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赤、丸、艶々
しおりを挟む(兄23・弟17)
コウスケはキョウスケの弟である。
そして、夏といえばトマトである。
何を言ってるんだといわれるかもしれないが、夏といえばトマトである。
まだコウスケが小さな頃から、実家の庭には母が趣味で作った家庭菜園があった。そこで必ず、毎年作られるトマトが、夏の食卓の定番だったのだ。
生でも出てくるし、炒め料理でもスープでもなんでもおいしい。毎日飽きるほど食卓に並ぶトマトに嫌気がささなかったのは、ひとえに料理上手な母の手腕だ。
そして、それらが兄の好物だとコウスケが知ったのは、中学に上がった後の夏だった。
兄さんはトマトが大好きだったものね。
料理を習うコウスケに、母がそうそろりとこぼしたのだ。
嫌いなものは特になくとも、好きなものも特段なかったように見えた兄の好物をようやくコウスケが知った時、キョウスケはもう家に帰って来なかった。どれだけ待ったところで、食卓のコウスケの隣の席はぽっかり穴が空いたままだった。切って並べただけのトマトの皿を眺めるコウスケの気持ちを、コウスケ以外の誰もが知らない。
だが、今はどうだろう。コウスケが今立つキッチンは実家じゃない。
白いボウルの中に積まれた赤い艶々の夏野菜は、今日の朝に母が収穫し、わざわざ届けに来たものだ。
その横にあるトマト缶は、休日のたび泊まりに来るコウスケがいつでも使えるように、この部屋の主がキャビネットに常にストックしておいているものだ。その奥にあるミニトマトは、午前中に二人で行ったスーパーでコウスケが買ったもの。
すごい。赤い。
「すごいな。トマトまみれだ」
キッチンを覗きに来た部屋主の声がどこか浮わついて聞こえるのは、きっとコウスケの気のせいじゃない。振り返り、コウスケは仕方のない兄だと大袈裟に息を吐いてやった。
「好きでしょ」
「好きだな」
「いっぱい作るよ。一週間分」
「俺は死ぬんだろうか」
「縁起でもないこと言わないでよ。兄さんに健やかに生きてもらうために作るのに」
まったく、今日買い足した食材がなければ、冷蔵庫の中はすっかり綺麗であるからに。
「いっぱい作るから、ちゃんと食べてね」
「あぁ」
一言頷いたキョウスケは実に嬉しそうに喉を震わせて笑い、
「こんな贅沢をしている兄は俺くらいだな」
と、幸せを隠そうともせず声に咲かせるから、コウスケは兄を甘やかすのをどうしたってやめられないのだ。
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