、親王戴冠式の対外的な準備も、東雨の仕事だった。頻繁な打ち合わせには必ず出席し、犀星の隣で行儀良く聞いた。そして、屋敷に戻るとすぐに手筈を整えた。何かを言われる前に自分から動く。その行動力は、無言の優しさのように、犀星を包み込んだ。
​「おまえが親王になればいい」
 犀星が半ば以上本気で言ったほど、見事な働きぶりだった。
 犀星の役に立てることが、幼い東雨には心底嬉しい。自然と笑顔が増えていった。

 戴冠式を翌日に控えた夕刻。
「若様、おやすみ前のお茶をお持ちしました」
 東雨は、すでに寝支度を整えた犀星の部屋を訪ねた。
 西陽が長く部屋の奥まで差し込み、室内を柔らかく照らし出していた。
 几案の隅には油灯の皿が置かれていたが、油を節約するため、灯されることはまれである。大抵は、日が暮れるのに合わせて寝てしまうのが、この家のやり方だ。
 板張りの床に薄い毛氈を敷き、犀星は几案の前に座っていた。色づいた陽の光が、犀星の白い夜着を優しく染め、ゆるく解いた髪が頬に流れるさまに、東雨は見惚れた。
 宮中で侍童となるべく育てられた東雨は、華やかな着物も美しい女性も見慣れていたが、犀星の姿は格別に思われた。
 俺の、若様だ。
 東雨は、にんまりとした。
 自分が仕える相手を、自分で選ぶことはできない。
 偶然と幸運に感謝する。
 犀星の性格はかなり偏っており、苦労させられることが多いのも事実である。それでも、時折見せる不器用な優しさ、物思いに耽る時の寂しげな横顔は、東雨の胸を甘く締め付けた。
 東雨は音を立てずに、犀星の膝の横に茶器の盆を置いた。そっと、その手元を覗く。自分より大きく長い指が美しく小筆をつまみ、整えられた毛先がしなやかに木簡の上を滑る。
「今日も、文ですか? 毎日よく続きますね」
 その口調は、感心ではなく、呆れを含んでいた。侍童の主人に対する態度ではない。丁寧ではあるが、すっかり打ち解けて遠慮が消えていた。
 この二ヶ月の間にもっとも変わったのは、二人の距離かもしれない。
 都の市中にある涼景の屋敷を仮住まいとし、他に使用人を置かない犀星のために、東雨は全てのことをやらなければならなかった。
 食事の準備から掃除、洗濯や縫い物、風呂の用意に薪割りまで、犀星は自分でやって見せ、東雨は必要に迫られて、それを覚えた。これらは当然、本来の侍童の仕事ではなかった。
 反対に、式服の着付けや髪の結い方、宮中での礼儀作法や不文律については、東雨が犀星を補佐した。
 侍童とは、生活力がないんだな。
 若様は、俺がいないと何もできないんだから。
 お互いにそんな感想をいだきながら、それでも徐々に距離は縮んだ。
 出会ってすぐの頃は、東雨が一方的に話しかけるばかりだった。今では、犀星の方から他愛のない話を切り出すこともある。
 東雨も、そんな犀星の変化を気に入っていた。
 その彼が、唯一、賛同しないのが、犀星の日課である文だ。
「毎日毎日、何をそんなに書くことがあるんですか?」
 腰に手をあてて、東雨は大人ぶった。
「お疲れなのだから、早く寝ればいいのに……」
「書くことは山ほどある」
 筆を止めることなく、犀星は答えた。
「今日は、都で初めて兎を見た。故郷くにでは、兎は食糧だが、ここでは愛玩用らしいな」
「高貴な方達は、食べたりしません」
「おまえも?」
「食べたことはありません……」
「今度、獲ってやる。兎なら小刀があればさばける」
「さばくとか、そういう問題じゃないです」
「では、なんだ?」
「高貴なご身分の方が、わざわざ召し上がる習慣はないのです」
「食べるに困らないから言えることだな」
 思わず、東雨が言葉に詰まる。困惑した気配を察して、犀星は顔を上げた。
「すまない。お前を責めているわけじゃない。……兎だけでも、これだけ話題になる」
「はぁ……」
「俺が今、どんな場所にいるのか、周りに何があって、何がないのか、何を見て、何を感じたのか、それを書き記している」
 遠くを見る犀星の横顔を、夕日が照らしだす。
 息が止まるほどに綺麗だ。
 東雨は木札を見た。
 冷たい印象とは違和感のある、少し丸みを帯びた筆跡。
 東雨は、宛名にある『陽』という名を勘ぐった。
 一緒に育ったいとこだと聞かされているが、これほど思いを寄せるところを見ると、それだけの相手とは思われなかった。
 文は、数日分を綴って、東雨が投函することになっている。
「そんな細かなことまで、逐一報告する必要があるんですか?」
「わずかでも、その積み重ねが絆を強くする」
「絆って……返事、一度も来ないじゃないですか」
 一瞬、犀星が目元を乱した。動揺より、落胆に近い。
「若様は、こうして毎日書いているのに、お相手からの返事は、一度もありません。そんなの、不公平です」
 犀星は自分の署名をゆっくりと書き付けながら、
「返事が欲しくて書く訳ではない。読んでくれたら、それでいい」
 一途な犀星の思いは、なぜか東雨の心に暗い影を投げかけた。
「……読んでいないかもしれませんよ」
 びくっと、犀星の筆が震えた。
 しまった、と、東雨が怖気づく。
「……ごめんなさい。若様のご家族に、失礼なことを言いました」
 犀星はじっと東雨を見た。その眼差しはどこか悲しげだった。
「その手紙のお相手……」
 犀星の顔色が変わったのを、東雨は見逃さない。
「いとこ、ですよね?」
「ああ……」
 犀星は茶器を手にすると、中身を一気に飲み干し、むせ返った。
 あれ?
「もしかして、嘘ですか?」
 八歳を迎えたばかりの東雨から見れば、犀星は十分に大人である。その事情に触れたことが、嬉しく切ない思いになる。
「嘘じゃない」
 頬を赤らめて否定する犀星が面白く、東雨は懲りずに冷やかした。
「本当に? どんなに疲れていても、手紙を書いている時だけは、若様は優しい顔になりますよ」
「…………」
「気づいてなかったんですか?」
「そんなこと……」
「鏡をお持ちしましょうか?」
 冷静さを欠いて言い訳をする主人を、にやにやしながら東雨が眺めていると、
「随分楽しそうだな」
 突然、背後から声がした。
 二人が振り返れば、中庭を突っ切って、涼景がこちらに歩いてきた。
 犀星は露骨に顔をしかめた。
「おまえ、畑を、踏みつけたな?」
「畑?」
 涼景は回廊に腰掛け、くつろいだように片足を乗せる。
「今日の午後、種を蒔いたばかりだった」
 犀星は悔しげに顔をそらした。涼景が首を傾げた。
「東雨、お前の主人は何を言っているんだ?」
 東雨は苦笑した。
「中庭に、畑を作ったんですよ」
「はぁ?」
 今きた方を振り返ると、確かに中庭の一部に黒々と土が盛り上げられ、畝のように見えた。
 もともと、荒れたままにしておいた別宅である。気にすることもなく、自分はその上を歩いたらしい。
 簡単には動じない暁将軍が、情けない顔を見せた。
 東雨は声を立てて笑った。
「俺も驚いたんですけど……少しでも自給自足できるように、と、蕪と青菜の種を。成長が早いので、冬前に収穫できるそうで……」
 涼景の眉が、ピクピクと動く。
「……事情はわかったが、質問がある」
「はい」
 機嫌を損ねている犀星に代わり、東雨が答える。
「どうして、親王が自給自足する必要がある?」
「俺も、それは訊いたんですけど……『親王といえども人間だ』と」
「はぁ?」
 涼景の困惑は深まるばかりだった。
 犀星が贅沢を好まず、質素な生活を旨とすることを知ってはいたが、時折、いきすぎているように思われてならない。
 犀星は横目で涼景を睨んだ。
「人の畑を踏み荒らして……しかも、こんな遅い時間に……」
「もともと、ここは俺の屋敷だ。勝手に庭を掘り返すな。しかも、まだ、宵の口だろ」
 犀星と涼景がどんなに言い合っても、喧嘩になることはない。東雨は心配はしなかった。問題なのは、機嫌を損ねた犀星への対処である。状況が悪化する前に、涼景にはお帰りを願いたかった。
