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第一部 第二章 異世界の住人
25・ランドルフのいとこ
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王都の街並みはまさに都会でした。
馬車は検問所の預かり所で預かってもらい、私たちは徒歩で散策中です。
東京のビルディング群のような高い建物はありませんが、広めの整備された石畳の路――さすがにアスファルトではありませんね――の両脇にズラリと並ぶお店の数々は、人通りの多さも手伝って、原宿の竹下通りの道路が広いバージョンと言った所でしょうか。
「ここは玄関口だからね。特に色んな店がたくさん集まっているんだよ。住宅街はもっとずっと奥の方だ」
人が多いので、はぐれないようにラフィーと手を繋ぎ、その流れでさりげなくランドルフの手も握りました。
「はぐれたら困りますからね」
背の高い鎧姿のランドルフと、手を繋いで歩く、小柄な私とお子様なラフィー。
補導されたわけではありませんよ?
誰が何と言おうと、デート中なのです。
私たちは手当たり次第にお店を回りました。
洋服、雑貨、食糧、家具等を見るだけでなく、持ってきたノートに簡単なイラストと説明付きで、書きとめていきます。
どれも異世界の物だからと言って、特別な作りという事もありません。
デザインは少し古い時代の、西洋風と言った所でしょうか。
「おねえちゃん、ひまー」
ラフィーが飽きてきたようです。
「休憩しましょうか。どこかに落ち着けるお店はないかしら」
「この辺りの店はどこも混んでいるから、もうちょっと離れた所に移動しよう」
ラフィーもランドルフに慣れたのか、今はおんぶしてもらっています。
ずいぶんと懐いたものですね。
やはり親子に見えなくもないです。
鎧の背中にしがみついて、ウトウトし始めた天使は……か、可愛いです。
「ねえパパ」
「ん? パパ?」
「あ、ごめんなさい。ちょっと言ってみたかっただけ」
「そ、そうか」
「ねえ、あそこのお店なんてどう?」
一見レストランのようですが、小さなお店を発見した私は指を差します。
カフェと言ってもいい、おしゃれな感じの佇まいのお店です。
「よし、入ろう」
お店の扉を開けると、カラランと鈴が鳴って来客を知らせます。
「こういうアイデアはどこでも考えつくものなのね」
テーブル席が四つだけのこぢんまりとした店内で、所々に花が配置されていてとてもおしゃれに感じます。
お客は奥のテーブルに、三人居るだけのようです。
ランドルフとは違った、装飾の派手な鎧姿の青年と、ローブ姿の男性と女性でした。
「おや? ランドルフじゃないか、こんな店で会うとは珍しいね(笑)」
その一番奥のテーブル席の鎧姿の青年が、突然ランドルフに声を掛けてきました。
その声を聞いた瞬間、何故かイラっとしてしまいました。――言葉尻に嫌味な薄笑いを感じたからでしょうか。
「なんだお前も居たのか、ローランド。久しぶりだな」
知り合いのようです。
「まさか騎士団の鎧を着たままデートじゃないだろうね(笑)小さな可愛い子も連れているようだが、迷子でも引き取ったのかい?(笑)」
鎧姿の金髪のイケメンは、どことなくランドルフに似ています。
ですが必ず言葉尻に含まれる薄ら笑いは、どうにも気持ちが悪いです。
「紹介するよ、サオリ。こいつは俺のいとこのローランド。勇者ローランドだ」
「やあ、お嬢さん(笑)僕が勇者のローランドだよ。もちろん知っているだろう? 勇者と言ったら僕しか居ないからね(笑)」
いとこ? しかも勇者ですって?
ランドルフが勇者の家系?
