異世界コンビニ☆ワンオペレーション

山下香織

文字の大きさ
29 / 107
第一部 第三章 魔王と勇者

29・魔王復活

しおりを挟む
 あれから一年が経過しました。
 
 チラシの宣伝効果なのか、シルバニア家の影響があったのかは分かりませんが、お店コンビニは結構繁盛しています。

 王都で品薄状態のポーションが、毎日売り切れになる程に売れているので、原価ゼロで利益率100%のそれはもう、恐ろしいくらいの儲けを生んでいます。
 
 ラフィーも健在。カーマイルもいまだに居座り続けています。

 カーマイルは、本当に天使をクビになったのではないでしょうか。
 本人は何も言いませんし、私も何も訊いてはいませんが……。
 
 ちなみに洞窟の神様は、まだデートから帰ってきません。

 私も何度かラフィーと洞窟へ赴きましたが、第一天使ミシェールに訊いても、いつ帰るのかも分かりませんでした。
 いったい何処で誰とデートしているのでしょう。

 そして当店の商品でもある、エリオットは――
 
 誰かに買われる事もなく、賞味期限の半年前から少しずつ体が腐り始め、一年が経って完全に期限の切れた時には、体が溶けてスライム状になってしまいました。

 腐ったとは言っても、匂いがあるわけでもなく、頭だけは残っていて会話も出来ました。
 ちなみに腐り初めてから数回、回復魔法を試しましたが、効きませんでした。

 賞味期限が切れた当日、廃棄処分登録をしました。

 そのせいでしょうか、今まで効かなかった回復魔法も効果を発揮して、元の体を取り戻したのです。
 元と言っても、アンデッドの体なのですけれど。

 生身の肉体はもう、取り戻せないようです。

「本当に俺は自由になったんだな?」
「はい。廃棄されちゃいましたからね。どうぞご自由にして下さい」

 無事、お店の外に出れるようになったエリオットを解放しました。
 
「早速だが、アジトの様子を見てくる。世話になったな」
「はい。一年間、お疲れ様でした」

 なんだかんだと、お店番もこなしてくれていたエリオットには、とても助かりました。 

 エリオットは、旅立って行きました。
 
 冒険者である彼は、ようやく活動を再開出来るのです。

 喜んでいるエリオットを見ていたら、彼の首元に、新たに賞味期限が書かれていた事は言いそびれてしまいました。
 一年でした。

 でもこのお店の商品ではなくなったので、自由に外に出られるのです。
 旅の無事を祈りましょう。

 そしてランドルフとは――

 正直な話、特に進展もなく、微妙な距離感を持ってお付き合いをしています。
 友達以上、恋人未満。と言った所でしょうか。
 恋人として付き合っていると言うには少し、何かが足りない感じです。

 やはりアレでしょうか。異世界サイズのせいでしょうか……。
 いや、止めましょう。なんだか私が欲求不満みたいに聞こえます。

 いいじゃないですか、ストイックな関係でも。
 ピュアな中学生のような恋愛が出来るなんて、素敵じゃないですか。

 今日もほら、こうやって訪ねて来てくれています。
 毎日会っている仲良しさんなのです。

「サオリ、どうやら魔族領の方で不穏な動きがあるようだ。調査に行く事になった。しばらくは会えないと思う」
「え? それは遠い場所なのですか?」

「ああ、ここからずっと北の方にある大地だ、行って調査して、帰ってくるのに二年以上は掛かるだろう」
「そんな……」

 私、何かフラグを立てたのでしょうか。
 突然こんな事を言われてしまって、とても驚いています。

「明日、出発する」
「急ですね。……ランドルフのような立場の人間でも、行かなければならないのですか?」

 ランドルフは王族の関係の人間のはずです。
 そのような人が魔族領などという危険そうな場所に、赴かなければならないのでしょうか。

「ああ、とても重要な案件なんでね。勇者も動いている。知っていると思うが、勇者のローランドは俺のいとこでもある。彼の事が心配でもあるんだよ」
「勇者が動くなんて、そんなに危険なお仕事なのですか?」