 東雨はにっこりとして、
「すみません、涼景様。若様はお疲れなので、早めにお休みになりますから……」
「ああ、そうか、子どもは早く寝なくてはな」
 自分より口の達者な涼景を相手に、元々話すことが得意ではない犀星は、不貞腐れて牀に寝転んだ。
 涼景はやれやれ、と首を振った。
「大事な話があったんだが……」
 東雨の希望とは裏腹に、涼景は無遠慮に部屋に上がってきた。犀星の牀の端に腰掛ける。首を傾けて、犀星は涼景を仰いだ。その仕草には年齢に不相応の色気がある。
 こいつ、末恐ろしいな。
 涼景は男女問わず無自覚に魅了する犀星の将来を、本気で心配していた。
「……さっさと話せ」
「ん? 話、聞いてくれるのか?」
「お前は理屈の通らないことはしない」
「褒めてもらえて嬉しいぞ」
 軽い調子を装いはしたが、涼景は内心、犀星の落ち着きに安堵する。
 普段は口数が少なく、考えの読めない犀星だが、かなりのことを見通していると、涼景は見抜いている。
「明日の戴冠式のことで、気持ちがわずらわしい。手短に」
「その戴冠式についての話」
 涼景の声色が変わった。犀星は肘をついて半身を起こした。
 あたりは夕暮れ遅く、すでに視界は暗く沈みつつあった。薄暮の弱い光のもと、犀星の髪がはらり、と揺れた。
「何がある? 毒殺か?」
「その方がましかもな」
 薄い夜着の襟元から覗く犀星の白い肌に、残光が妖しい色を落とした。宝順までが夢中になる犀星の蒼玉の瞳が、惜しげもなく自分ひとりに向けられる。
 涼景は軽く唇を舐めた。
「まどろっこしい言い方はなしだ。言葉を選ばないぞ」
「遠慮などいらない」
「よし」
 涼景は黙って、犀星の体を牀に押し沈めた。
 まるで、これから手篭めにしようかという距離に体を落とす。
 突然のことに、東雨は両手で顔を覆った。身分が上の相手のすることだから、と、止めることはできない。第一、犀星に抵抗する素ぶりないのだから、自分が出て行くのは逆に失礼にあたる。
 巷では、犀星と涼景が情を通じる仲だとの噂が流れている。
 根拠のない邪推にすぎなかった。今の今までは、だ。
 このふたりって……
 東雨は指の間から、そっと牀の上を見つめた。
 精悍な涼景と、眉目麗しい犀星の睦みあいが見られるのかと思うと、幼いながら、知識豊富な東雨は、ドキドキと胸が弾んだ。
 邪魔をしたら、追い出されてしまうかもしれない。
 東雨は二人の視界から逃れ、けれど、しっかりと様子が見える場所まで、そっと下がった。
 涼景は更に声を低めた。まるで睦言のようにささやく。
「明日、お前は正式に第四親王として冠を受ける。式典も、その後の宴も、問題はない」
「では?」
「重要なのは、さらに、後だ」
 犀星は、間近に迫る涼景の顔を、臆することもなく見つめている。その距離の近さなど、何の問題もない、という様子だった。
 むしろ、涼景の方が喉を震わせた。
「皇帝がお前を連れ出すよう、命令を出した」
「何のために?」
 涼景は大きく息を吸ってから、
「おまえの衣服をはぎ、体を晒し、男に犯させる」
 思わず、東雨が体をこわばらせた。犀星は静かに、
「親王としての品格も権威も失墜させ、自尊心を砕き、逆らう意志を捨てさせるために?」
「察しが良くて助かる」
「俺が謀反を起こすとでも?」
「それもあるだろうが、おまえに限ったことではない。悪しき慣習、下卑た趣向。力量のある者たちは、皆、そうやって牙を折られてきた」
「場合によっては、自害を選ぶか」
「事実、何人も死んでいる」
「戴冠式だか、葬式だか、わからないな」
「冗談を言っている場合じゃない。星、明日の今頃、お前は辱めを受けているんだぞ」
「それで、俺にどうしろと?」
 静かに、しかし、どこか凄みのある声で、犀星は涼景を真っ直ぐに見つめた。その眼差しには、生き抜く強さと曲げることのない意志が色濃く現れている。
 動じるか、と思った涼景は、冷静な犀星の反応に戸惑った。
「皇帝は、おまえに選ばせるはずだ」
「自分を犯す相手を?」
 さらりと言って退けた犀星の口元に、感情はなかった。
「ずいぶんな趣味だな」
 涼景は、犀星の鋭い雰囲気に、背中が凍りつく感覚を覚えた。
 何度も死線をくぐり抜けてきた涼景ですら、犀星が時折見せる底知れぬ闇に何が潜んでいるのか、読み取ることはできなかった。
 涼景は口付けるほどに近く、顔を寄せた。東雨が柱の陰で息を飲む。犀星はいたって真顔だ。
「星、俺を選べ」
 涼景の息が、犀星の唇を撫でる。
「お前を?」
 涼景は犀星がこばまないことを確かめるように、さらに詰め寄った。
「俺のものになれば、他の連中は今後、お前に手出しはできない」
「暁将軍様のお手つきなら、俺の身は安泰、というわけか」
「言っておくが……」
 涼景は、乱れかけた呼吸を継いだ。
「あくまで、おまえの傷を浅く済ませるための苦肉の策だ。それ以上は期待するな」
「生き残るための芝居か」
 涼景に反して、犀星の声は穏やかだ。
「星、この話、乗るか?」
「ひとつ、教えてくれ」
 犀星は涼景から不意に顔を逸らした。かすかに、涼景の唇が犀星の頬をかすめて震えた。
「涼景。どうしておまえ、そこまでして俺を助けようとする?」
 本当に信じていいのか?
「宮中では誰も信じるな。そう俺に言ったのはおまえだ。今とて……」
 犀星は、視線だけを涼景に送った。
「もてあそぶだけだと、誤解されても仕方ないぞ」
 伏せ目がちな青い瞳は、無自覚に扇動的である。
 涼景の目が震え、のしかかった四肢がぎゅっと犀星の身体を締める。
「……まずい」
 正直に、つぶやき、涼景は力を絞って体を起こすと、犀星を解放した。
 東雨は、がっかりしたようにため息をついていた。年齢よりもませて、好奇心の強い少年である。
 涼景は改めて牀に腰掛けた。あえて、少し距離をとる。犀星はゆっくりと体を横に向けた。東雨はつまらなそうに柱にもたれた。
「さすがに、来るな……」
 口元に手をやり、涼景はかすかに言った。頬がわずかに赤く、落ち着きがない。真意に気づいているのかわからない顔で、犀星は涼景を見た。
 どれほど賢く、聡明であろうと、犀星はまだ、宮中の醜さに翻弄される弱い存在である。それは誰よりも、犀星自身が知っていた。
「なぁ、星」
 少しかすれた声で、涼景は目を合わせることなく、
「この際、聞いておくが?」
「うん?」
「おまえ……女を抱いたことはあるか?」
 ビクッとしたのは、犀星よりも東雨である。犀星は静かに首を横に振った。
「それじゃ……」
 言いづらそうな涼景に代わり、犀星がスラスラと答える。
「女を抱いたことも、抱かれたことも、男を抱いたことも抱かれたこともない」
 そうだったのか!
 期せずして、涼景と東雨は、犀星を振り返り、凝視した。
 年は若くとも、犀星ほどの美貌があれば、遊びであろうと浮いた話の一つ二つあってもおかしくないところである。
「それから」
 と、犀星は少し目を細めて、涼景を見上げた。
「口付けたら、殺す」
「……そんな顔してなかったぞ」
 ついに、涼景と東雨は頭を抱えた。
「星、おまえ、今までどうやって生きてきた?」
「普通に」
「普通じゃねぇ!」
 直前までの緊張がぶっつりと切れて、涼景は肩を落とした。
「……とにかく、明日の事情はわかったな?」
「どうしても誰かを選べと言われたら、おまえを選べばいいんだろ?」
「……俺で、我慢してくれ。おまえの父、犀侶香様には返しきれない恩義がある。まさか、他の奴らに手をかけさせるわけにはいかないんだ」
「仕方ないな」
「心配するな、本気にはならないから」
「…………」
 当然、当たり前だ、と返ってくると踏んでいた涼景は、何か言いたげな犀星の沈黙に、硬直した。
 犀星の無表情からは、何も読み取ることはできない。
 ただ、じっと涼景を正面から見つめるだけだ。
 まさか……星、おまえ……?
