薄紅色の図書室(短編集)

mamorie

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「推し」×「依存」

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僕は彼女を殺してやりたい。

そのステージで輝く笑顔を、ぐちゃぐちゃに歪められたらどれだけ幸せだろう。
彼女の曇りのない眼が曇ってしまう瞬間はどんな時だろう。
そんな妄想をしながら、僕は黙ってペンライトを振り続ける。

いつかこの手で彼女を殺めてしまわぬように、心を落ち着かせるように彼女からのファンサを受け止めた。


彼女は僕の全てだった。
彼女の笑顔は曇った僕の表情を和らげる。
歌の歌詞でも、ファンサでもなんでもいい。
『好き』って言ってもらえることが本当に嬉しかった。

僕も好きだよ、彼女に向かって囁く。
好きだ好きだ好きだ。本当に好き。
好きすぎて殺してやりたい。


そんなことを思いすぎてバチが当たったのだろう。
僕はある日突然彼女に裏切られた。

ライブの帰り、男と歩く彼女を見た。
彼氏がいるのはいい。
だけどバレないように変装すればいいのに、そんなことも出来ない彼女のプロ意識の低さに、堪らなく嫌気がさした。
このまま殺してやりたかった。

もう訳が分からなくなって僕は走って逃げた。

家に帰ると僕の部屋には彼女のポスターやチェキ、アクリルスタンドがあって凄く凄く汚く見えた。

ポスターを破った。
アクリルスタンドを折った。
ぐちゃぐちゃになった彼女は、相変わらず僕の目には輝いて見えたが何故かとてもお似合いに見えた。

ぐちゃぐちゃでも彼女は綺麗だった。
綺麗なのが腹立たしい。

僕を狂わせた責任を取ってよ。
僕に向けた笑顔を返してよ。

僕の大好きな彼女を返してよ。

最後のチェキを握りしめた。
ふと中学生の時に読んだ文章を思い出す。

クジャクヤママユをこなごなに潰した彼はどんな気持ちだったのだろう。
苦しいか?辛いか?

なんでだよ、全部自業自得だろうが。

彼女も僕の手でぐちゃぐちゃになってしまった。
僕今でも彼女を殺してやりたい。

でもそんなことはできないから、

こっそり隠し撮りした彼女の逢瀬を、僕は彼女の事務所宛に送信した。

僕は彼女を殺してやりたい。

あのね、ずっとずっと僕だけが君のこと大好きだからね。
だから君は、
もっと歌って。
もっと踊って。
もっと笑って。
もっと好きって言って。


お願い、僕の好きを受け止めてよ。
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