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第一部 第一章 混沌の世界
11・ズルい女
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―― 5日目 ――
やはり夜になると魔物は襲って来ないようです。それに何か意味があるのかは分かりません。
ですがそれは店内だけの話で、エリオットが外に出ると、サメは途端に襲ってくるようです。
結局昨夜もエリオットは王都行きを諦めて、お店に泊まりました。
お昼前にそれはやってきました。
「おはざまーす!」
「おはようございます。フーゴさん」
先日と同じ人が、馬車で荷物を運んで来ました。
「サメは大丈夫でしたか? フーゴさん」
「俺の配達の邪魔は誰にもさせねえ! サメごときが俺を止められるワケがねえ!」
「そ、そうなのですか……」
サメの泳ぐ砂漠地帯を、普通に抜けてきたようです。
「ありあっしたー!」
フーゴさんは店内へと木箱を運び入れた後、馬車に乗り込み、颯爽と去って行きます。
あ、サメがフーゴさんの馬車に轢かれました。
「エリオットさん! 来ましたよ!」
木箱は二つあります。一つはマナ・ポーション、もう一つには鞭が入っていました。
鞭はクルクルと巻かれた状態で入っています。
「おい、マジかよ。俺の使っていた鞭だ。しかも新品になってやがる」
エリオットは鞭を手に取り、信じられないと言った表情で、冷や汗さえかいています。
「ちょっといいですか、エリオットさん」
私は鞭を返してもらい、調べます。
「あ、あった。バーコード」
手で持つ柄の部分にありました。レジに通してみます。
ピッとスキャンすると、POSレジの画面に値段が表示されます。
『プロフェッサー・ウィップ 1億円』
「だそうです。エリオットさん。どうしますか?」
「どうしますかじゃねぇよ、それ俺のじゃないのか?」
「当店で入荷したものですよ、エリオットさん。お買い上げになりますか?」
「ちょっとまて、金貨千枚なんて持ってない。いや、持ってはいるが今ここにはない」
一億円は、こちらの世界では金貨千枚らしいです。
「一億円、持ってるんですか……すごいですね」
ヒール・ポーションの代金も相当な額になっていましたが、この人は手持ちでお金を持っていました。
トレジャーハンターも上手くやれば、かなり稼げる仕事なのでしょうか。
「ちょっと貸してくれ」
再び鞭を手に持つと、エリオットは軽く一振りします。
ピシィ! と床に鞭がしなやかに打ち付けられた後、さらに一振りしました。
ガン! と今度は鞭が棒状に変化し、セラミックコーティングのお店の床に、硬い音を響かせました。
これの事でしょうか、商品詳細にあった魔力感知型の変形とは。
「本物だ。これは俺が使っていた鞭だ。ユニークアイテムで唯一の物だ」
「お気に召しましたでしょうか? お買い上げですか?」
「くそっ。後で必ず払う。貸しにしてくれないか」
「お店にその商品の、仕入代金の請求が来たら困るのですが」
「むむむ」
エリオットは悩んでいます。
「金はちょっと遠い場所に隠してあるんだ。取りに行くのは……王都に寄ってからだな」
「王都へは行けそうですか?」
「ワームはどうにかなる。サメは大群で来られるとマズイな。ワームとセットだと最悪だ」
「王都に行けばなんとかなるのですか?」
「なんとかする。まず王国の軍が動くだろう。Aランクの魔物がわんさか来るんだ。国も堪らないだろう」
「エリオットさんは酷いですね」
「まあな。独立自尊が信条だが、利用出来るものは利用するってのも、俺の信念でもあるんだ」
「酷いし、ずるいんですね」
「なんとでも言え。生き残れば勝ちだ」
私としてはすぐに鞭を渡してあげたい所なのですが、後で請求が来た時に支払が出来なかったらどうなるか、想像もつかないのです。
この世界の事です、命で精算しろとなったら嫌です。
「お昼はコロッケでいいですか?」
そろそろお昼の時間です。抜いてもいいのですが、賞味期限の早いものから消費していかないと、無駄になってしまいます。
「えびピラフとやらが美味かったのだが、それはないのか?」
「あれは大変貴重なものなのです。あの時は特別サービスだったのですよ。食べたかったら一億円いただきます」
「……コロッケください」
フライヤーに冷凍のコロッケ三個を置いて、Bモード三番のボタン、六分でセット。
コロッケを置いた籠が自動で百七十度の油に下りていきます。
ジュワアと一気に油が踊ります。
出来上がる前に私はバックルームのストコンの前に行きました。調べたい事があったのです。
DOTの商品詳細では載っていない事が、ストアコンピューターでは調べられます。