 思わず、自分に都合の良い展開を期待している自分に焦る。
「わかったから、帰れ」
 そう言うと、犀星はそれきり黙り、牀に潜り込んだ。
 食いつきかけた餌を逃した顔で、涼景はわずかに背中を丸めた。

 翌日、涼景は近衛の小隊をともなって、犀星を迎えにきた。
 夜通し降り続いた雨が空気を清め、いつもより眩しく思われる太陽が差し込む早朝。犀星は華やかな正装を身にまとい、東雨と共に宮中へ向かった。
 涼景から借り受けている市中の邸宅から、大路を通って朱雀門へ。
 馬上にある美しい親王は、儀式鎧姿で護衛する涼景ともども、民衆の視線を一身に集めていた。
 宮廷人たちには無愛想この上ない犀星だが、都の人々に対しては、少々の笑みを見せる。
 これは、彼の養父、犀遠の影響らしかった。
 警戒心の強い都の民は、少し遠巻きに犀星を眺め、ささやきあう。
 正装の親王を、間近に見ることは珍しい。
 宮中の隔離された場所で行われる特別な式典の数々は、民にとっては遠い存在だった。
都の民にとって、宮中と自分たちとの世界は一線を画している。すぐそばにありながら、別の世界である。
 だが、犀星は今までの貴人たちとは明らかに違う。自分たちと同じ道を歩き、同じ風の中に暮らしている。その距離の近さは、親しみと好奇心、かすかな期待を与えた。
 民は敏感だ。
 為政者が何を見ているか、自分たちをどうするつもりか、当人たちが思うよりも核心を感じ取る。
 それは政治を執る者にとって、決してあなどってはならない目だ。
 彼らの心は、得がたく、そして離れやすい。
 犀星はそれを、養父から学んでいた。
「あれ、本当に親王だったのか?」
「暁様の情夫じゃなかったのか?」
 人の中から、押し殺した声が聞こえてくる。東雨は耳を澄ませた。
「昨日、うちで油を買って行ったぞ」
「俺に、葱の育て方を尋ねていた……」
「いつも、麻の着物を着ているじゃないか」
「鍬をかついでいるところを見た……」
 市中に溶け込み、みなと変わらぬ暮らしをしていた犀星の噂。
 東雨は、どんな顔をして良いのかわからなかった。
 親王の、それも唯一の従者として、もっと堂々と誇らしくありたかったが、気恥ずかしさが少年をうつむかせた。
「でも、綺麗な人ね」
 女性の声が聞こえた。
「あの髪……目も、見たことがない色だわ」
「顔立ちも凛々しくて……」
「まだ十五だそうよ」
 東雨の顔が、少しずつ上向いた。
 清々しい秋の日に、新しい親王への静かな興奮が、人から人へ満ちていった。
 市中の北にそびえる朱雀門。その先には、広大な宮中の敷地が広がる。
 宮中は、南、中央、北の三区からなり、戴冠式が行われる瑞祺堂ずいきどうは中央区の東に位置する。
 昨夜の雨で舞い散った十月桜の花びらが石畳を染め、散らされることを知りつつ歩む犀星の面影と重なった。
 涼景の忠告がなければ、心は軽かったかもしれない。
 犀星は、変わらない表情のまま、深く考えに沈んでいた。
 涼景の全てを信じることはできない。
 彼もまた、身分も立場もある人間であり、皇帝が贔屓する将軍に変わりはない。いかなる理由があろうとも、今はまだ、全幅の信頼とはいかなかった。
 申し出には一理あるが、それは同時に、自分の命運を涼景個人に委ねることにもなる。
 犀星が求めるのは自立であり、誰かの庇護に入ることではない。
 どうすることが最善か……
 犀星は眠たげな目で、なおも考え続けていた。
 馬を並べる涼景が、ちらちらとこちらを見ている。
 叶うならば、涼景が真に友として信じるに足る人間であればよいのだが……
 犀星は、一度信頼すれば疑うことはない。だが、そこに至るまでの過程は慎重を極める。
 南区をぬけて、中央区に入る。その境には、近衛隊が列を作って待ち構えている。犀星の姿を見つけるや、静かに腰を落としてひざまづいた。
 近衛隊には、左と右の二つの部隊がある。犀星の警護を担当するのは右近衛であり、涼景はその隊をまとめる立場にある。
 隊士たちはみな、帯に白色の厚手の小さな布を垂らしている。白は右近衛を象徴する色だ。対する左近衛は黒、そして、皇帝直々の宮中の禁軍は、黄金色を象徴としている。
 都の者ならば、身につけた佩布の色で、その派閥を理解する。右と左は役割上分かれるだけではなく、革新派の右、因習派の左、という流れを汲む。
 犀星が最近必死に覚えた、宮中の勢力情報だった。
 犀星は懐から木札を取り出した。
 今日の出来事を記すための札には、宛名の他にはまだ、何も書かれてはいない。大切な名にそっと唇で触れる。
 その仕草を、近衛たちが目配せしながら伺っている。
「……守って」
 隣の東雨にも聞こえない声で、小さく願う。
 馬の足並みはゆるやかに、瑞祺堂への道をたどる。
 厳重な近衛の隊列が、犀星を取り巻いて共に進む。
 貴族階級の男女が、好奇心をたたえ、次々と建物から姿を現した。
 誰もが、興味津々で犀星の姿を追った。目を奪われ、感嘆がそこかしこから聞こえてきた。
 瑞祺堂の門の前で、一行は馬を止めた。
 涼景は犀星の前に進み出ると、馬を降り、手を差し伸べた。犀星はその手を取ることなく、身軽に馬台の上に飛び降りた。長い裳の裾が軽やかになびき、硬く結んだ帯の端が大きく揺れる。その仕草ひとつが、皆のため息を誘った。
 頼むから、見せつけないでくれ。
 うっとりとしている部下たちを見て、涼景が片眉を上げた。
 涼景の先導で、犀星は瑞祺堂の階を登った。
 青塗りの外門の上には、金縁の扁額がかけられ『慶』の文字がわずかに雨の雫を残して輝いていた。
 前庭の石畳は、塵ひとつなく掃き清めれていた。左右に植えられた紅梅と白梅は、花こそないものの、その枝ぶりは見事に青空を切り取って、のびやかに天を突いていた。
 涼景と数名の近衛を先頭に、犀星は中央を静かに歩んだ。
 庭に待ち構えていた禁軍の兵たちが、形ばかり恭しく、犀星に頭を下げている。だれもが、田舎育ちの垢抜けない少年を想像していた。
 目上の相手の顔を直視することは非礼にあたる。あからさまに見る者はいないが、その視線は確かに犀星を追っている。犀星は、侮蔑すら含まれるその視線にも、涼しい顔を崩さなかった。
 歌仙親王が見せる初めての艶姿に、宮中に慣れた禁軍兵士も驚きを浮かべた。
 首元に覗く内襟は、白い肌に映える鮮やかな緋色である。髪色よりも少し薄めの青い中襟、外に重ねた深衣は黒く、光沢のある厚手の絹だ。背中には銀糸で山岳の紋様、袖には唐草が縫い取られている。
 緩やかな曲線を描く黒裳が垂れ、連珠の模様のある裾は引きずらぬよう、東雨がそっと捧げている。胸元には、琥珀の玉を銀糸で連ね、袖口には東雨が密かに仕込んだ細鈴が鳴る。
 艶のある蒼い髪を高い位置で双環に結ったのも、簪についた玉飾りを磨いたのも、東雨の手によるものだ。
 着飾ることを好まない犀星にここまでの装飾を施すことに成功したのは、ひたすらに東雨の功績であった。
 美しい衣装は、犀星のそのままの魅力をさらに引き立てた。
 やはり、見事に化ける。
 涼景は周囲の嘆息とともに、自らも息を吐いた。
 本人の意思とは関係なく、外面の美しさは、宮中においては諸刃の剣である。
 そして、犀星はまだ、その使い方を心得てはいない。
 危うすぎる。
 涼景の不安はもっともなことであった。
 宮中には、男女問わず、開放的な性文化が存在する。
 特に宝順は、相手を支配する手段としてそれを利用する。
 中でも落胤の恐れのない男色は、支配欲を満たし、服従を強いるには好都合だった。
 見目の優劣だけではない。実力のある者、周囲の信頼を得る者、謀反の嫌疑をかけられた者、など、宝順の目に留まったが最後、逃れる術はなかった。
 それは愛欲ではなく、もっと原始的な暴力である。
 受け入れるか、自害するか。
 いかなる手段を用いようとも、涼景には、犀星を見殺すことはできない。
 犀星の絶対的な信頼を勝ち得ているという自信はまだないが、涼景から捧げる忠誠は揺るぎないものであった。
 かつて、犀星の養父に幾度となく命を救われ、また、進むべき信念を学んだ。犀星が宮中に上がれば、必ずやその身を守ると約束も交わした。
 それはすべて、涼景と犀遠との間の理解であり、涼景と犀星との関係の構築は、いまだ道半ばである。
 犀星を中央に、その周囲に右近衛、さらに外側に禁軍の兵が守りを固める。
 大国・かんの第四親王として、犀星の地位は今日、公のものとなる。
 皇家が長く望んでいた神の血統・玲家の血を継いだ犀星は、国の歴史上、唯一の存在として、みなの注目を集めていた。
 宝順が玲家有利な盟約を交わしてでも手に入れた、玲親王・犀星は、これからの国を左右する玉石である。
 瑞祺堂本殿の中央入り口は、犀星にのみ開かれていた。
 涼景は近衛を連れて右の扉から、禁軍は左の扉から入場する。東雨ひとりが、犀星のそばを許されていた。
 青瓦屋根に赤柱、金飾りの壮麗な殿舎は、奥に浅く横に広い。
 中央の席に、皇帝・宝順が座して待ち構えていた。
 その前には、高床の壇と祭卓が置かれ、冠、玉帯、笏、親王印など、犀星に贈られる品々が、艶やかな紅色の絹の上に並べられている。
