異世界コンビニ☆ワンオペレーション

山下香織

文字の大きさ
6 / 107
第一部 第一章 混沌の世界

6・そんなんじゃないんだから

しおりを挟む
 午前九時三十分。タブレット端末に表示された時間です。
 お店の壁にある時計も同じ時間を指しています。

 私が居た世界では夜でした。この世界に移動した時は昼。
 そして時計の示す通り、今は朝。

 私は夜から昼の世界に飛ばされたのではなかったのでしょうか。
 あの一瞬で、実は時間の流れは夜から昼に進んでいたのでしょうか。
 そして元の世界とこの世界では、流れる時間は同じなのでしょうか。

 通う電気や水道、謎の翻訳機能。

 この世界で難しい事は、考えない方がいいのかも知れません。

 そう思わせるような出来事が、今日も起きました。

 店内の時計が示す時間は元の世界では、CDCの二便が届く時間でした。
 お弁当やおにぎりが届く時間です。
 
 それは一日に三回、一便から三便まであります。一便は日付の変わった夜中です。
 二便は朝の九時過ぎに来ます。
 まさにそんな時間に彼はやって来ました。

「おはざまーす」

 カウンター内を掃除していた私は、突然の訪問者に驚きます。

「お、おはようございます」

 外には馬車が停まっていました。幌付きの立派な馬車です。
 彼は木箱を馬車からいくつも降ろして、次々と店内へと運び始めました。

「あ、あの……どちらさまで?」
「俺ですか? 俺は王都配送センターのフーゴってもんです」

「えと、フーゴさん。この荷物は?」
「ご注文の品ですよ。中身は、ポーションですね。確認してください」

「……ポーション」

 本当に届きました。発注したポーション。
 木箱六箱に詰められた、小瓶の中身はポーションらしいです。

「ありあっしたー」
「あ! ちょっとまって!」

「はい?」
「これはどこから運んで来たのですか?」

 踵を返そうとしたフーゴさんを慌てて呼び止めた私は、気になった事を尋ねました。

「王都の配送センター。そこの集配所からですよ。うちらは運んでるだけなんで送り主は分かりません」
「そうなのですか……おつかれさま……でした」

「では、これで!」

 フーゴと名乗った方は馬車の御者台に乗ると、颯爽と去って行ってしまいました。
 送り主の事は分かりませんでした。
 木箱をそのままにしておけないので、カウンターの中へ運び入れます。

「結構……重い」

 通常だとPOTという端末で検品をしなければならないのですが、この世界の商品にバーコードがあるわけもなく、ひとつひとつ数えて確認しなければなりません。

「これはヒールかな、キュアかな……あっ」

 ひとつを手に取って調べていたら……ありました……バーコード。

「うそでしょ……」

 バックルームからPOTを持ち出し、検品の項目を選んでスキャンしてみました。

 ピッと何事も無く読み取ったそれは『ハイ・ヒール・ポーション 99』と表示されます。
 発注したポーションに間違いありません。

 ポーションの小瓶にはバーコードはあれど、製造元などは何も書かれていませんでした。

「この商品の代金は誰が払うのよ。まさか振り込めとか?」

 店内に設置してあるATMを調べました。画面は文字化けしています。使えそうもありません。

 後で何らかの形で、請求が来ると思っていた方がいいかもしれません。
 そうなると、この商品もタダで配るわけにも行きません。
 ちゃんと代金をいただいて、それを取っておかないと後々怖いです。