ストコンのモニターは相変わらず文字化けしていましたが、私の長年の感で目的のボタンの場所の辺りをクリックします。
クリック、クリック、クリック、出ました。目的のページです。
ここまでくると、文字化けはありません。さらにクリックしてそれが出るまで流します。
ありました。商品情報。――『教授の鞭』を表示。
ここで私が見たかったのは、商品の原価です。教授の鞭は――
『教授の鞭 原価 0 販売小売価格 1億円 利益率100』
「ええー!?」
思わず声に出ました。
「ポーションは?」
――これも原価ゼロでした。
「……ぼろ儲けだ」
これはどういう事なのでしょうか。
いくつかのパターンを考えてみます。
1・これを送ってくる者は、元手が掛かっていない。
そして儲けるつもりがないので、そのまま送ってくる。
2・元手が掛かっていないが、売り上げの何パーセントかを送金しなければならない。
3・本当は元手が掛かっているが、私にサービスしたい。
4・創造してしまうので元手もなにもない。
1はストレートに考えるとそうかな? というもの。持ち主の居なくなった武器を表示した事もその理由。でもどうやって手に入れているのでしょう。
2はこの世界に来てから私は精算業務を一度もしていないのに、何のペナルティも発生していないから、関係ないかも。
3は私の隠れファンがこの世界に居て、私に貢ぎたいと思っている人。私が大好きな人。私と結婚したいと思っている人。(きっとイケメン)
4は突拍子もない事のように思えて、意外とありえるかも知れない話。
だって私、既に異世界転移とかしちゃってるんですよね。その時点でもう、ありえないです。
謎翻訳やお店のインフラ整備、結界に発注システム。ここまで好き放題出来るって何者ですか? 何様ですか?
私の相手って神様なんじゃないでしょうか。
「いちばん怪しいのは三番ね」
考える事を放棄しました。
カウンターに戻るとエリオットが、どうした? といった顔をしています。
「何か叫んでなかったか?」
「い、いえ……なんでもないです」
とりあえず黙っておく事にします。さっき彼にずるいと言ったばかりの私は何なのでしょう。
ピーッピーッピーッと三回、フライヤーの終了音が響きました。
「コロッケが出来ましたよ。食べましょうか。あ、これはサービスです」
私は元の世界に戻るまで、ここで生きて行かなければなりません。それがどれくらいの期間なのかも分かりません。
限られた食材はやがて尽きます。お金はあった方がいいですよね?
私はズルい女なのでしょうか。
やはり夜になると魔物は襲って来ないようです。それに何か意味があるのかは分かりません。
ですがそれは店内だけの話で、エリオットが外に出ると、サメは途端に襲ってくるようです。
結局昨夜もエリオットは王都行きを諦めて、お店に泊まりました。
お昼前にそれはやってきました。
「おはざまーす!」
「おはようございます。フーゴさん」
先日と同じ人が、馬車で荷物を運んで来ました。
「サメは大丈夫でしたか? フーゴさん」
「俺の配達の邪魔は誰にもさせねえ! サメごときが俺を止められるワケがねえ!」
「そ、そうなのですか……」
サメの泳ぐ砂漠地帯を、普通に抜けてきたようです。
「ありあっしたー!」
フーゴさんは店内へと木箱を運び入れた後、馬車に乗り込み、颯爽と去って行きます。
あ、サメがフーゴさんの馬車に轢かれました。
「エリオットさん! 来ましたよ!」
木箱は二つあります。一つはマナ・ポーション、もう一つには鞭が入っていました。
鞭はクルクルと巻かれた状態で入っています。
「おい、マジかよ。俺の使っていた鞭だ。しかも新品になってやがる」
エリオットは鞭を手に取り、信じられないと言った表情で、冷や汗さえかいています。
「ちょっといいですか、エリオットさん」
私は鞭を返してもらい、調べます。
「あ、あった。バーコード」
手で持つ柄の部分にありました。レジに通してみます。
ピッとスキャンすると、POSレジの画面に値段が表示されます。
『プロフェッサー・ウィップ 1億円』
「だそうです。エリオットさん。どうしますか?」
「どうしますかじゃねぇよ、それ俺のじゃないのか?」
「当店で入荷したものですよ、エリオットさん。お買い上げになりますか?」
「ちょっとまて、金貨千枚なんて持ってない。いや、持ってはいるが今ここにはない」
一億円は、こちらの世界では金貨千枚らしいです。
「一億円、持ってるんですか……すごいですね」
ヒール・ポーションの代金も相当な額になっていましたが、この人は手持ちでお金を持っていました。
トレジャーハンターも上手くやれば、かなり稼げる仕事なのでしょうか。
「ちょっと貸してくれ」
再び鞭を手に持つと、エリオットは軽く一振りします。
ピシィ! と床に鞭がしなやかに打ち付けられた後、さらに一振りしました。