 格子天井は高く、濃いほどに香が焚かれ、舞楽を奏でるための小楽隊も備える。
 宝順は、濃紫の深衣をまとい、同色の緩やかな裳と、黄金の玉飾りを赤金の帯に通していた。深衣には、皇帝にのみ許された龍の金刺繍がある。
 低く、弦楽が奏でられ、近衛と禁軍が左右に並ぶ。
 その中央を、犀星はゆっくりと進み出た。
 東雨が、そっと、裳を引いた。
 立ち止まってください、という合図だ。
 犀星は何事もなかったかのように歩みをとめ、静かに腰をかがめた。
 東雨は丁寧に裾を床に広げると、近衛の側に後ずさった。
 皇帝の脇にい中書舎人が、一歩、進み出た。
 楽隊の中から、ひとつ、時を告げる銅鑼の音が響き、静かに、香の中へと散っていく。
 音の余韻のわずかに残る中、舎人によって詔が読み上げられる。
「天の時満ち、地の理整い、万象和しき日を得たり。今、皇家の恩徳により、玲星、字を伯華と称す者、その才、仁を備え、忠をもって朝を支えしことを望み……」
 抑えた銅鑼が鳴り、さらに笛の音が静かに響いた。
 舎人は笏を掲げた。
「ここに命ず。玲星をして、玲親王の位に封じ、皇帝の弟たる皇家の正統の一翼となし、これを迎え奉る。その号を歌仙と為す」
 犀星は薄く目を開き、数歩先を見つめていた。
 今、この時に、自分は犀星の名を離れ、ひとり、歩み始めねばならない。
 だが、その心には、号として与えられた『歌仙』の二文字が、何よりも心強く息づいていた。
 たとえ、いかなる土地で、いかなる名で呼ばれようと、我が心は君のもとにある……
 皇帝への忠誠などと、比べようもない。犀星の心はひとところに、ただひとりの人へと向いていた。
 陽。
 心で呼べば、怖くはなかった。
 中書舎人が、おごそかに下がった。
 代わりに、宝順が立ち上がる。
 涼景以下、近衛も禁軍も、向きを正した。
 宝順帝は、この国の頂である。誰一人として、その顔を直視することは許されない。皆が面を伏せるなか、宝順だけが、すべてを見回していた。その中心に、年若い、美しい弟がいる。
 かつて、父であり先帝であった蕭白は、後の災を恐れ、生まれたばかりの犀星の命を狙った。
 それを妨げ、歌仙へと逃したのは、宝順である。
 ようやく、取り戻した。
 誰ひとり見る者のない宝順の口元に、やんわりとした笑みが浮かんでいた。
 血を分けた弟に対するものか、それとも、玲家の力を欲するゆえか。
 知る者はいない。
「玲親王」
 宝順の低い、重たい声が犀星を呼んだ。
「今日この佳き日を迎えられしこと、まことに喜びとする。今よりは皇家の一柱たる親王として、帝弟として、朝に仕える責を負う者なり」
 犀星はじっとその言葉を受けたが、表情に感情はなかった。
「汝に命ず。この先、朕のため、国のため、そして広く万民のために、誠を尽くし、力を尽くせ」
 力は尽くそう。だが、それは……
 犀星のまつ毛がかすかに震えた。
 宝順は口調をゆるめた。
「朕は、汝が真なる忠誠を心に誓い、その誓いを言のみならず、行いとして示すことを望む。励み進むがよい」
 やはり、そうくるか。
 涼景が、ちらりと犀星を盗み見た。宝順の言葉は、決して形式だけのものではない。あらゆる手段をもって、自らに従うことを強要する意思の表れだ。
 支配される。
 疑惑が確信に変わる。
 気を強く持てよ……
 祈りを込めて、涼景は犀星を見つめていた。
 帝からの言葉に続き、次は、犀星が答える番だ。
 打ち合わせ通り、犀星は一歩進み出て、姿勢を正した。目線は皇帝の胸元へ、しかし、居並ぶ者の目には、そこに宿る強い輝きがはっきりと見てとれた。
「皇帝陛下の御言葉、ありがたく拝し、謹んで感謝申し上げます」
 凛として、犀星の声はよく通った。
 弦楽の音色を交えて、まるで詩歌のように美しく響く。
 東雨が、ホッと、息をついた。
 答辞は、犀星を言い含めながら、どうにか覚えさせたのだ。
 東雨から習ったとおり、犀星は淀みなく言葉をつむいだ。
「この身、親王の位を賜りしよりは、国に仕え、政に臨む者として、誠心誠意、与えられし役目を果たす覚悟にございます」
 若様、立派でした!
 東雨は満足そうに小さく頷いた。
 だが、少年の安心もここまでだった。
「……たとえ」
 え?
 東雨の笑みが凍りつく。
 この言葉に、続きなどはないはずだ。
 暗唱の稽古に付き合わされていた涼景も、疑問を感じて東雨に目配せした。東雨は泣きそうに目を歪めて、知らない、と首を振った。
 犀星はただ静かに、続けた。
「たとえ、天上の太陽が落ち、世の光が尽きる日が訪れようとも、その輝き、その美しさ、その残像は、臣の胸より、決して離れることはないでしょう。ゆえに、小さき星のひとつとして、黙してこの世を照らし、忠を尽くす所存にございます」
 やりやがった!
 同時に、涼景と東雨は下を向いた。
 何も知らない者には、犀星の真意はわからなかっただろう。皇帝なき後もその志を継ぐ、万世の誓いと捉えたに違いない。
 だが、あきらかに、犀星が口にした太陽とは、『陽』に他ならなかった。
 一歩間違えば、侮辱罪として切り捨てられても言い訳の立たない発言だ。
 あとでぶん殴ってやる、と、涼景は拳を固めた。
 若様、夕食抜きです、と東雨は心に決めた。
 幸いにして、この場には犀星の心に気づく者はなく、戴冠式は混乱なく、幕を下ろした。

 瑞祺堂の中庭には、秋の始まりの気配が見え始めていた。
 銀杏の葉が金の鱗のように舞い、苔の上に音もなく降り積もる。石垣で整えられた池の水面は凪ぎ、涼しい風が水面に細かな波を立たせた。色づく葉の間から、透き通る日の光がこぼれおち、石畳に揺れている。
 遠くで香を焚く匂いが、濃くも薄くも、ただよってくる。
 庭に設けられた宴席には、犀星の戴冠を祝うため、大勢の官僚が待ち構えていた。
 宝順が北を背にして座ると、犀星はその東の席についた。庭の周囲には、近衛と禁軍の兵が交互に並び、内外の警備にあたる。犀星に一番近いところには、涼景がさりげなく立つ。
「掲げよ」
 宝順の号令とともに、中庭中央の大きな篝火が、晴天に燃え上がる。
 犀星は、宝順からの盃に一口だけ口をつける。それから、自ら立ち上がり、待ちくたびれていた官僚たちに、一言礼をのべ、杯を掲げた。
 明るい初秋の庭は、一気に華やかさを増した。
 舞姫たちが優雅に風に衣をはためかせ、宮廷付きの楽団が高々に演奏を始める。
 次々と運ばれてくる酒と、豪勢な料理の数々。そのほとんどは、犀星が初めて目にするものばかりだ。
 白絹が貼られた卓の上に、金模様の漆器と白磁の器。金目鯛と栗の翡翠煮が湯気を立て、香ばしい香りが広がる。鹿肉を柔らかく酒蒸しにし、雲丹と塩豆の天津もある。菊花と百合根の白酢和えは、目にも鮮やかだ。
 東雨は、所在なさげに涼景の後ろあたりに突っ立っていた。残念ながら、目の前にいかな料理を並べられようとも、それが東雨の口に入ることはない。
 この際、兎でもいいから食べたかった……
 東雨は生唾を飲んだ。
 無表情のままに座っていた犀星は、そっと、膳の傍に置かれた高杯に目をやった。そこには、氷桃の蜜漬けを乾燥させた切片が、扇形に盛り付けられていた。
 犀星はそっと手を伸ばし、敷かれていた布で、氷桃を包むと、袖に隠した。顔は前に向けたまま、その手を涼景に伸ばす。意図を察して、涼景は袖の中で、包みを受け取った。わずかに微笑み、東雨の手に預ける。布を開いて、東雨は子供らしい笑みを浮かべた。
 犀星の、こういうところが東雨は大好きだ。
 料理や菓子にばかり目が行くのは、東雨だけだった。
 他の者たちの狙いは、犀星一人である。
 まだ都に慣れない初心な犀星を、どうやって味方に引き入れるか、利用するか、飼い慣らすか。
 そんな思惑が誰の顔にも見え隠れする。
 人脈は、美酒にも勝る。
 一見穏やかに見える庭も、裏では陰謀と血生臭い思惑が渦巻く場所である。味方を得て、自分の手駒やら後ろ盾を増やすことに余念のない者ばかりである。
 わかっていながら、犀星はそんな者たちの盃を断ることなく受け、世辞と知っていて聞き流した。
 表情が和らぐことはないが、むしろ、不満を表さないだけ、成長したのだと東雨は胸を撫で下ろしていた。
 犀星には、後ろ盾がない。
 通常、親王として即位する場合、母方が貴人の家系であることが条件である。母の一族は、自分たちの血を継ぐ親王を全力で擁護し、政敵から遠ざけた。
 しかし、犀星は旧家玲家の出身ではあれど、母はすでにこの世になく、また、歌仙の玲本家も犀星を盟約の交渉材料として皇帝に差し出すのみで、守る意思はない。
 犀星の身は、宝順の私物と同じだった。
 それを案じた涼景が、事実上の後見人として、影のようにそばにある。とはいえ、涼景の宮中での権力も、絶対のものではない。出世のために宝順と情を通じる、と見下され、高位の文官たちからは蔑まれることも多い。
 犀星本人が、一日も早く、自らの実力を知らしめ、周囲を黙らせる必要があった。
 だが、今の犀星はまだ、政治を執るどころか、宮中の慣わしも知らない、無垢で無力な存在である。
 決して、宮中の人間を信じないように。
