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09.やってやろうじゃないか
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迷う必要もない。俺は鬼だ。それも人に制御されることのない時代からやってきた、自由な鬼だ!
「ふんっ!」
俺は徐に、事故で廃車確定の鉄の塊に拳を打ち込んだ。
「あぁ~! イタタタ! おぉ⁉︎ ラッキー? 制御用腕輪が壊れたぁ」
我ながら下手な演技ではあると思うが……勘弁しろ。俺に演技は無理だ!
物凄い棒読みなセリフを吐き、俺は壊れた腕輪を周りにいた人間に見せびらかした。
壊れた腕輪を引きちぎると、周りの人間は目に見えて青ざめ、引いた。
ある者は、塩だか豆だかを撒いて、遠ざかっていく。
時の鬼長が豆嫌いで『撒かれて逃げた』という迷信が未だに信じられてるのか⁉︎
っていうか、何で豆なんか持ってんだよ!
「おぉ、ありがとうよ! 俺は豆が好物なんだ」
別に好物ではないが。そいつらの態度が気に入らなかったんで少し意地悪をしてやる。
そう思って、目の前でボリボリと撒かれた豆を食ってやった。
「……っと、豆なんか食ってる場合じゃねぇな。たんくろーりーに潰されてる車から運転手助けてくるから、怪我人運ぶ用意してろよ!」
言って、俺はそちらに駆け出した。火の上がり始めた車を持ち前の跳躍力で飛び越え、押しつぶされている車まで辿り着く。
「大丈夫か! 今助けるぞ!」
「ぁあ……ありがたい! 足が挟まれて動けないんだ……!」
俺はドアをこじ開け、曲がった車の中からその人間を助け出した。
「人間というのも不便なものだな、あんな椅子一つ素手で壊せないとは」
椅子を細かく引きちぎったら余裕で隙間ができ、中年の小太りな男性運転手を助け出すのはとても簡単だった。
「はっはっは、そうだなぁ……!」
人間も、助かって安心したのか、鬼の俺を恐れることもなく身を委ねている。
「さぁ、爆発が起こる前に救援隊の方へ行くぞ。痛いの、我慢しとけよ?」
「ああ、勿論だ。命があるだけ儲けもん、ってな……」
意外と元気のいいおっさんだ。
「よし……!」
おっさんを横抱きにして、ぐちゃぐちゃになった車の上を行こうとすると、何かの『気配』がした。
「この感じは……」
先日行った事故現場で目の当たりにした爆発、それとよく似た感覚に、俺はマズイと思った。
ふと見ると、救援隊のところに光る一本角! 鬼灯か!
「おっさん、緊急事態だ。怖かったら目をつぶれ! あとは流れに身を任せろ!」
「? 流れに身を……⁉︎」
おっさんは、律儀に目を瞑った。
「鬼灯! 投げるぞ受け取れ‼︎」
「‼︎」
鬼灯は意図を理解したのか、瞬時に身構えた。その眼は赤く輝いている。
俺は迷わず投げ飛ばした。おっさんはまるで、祈るかのように手を合わせながら飛んでいく。
そして、その判断は間違いでなかったとすぐに判明した。
俺と鬼灯までにある車が爆発し、炎上し始めたのだ。爆発が爆発を呼び、すぐたんくろーりーまでくるだろう。
そうすれば、鬼の俺は最悪巻き込まれても生きていれるかもしれない、だがあの人間は間違いなく死んでいた。
次々と爆発が起こり、自分が助かるかどうかもわからない中、俺の心は昂揚感で一杯だった。
この時代の管理された鬼達には不可能だったろうこの所業。
おかしな話だ。人間たちは自分で自分の首も絞めているようなものではないか。
『鬼も人も、幸せに』か──
火の手が大きくなる中、俺は鬼灯の言葉を思い出していた。
俺だけでもダメでアイツがその希望の種だって言うなら───
「やってやろうじゃないか! 白虎の毛皮でパンツ作り!」
燃え盛る火を前にそう叫ぶと、背後でたんくろーりーが爆発したらしい。
その瞬間、俺は緑色の光に包まれて────
目が覚めた時には──落とし穴の底から星空が見えていた。
「ふんっ!」
俺は徐に、事故で廃車確定の鉄の塊に拳を打ち込んだ。
「あぁ~! イタタタ! おぉ⁉︎ ラッキー? 制御用腕輪が壊れたぁ」
我ながら下手な演技ではあると思うが……勘弁しろ。俺に演技は無理だ!
