異世界コンビニ☆ワンオペレーション

山下香織

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第一部 第三章 魔王と勇者

29・魔王復活

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 あれから一年が経過しました。
 
 チラシの宣伝効果なのか、シルバニア家の影響があったのかは分かりませんが、お店コンビニは結構繁盛しています。

 王都で品薄状態のポーションが、毎日売り切れになる程に売れているので、原価ゼロで利益率100%のそれはもう、恐ろしいくらいの儲けを生んでいます。
 
 ラフィーも健在。カーマイルもいまだに居座り続けています。

 カーマイルは、本当に天使をクビになったのではないでしょうか。
 本人は何も言いませんし、私も何も訊いてはいませんが……。
 
 ちなみに洞窟の神様は、まだデートから帰ってきません。

 私も何度かラフィーと洞窟へ赴きましたが、第一天使ミシェールに訊いても、いつ帰るのかも分かりませんでした。
 いったい何処で誰とデートしているのでしょう。

 そして当店の商品でもある、エリオットは――
 
 誰かに買われる事もなく、賞味期限の半年前から少しずつ体が腐り始め、一年が経って完全に期限の切れた時には、体が溶けてスライム状になってしまいました。

 腐ったとは言っても、匂いがあるわけでもなく、頭だけは残っていて会話も出来ました。
 ちなみに腐り初めてから数回、回復魔法を試しましたが、効きませんでした。

 賞味期限が切れた当日、廃棄処分登録をしました。

 そのせいでしょうか、今まで効かなかった回復魔法も効果を発揮して、元の体を取り戻したのです。
 元と言っても、アンデッドの体なのですけれど。

 生身の肉体はもう、取り戻せないようです。

「本当に俺は自由になったんだな?」
「はい。廃棄されちゃいましたからね。どうぞご自由にして下さい」

 無事、お店の外に出れるようになったエリオットを解放しました。
 
「早速だが、アジトの様子を見てくる。世話になったな」
「はい。一年間、お疲れ様でした」

 なんだかんだと、お店番もこなしてくれていたエリオットには、とても助かりました。 

 エリオットは、旅立って行きました。
 
 冒険者である彼は、ようやく活動を再開出来るのです。

 喜んでいるエリオットを見ていたら、彼の首元に、新たに賞味期限が書かれていた事は言いそびれてしまいました。
 一年でした。

 でもこのお店の商品ではなくなったので、自由に外に出られるのです。
 旅の無事を祈りましょう。

 そしてランドルフとは――

 正直な話、特に進展もなく、微妙な距離感を持ってお付き合いをしています。
 友達以上、恋人未満。と言った所でしょうか。
 恋人として付き合っていると言うには少し、何かが足りない感じです。

 やはりアレでしょうか。異世界サイズのせいでしょうか……。
 いや、止めましょう。なんだか私が欲求不満みたいに聞こえます。

 いいじゃないですか、ストイックな関係でも。
 ピュアな中学生のような恋愛が出来るなんて、素敵じゃないですか。

 今日もほら、こうやって訪ねて来てくれています。
 毎日会っている仲良しさんなのです。

「サオリ、どうやら魔族領の方で不穏な動きがあるようだ。調査に行く事になった。しばらくは会えないと思う」
「え? それは遠い場所なのですか?」

「ああ、ここからずっと北の方にある大地だ、行って調査して、帰ってくるのに二年以上は掛かるだろう」
「そんな……」

 私、何かフラグを立てたのでしょうか。
 突然こんな事を言われてしまって、とても驚いています。

「明日、出発する」
「急ですね。……ランドルフのような立場の人間でも、行かなければならないのですか?」

 ランドルフは王族の関係の人間のはずです。
 そのような人が魔族領などという危険そうな場所に、赴かなければならないのでしょうか。

「ああ、とても重要な案件なんでね。勇者も動いている。知っていると思うが、勇者のローランドは俺のいとこでもある。彼の事が心配でもあるんだよ」
「勇者が動くなんて、そんなに危険なお仕事なのですか?」