 涼景がまず、その一事を犀星に叩き込んだのは、それが非力な犀星にできる、唯一の防衛であったからだ。
 敵を作らないこと。
 人に飲まれないこと。
 この場における犀星の目的はそれだった。
 今の犀星には、狡猾に都で生き抜いてきた貴族や官僚に立ち向かうだけの力はない。
 母を亡くし、兄弟である帝でさえ、信じるわけにはいかない。
 犀星の立ち位置は、そのような完全に孤立したものなのだ。
 まさに、狼の群れに放り込まれた兎、である。
 周囲もまた、それをよく知っている。彼らの多くが、今日、初めて犀星の姿を目にした。中には、田舎者の愚鈍な小僧だろう、と陰口を叩いていた者もいる。
 しかし、目の前に現れたのは、到底、自分達には及ばない身のこなしと、目を見張る美貌の少年だった。
 宴が進むにつれ、誰もが、皇帝にはない、人を惹きつける犀星の魅力に気づき始めていた。
 いつもは高飛車に自分を見下している官僚が、犀星に羨望の目を向ける様子を、東雨は目をきらきらさせて見つめていた。その手には、自分だけが犀星とつながっている証のような菓子が、大切に握られていた。
 と、明るかった表情が、官僚の中にひとつの顔を見つけて、凍りついた。無意識に震え、東雨はそっと涼景の影に隠れた。
「どうした?」
 ささやくような涼景の問いかけにも答えず、東雨はじっと、ひとりの男を見ている。その頬はすっかり青ざめていた。あまりに、いつもの東雨らしくない。
 涼景は視線を追って、鳶色の装束の男にいきついた。
 中年の背の低いその男は、宝順に挨拶をしたのち、犀星の前にすり足で近づいてきた。
「歌仙親王殿下におかれましては……」
 男は、うやうやしいながらも、どこが下卑た表情を浮かべながら、一通り、決まり文句を並べたてた。
「そなたの運びに感謝する」
 犀星も、特にそれ以上話をする気もなく、他の者たちと同様に、一言で、追い返そうとする。が、男はそこでまた、口を開いた。
「……して、殿下。東雨はしっかりと努めておりますでしょうか?」
「ん?」
 思いもよらない話題に、思わず犀星は改めて男の顔を見た。
 口髭は薄く、目つきが鋭い。
「東雨を知っているのか?」
 興味を引かれ、犀星は問いかけた。
「ええ、それは、もう!」
 男は、高頼こうらいと名乗っていた。立場としては左相にあたる。権力者には違いないが、どうにも威厳がない。官位を姑息な手段で手に入れたように思われる。
「東雨は、二歳の頃から、私が仕込みましたゆえ」
 スッと、犀星の無表情の下に、冷たさが宿る。高頼は気づかない。
「殿下のおそばにお仕えするべく、一通りのことを学ばせましてございます」
 犀星は、じっと、高頼の下げられた顔を見つめた。そのやりとりに、宝順も気づいたらしい。微笑を浮かべてふたりを伺っていた。
「それで、いかがですか、具合の方は」
「優秀すぎるほどだ」
 犀星の言葉に嘘はないが、同時に温度も感じられない。
「お褒めいただけましたこと、光栄でございます」
 高頼のいわんとしていることが、犀星にもわかっていた。それは視界の隅で、怯えた顔をする東雨を見れば、明らかだった。
「今後とも、どうぞ、ご贔屓に」
 高頼は満足そうに笑みを浮かべたまま、いそいそと犀星の前を下がろうとする。
「待て!」
 この日初めて、犀星は自分から、誰かに声をかけた。
 高頼は驚いて振り返った。慌てて目を伏せるが、一瞬、犀星と視線が交差した。
 その宝玉のような青眼には、憎しみとも怒りとも取れる熱が宿っていた。
 高頼はいたたまれなくなり、腰を屈めて深く頭を下げた。
 それぞれの話に夢中になっていた官僚たちが、何事かと、犀星を振り返る。
 ただじっと座ったまま、犀星は高頼の冠を見つめていた。
 声を荒げるわけでもない。
 だが、無言のその横顔には、あきらかな怒りが滲んでいた。
 まずい。
 涼景が一歩、犀星に寄った。と、自分の袍の袖が引かれ、わずかに振り返る。下を向いたまま、東雨が助けを必要とするように、しっかりと握りしめていた。
 東雨と高頼の関係を、涼景は知っていた。
 まだ幼子であった頃から、高頼は東雨を厳しく躾けた。
 当時、数年後に都に召喚される犀星の侍童の座を求めて、多くの官僚が、身寄りのない男子を引き取り、手塩にかけて磨き上げていた。
 運良く犀星に取りいることができれば、自分もまた、出世に近づく。
 彼らが男子に教えたのは、学問や宮廷内の決め事だけではなかった。犀星が皇家の血を引く以上、女をあてがう訳にはいかない。年若い親王が持て余さぬよう、落胤を防ぐために、男娼として性技を教え込んだ。
 幼い子にとって、それはどれほどの苦痛と恐怖であったことか。東雨もまた、そのひとりであった。
 勝ち気で明るい東雨が、これほど怯えるという現実は、犀星の怒りを呼び起こすには十分すぎる動機だった。
 しかし、相手が悪い。
 東雨を使って得た地位とはいえ、左相は政治の片翼である。
 涼景はその場で頭を下げた。
「歌仙様、どうぞ、おおさめを」
 犀星の頬が、ぴくりと動く。
 星、頼むから、引いてくれ!
 涼景にも、犀星の怒りは理解できる。
 だが、ここでことを荒立てるのは得策ではない。
「高頼」
 犀星は、声を低くした。
 弦楽の音が空々しく響き、舞手も動きを止めなかったが、明らかに空気は硬く凍りついていた。
 誰もが、犀星の言葉を待った。
「よくやってくれた」
 感情のない、犀星の声に、皆が息を飲んだ。
「私は、東雨を気に入っている。彼をどう扱うかは、私の裁量のうちにある。誰にも、触れさせたくはない。もちろん、そなたにもだ」
 口調は静かで、言葉も丁寧ではあったが、それ以上の威圧が高頼を押し潰した。
 犀星はかすかに、眉を寄せた。
「しかるに、二度と、その名を口にするな。次は言葉では済まさぬ」
 涼景の陰で、東雨は長く息を吐いた。膝が崩れかけたが、手にしていた氷桃の包みだけは、しっかりと胸に抱いていた。
 わずか、十五の力ない犀星が、実力の伴わぬ成り上がりとはいえ、一国の左相をねじ伏せた気迫。
 それは、宝順を含め、その場の誰の記憶にも長く残り、語り継がれることとなった。

​ 太陽が西に傾くころ、酒のまわった宴席に、軽武装の一団が入ってきた。彼らの腰には、白の佩布がある。
 右近衛の別働隊であった。
 先頭に立つのは、涼景の幼馴染にして、信頼も厚い副長・遜蓮章だ。他の近衛が甲冑を身につける中、彼だけは女とまごう華やかな装いである。生まれついての妖艶な魅力に溢れた容貌には、自信と余裕があった。
 まともな格好で来い、と言ったのに……
 涼景は、親友を軽く睨んだ。蓮章は微笑し、これが俺だ、といわんばかりの顔である。
 服装に似合わず、蓮章の所作は武人として完璧である。
 美しい裾を翻し、引き締まった表情と作法で、蓮章は帝の前に膝をついた。続いて、近衛たちもそれにならう。
「皆様の帰路、護衛に参りました」
「手はず通りにせよ」
 宝順は慣れていると見えて、蓮章のいでたちを特にとがめるでもなく、その場を任せた。
 涼景の小隊は、皇帝と犀星の警護である。
 官僚たちの警護と、それぞれの屋敷への見送りは、蓮章たちの務めだった。
 蓮章は部下を振り返って頷いた。それを合図に、近衛たちはそれぞれが割り当てられている官僚の側へゆき、帰り支度を促した。
「では、参ろうか」
 宝順はゆっくり立ち上がった。
 涼景は一礼して従った。
 他の官僚を蓮章にまかせ、自分の隊は犀星と宝順の道を守る。
 ここからは、容易くないぞ。
 涼景は、常に犀星を視界の中に捉えている。
 夕方から夜へ。
 確実に、犀星の体に欲望の手が伸ばされる瞬間が、近づいていた。
 眠たげに目を伏せ、犀星は襟元から白絹の巾を取り出すと、そっと目頭にあてた。
 辛そうだな。
 涼景の目に、気丈に振る舞う犀星の姿は痛々しかった。
 もともと、酒にも弱く、人の中にいることも苦手としている少年の疲労は、おしはかるにあまりある。
 立ち上がろうとして、犀星の足元が危うくなる。
 無理に重ねた酒は、少年には重すぎた。よろめいたところを、宝順が支えに入った。
「恐れ入ります」
 堪えながら、歩こうとするが、思うようにいかない。犀星の蒼い宝玉の瞳が、夕日の光に潤んだように煌めいた。
 涼景が横目で、二人の様子を見逃すまいと伺う。
「そなたのその瞳、まこと、美しい」
 されるがままに、抵抗できない犀星の顔に手を添え、腰に腕を回して、宝順は体ごと引き寄せた。目を震わせ、犀星は宝順の唇を見つめていた。
 ふたりの仕草は、あまりにあやうい。
 皇帝と親王のすることである。涼景に止めることは叶わないが、それでもそっと犀星の後ろに寄った。
 宝順の唇が、犀星の色薄い瞼に口付けた。
 涼景は胸に込み上げた嫌悪を、必死に殺した。東雨がはらはらしながら、庭の隅で犀星を見守る。
 宝順の舌先が、犀星のまつ毛を撫で、弄ぶように瞼を舐めた。
「そなたの母も、そのような目をしていたのか?」
「……いいえ。知る限り、わたくしだけでございます」
 犀星はわずかに、呂律が回っていない。
 涼景は目を離せず、震える手を握りしめる。
 何をしている……!
