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第一部 第三章 魔王と勇者
34・おしえて神様
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魔王の名前が分かりました。
――アラン。
なんと、森の妖精フォレスのパパさんだったのです。
「ローランドが言っていた、サーラという人は魔王じゃなくて、アランという人が魔王で、フォレスさんのパパで、しかも少年!?」
「そのフォレスという妖精の事は分からないが、とにかく魔王はアランで間違いないようだ」
勇者ローランドが生き返ってから三日後、ランドルフが情報を持って来てくれました。
「しかも天使が二人、魔王に付いているですって?」
「ああ、名前も判明している。驚くべきことに、この魔王パーティーは全員、冒険者ギルドに登録済みだ」
天使が冒険者登録をしていたのもびっくりですが、魔王さえもギルドカードを持っているというのです。
そして魔王だという事を証明するために、国王の前で賢者の石を使って自らの魔力値を公開したらしいのです。
ランドルフの説明だとこの賢者の石というのは、額に当てる事でその人の魔力値を計測できるアイテムのようです。
「その魔王の魔力値は、十二万五千だ。ちなみに勇者だったローランドは約一万だ」
「勇者の十倍以上!?」
「そして魔王の傍に居る、一度魔王になりかけたサーラという女はギルドの記録によると三万六千……これでさえ勇者の三倍以上の強さで、同じくギルドに登録している天使二人は約一万で勇者と匹敵している」
これは、いくら聖剣エクスカリバーを持っていても、どうにもならないのではないでしょうか。
「この魔王の魔力値はこれまでに計測された事のない、ありえない次元だ。この国どころか世界が一瞬で滅ぶレベルだよ」
「でも、その魔王を倒さなければ結局は世界は滅ぶのでしょう?」
「ああ、八方塞がりだ」
魔王アランの率いるパーティーは、アランとサーラに加えて天使のニナとフォウ。
本来勇者側に付くはずの天使が何故、魔王に付いているのかは不明です。
「カーマイル、ニナとフォウという天使は知っている?」
「ふえ?」
お店番をしているのに酔っぱらっているカーマイルは、頭をフラフラさせています。
「天使というのだから、お仲間なんじゃないの?」
「あ~、てんちフォウはぁ、魔法がえげちゅないやちゅでぇ、てんちニナはぁ、じゅうにてんちの中でゆいいちゅ、回復まほーを使えるやちゅなので~、わたちとらふぃーが居てもぉ……」
「居ても?」
お店のカウンターの上にちょこんと座っているカーマイルは、お手上げポーズをしています。
「無理~」
私を勇者に仕立てて、魔王を討伐に行こうとか言っていた天使は、魔王側に付いた天使の名前を聞いただけでお手上げ状態です。
「本当にどうにもならないのかしら。国の方針はどうなっているの?」
「ああ、しばらくは様子見だ。どうやら魔王は王都にある魔法学院に入学したらしい。目的は不明だ」
「魔法学院? 生徒になったというの? 魔王が?」
「そうだ。何を企んでいるのか、まったく分からないんだよ」
魔王ともあろうものが、今更魔法を勉強しようなどと思うのでしょうか。
「ねえ、カーマイル。なんで天使が二人も魔王に付いたのかしら。普通なら倒す側でしょう?」
「うー、むにゃむにゃ」
駄目だこの天使。……まったくあてにならないです。
「しばらくは情報収集だけになると思う。へたに魔王を刺激したくもないからね」
「そうね。大人しくしているのなら、今の内に情報は欲しいわよね」
「後は勇者の候補が現れるのを、期待するしかないな」
「勇者かぁ……」
ランドルフが帰った後も、私は少し考えていました。
カーマイルはどうやって、私を勇者に仕立てるつもりだったのでしょう。
カウンターの上で寝てしまったカーマイルはそのままにして、裏の自宅へと戻ります。