「実は……」
「実は?」

 ランドルフは少しだけ逡巡した後、私に教えてくれました。

「魔王が復活したらしいんだ」
「魔王!?」

 魔王は四年前に勇者が倒したと聞きました。
 たった四年で復活するものなのでしょうか。

「知っての通り、魔王は四年前に討伐された。普通なら復活するにしても百年単位の時間が必要なはずなんだ」
「それなのに、たった四年で?」

「ああ、どう見ても自然な復活ではない。それにこの世界の掟として、魔王が復活して一年以内に倒さないと世界が滅ぶと言われている」
「世界が……」

 世界規模の話になってしまっては、もう私にはどうする事もできません。

「そういうわけだから、明日からしばらく会えない。すまないな、サオリ」
「ううん。仕方ないよね。気を付けて行ってきてね」

「ああ、準備があるからもう戻るよ。サオリも元気でな」

 エリオットが居なくなり、ランドルフも当分会えなくなると言い……そういえば、魔王討伐には天使が加勢すると言っていました。
 この上、天使まで居なくなってしまうのでしょうか。

 私はバックルームでコーラを飲んでいるラフィーを連れて、裏の自宅へ戻りました。

「カーマイル! どこ?」
「ふえ?」

 リビングの高級魔物革張りソファで、寝転んでいました。
 テーブルにはトマトジュース。酔っぱらっているようです。

「あなた、魔王について何か聞いてない? 復活したそうじゃないの」
「ふわぁ」

 欠伸をしながらソファから身を起こし、眠そうな目を向けてきました。

「魔王よ、魔王。天使なら何か知ってるでしょう? もしかしてあなたたちも加勢に呼ばれてしまうの?」
「あ~、魔王でしゅか~。えっとぉ」

 うーん、と何かを思い出そうとしています。

「えっとぉ。こないだ、どうくちゅにかへった時に聞いた話でしゅとぉ」
「うんうん」

「だいにてんしニナとぉ、だいよんてんしフォウが~向かったって~言ってた~からぁ、だいじょぶでし」
「あなたたちは……カーマイルとラフィーは行かなくていいの?」

「わたひたちはぁ……サオリの護衛ってゆー仕事があるので~、だいじょぶでし」

 いつからカーマイルも私の護衛役になったのでしょう。――初耳です。

「そう。……なら、よかったわ」

 でも、そのニナとフォウという二人の天使だけで大丈夫なのでしょうか。
 前回の討伐では、天使を六人も投入してやっと倒したと聞いています。

 しかも今回も、同じ勇者ローランドです。

「なんだか嫌な予感がするわ」
「わたひ、そろそろ出勤しまぁ~す」

「そう? じゃあお願いしますね。カーマイル」

 エリオットが居なくなってからの、夜のお店番はカーマイルです。

 ウォークインにトマトジュースがあるので、文句も言いません。
 大抵酔っぱらって床で寝ているだけのお店番なのですが、誰も居ないよりマシです。

 その日は私とラフィーも、すぐに寝室で休みました。



 朝早くにお店に出ると、やはりカーマイルは床で寝ていました。
 こういうのを、堕天使と呼ぶのでしょうか?

 床の天使はそのままにして、私とラフィーはバックルームに行きます。

「朝ごはんはコロッケでいい?」
「うん。ころっけ」

 青い髪を揺らしながら、コクコクと頷くラフィーは、いつも通り可愛いです。

 起きてくるであろう、カーマイルの分も入れて、コロッケを六個作りました。

 ラフィーに三つ与えて、私は一つだけ手に持ち、ストコンの前に座ります。
 揚げたてのコロッケを齧りながら、考えていました。

 何故四年という短い期間で、魔王は復活できたのか。
 その期間で勇者ローランドは、果たして強くなっているのか。
 向かった二人の天使は、前回の天使六人分の強さに匹敵するのか。

 分からない事だらけですが、私が悩んでもどうにもなりません。

 ストコンのモニターの一部分で、点滅した文字が浮かんでは消えてを繰り返していました。
 
 『新着情報』

 新商品などがあると、この文字が出るのですが、見たのは久しぶりです。
 何気なくクリックします。

 一件だけ、商品が表示されました。

 『カリブルヌスの剣』

 武器でしょうか。どこかで聞いた事がある気がします。
 商品詳細をクリックして表示させます。

 『カリブルヌスの剣:別名・聖剣エクスカリバー 勇者のみが持つことを許された剣 UW WR・SSS 小売価格999億円』


  
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