 焦燥が涼景の思考を焼いた。
 決して油断をしないよう、再三、忠告はしてきた。それが、これである。
 一滴の酒とて、命取りになる。
 涼景はこれからを想像して、恐怖すら感じていた。
 すでに酔いがまわっている犀星に、これ以上飲ませれば、その先にあるのは阿鼻叫喚。酔い潰れて意識を無くした親王を宝順がどう扱うかなど、それこそ、悪夢以外の何ものでもない。
 輪姦まわされる……
 涼景は身震いした。
「歌仙様をお支えしろ」
 かろうじて、涼景は声を絞り出した。部下に命じ、まずはふたりを引き離す。
 庭には、宝順と親王を見送る宮廷人が残っている。皆の前で、犀星が宝順になぶられるなど、涼景には我慢ならなかった。
 衆目の中で犯された、自らの苦い過去が蘇る。
「参りましょう。陛下に馬を。歌仙様は輿にお乗せしろ」
 庭の外で控えていた部下たちに命じると、涼景は自らも馬のあぶみに足をかけた。と、
「歌仙様!」
 部下の声に、涼景は犀星を振り返った。
 犀星は近衛によりかかったまま、近くの茂みに崩れ、座り込んでいた。
「ご無礼致します」
 たまらず、涼景は駆け寄ると、部下の腕から奪うように、一思いに犀星を抱きかかえた。
 ぐったりと力の抜けたその身体。宝順が口付けた瞼が濡れている。
 涼景は伏せた顔を歪め、自らの袖の端でそれを拭った。
 碧玉の瞳が、チラリと涼景を見上げた。
 星?
 涼景はびくりとした。
 犀星の頬は酒気に染まり、気だるく辛そうではあるが、奇妙に冴えた表情だ。
 涼景の戸惑いに気づいたのか、犀星は彼にしか見えない角度で、ニヤリと口元に笑みを浮かべた。
 こいつ、まさか……!
 さすがの涼景も、驚きを隠せなかった。息を飲み込み、視線を揺らす。
 眠るように、犀星は目を閉じた。
「玲親王は?」
 鞍上から、宝順が声をかけた。
「……はい、おやすみのご様子です」
 帝を振り返って飄々と答えた涼景の顔に、すでに動揺はない。
 直前までの心の波が収まり、涼景は一度、自分を取り戻した。犀星が何かを企んでいるのは明らかであった。ただ、状況に流されているわけではない。
 何をするつもりだ?
 涼景には、犀星の考えが読みきれない。
 賭けてみるか……
 犀星を抱き上げ、丁寧に輿に乗せると、涼景は簾を降ろした。
 宝順が選んだ二十名あまりの官僚が、列に加わり、同行する。
 他の官僚たちは、蓮章の部隊とともに、その場で見送った。
 去り際、涼景は、蓮章と目を交わした。
 任せたぞ。
 互いに、そんな信頼が交錯する。
 中央区の道は美しく、整備が行き届いている。
 この地区には、政治的な拠点が集中しており、貴人たちの邸宅も多い。
 石畳は常に清掃され、落葉の季節であっても、葉に埋もれることはない。広い道の周辺は低木が茂り、よく刈り込まれて、見通しが保たれていた。
 西陽が長く、影を伸ばしている。
 道中には一定の間隔で篝火が灯され、すでに宵闇に備えて警備が厚くなっていた。
 涼景が先頭に立ち、その脇を禁軍と近衛が固める。
 中程に宝順の騎馬があり、その後方に、犀星を乗せた輿。
 行列の一番後ろを少し離れてついてくる東雨の表情は、暗かった。
 涼景から、この後に起こることを聞かされている。
 高頼に仕込まれた通り、東雨は犀星の相手を務めるつもりでいた。それが役目、と教えられてきた。
 しかし、犀星は決して東雨に触れなかった。
 自分には魅力がないのか、と落ち込むこともあったが、真実を知った今は少しだけ、安堵していた。
 犀星が東雨を相手にしなかったのは、潔癖であるゆえのこと。
 ……きっと、あの、文の相手が大好きなんだ。
 幼い東雨には、色恋の機微はわからない。
 それでも、犀星の様子から、それくらいのことは察することはできる。
 好きな人がいるのに、他の人に触られるなんて……
 東雨の肌は、ざらついた高頼を覚えている。彼が連れてきた複数の男たちから受けた恐怖の記憶は、今でも薄らぐことはなかった。それは、東雨に肉の交わりそのものへの恐れを植え付けた。
 他の誰かが犀星に触れるくらいなら、涼景の方がマシだと思う。
 それでも、大切なものを傷つけられるようで、東雨は辛い。
 黙って氷桃を渡してくれた犀星の横顔が、に歪むなど、耐えられなかった。
 顔を上げると、最後尾の近衛から随分離れてしまっていた。東雨は駆け足で距離を詰めた。
 彼らが目指すのは、帝の寝所にも近い、楼閣である。
 聚楽楼じゅらくろうは、帝が好んで使う、言うなれば宮中の遊郭だ。
 普段は芸妓や女郎を囲うのだが、今夜は賓客を迎える。
 門構えは派手さを抑えた様式で、ひっそりと美しい細工が彫り込まれ、細部まで技巧が施されている。黒瓦のひとつひとつに細い金の紋様が埋め込まれており、遠目にも、趣向に特化した建物であることが察せられた。
 門前で馬を降りると、涼景は部下の近衛を先行させ、官僚を先に中へ通した。
 自分は自ら宝順の傍らにあり、背後に犀星の気配を感じる。
 本心では、誰よりも犀星のそばにいたかったが、立場上、宝順を優先するしかない。
 門をくぐり、細い石の道を通って、中へ入る。
 二階造りに見える聚楽楼は、内部は大広間が一つだけである。床と天井の中間に、壁に沿って回廊が巡っている。階段で上がると、広間を見下ろせる構造になっている。
 先に入った官僚の半数は広間に並び、残りの半数が回廊に登って到着を待っていた。
 宝順に認められた者だけが、聚楽楼に足を踏み入れることができる。その中でも、さらに一部の者だけが、広間に通され、他は上から見物するのみとなる。
 涼景は、広間の奥の高座まで、宝順に付き従った。宝順が座ると、一歩離れて、脇に立つ。涼景の反対側には、禁軍の大将が同じように屹立していた。
 室内には螺鈿の細工の柱と壁、磨かれた銅鏡が随所に散りばめられ、わずかな光も乱反射して妖しく周囲を照らし出す。
 鏡が鏡を映し、奥行きが延々と深く、現実感が遠のく。油灯の炎が無数に揺れる。
 どこにいても、自分の姿が鏡の中に見え、目を背けられない趣向である。
 唯一、鏡に映らない位置に、宝順の席が据えられている。自らが何かをするではなく、気に入った者たちが痴態を晒すのを、酒を手に眺めるのが、彼のやり方であった。時には、目の前で命を落とす者がいたとしても、それもまた、一興。
 数十名の官僚たちは、帝の到着を受けて、恭しく首を垂れた。中には、先の宴席には招かれていない者たちも混じっていた。
 涼景は、広間と上の回廊を見回した。
 三十名は下らない。
 右近衛隊を束ねる者として、涼景はこの場所で、何度も惨劇を目にしてきた。
 自分に助けを求める声にも心を閉ざし、逆上して帝に近づく者があれば、斬り捨てた。累々たる恨みと憎しみと死体の上に、今、自分の地位がある。
 そうまでするのは、ただひたすらに、故郷に残る妹の身を思えばこそだった。
 自分の反逆はすなわち、妹の死を意味する。
 宝順の考えも非情さも、涼景は身に染みている。
 壁に沿って居並ぶ貴族たちは、宝順同様、好んでここへ足を運ぶ。中には、興味はなくとも、周囲との付き合いを考慮している者もいるが、それは少数だ。
 数名の近衛が、輿を広間の入り口に下ろし、御簾を巻き上げた。
 瞼ごしに感じた炎の光に、犀星はゆっくりと目を覚ました。
 近衛に支えられ、犀星は広間の中央へ連れ出された。一人では立っていられず、その場に座り込む。後ろから東雨が駆け寄ろうとしたが、近衛に阻まれ、扉の外に追い出された。
 閉ざされた扉の、中と外。
 全てに決着がつくまで、その境界が開かれることはない。
 涼景の耳には、犀星を呼ぶ東雨の叫びが聞こえた気がした。
 この場に至った以上、なすべきことははっきりしている。
 犀星が自我を保つこと。そして、自分を指名すること。
 そうでなければ、この場にいる者たちが、犀星をどう扱うか、考えるだけでも身の毛がよだつ。
 広間で帯刀を許されるのは、涼景のみである。禁軍大将すら、この場で剣を帯びることはない。それが、宝順に全てを明け渡して身を守ることを選んだ、涼景の得たものだった。
 部下の近衛たちは、扉の向こう側で警備にあたる。
「玲親王」
 帝が、倒れ込んでいる犀星を呼んだ。
 その声に、犀星はゆっくりと立ち上がった。足元に危うさが残る。それでも、着衣を正し、流れるような動きで礼を拝した。
 皆の目に、愉悦の色がたゆたう。
 弱った、美しい親王は、格好の獲物だった。
「気分は?」
 宝順は、深々と交椅にかけ、傍の几案に用意された酒の杯を揺らした。
 犀星はわずかに目を伏せている。
「ご心配には及びません」
 声は静かに、正気の気配があった。
「慣れぬ宴席での失態、ご容赦願いたく」
 涼景は油断なく、室内を見回した。
 誰もが、犀星の姿を見つめている。
 それは、死刑の執行を見守る沈黙にも似ていた。
 宝順は、傍にいた中書舎人に、杯を渡した。
 涼景の唇が震える。怒りを抑えた涼景の視線を横切って、中書舎人が犀星のもとに酒を運ぶ。
「頂戴いたします」
 やめろ!