明日は神様の洞窟に行ってみようと思います。
いまだに神様とは会えていませんが、そろそろ話を聞きたい所です。
森の妖精のフォレスにも、報告に行かないといけませんね。
まさか妖精のパパが魔王だなんて、フォレスも驚くのではないでしょうか。
◇ ◇ ◇
「居た! 神様!」
次の日、ラフィーを連れて洞窟を訪れたら、神様が居ました。
やっと会えました。白い髭が見事なおじいさんです。
白いローブを纏った姿は、いかにも神様っぽいです。
「おや、どちら様かな?」
「サオリです! 元の世界に戻れる方法は分かりましたか!?」
「冗談じゃよ、フォッフォッフォッ。えっと、戻る方法はまだ思いついておらんのじゃ。それよりも元気にしておったか? この世界での生活は慣れたかの?」
「真面目に考えてくれていますか? そもそも私、なんでこの世界に来ちゃったのかも分からないんですけど」
やっと会えたのです、今日は納得のいくまで話を訊かなければ帰れません。
「この世界では定期的に転生者が生まれるのじゃが、そのための力は神様であるワシが使っておる。そしてその目的は魔王討伐のための、勇者の素質を持った者の発掘と育成じゃ。なにしろ魔王を討伐しないとこの世界は滅んでしまうからのぉ。で、おぬしが転生ではなく、転移して来たわけはワシにもまだ分かっておらん」
え? 魔王を討伐するための勇者を育てるために転生?
だとしたら、あのローランドは……。
というか、私は本来死んで転生するはずだったのでしょうか。
それが何らかの原因で失敗して、死ぬ前に転移してきたという事なのかもしれません。
「そうじゃ。そなたが今考えているであろう勇者ローランドは、転生者なのじゃ」
「そんな……だって彼はコンビ二の建物を見ても、何も反応していなかったわ」
「フォッフォッフォッ。そうじゃろうな。やつはそなたとは違う世界からの転生者じゃからのぉ」
「違う世界!?」
「そなたの居た世界がすべてと思うとるようじゃの。いいかよく聞け、そもそもそなたが信じておるであろう宇宙とは一つではないのじゃ……」
そこからの神様の話は、私には難しすぎました。
はっきり言って何を言っているのか、分かりませんでした。
私の知っている宇宙とはそれ自体が星のようなもので、その宇宙という星が無限に広がるさらなる宇宙があって、世界のすべてが繋がっているという、荒唐無稽なお話が延々と続き、私の頭はパンク寸前になりました。
「えっとつまり、たくさんの世界があって、それらはみんな繋がっていて、いろんな世界からの転生者がこの世界にやってくる……といった感じなのでしょうか」
「まあ、概ねそんな所じゃ」
「だとしたら、私と同じ世界の人がこの世界に転生するなんて確率は、無いに等しいですね」
「そう思うじゃろ? 普通はそうなんじゃが……この世界は今、ちょっと面白い事になっておる」
神様はニヤリと笑うと、意味深な事を言いだしました。
「それはどういう事なのですか?」
「フォッフォッフォッ。それはじゃな、そなたの目で確かめるがよい」
いずれ分かる、という事でしょうか。
「カーマイルは私を勇者にして、魔王の討伐をって言っていましたけど、それは可能なのですか?」
「ほう、カーマイルがそんな事を」
神様のその表情を見たら、言ってはいけない事を言ってしまったような気になりました。
そういえばカーマイルってここの仕事を放りだして、私の所でずっと酔っぱらっているのでした。
カーマイルは立場的に、まずい状況にあるのかもしれません。
だとしたら、余計な事は言わない方がいいかもしれませんね。
「まぁカーマイルはいいのじゃが、そなたが勇者にのぉ。なるほど、それはそれで面白い事になるやもしれんのぉ」
「出来るのですか?」
「勇者認定はやろうと思えばできる。聖剣を持てればそれで勇者じゃ。じゃが今のおぬしが今の魔王に立ち向かったとしても、死ぬだけじゃがな」
「じゃあ止めます」
「はやっ! 止めるのはやっ!」
「だって死ぬの嫌ですし」
死亡確定遊戯など、誰がやるものですか。