 夜になってランドルフが来ました。

「本当にポーションが届いたんだね」
「はい、届きました。どうしましょう」

「是非騎士団の備蓄に欲しいのだが、どうだろう?」
「あとで請求きたら嫌だから、ちゃんとお金くれますか?」

「もちろんだ。相場通り払うよ」

 レジでポーションのバーコードをスキャンしてみました。

『ノーマル・ヒール・ポーション ¥1000』

 レジのタッチパネルに表示されました。

「千円ですって。わかる?」
「銀貨一枚か。相場通りだと思う」

 私の千円という言葉は、ランドルフには銀貨一枚と聞こえるのでしょうか。

 だとしたら、ランドルフの銀貨一枚と言う言葉は、何故私の耳に千円と聞こえないのでしょう。

 ちゃんとそのまま、『銀貨一枚』と聞こえるのです。本当に謎翻訳です。

「騎士団でどれくらいほしいの?」
「そうだな、全部の種類を……入荷したのは九十九だったかな? 半分は欲しいかな。各五十個だ」

「わかったわ。今持っていくの?」
「明日馬車で応援も連れて来るよ。今はお金も持って来てないしね」

「はい。かしこまりました。お客様」

 ちゃんとお支払い頂けるのでしたら、私に否やはありません。ランドルフの欲しいだけお売りする事にしました。

「しかし、本当に届くとは凄いな。後で違う商品もないか調べておいてくれないか。サオリ」
「そうね。何かあればランドルフに優先して渡してあげる」

「助かる」

 私はついでに揚げ物で使う油が手に入らないか、訊いてみる事にしました。

「ねえランドルフ、王都で食用の油を売っているお店はある?」
「ああ。もちろんあるぞ。欲しいのかい?」

「あるんだ? うちの油を補充したいのよ。少し買ってきてもらえないかな?」
「ああ、構わないよ。明日にでも見てくるよ」

「ありがとう。ランドルフ」

 お店の油はまだ少し予備はあります。でもこの世界の食用油がどんなものか、早めに知っておきたかったのです。

 フライヤーで使う油はずっと使っていると品質が悪くなります。

 今は私専用となっているので、ギリギリまで交換しないでいますけど、酸化した油を使い続けると体に悪いと聞きます。

 コンビニでは油の品質を管理するために、ペーハー紙が常備されています。
 これによって酸化値が2.5以下のうちに油を交換する事になっているのです。
 うちのお店では酸化値がそこまで上がらない内に交換できるように、決められた曜日に週二回交換していました。

「そうだサオリ、明日はポーションの受け取りもあるから来るけど、その次の日からはすこし王都を離れる事になる」
「え?」

「護衛の仕事が入った。十日もすれば帰ると思うが、この辺りの巡回は違う者が回る事になるだろう」
「そうなんだ。気を付けて行って来てね」

「ああ。ありがとう」

 それを聞いた時、私の心に広がった寂寥感に、あっと思いました。まずいと思いました。

 この短期間で既に私は、このランドルフに依存してしまっていたのです。

 恋心……そんな単語も浮かびましたが、それは心の奥に押し込みました。
 私はこの異世界でひとり、生きて行かなくてはならないのです。
 誰かに依存してしまって、それが当たり前になってはいけないのです。

 もし元の世界に戻れる事になった時に、選択を迫られるような事態になりたくはないのです。
 私は元の世界に戻りたい。戻るのが当たり前なのです。
 この世界の誰かについて行こうなどと、考える事もないのです。

 私は自分の心に言い聞かせるように、戒めます。
 だって、二度と帰れないなんて、思いたくないですから。
 きっと、帰れるって信じていたいですから。

 私はともすれば溢れそうになる寂しさを隠すように、ランドルフに告げます。

「私は大丈夫だから、その仕事に勤しんできてくださいな。……私は寂しいなんて思ってないんだからっ……絶対思わないんだから!」

 どこのツンデレですか……。

しおりを挟む
感想 9

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

転生したら世界一の御曹司だった〜巨乳エルフメイド10人と美少女騎士に溺愛されています〜

まさき
青春
異世界転生した最強の金持ち嫡男、 専属エルフメイドと美少女騎士に囲まれて至福のハーレム生活   現代日本で「地味だが実は超大富豪」という特殊な人生を送っていた青年は、ある日事故で命を落とす。   しかし目を覚ますと、そこは魔法と様々な種族が存在する異世界だった。   彼は大陸一の富を誇る名門貴族―― ヴァン・バレンティン家の嫡男カイルとして転生していたのだ。   カイルに与えられたのは ・世界一とも言える圧倒的な財力 ・財力に比例して増大する規格外の魔力   そして何より彼を驚かせたのは――   彼に仕える十人の専属メイド全員が、巨乳美少女だったことである。   献身的なエルフのメイド長リリア。 護衛騎士でありながら隙あらば誘惑してくる女騎士シルヴィア。   さらに個性豊かな巨乳メイドたち。   カイルは持ち前の財力で彼女たちの願いを叶え、最高級の装備や生活を与えていく。   すると彼女たちの忠誠心と愛情はどんどん加速していき――   「カイル様……今日は私が、お世話をさせてください」   領地を狙う貴族を金と魔力で圧倒し、 時にはメイドたちの愛が暴走して甘すぎる時間に巻き込まれながらも、   最強の御曹司カイルは 世界一幸せなハーレムを築いていく。 最後までお読みいただきありがとうございました。よろしければ応援をお願いいたします。