 涼景は歯を食いしばった。
 犀星は躊躇いなく、一気に酒を飲み干した。目が放せない。
​ その酒に媚薬が仕込まれていることを、涼景は知っている。
 ただでさえ、大量の酒気に耐えている体に、その薬は即効である。いくら精神的に張り詰めようと、肉体はもたない。今まで、そんな者たちを嫌になるほど見てきたのだ。
 犀星の意識が失せる前に、早く、指名を……
 だが、決定権は宝順にある。いかに焦ったところで、どうにもならない。
「もうひとつ」
 宝順の声に、咄嗟に涼景は振り返った。すぐに顔を伏せたが、残虐性を隠さないその表情が、目に焼きつく。
「はい」
​ 断ることなく、犀星は素直に二杯目を飲み、深く息を吐く。
 あまたの鏡に映る無限の空間で、犀星だけが静かに動く。
 犀星の眼差しは、正気を保つぎりぎりのところだろう。
 頼む、倒れるな!
 涼景は祈った。
 ここで気を失えば、身も心も引き裂かれる。
 涼景の願いは空回る。誰のものとも知れぬ、たきしめた香の香りが混ざり合い、随所の行灯と油灯の炎が静かに揺れる。
 宝順はただじっと、犀星を見つめている。待つだけで良い。酒と薬がまわり、犀星が屈する、その時が来るまで。
「次」
 三杯目の指示が飛ぶ。
「……陛下、さすがに……」
 たまらず、涼景が発した声をかき消して、
「頂戴いたします」
 犀星の声が響く。
 驚いて、涼景は振り返った。
 犀星の方も、涼景を見ていた。ふらついた振りをして、わずかに首を横に振る。
 ここで涼景が宝順の機嫌を損ねれば、事態は悪い方にしか進まなくなる。涼景の立場もさることながら、この場から追い出されでもすれば、犀星が彼を指名することもできなくなる。
 俺は平気だ。
 涼景には、犀星の、そんな声が聞こえた気がした。
 強がりやがって……
 涼景の心配をよそに、三杯目も飲み下すと、乱れた様子もなく、犀星は宝順に礼を返した。
「そなたを見せよ」
 宝順が、低く命じる。
「宣誓を、忘れてはおるまい?」
「はい、陛下」
 犀星の声は揺るがない。涼景の方が、焦燥と不安とで心臓が高鳴り、体が熱く火照る。
 犀星の動きは鈍重ではあるが、躊躇はない。
 帯を解き、紐を外して深衣を脱ぎ落とす。黒い絹が剥がれ落ちると、目が醒めるように明るい、薄い青色の袍が目に入った。腰紐を解く柔らかい指先が、見せつけるようにゆっくりと動く。布の擦れる音さえ聞こえる静寂。
 涼景は視界の隅で、宝順の様子を伺った。普段よりも前のめりに座り、膝の上に腕を乗せている。
 下衆が。
 思わず、涼景は心で吐き捨てた。
 親王として戴冠を迎えたその日も暮れぬうちに、多くの官僚の目に肌を晒させるその心理に苛立ちと嫌悪がたぎる。
 犀星は決して、宝順に逆らう意思を持たない。
 むしろ、養父犀遠、赤子であった犀星自身の命を救ってくれた恩義すら感じている。
 そのような犀星に、この仕打ちが許されていい道理がない。
 犀星が従順であればあるほど、涼景の憤りは凄まじさを増した。
 ふっと、見守る官僚たちからため息が漏れた。
 犀星の足元に、するりと青衣が落ち、紅の中衣が表れた。
 薄い絹の色はどこか透明で、肌の輪郭も、腰に巻きつけた褌の重なりも透けて見える。
 嘆息とざわめき、好奇と興奮の気配が、大広間に広がっていく。
 裾の短い中衣から、白い素足が眩く見える。
 ここまでにしておけ。
 涼景は、そう願いつつ、ごくりと唾を飲み込んだ。
 だが、犀星の手は止まらなかった。
 中衣を整える紐をするすると巻き取り、ぽとりと落とす。
 はだけた前の合わせから、白い肌が覗く。
 ゾッとする吐息が、二階の回廊からも降ってくる。
 まるで、そうすることが当然であり、何を恥じる必要もない、迷わない仕草。犀星は袖から腕を抜いた。
 こうも堂々とされては、涼景も何も言えない。
 周囲で見守る官僚たちも、耳打ちし合いながら、期待を込めた眼差しを送っている。
 命じた宝順自身さえ、犀星から視線が外せない。
 曼珠沙華の花弁を思わせる薄衣一枚を、不安定に肩にかけ、犀星はかすかに震えた。絹に劣らぬ艶やかな柔肌が、衣の紅色と対比されて輝くように美しかった。
 十五歳の、大人になりきらない身体は、欲望を掻き立てる色気を放ち、普段は視姦するだけの宝順までが、血のたぎりを感じた。
「髪を解け」
 容赦無く、辱める気か。
 たまらず、涼景は目を閉じた。
 青みがかった、不思議な色合い長い髪が、油灯の光のもとで、妖艶に揺れ、背中に散った。同様に、稀有な色の瞳が潤んで煌めく。
 うめく息が四方から上がり、それに誘われるように涼景が目を開くと、色画から抜け出してきたような少年の姿。
 髪の蒼、衣の紅、肌の白。流線で縁取られたしなやかな肢体を晒しながら、犀星は真っ直ぐに立っていた。
 宝順すら、魅入られる。
 しばし、言葉を無くして宝順は犀星を見つめ続けた。
 犀星は宝順の喉元に視線を向け、それ以上、顔を上げることはしない。
 ふたりの間には、決して埋められない溝があった。お互いに、一線を引き、超えた方が相手の首をとる。
 いずれ、ふたりの対決が避けられぬ日が来る。
 涼景は覚悟した。だが、今はまだ、その時ではない。
 宝順ならば、この場で犀星を斬り殺すことも容易だ。だが、犀星の気配が、その決定を許さない。
 無防備な姿でありながら、犀星の意思は一歩も引いてはいない。
 酒と薬で朦朧としているはずの犀星に、これほどの気迫が残されていようとは。
 宣戦布告である。
 この状況にありながら、か弱い親王が、権力の絶頂に立つ宝順帝に対し、言葉にならぬ挑戦を挑んでいる。
 こいつ、やはり、只者じゃない。
 涼景は、焦りも不安も吹き飛ぶ思いで、二人の無言の時間を見守った。
「面白い」
 宝順がつぶやいた。
「そなたは、実に」
 犀星は答えず、眉一つ動かさない。
​「その姿、どう崩れるものか」
 宝順は犀星を見据えたまま、未だ自分が有利であることを知っている。
「仰せのままに」
 一切動じない犀星に、更に宝順はほくそ笑む。
 宝順の悪癖に、虫唾が走る思いをしながら、涼景は次の一言を待った。
「そなたを貫く者を選べ」
 不条理を感じつつも、涼景は安堵した。これで、とりあえず片が付く。犀星には申し訳ないが、一夜の情交には耐えてもらう他ない。
 いつでもいいぞ。
 そんな思いで、涼景は犀星を見守った。
 犀星もまた、涼景を見ていた。交差する眼差しが、熱を帯びた。
 声がかかるか、と涼景が身構えたとき、犀星の目がそれた。
 犀星は、壁に沿って立っていた官僚たちに近づくと、端から順に、顔を見つめた。
 官僚たちにしてみれば、犀星は目を合わせることの許されない相手である。その美貌を近くに見たいと思いつつ、恐れもあった。
 犀星は手を延べて、彼らの頬に触れ、物色するように視線を上げさせる。
 そこまでされては、目を合わさざるを得ない。だが、視線が合ったが最後、相手を射抜く青い眼差しに心を奪われる。みな、総じて、身体が強張り、情欲よりも恐怖に震えた。
 犀星はひとりずつ、触れ、見つめ、次に移る。
 それは、順繰りと心臓に短刀を突き刺すさまに似ていた。
 ぐるりと、部屋を巡る。
 広間の全員を射止めると、回廊へと視線を投げかけた。
 身を乗り出して見下ろしていた者たちが、一斉に一歩引いて顔を背けた。
 その無言の牽制は、あまりに圧倒的であった。
 空間のすべてが、犀星の手中にあり、指一本動かすだけで、全員が跪くほどの迫力が満ちていく。
 ただひとり、宝順だけは、その圧力の外にいた。
 それは同じ皇家の血ゆえか、それとも、その気性によるものであるのか。
 犀星は最後に、もといた中央へ歩んだ。足元には、脱ぎ落とした着物が柔らかく影をつくっている。
「さすがよ」
 落ち着きを払った宝順の声に、犀星は頭を下げた。柔らかな髪が揺れて、その横顔にさらさらと流れる。
 涼景が震えるほどに、その姿は妖しかった。
「決めたか?」
「はい、陛下」
 犀星はわずかに、声を強めた。
「全員を、所望いたします」
 ……この、馬鹿!