「あ、どうも……はじめまして」
「ん?」
「俺たちはこっちのテーブルに着くとするか」
勇者ローランドの居るテーブルは、既にローランドを含めて三人が座っています。
その席から通路を挟んだ隣のテーブルに私たちは落ち着きました。
「お腹は減ってないかい? 好きなものを頼むといい」
「そうね。軽く何か食べようかしら」
「こーな」
店員さんが注文を取りに来て、私たちは同じもの――パンとサラダと果実ジュースを頼みました。
ローランドという勇者をチラリと見ます。
二十歳くらいでしょうか。とても若い印象ですが、やはりランドルフと顔立ちが少し似ています。
「あなた、勇者様の家系だったの?」
「うん、まあね。勇者が選ばれるのに家は関係ないけどね。彼は若いけれど素質があったのさ。三年くらい前になるかな、魔王討伐の立役者だ」
魔王? 討伐? ではこの世界には既に魔王は存在しないという事でしょうか。
「それは凄いのね。魔王討伐と言ったら天使も加勢に出たのかしら」
勇者ローランドの耳が、ピクリと動いたような気がしました。
「天使が加勢だって? 魔王の討伐でそんな話は聞いた事がないけどな」
ランドルフは知らないようですが、私は最初にラフィーに会った時に聞いています。
そしてカーマイルも言っていました。勇者が魔王を討伐する時には天使が加勢すると。
「ラフィー知ってるよー。ラフィーも居たもん。こんかいの勇者は弱くて天使たちを六人も送り込むことになったーってミシェールがプンプンしてたー」
「ちょーーーっと待った! おチビちゃん! 君はいったい何を言っているのかなあ!?(笑)」
ガタンと突然席を立ったローランドが、ラフィーを睨みつけながら薄ら笑いという、顔芸をやっています。
「おじちゃん、ラフィーの事、おぼえてないのお? 死にそうになってるの何度も助けたのにぃ」
「お、おじ!? いいかい? おチビちゃん。君はきっと夢を見たんだ。きっとそうだ。そうに違いないのだよ(笑)」
ラフィーが嘘を言っているとは思えません。
きっとこの勇者は歴代のそれと比べてとても弱く、天使たちをたくさん投入しなければ魔王討伐もままならなかったのに違いありません。
ラフィーがいつになく長台詞だったのは、この勇者に多少なりとも怒っているからなのかもしれません。
「おっと、いけない。僕はこれから大事な用があったのだ。勇者ともなると毎日がとても忙しくてね。ではこれで失礼するよ(笑)」
勇者ローランドはテーブルの脇に置いてあった大きな剣を手にすると、逃げるようにお店から出て行ってしまいました。
後に取り残されたローブ姿の二人も、やれやれといった顔で後を追います。
二人とも杖を持っています。勇者のパーティーなのでしょうか。
「そうか、天使か。なるほどな。実は勇者とはいえ、彼はまだまだ実力的にどうかと世間でも噂されていたんだよ」
「ラフィーがんばったんだよー。それなのに魔王にトドメさすの、さっきのおじさんに取られたのー」
「まさかの良いとこ取り!? 勇者! そ、そうだったんだ……ラフィーはいい子ね。頑張ったんだね」
とんだ暴露ネタを知ってしまいましたが、私には関係のない事です。
「もしかしてランドルフも強かったりするの? その……勇者の素質があるとか」
「はは、俺にそんな力はないよ。たまたま彼がいとこってだけだ。ただ有名人を身内に持つとそれなりに面倒もあるけどね、そうやって俺も勇者並みに強いとか思われてしまう」
「そうか。……ごめんなさい。ランドルフには勇者になんてなってほしくないわ。魔王討伐なんて怖いもの」
そういえば――
少し気になった事を訊いてみました。
「さっきの勇者が持っていた大きな剣、あれってもしかして」
「ああ、勇者の剣かい? あれは特別な剣でね、勇者にしか持てないんだ」
「名前は――」
「エクスカリバーだよ」
やっぱり。
いつかエリオットが言っていた剣です。
あれもきっと、勇者が死亡するか手放した時には、発注する事が出来るのでしょうか。
勇者にしか持てない剣らしいので、意味もないですけれどね。
軽い食事を終えた私たちはお店を出ます。
支払いはランドルフが済ませてくれました。
異世界のパンもなかなか美味しかったです。
さて、次は何処に行きましょう。
晴天から降り注ぐ、眩しい陽射しに手をかざし、空を見上げました。
抜けるような異世界の青い空は、私の居た世界の空とまったく同じに見えます。
魔法とか、魔物とか私の知らないものもありますが、ここが地球ではないとも言い切れません。
ここがどんな世界なのかも、まだよく分かっていません。
ここに来てからずっと、元の世界に戻る事に固執していた私でもありますが――
大事なのは――
今、生きているという事。
これからも、生き抜いて行くという事。
青い空を見ていたら、「生きてやろう」
――なんだか、そんな気持ちになりました。
馬車は検問所の預かり所で預かってもらい、私たちは徒歩で散策中です。
東京のビルディング群のような高い建物はありませんが、広めの整備された石畳の路――さすがにアスファルトではありませんね――の両脇にズラリと並ぶお店の数々は、人通りの多さも手伝って、原宿の竹下通りの道路が広いバージョンと言った所でしょうか。
「ここは玄関口だからね。特に色んな店がたくさん集まっているんだよ。住宅街はもっとずっと奥の方だ」
人が多いので、はぐれないようにラフィーと手を繋ぎ、その流れでさりげなくランドルフの手も握りました。
「はぐれたら困りますからね」
背の高い鎧姿のランドルフと、手を繋いで歩く、小柄な私とお子様なラフィー。
補導されたわけではありませんよ?
