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いちごと弟
しおりを挟む(兄21・弟15)
それはある春も近い冬の日、最近つかまり立ちを覚えたばかりのコウスケと、キョウスケが炬燵で戯れていた時のこと。
「キョウスケ、苺食べない?」
「苺?」
「おばあちゃんが送ってくれたのよ」
と、上機嫌な母が持ってきたボールの中には大粒の赤い実がゴロゴロあった。母が炬燵のテーブルに置いたそれから一つ手に取り、ヘタをちぎってかぷりとかじりつく。
「あまい」
じゅわりと溢れるみずみずしい汁の甘いこと。
「まだいっぱいあるから、それは食べちゃって大丈夫よ」
「うん、ありがとう、母さん」
「あとで、おばあちゃんにお礼の電話しなさいね」
「うん」
優しく微笑む母に礼を言い、台所へ戻っていく背中を見送ってから新たな苺を手に取ると、ぐいぐいと腰のあたりのトレーナーを引っ張られる感覚があった。首を動かし、引かれている方を見る。引っ張っているのは無論、さっきまでキョウスケと遊んでいたコウスケだ。
もちもちのほっぺたにきらきらの黒目で見上げてくるコウスケは今日も世界一愛らしい。今日のコウスケが着ているのは、トラさんのトレーナーとズボンだ。数あるコウスケの衣服の中から、キョウスケが選んだ。
「コウも食べる?」
離乳食も始まり、なんでも食べたい小さな弟だ。苺なら大丈夫だろうと踏んで、ヘタを取り、キョウスケは一口大に割った実を、まんまるの目で待つコウスケの口元に差し出した。かぷり、とコウスケがキョウスケの指ごとかぶりつく。キョウスケが指を引き抜くと、コウスケはしばらく口をもぐもぐ動かして、こくりと頬が動いて、またじっとキョウスケを見た。心なし、小さな口が物欲しそうにあいて、あー、うー、しているような。
「はい、コウ。あーん」
『おかわり』を差し出すと、コウスケはまたかぷりっ、とキョウスケの指ごと食べて、もぐもぐして、無垢な黒目がまたじぃっとキョウスケを見上げた。
「コウ、口を開けろ」
「んぁ」
かぱとあいた口の中に、キョウスケはヘタをとった苺を押し込む。押し込まれたコウスケは、兄のマンションのリビングで、二人がけのソファーに腰かけて、つい先ほどまで参考書を読み耽っていたのだ。ほとんど反射であけた口に押し込まれた苺の果汁が、長く集中していてカラカラになった頭と喉を潤していく。
押し込んだキョウスケはというと、いつの間にか持ってきた苺のパックを座卓に置き、コウスケの隣でせっせとヘタ取りをしているのだから、なんというか、この兄は本当に弟に甘い。旬のメロンのように甘すぎる。
「糖分もとらないと頭によくないぞ。だが生憎、この家に糖分らしい糖分は今、苺しかない」
「おれ、自分で食べるからおいといていいよ」
「手が汚れるぞ。ベタつくし、洗いに立つのも面倒だろう」
ほら、とキョウスケが口元に差し出した赤い実を、コウスケは怪訝な目をしながら口内に招き入れた。噛む。汁がでる。甘い。うまい。お高い苺の味がする。
苺は甘い。手も汚れない。故に立つ必要がない。それはとてもいいことだとコウスケも思う。いいことだけども。
「兄さん」
「うん?」
「なんか、楽しそうだね」
「そうか?」
「うん。いきいきしてる」
「そうかもな」
はい。また新たな苺が口元に突き付けられる。それをくわえ、うろんげに見上げるコウスケの視線をキョウスケは笑い、
「なに、懐かしいことを思い出しただけだ」
と、摘まんだ赤い実を一つ、形のいい唇の奥に押し込んだ。
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