酒好きおじさんの異世界酒造スローライフ

天野 恵
ファンタジー
酒井健一(51歳)は大の酒好きで、酒類マスターの称号を持ち世界各国を飛び回っていたほどの実力だった。 ある日、深酒して帰宅途中に事故に遭い、気がついたら異世界に転生していた。転移した際に一つの“スキル”を授かった。 そのスキルというのは【酒聖(しゅせい)】という名のスキル。 よくわからないスキルのせいで見捨てられてしまう。 そんな時、修道院シスターのアリアと出会う。 こうして、2人は異世界で仲間と出会い、お酒作りや飲み歩きスローライフが始まる。

最弱スライムに転生した俺、捕食スキルで無限進化していたら魔王軍すら支配してました

チー牛Y
ファンタジー
残業中に倒れた俺が次に目を覚ました時、なぜか異世界で最弱モンスターのスライムになっていた。 完全に詰んだ、戦う力もない。そう思っていた時、俺には一つだけ、とんでもないスキルがあった。 【捕食】 それは、倒した相手を取り込み、能力・スキル・力のすべてを奪うチート能力だった。 ゴブリンを食べれば腕力を獲得。 魔物を食べれば新スキルを習得。 レベルは爆速で上がり、進化は止まらない。 森の魔物を支配し、ダンジョンを制圧し、気づけば俺は魔物たちの王になっていた。 やがてその力は魔王軍すら飲み込み、世界の勢力図を塗り替えていく。 これは―― 最弱スライムから始まる、無限進化の成り上がり無双譚。

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

【完結】異世界で魔道具チートでのんびり商売生活

シマセイ
ファンタジー
大学生・誠也は工事現場の穴に落ちて異世界へ。 物体に魔力を付与できるチートスキルを見つけ、 能力を隠しつつ魔道具を作って商業ギルドで商売開始。 のんびりスローライフを目指す毎日が幕を開ける!

ジャングリラ~悪魔に屠られ魔王転生。死の森を楽園に変える物語~

とんがり頭のカモノハシ
ファンタジー
「別の世界から勇者を召喚する卑怯な手口」に業を煮やした堕天使・ルシファーにより、異世界へ魔王として転生させられた大学生・左丹龍之介。 先代・魔王が勇者により討伐されて100年――。 龍之介が見たものは、人魔戦争に敗れた魔族が、辺境の森で厳しい生活を余儀なくされている姿だった。 魔族の生活向上を目指し、龍之介は元魔王軍の四天王、悪魔公のリリス、フェンリルのロキア、妖狐の緋魅狐、古代龍のアモンを次々に配下に収めていく。 バラバラだった魔族を再び一つにした龍之介は、転生前の知識と異世界の人間の暮らしを参考に、森の中へ楽園を作るべく奔走するのだが……

異世界転生したらたくさんスキルもらったけど今まで選ばれなかったものだった~魔王討伐は無理な気がする~

宝者来価
ファンタジー
俺は異世界転生者カドマツ。 転生理由は幼い少女を交通事故からかばったこと。 良いとこなしの日々を送っていたが女神様から異世界に転生すると説明された時にはアニメやゲームのような展開を期待したりもした。 例えばモンスターを倒して国を救いヒロインと結ばれるなど。 けれど与えられた【今まで選ばれなかったスキルが使える】 戦闘はおろか日常の役にも立つ気がしない余りものばかり。 同じ転生者でイケメン王子のレイニーに出迎えられ歓迎される。 彼は【スキル:水】を使う最強で理想的な異世界転生者に思えたのだが―――!? ※小説家になろう様にも掲載しています。

処理中です...