 涼景は、思わず飛び出しそうになった声を飲み込んだ。
 酔っているのか、薬のせいか、それとも、正気だとでもいうのか!
 一瞬の静寂のあと、広間に、宝順の笑い声が響き渡った。
「よくぞ申した」
 涼景は、地獄絵図を覚悟した。
 殺されるぞ!
 男も女知らぬ、未完成のその体で、これだけの相手がつとまるはずがない。
 体は冷えて震えるほどだというのに、涼景のこめかみに汗が流れた。
 まるで、最後の夕日の光を惜しむような眼差しで、涼景は何も言わない犀星の顔を見つめた。
 そのとき、犀星の唇にうっすらと笑みが浮かんだのを、涼景は見逃さなかった。
 小さく、宝順の唸りが聞こえて、涼景は皇帝に視線を走らせた。
 膝を握る手が、確かにわずか、震えている。
「陛下?」
 涼景の問いには答えず、ゆっくりと宝順は立ち上がった。歩幅を狭め、しずしずと犀星に歩み寄る。
 まさか、自ら?
 涼景はその背中を見つめた。
 俯いた犀星の横で一瞬、歩みを緩めただけで、宝順はそのまま素通りし、扉に向かう。
 門番が慌てて扉を押し開けた。
「涼景」
「……は、はい、陛下」
 涼景の反応が一瞬遅れる。
「親王を無事、送り届けよ。今宵は終わりだ」
 涼景は、思いもよらぬ宝順の言葉に耳を疑う。
 何を言われたのか、思考が追いつかない。
 そのまま広間を出ていく宝順を、慌てて、禁軍大将が追う。官僚たちも、我先にと、逃げるように急ぎ足で広間を離れた。
 突然に、犀星と涼景だけが、部屋に取り残される。
 宝順が、星を見逃した……?
 そのようなことが、あるわけがない。
 人の波が切れると、東雨が中に飛び込んできた。まっすぐに犀星に駆け寄る。
 犀星は東雨の姿を見ると、気を失うように床に倒れ込んだ。肩にかけていた赤い衣が流れ落ちて、汗ばんだ白い背中に油灯の炎がちらちらと光った。
「若様!」
 涼景は、東雨の声に我に返った。
「涼景様、どうしたら!」
 見ると、東雨は犀星のそばに座り込んだまま、涙を浮かべていた。脱ぎ捨てた衣の上で、息も絶え絶えにうめきながら、犀星がきつく目を閉じている。明らかに尋常ではない。
 今は、とにかく犀星の命が優先だった。
「来い!」
 涼景は犀星を抱えて広間の隅に引きずっていくと、みぞおちに一撃を入れた。犀星はえずいて、込み上げたものを吐き出した。
 大量の酒と、入り混じった薬の匂い。
「全部、吐いちまえ!」
 背を叩き、体を抱えて促す。何度も嘔吐を繰り返し、犀星は息を荒げた。どれほど吐き捨てても、体に混じった酒気は、なおも意識を混濁させる。喉が詰まって、呼吸が鋭い音を立てた。
「東雨、水!」
「……は、はい!」
 東雨は、広間の隅の瓶から桶に一杯の水を汲み、頭から犀星に浴びせかけた。
 むせ返りながら、犀星はどうにか意識を取り戻した。口元を腕で拭う。
 涼景は胸を撫で下ろし、大きく首を横に振った。
「馬鹿が……死ぬ気か!」
 恨めしげな犀星の目が、涼景を捉えた。
「若様!」
 ポロポロと涙をこぼす東雨に、犀星は微笑んだ。その笑みはあまりに儚く、力がない。それでも、東雨には何より嬉しかった。
「涼!」
 広間の入り口から、張りのある澄んだ声が涼景を呼んだ。
 蓮章が険しい顔で突っ立っている。
「どうやら、終わったようだな」
「何が起きたか、俺にもわからないが……」
 蓮章は歩み寄ると、困惑している涼景の前に、白い巾を突きつけた。
 その巾には見覚えがあった。確か、犀星が目を拭っていたものだ。かすかに、なにかを染み込ませた痕がある。
「宴の庭の茂みに、捨ててあった」
 蓮章は水に濡れた犀星の、あまりに淫らな横顔を見た。
巴豆はずだな。まさか、あんな手段で盛るとは……」
「なに?」
 涼景は愕然として、犀星を見つめた。思わず、犀星は目をそらした。
「……酒と料理の礼をしたまでだ」
 焼けた声で、犀星は小さくつぶやいた。
「あの、巴豆って?」
 東雨は袖で涙を拭きながら、問いかけた。
 涼景は深くため息をつくと、呆れ果てた声で答えた。
「薬だ……腹を下す」
 
  *

 静かに夜が更けてゆく。
 犀星を、都の邸宅に送り届け、涼景は、蓮章と連れ立って、宮中へと向かっていた。
 虫の音が、遠くに感じられた。
 あまりにも、多くのことがありすぎた一日だった。
 それは激しい死闘のようでもあり、命懸けの博打のようでもあった。
 そして、最後には、何もかもをひっくり返す大芝居だ。
 すっかり老け込んだ涼景を、蓮章はぼんやりと眺めた。
「まさか宝順も、自分が舐めた親王の瞼に、薬が仕込んであったとは思うまい」
 涼景はちらりと横目で蓮章を見た。
「当然だ。それがばれたら……」
 想像するだけで、涼景は悪夢が蘇った。
 ただの偶然。
 宝順がそう思ってくれることを祈るしかない。
 どこまでいっても、犀星には肝を冷やされる。
 涼景は、幾度目かのため息をついた。
 蓮章は、月明かりの夜道の先を見た。
 人気のない闇に沈んだ道を、涼景と二人で歩くのはいつぶりだろうか。
 犀星が都にきて以来、この実直な暁将軍は、若い親王にかかりきりだった。
 まるで、片恋の相手を必死に追いかけるように。
 傍に感じる親友の体温は、蓮章の肌に心地良い。
 ……秋の深まる季節は、特に。
 と、わずかに目を細める。
「涼」 
 呼びかける蓮章の声は、どこか艶めいている。
「うん?」
 鼻を鳴らして、涼景は応じた。
「おまえが、どうしてあの親王に肩入れするのか、わかった気がする」
「なんだ。今更か」
 そう言ったものの、涼景の声は力がない。
「俺は少し後悔してる」
「うん?」
 今度は、蓮章が首をかしげた。
「あいつが、まさかここまで馬鹿な真似をするとは」
「馬鹿な真似ではないと思うぞ」
 蓮章は、彼には珍しく、誰かを擁護した。
「俺から言わせてもらえば、親王を抱こうとしたお前の方がよっぽど馬鹿だ」
 言葉の真意に涼景は気づいている。だが、そこには踏み込まない。それが二人の暗黙の了解だ。
「……あいつは、自分で自分を守った」
 どこか悔しそうな涼景の声が、夜の空気にやけに馴染んでいた。どこかで諦め、負けを受け入れてきた涼景の目に、毅然として対決を選んだ犀星は眩しかった。
「……俺は、何もできなかった」
「そう、落ち込むな」
 蓮章は小さく笑い、涼景の背中を叩いた。
「おまえは、よく、やってる」
「おまえに慰められると、余計に滅入る」
「なんだよ、素直じゃないな」
「お互い様だ」
 ふたりの言葉が、じゃれ合うように絡む。
「蓮?」
「うん?」
「これから、忙しくなるな」
 涼景は夜空を見上げた。蓮章はその横顔を見つめた。
「いや、面白くなる」
 ふたりの歩む道は暗い。
 しかし、目指すほしがひとつ、地平線の上に強く輝き始めていた。
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