物凄い棒読みなセリフを吐き、俺は壊れた腕輪を周りにいた人間に見せびらかした。
壊れた腕輪を引きちぎると、周りの人間は目に見えて青ざめ、引いた。
ある者は、塩だか豆だかを撒いて、遠ざかっていく。
時の鬼長が豆嫌いで『撒かれて逃げた』という迷信が未だに信じられてるのか⁉︎
っていうか、何で豆なんか持ってんだよ!
「おぉ、ありがとうよ! 俺は豆が好物なんだ」
別に好物ではないが。そいつらの態度が気に入らなかったんで少し意地悪をしてやる。
そう思って、目の前でボリボリと撒かれた豆を食ってやった。
「……っと、豆なんか食ってる場合じゃねぇな。たんくろーりーに潰されてる車から運転手助けてくるから、怪我人運ぶ用意してろよ!」
言って、俺はそちらに駆け出した。火の上がり始めた車を持ち前の跳躍力で飛び越え、押しつぶされている車まで辿り着く。
「大丈夫か! 今助けるぞ!」
「ぁあ……ありがたい! 足が挟まれて動けないんだ……!」
俺はドアをこじ開け、曲がった車の中からその人間を助け出した。
「人間というのも不便なものだな、あんな椅子一つ素手で壊せないとは」
椅子を細かく引きちぎったら余裕で隙間ができ、中年の小太りな男性運転手を助け出すのはとても簡単だった。
「はっはっは、そうだなぁ……!」
人間も、助かって安心したのか、鬼の俺を恐れることもなく身を委ねている。
「さぁ、爆発が起こる前に救援隊の方へ行くぞ。痛いの、我慢しとけよ?」
「ああ、勿論だ。命があるだけ儲けもん、ってな……」
意外と元気のいいおっさんだ。
「よし……!」
おっさんを横抱きにして、ぐちゃぐちゃになった車の上を行こうとすると、何かの『気配』がした。
「この感じは……」
先日行った事故現場で目の当たりにした爆発、それとよく似た感覚に、俺はマズイと思った。
ふと見ると、救援隊のところに光る一本角! 鬼灯か!
「おっさん、緊急事態だ。怖かったら目をつぶれ! あとは流れに身を任せろ!」
「? 流れに身を……⁉︎」
おっさんは、律儀に目を瞑った。
「鬼灯! 投げるぞ受け取れ‼︎」
「‼︎」
鬼灯は意図を理解したのか、瞬時に身構えた。その眼は赤く輝いている。
俺は迷わず投げ飛ばした。おっさんはまるで、祈るかのように手を合わせながら飛んでいく。
そして、その判断は間違いでなかったとすぐに判明した。
俺と鬼灯までにある車が爆発し、炎上し始めたのだ。爆発が爆発を呼び、すぐたんくろーりーまでくるだろう。
そうすれば、鬼の俺は最悪巻き込まれても生きていれるかもしれない、だがあの人間は間違いなく死んでいた。
次々と爆発が起こり、自分が助かるかどうかもわからない中、俺の心は昂揚感で一杯だった。
この時代の管理された鬼達には不可能だったろうこの所業。
おかしな話だ。人間たちは自分で自分の首も絞めているようなものではないか。
『鬼も人も、幸せに』か──
火の手が大きくなる中、俺は鬼灯の言葉を思い出していた。
俺だけでもダメでアイツがその希望の種だって言うなら───
「やってやろうじゃないか! 白虎の毛皮でパンツ作り!」
燃え盛る火を前にそう叫ぶと、背後でたんくろーりーが爆発したらしい。
その瞬間、俺は緑色の光に包まれて────
目が覚めた時には──落とし穴の底から星空が見えていた。
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