誰が何と言おうと、デート中なのです。
私たちは手当たり次第にお店を回りました。
洋服、雑貨、食糧、家具等を見るだけでなく、持ってきたノートに簡単なイラストと説明付きで、書きとめていきます。
どれも異世界の物だからと言って、特別な作りという事もありません。
デザインは少し古い時代の、西洋風と言った所でしょうか。
「おねえちゃん、ひまー」
ラフィーが飽きてきたようです。
「休憩しましょうか。どこかに落ち着けるお店はないかしら」
「この辺りの店はどこも混んでいるから、もうちょっと離れた所に移動しよう」
ラフィーもランドルフに慣れたのか、今はおんぶしてもらっています。
ずいぶんと懐いたものですね。
やはり親子に見えなくもないです。
鎧の背中にしがみついて、ウトウトし始めた天使は……か、可愛いです。
「ねえパパ」
「ん? パパ?」
「あ、ごめんなさい。ちょっと言ってみたかっただけ」
「そ、そうか」
「ねえ、あそこのお店なんてどう?」
一見レストランのようですが、小さなお店を発見した私は指を差します。
カフェと言ってもいい、おしゃれな感じの佇まいのお店です。
「よし、入ろう」
お店の扉を開けると、カラランと鈴が鳴って来客を知らせます。
「こういうアイデアはどこでも考えつくものなのね」
テーブル席が四つだけのこぢんまりとした店内で、所々に花が配置されていてとてもおしゃれに感じます。
お客は奥のテーブルに、三人居るだけのようです。
ランドルフとは違った、装飾の派手な鎧姿の青年と、ローブ姿の男性と女性でした。
「おや? ランドルフじゃないか、こんな店で会うとは珍しいね(笑)」
その一番奥のテーブル席の鎧姿の青年が、突然ランドルフに声を掛けてきました。
その声を聞いた瞬間、何故かイラっとしてしまいました。――言葉尻に嫌味な薄笑いを感じたからでしょうか。
「なんだお前も居たのか、ローランド。久しぶりだな」
知り合いのようです。
「まさか騎士団の鎧を着たままデートじゃないだろうね(笑)小さな可愛い子も連れているようだが、迷子でも引き取ったのかい?(笑)」
鎧姿の金髪のイケメンは、どことなくランドルフに似ています。
ですが必ず言葉尻に含まれる薄ら笑いは、どうにも気持ちが悪いです。
「紹介するよ、サオリ。こいつは俺のいとこのローランド。勇者ローランドだ」
「やあ、お嬢さん(笑)僕が勇者のローランドだよ。もちろん知っているだろう? 勇者と言ったら僕しか居ないからね(笑)」
いとこ? しかも勇者ですって?
ランドルフが勇者の家系?