世界が滅ぶと言われても、私がどうこうするものでもないと思います。
「お店の結界はどうなりますか?」
神様が戻ったら、お店の結界を元に戻すと言っていたはずです。
「ふむ、選ぶがよい、サオリよ。店に結界を取り戻して天使たちを返還するか、天使たちをそのまま連れて、魔王討伐の道を歩むか」
え? 条件付きですか? いまさらラフィーと離れるのは忍びなく、魔王討伐は無理ゲー。選びようがないじゃないですか。
しかもこの神様、魔王討伐を私にさせるって、今考えたんじゃないのですか。
カーマイルの話を聞いて、さっきなるほどと言っていたばかりじゃないですか。
「さっき私が魔王討伐に向かっても、死ぬだけだとおっしゃったじゃないですか。その私にそれをやれと?」
「ふむ。確かに今のおぬしが魔王と対峙しても、何も出来ずに殺されるじゃろう。だがしかし、おぬし以外に今の魔王の相手を出来る者も居ないのも事実なのじゃ」
「どういう事ですか?」
「魔王に会えば分かる。おぬしだけがその可能性を秘めておるのじゃ」
本当に何を言っているのか、分かりません。
「会えば分かるのですか? 魔王と?」
「そうじゃ。もし会話が成り立つのであれば、そなたが有利になるやもしれん」
「でも、向こうも天使が二人も付いているのですよね? 天使はこっちの味方なのではないのですか?」
「う、頭の痛い所じゃが、あれは成り行きでどうにもならなかったのじゃ。まさかあやつが魔王になるとも思っておらなんだ」
魔王――アラン。
妖精フォレスのパパさん。
そして天使が二人も味方をするという人物。
私も少し、この魔王に興味が湧いてきました。……少しだけですけど。
「でも勇者ローランドの話では、サーラという女性が魔王になりかけていたと聞いたのですけど」
「確かにそうじゃ。魔王になりかけたサーラがアランを殺してしまっての、我に返ったサーラがアランを生き返らせるために魔王の因子を譲った結果、アランは生き返ったが魔王となって生まれ変わってしまったのじゃ」
魔王誕生の秘密が、やっと分かった気がします。
色々と複雑な事情もあるようですね。
魔王の因子とか意味が分かりませんけど、私には関係のない事です。
でも話を聞いていると、その二人や天使との絆は、とても深いものなのではないかと推察出来ます。
「では、とりあえずラフィーと別れたくないので、魔王討伐のルートでお願いします」
「そうか、ならばそのまま天使を連れて行くがよい。ラフィーもよいな? この者に協力するのじゃぞ」
「こーな」
討伐するとは言っていません。――出来るとも思えません。
私はラフィーと別れたくないだけなのです。
「それと、本当に私が元の世界に帰れる方法を考えてくださいね。神様」
「うむ。分かっておる。そのうち何か思いつくじゃろう」
どうにもあてにならない神様です。
「では、今日の所はこれで帰ります。ありがとうございました」
「まずは魔王に会って話をしてみるがよい。今の魔王ならすぐに殺される事もないじゃろう。話さえ出来れば、攻略方法が見えて来るかも知れんぞ」
私に魔王を攻略するなんて、大それた考えはありません。
と、思っていたら釘を刺されました。
「カーマイルのやつに逐一報告させるからの。そのためにやつはおぬしの元に置いておくのじゃ」
むむむ。
神様を舐めてはいけませんね。
ならば形だけでも、魔王討伐の振りをしておくまでです。
「では、神様。ごきげんよう」
「さらばじゃ」
まだ何か訊く事があったような気もしましたが、私の神様との出会いはこんな感じで終わりました。
魔王を討伐してこの世界を救う。
とても私なんかが成し遂げられるとは思えませんが、魔王に会えば何かが変わるのでしょうか。
私の運命が、また少しずつ動き出しているような、そんな気がしました。
――アラン。
なんと、森の妖精フォレスのパパさんだったのです。
「ローランドが言っていた、サーラという人は魔王じゃなくて、アランという人が魔王で、フォレスさんのパパで、しかも少年!?」