「実は……」
「実は?」

 ランドルフは少しだけ逡巡した後、私に教えてくれました。

「魔王が復活したらしいんだ」
「魔王!?」

 魔王は四年前に勇者が倒したと聞きました。
 たった四年で復活するものなのでしょうか。

「知っての通り、魔王は四年前に討伐された。普通なら復活するにしても百年単位の時間が必要なはずなんだ」
「それなのに、たった四年で?」

「ああ、どう見ても自然な復活ではない。それにこの世界の掟として、魔王が復活して一年以内に倒さないと世界が滅ぶと言われている」
「世界が……」

 世界規模の話になってしまっては、もう私にはどうする事もできません。

「そういうわけだから、明日からしばらく会えない。すまないな、サオリ」
「ううん。仕方ないよね。気を付けて行ってきてね」

「ああ、準備があるからもう戻るよ。サオリも元気でな」

 エリオットが居なくなり、ランドルフも当分会えなくなると言い……そういえば、魔王討伐には天使が加勢すると言っていました。
 この上、天使まで居なくなってしまうのでしょうか。

 私はバックルームでコーラを飲んでいるラフィーを連れて、裏の自宅へ戻りました。

「カーマイル! どこ?」
「ふえ?」

 リビングの高級魔物革張りソファで、寝転んでいました。
 テーブルにはトマトジュース。酔っぱらっているようです。

「あなた、魔王について何か聞いてない? 復活したそうじゃないの」
「ふわぁ」

 欠伸をしながらソファから身を起こし、眠そうな目を向けてきました。

「魔王よ、魔王。天使なら何か知ってるでしょう? もしかしてあなたたちも加勢に呼ばれてしまうの?」
「あ~、魔王でしゅか~。えっとぉ」

 うーん、と何かを思い出そうとしています。

「えっとぉ。こないだ、どうくちゅにかへった時に聞いた話でしゅとぉ」
「うんうん」

「だいにてんしニナとぉ、だいよんてんしフォウが~向かったって~言ってた~からぁ、だいじょぶでし」
「あなたたちは……カーマイルとラフィーは行かなくていいの?」

「わたひたちはぁ……サオリの護衛ってゆー仕事があるので~、だいじょぶでし」

 いつからカーマイルも私の護衛役になったのでしょう。――初耳です。

「そう。……なら、よかったわ」

 でも、そのニナとフォウという二人の天使だけで大丈夫なのでしょうか。
 前回の討伐では、天使を六人も投入してやっと倒したと聞いています。

 しかも今回も、同じ勇者ローランドです。

「なんだか嫌な予感がするわ」
「わたひ、そろそろ出勤しまぁ~す」

「そう? じゃあお願いしますね。カーマイル」

 エリオットが居なくなってからの、夜のお店番はカーマイルです。

 ウォークインにトマトジュースがあるので、文句も言いません。
 大抵酔っぱらって床で寝ているだけのお店番なのですが、誰も居ないよりマシです。

 その日は私とラフィーも、すぐに寝室で休みました。



 朝早くにお店に出ると、やはりカーマイルは床で寝ていました。
 こういうのを、堕天使と呼ぶのでしょうか?

 床の天使はそのままにして、私とラフィーはバックルームに行きます。

「朝ごはんはコロッケでいい?」
「うん。ころっけ」

 青い髪を揺らしながら、コクコクと頷くラフィーは、いつも通り可愛いです。

 起きてくるであろう、カーマイルの分も入れて、コロッケを六個作りました。

 ラフィーに三つ与えて、私は一つだけ手に持ち、ストコンの前に座ります。
 揚げたてのコロッケを齧りながら、考えていました。

 何故四年という短い期間で、魔王は復活できたのか。
 その期間で勇者ローランドは、果たして強くなっているのか。
 向かった二人の天使は、前回の天使六人分の強さに匹敵するのか。