ガン! と今度は鞭が棒状に変化し、セラミックコーティングのお店の床に、硬い音を響かせました。
これの事でしょうか、商品詳細にあった魔力感知型の変形とは。
「本物だ。これは俺が使っていた鞭だ。ユニークアイテムで唯一の物だ」
「お気に召しましたでしょうか? お買い上げですか?」
「くそっ。後で必ず払う。貸しにしてくれないか」
「お店にその商品の、仕入代金の請求が来たら困るのですが」
「むむむ」
エリオットは悩んでいます。
「金はちょっと遠い場所に隠してあるんだ。取りに行くのは……王都に寄ってからだな」
「王都へは行けそうですか?」
「ワームはどうにかなる。サメは大群で来られるとマズイな。ワームとセットだと最悪だ」
「王都に行けばなんとかなるのですか?」
「なんとかする。まず王国の軍が動くだろう。Aランクの魔物がわんさか来るんだ。国も堪らないだろう」
「エリオットさんは酷いですね」
「まあな。独立自尊が信条だが、利用出来るものは利用するってのも、俺の信念でもあるんだ」
「酷いし、ずるいんですね」
「なんとでも言え。生き残れば勝ちだ」
私としてはすぐに鞭を渡してあげたい所なのですが、後で請求が来た時に支払が出来なかったらどうなるか、想像もつかないのです。
この世界の事です、命で精算しろとなったら嫌です。
「お昼はコロッケでいいですか?」
そろそろお昼の時間です。抜いてもいいのですが、賞味期限の早いものから消費していかないと、無駄になってしまいます。
「えびピラフとやらが美味かったのだが、それはないのか?」
「あれは大変貴重なものなのです。あの時は特別サービスだったのですよ。食べたかったら一億円いただきます」
「……コロッケください」
フライヤーに冷凍のコロッケ三個を置いて、Bモード三番のボタン、六分でセット。
コロッケを置いた籠が自動で百七十度の油に下りていきます。
ジュワアと一気に油が踊ります。
出来上がる前に私はバックルームのストコンの前に行きました。調べたい事があったのです。
DOTの商品詳細では載っていない事が、ストアコンピューターでは調べられます。
ストコンのモニターは相変わらず文字化けしていましたが、私の長年の感で目的のボタンの場所の辺りをクリックします。
クリック、クリック、クリック、出ました。目的のページです。
ここまでくると、文字化けはありません。さらにクリックしてそれが出るまで流します。
ありました。商品情報。――『教授の鞭』を表示。
ここで私が見たかったのは、商品の原価です。教授の鞭は――
『教授の鞭 原価 0 販売小売価格 1億円 利益率100』
「ええー!?」
思わず声に出ました。
「ポーションは?」
――これも原価ゼロでした。
「……ぼろ儲けだ」
これはどういう事なのでしょうか。
いくつかのパターンを考えてみます。
1・これを送ってくる者は、元手が掛かっていない。
そして儲けるつもりがないので、そのまま送ってくる。
2・元手が掛かっていないが、売り上げの何パーセントかを送金しなければならない。
3・本当は元手が掛かっているが、私にサービスしたい。
4・創造してしまうので元手もなにもない。
1はストレートに考えるとそうかな? というもの。持ち主の居なくなった武器を表示した事もその理由。でもどうやって手に入れているのでしょう。
2はこの世界に来てから私は精算業務を一度もしていないのに、何のペナルティも発生していないから、関係ないかも。
3は私の隠れファンがこの世界に居て、私に貢ぎたいと思っている人。私が大好きな人。私と結婚したいと思っている人。(きっとイケメン)
4は突拍子もない事のように思えて、意外とありえるかも知れない話。
だって私、既に異世界転移とかしちゃってるんですよね。その時点でもう、ありえないです。
謎翻訳やお店のインフラ整備、結界に発注システム。ここまで好き放題出来るって何者ですか? 何様ですか?
私の相手って神様なんじゃないでしょうか。
「いちばん怪しいのは三番ね」
考える事を放棄しました。
カウンターに戻るとエリオットが、どうした? といった顔をしています。
「何か叫んでなかったか?」
「い、いえ……なんでもないです」
とりあえず黙っておく事にします。さっき彼にずるいと言ったばかりの私は何なのでしょう。
ピーッピーッピーッと三回、フライヤーの終了音が響きました。
「コロッケが出来ましたよ。食べましょうか。あ、これはサービスです」
私は元の世界に戻るまで、ここで生きて行かなければなりません。それがどれくらいの期間なのかも分かりません。
限られた食材はやがて尽きます。お金はあった方がいいですよね?
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