「あ、どうも……はじめまして」
「ん?」
「俺たちはこっちのテーブルに着くとするか」
勇者ローランドの居るテーブルは、既にローランドを含めて三人が座っています。
その席から通路を挟んだ隣のテーブルに私たちは落ち着きました。
「お腹は減ってないかい? 好きなものを頼むといい」
「そうね。軽く何か食べようかしら」
「こーな」
店員さんが注文を取りに来て、私たちは同じもの――パンとサラダと果実ジュースを頼みました。
ローランドという勇者をチラリと見ます。
二十歳くらいでしょうか。とても若い印象ですが、やはりランドルフと顔立ちが少し似ています。
「あなた、勇者様の家系だったの?」
「うん、まあね。勇者が選ばれるのに家は関係ないけどね。彼は若いけれど素質があったのさ。三年くらい前になるかな、魔王討伐の立役者だ」
魔王? 討伐? ではこの世界には既に魔王は存在しないという事でしょうか。
「それは凄いのね。魔王討伐と言ったら天使も加勢に出たのかしら」
勇者ローランドの耳が、ピクリと動いたような気がしました。
「天使が加勢だって? 魔王の討伐でそんな話は聞いた事がないけどな」
ランドルフは知らないようですが、私は最初にラフィーに会った時に聞いています。
そしてカーマイルも言っていました。勇者が魔王を討伐する時には天使が加勢すると。
「ラフィー知ってるよー。ラフィーも居たもん。こんかいの勇者は弱くて天使たちを六人も送り込むことになったーってミシェールがプンプンしてたー」
「ちょーーーっと待った! おチビちゃん! 君はいったい何を言っているのかなあ!?(笑)」
ガタンと突然席を立ったローランドが、ラフィーを睨みつけながら薄ら笑いという、顔芸をやっています。
「おじちゃん、ラフィーの事、おぼえてないのお? 死にそうになってるの何度も助けたのにぃ」
「お、おじ!? いいかい? おチビちゃん。君はきっと夢を見たんだ。きっとそうだ。そうに違いないのだよ(笑)」
ラフィーが嘘を言っているとは思えません。
きっとこの勇者は歴代のそれと比べてとても弱く、天使たちをたくさん投入しなければ魔王討伐もままならなかったのに違いありません。
ラフィーがいつになく長台詞だったのは、この勇者に多少なりとも怒っているからなのかもしれません。
「おっと、いけない。僕はこれから大事な用があったのだ。勇者ともなると毎日がとても忙しくてね。ではこれで失礼するよ(笑)」
勇者ローランドはテーブルの脇に置いてあった大きな剣を手にすると、逃げるようにお店から出て行ってしまいました。
後に取り残されたローブ姿の二人も、やれやれといった顔で後を追います。
二人とも杖を持っています。勇者のパーティーなのでしょうか。
「そうか、天使か。なるほどな。実は勇者とはいえ、彼はまだまだ実力的にどうかと世間でも噂されていたんだよ」
「ラフィーがんばったんだよー。それなのに魔王にトドメさすの、さっきのおじさんに取られたのー」
「まさかの良いとこ取り!? 勇者! そ、そうだったんだ……ラフィーはいい子ね。頑張ったんだね」
とんだ暴露ネタを知ってしまいましたが、私には関係のない事です。
「もしかしてランドルフも強かったりするの? その……勇者の素質があるとか」
「はは、俺にそんな力はないよ。たまたま彼がいとこってだけだ。ただ有名人を身内に持つとそれなりに面倒もあるけどね、そうやって俺も勇者並みに強いとか思われてしまう」
「そうか。……ごめんなさい。ランドルフには勇者になんてなってほしくないわ。魔王討伐なんて怖いもの」
そういえば――
少し気になった事を訊いてみました。
「さっきの勇者が持っていた大きな剣、あれってもしかして」
「ああ、勇者の剣かい? あれは特別な剣でね、勇者にしか持てないんだ」
「名前は――」
「エクスカリバーだよ」
やっぱり。
いつかエリオットが言っていた剣です。
あれもきっと、勇者が死亡するか手放した時には、発注する事が出来るのでしょうか。
勇者にしか持てない剣らしいので、意味もないですけれどね。
軽い食事を終えた私たちはお店を出ます。
支払いはランドルフが済ませてくれました。
異世界のパンもなかなか美味しかったです。
さて、次は何処に行きましょう。
晴天から降り注ぐ、眩しい陽射しに手をかざし、空を見上げました。
抜けるような異世界の青い空は、私の居た世界の空とまったく同じに見えます。
魔法とか、魔物とか私の知らないものもありますが、ここが地球ではないとも言い切れません。
ここがどんな世界なのかも、まだよく分かっていません。
ここに来てからずっと、元の世界に戻る事に固執していた私でもありますが――
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今、生きているという事。
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