 分からない事だらけですが、私が悩んでもどうにもなりません。

 ストコンのモニターの一部分で、点滅した文字が浮かんでは消えてを繰り返していました。
 
 『新着情報』

 新商品などがあると、この文字が出るのですが、見たのは久しぶりです。
 何気なくクリックします。

 一件だけ、商品が表示されました。

 『カリブルヌスの剣』

 武器でしょうか。どこかで聞いた事がある気がします。
 商品詳細をクリックして表示させます。

 『カリブルヌスの剣:別名・聖剣エクスカリバー 勇者のみが持つことを許された剣 UW WR・SSS 小売価格999億円』


  
しおりを挟む
感想 9

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

転生したら世界一の御曹司だった〜巨乳エルフメイド10人と美少女騎士に溺愛されています〜

まさき
青春
異世界転生した最強の金持ち嫡男、 専属エルフメイドと美少女騎士に囲まれて至福のハーレム生活   現代日本で「地味だが実は超大富豪」という特殊な人生を送っていた青年は、ある日事故で命を落とす。   しかし目を覚ますと、そこは魔法と様々な種族が存在する異世界だった。   彼は大陸一の富を誇る名門貴族―― ヴァン・バレンティン家の嫡男カイルとして転生していたのだ。   カイルに与えられたのは ・世界一とも言える圧倒的な財力 ・財力に比例して増大する規格外の魔力   そして何より彼を驚かせたのは――   彼に仕える十人の専属メイド全員が、巨乳美少女だったことである。   献身的なエルフのメイド長リリア。 護衛騎士でありながら隙あらば誘惑してくる女騎士シルヴィア。   さらに個性豊かな巨乳メイドたち。   カイルは持ち前の財力で彼女たちの願いを叶え、最高級の装備や生活を与えていく。   すると彼女たちの忠誠心と愛情はどんどん加速していき――   「カイル様……今日は私が、お世話をさせてください」   領地を狙う貴族を金と魔力で圧倒し、 時にはメイドたちの愛が暴走して甘すぎる時間に巻き込まれながらも、   最強の御曹司カイルは 世界一幸せなハーレムを築いていく。 最後までお読みいただきありがとうございました。よろしければ応援をお願いいたします。

酒好きおじさんの異世界酒造スローライフ

天野 恵
ファンタジー
酒井健一(51歳)は大の酒好きで、酒類マスターの称号を持ち世界各国を飛び回っていたほどの実力だった。 ある日、深酒して帰宅途中に事故に遭い、気がついたら異世界に転生していた。転移した際に一つの“スキル”を授かった。 そのスキルというのは【酒聖(しゅせい)】という名のスキル。 よくわからないスキルのせいで見捨てられてしまう。 そんな時、修道院シスターのアリアと出会う。 こうして、2人は異世界で仲間と出会い、お酒作りや飲み歩きスローライフが始まる。

最弱スライムに転生した俺、捕食スキルで無限進化していたら魔王軍すら支配してました

チー牛Y
ファンタジー
残業中に倒れた俺が次に目を覚ました時、なぜか異世界で最弱モンスターのスライムになっていた。 完全に詰んだ、戦う力もない。そう思っていた時、俺には一つだけ、とんでもないスキルがあった。 【捕食】 それは、倒した相手を取り込み、能力・スキル・力のすべてを奪うチート能力だった。 ゴブリンを食べれば腕力を獲得。 魔物を食べれば新スキルを習得。 レベルは爆速で上がり、進化は止まらない。 森の魔物を支配し、ダンジョンを制圧し、気づけば俺は魔物たちの王になっていた。 やがてその力は魔王軍すら飲み込み、世界の勢力図を塗り替えていく。 これは―― 最弱スライムから始まる、無限進化の成り上がり無双譚。

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

【完結】異世界で魔道具チートでのんびり商売生活

シマセイ
ファンタジー
大学生・誠也は工事現場の穴に落ちて異世界へ。 物体に魔力を付与できるチートスキルを見つけ、 能力を隠しつつ魔道具を作って商業ギルドで商売開始。 のんびりスローライフを目指す毎日が幕を開ける!

ジャングリラ~悪魔に屠られ魔王転生。死の森を楽園に変える物語~

とんがり頭のカモノハシ
ファンタジー
「別の世界から勇者を召喚する卑怯な手口」に業を煮やした堕天使・ルシファーにより、異世界へ魔王として転生させられた大学生・左丹龍之介。 先代・魔王が勇者により討伐されて100年――。 龍之介が見たものは、人魔戦争に敗れた魔族が、辺境の森で厳しい生活を余儀なくされている姿だった。 魔族の生活向上を目指し、龍之介は元魔王軍の四天王、悪魔公のリリス、フェンリルのロキア、妖狐の緋魅狐、古代龍のアモンを次々に配下に収めていく。 バラバラだった魔族を再び一つにした龍之介は、転生前の知識と異世界の人間の暮らしを参考に、森の中へ楽園を作るべく奔走するのだが……

異世界転生したらたくさんスキルもらったけど今まで選ばれなかったものだった~魔王討伐は無理な気がする~

宝者来価
ファンタジー
俺は異世界転生者カドマツ。 転生理由は幼い少女を交通事故からかばったこと。 良いとこなしの日々を送っていたが女神様から異世界に転生すると説明された時にはアニメやゲームのような展開を期待したりもした。 例えばモンスターを倒して国を救いヒロインと結ばれるなど。 けれど与えられた【今まで選ばれなかったスキルが使える】 戦闘はおろか日常の役にも立つ気がしない余りものばかり。 同じ転生者でイケメン王子のレイニーに出迎えられ歓迎される。 彼は【スキル:水】を使う最強で理想的な異世界転生者に思えたのだが―――!? ※小説家になろう様にも掲載しています。

処理中です...