1 / 6
せんべえと弟
しおりを挟む(兄8・弟2)
ぱきん、と醤油煎餅を割る。
隣では、炬燵にとっぽり浸かったコウスケが、目をキラキラさせてキョウスケの手元を眺めていた。手元、すなわち煎餅。
そう、二歳のコウスケは今、煎餅の虜なのである。
三日程前のことだった。炬燵でまったりしていたキョウスケが気まぐれで貰い物の煎餅をかじっていたところ、小児科の通院から帰ったコウスケがやって来た。
帰って来るなり「にーしゃ!」と飛び付いてくるコウスケの可愛さは筆舌しがたいが、そこは置いておこう。
とにかく兄が大好きで兄の周囲に関心が尽きないコウスケのこと。当然、キョウスケがかじっている煎餅にも並々ならぬ興味を抱いた。
父も母もそしてキョウスケも菓子類はあまり食べない。祖父母宅へ行った時も、出てくるお菓子はクッキーやチョコレートばかりだった。そう、ハマダ家の周りにある菓子のほとんどが小さなコウスケに合わせたものだった。
煎餅といえば今よりもっと小さなコウスケには赤ん坊用の煎餅をかじらせたりしていたが、それとこれとはまったく違う。食べていいのかと期待と希望に満ちた目で見上げてくるコウスケの口に、キョウスケは一口大に割った塩煎餅を放り込んでやった。
──それを一噛みしたコウスケの顔といったら。
キョウスケは勝てなかった。一発KOだった。もいっこ、もいっことねだるコウスケが可愛くて、母に怒られるまで煎餅を与え続けてしまった。
つい三日前だ。それからというもの、コウスケはキョウスケが炬燵に入ると煎餅を持ってきて、食べさせてちょうだいとねだるようになった。
キョウスケのもとに持ってくるのは、『これは一人で食べるとボロボロこぼすものだ』と気付いているのだ。さすがコウだ。賢くて可愛い。
ぱりん、と最後の一片を割る。丁寧に割った煎餅のひとかけらを掴み、キョウスケは今か今かと待っているコウスケに差し出した。
「はい、コウ。あーん」
「あー」
かぱりと開いた口の中にひょいっと放り込んでやる。ボリボリかじりながらにっこりするコウスケを見ているだけで、キョウスケはお腹と胸がいっぱいだ。ああ、かわいい。弟の愛らしいこの笑顔を、コウスケを可愛がってくれる祖父母にも見せてあげたい。
そうだ。祖父母には後でこっそり電話しておこう、と思った。確か近々行く予定があった筈だ。おやつに煎餅が出てくれば、コウスケの祖父母への好感度も鰻のぼりである。
ああ、幸せだなあ、とキョウスケ。ぬくぬくの炬燵に、隣には弟。その弟が、煎餅を食べるだけでこんなに嬉しそうな顔をする。母に怒られたって、父に顰めっ面をされたって、コウスケのにんまり顔に勝てるものなんて何もない。
+++++
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...
MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。
ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。
さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?
そのほかに外伝も綴りました。
意味が分かると怖い話(解説付き)
彦彦炎
ホラー
一見普通のよくある話ですが、矛盾に気づけばゾッとするはずです
読みながら話に潜む違和感を探してみてください
最後に解説も載せていますので、是非読んでみてください
実話も混ざっております
還暦の性 若い彼との恋愛模様
MisakiNonagase
恋愛
還暦を迎えた和子。保持する資格の更新講習で二十代後半の青年、健太に出会った。何気なくてLINE交換してメッセージをやりとりするうちに、胸が高鳴りはじめ、長年忘れていた恋心に花が咲く。
そんな還暦女性と二十代の青年の恋模様。
その後、結婚、そして永遠の別れまでを描いたストーリーです。
全7話
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる