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空の雲〜天界の天使の物語シリーズ〜

空の雲 10.特別な飲み物とエドウィンの告白(後半)

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「問題?」

「あぁ。今日ちょっと話したろ?
 俺は、誰かの描いた空の続きを描くのが得意なんだって」

 今日ビハールを手伝いに来てくれたエドウィンは、迷うことなく筆を進めていて『さすがエドウィン』としか思っていなく『自分もいつかそうなりたい』と、ただ感動していた。

 つついているイチゴを眺めながら言う、その彼の問題とは何だったのか、ビハールは穏やかな目で見つめながら静かに聞いた。

「手伝いに行った時、俺は……一から、何もないところから描き込むのが苦手なんだ、って気づいたんだ」

 それからはとにかく必死に、休憩時間を使って大変そうな仲間のところへ手伝いにいったのだとエドウィンは話した。

「もちろん上の連中と本人に、行っていいか聞いてからな。中には誇り持ってやってて一人でやり切るのを目標にしてる奴もいるから」

「……そうなんだ……でもどうして手伝いにいこうと思ったの? 一から描くのが苦手だってわかったなら、その練習をした方がよかったんじゃ……?」

「そうだな……そうかもしれないな……」

 ビハールの言葉に、少し迷うような瞳をして口ごもる。

「俺はあの時不安だったんだ──。自信も結構失くしてたし…………」

 そう言って黙りこくる姿を静かに見つめながら、思い出したくはないだろうその時のことを必死に伝えようとしてくれているエドウィンを、

 ビハールは待った。

 長いようで短い間をおき、その瞳は迷いの光を掻き消して、強い意志を持ってビハールを見た。

「多分……描きたいっていう気持ちを無くしたくなかったんだ」

 それは迷いのない言葉おとだった。

「雲絵師の部署に入ってからは悩みながら奮闘してきて……。
 お前と二人で練習という名の落書きを沢山楽しくやってきた事を思い出したんだよな……。
 それからだ。とにかく自分の得意をもっとハッキリと確認しようと思ったんだ。そこからまた何か思いついたら先に進めるんじゃないかってな」

 そう話すエドウィンの顔は、『天使の取り分』も手伝ってか、ほんのり赤く幸せそうな笑顔だった。

「お陰様で手伝ってるうちに、一人で描き切る……描き始める術も見つけたんだ。
 そして、その術がしっかりと身につくまで一年はかかった。
 それも……手伝わせてくれた皆がいたからできた事で、俺一人の力ではない」

 努力してきたのは自身なのだから、胸を張っても良いと思うのに、エドウィンはそうしない。
 みんなのおかげだから、と。

 イチゴをを二個口に放り込んでモグモグする姿を改めて尊敬の眼差しで眺めながら呟く。

「……そうなんだ……」

 そして、そういう風に考えるエドウィンだから、追いかけ続けたいのだと、改めて心の底から思った。

 その時──

「お、エドウィンじゃないか!」

 ビハールの背後から、見知らぬ天使がエドウィンに話しかけてきた。

「お前まだ雲絵師やってるんだって?」
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