「そのフォレスという妖精の事は分からないが、とにかく魔王はアランで間違いないようだ」
勇者ローランドが生き返ってから三日後、ランドルフが情報を持って来てくれました。
「しかも天使が二人、魔王に付いているですって?」
「ああ、名前も判明している。驚くべきことに、この魔王パーティーは全員、冒険者ギルドに登録済みだ」
天使が冒険者登録をしていたのもびっくりですが、魔王さえもギルドカードを持っているというのです。
そして魔王だという事を証明するために、国王の前で賢者の石を使って自らの魔力値を公開したらしいのです。
ランドルフの説明だとこの賢者の石というのは、額に当てる事でその人の魔力値を計測できるアイテムのようです。
「その魔王の魔力値は、十二万五千だ。ちなみに勇者だったローランドは約一万だ」
「勇者の十倍以上!?」
「そして魔王の傍に居る、一度魔王になりかけたサーラという女はギルドの記録によると三万六千……これでさえ勇者の三倍以上の強さで、同じくギルドに登録している天使二人は約一万で勇者と匹敵している」
これは、いくら聖剣エクスカリバーを持っていても、どうにもならないのではないでしょうか。
「この魔王の魔力値はこれまでに計測された事のない、ありえない次元だ。この国どころか世界が一瞬で滅ぶレベルだよ」
「でも、その魔王を倒さなければ結局は世界は滅ぶのでしょう?」
「ああ、八方塞がりだ」
魔王アランの率いるパーティーは、アランとサーラに加えて天使のニナとフォウ。
本来勇者側に付くはずの天使が何故、魔王に付いているのかは不明です。
「カーマイル、ニナとフォウという天使は知っている?」
「ふえ?」
お店番をしているのに酔っぱらっているカーマイルは、頭をフラフラさせています。
「天使というのだから、お仲間なんじゃないの?」
「あ~、てんちフォウはぁ、魔法がえげちゅないやちゅでぇ、てんちニナはぁ、じゅうにてんちの中でゆいいちゅ、回復まほーを使えるやちゅなので~、わたちとらふぃーが居てもぉ……」
「居ても?」
お店のカウンターの上にちょこんと座っているカーマイルは、お手上げポーズをしています。
「無理~」
私を勇者に仕立てて、魔王を討伐に行こうとか言っていた天使は、魔王側に付いた天使の名前を聞いただけでお手上げ状態です。
「本当にどうにもならないのかしら。国の方針はどうなっているの?」
「ああ、しばらくは様子見だ。どうやら魔王は王都にある魔法学院に入学したらしい。目的は不明だ」
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魔王ともあろうものが、今更魔法を勉強しようなどと思うのでしょうか。
「ねえ、カーマイル。なんで天使が二人も魔王に付いたのかしら。普通なら倒す側でしょう?」
「うー、むにゃむにゃ」
駄目だこの天使。……まったくあてにならないです。
「しばらくは情報収集だけになると思う。へたに魔王を刺激したくもないからね」
「そうね。大人しくしているのなら、今の内に情報は欲しいわよね」
「後は勇者の候補が現れるのを、期待するしかないな」
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ランドルフが帰った後も、私は少し考えていました。
カーマイルはどうやって、私を勇者に仕立てるつもりだったのでしょう。
カウンターの上で寝てしまったカーマイルはそのままにして、裏の自宅へと戻ります。
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森の妖精のフォレスにも、報告に行かないといけませんね。
まさか妖精のパパが魔王だなんて、フォレスも驚くのではないでしょうか。
◇ ◇ ◇
「居た! 神様!」
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やっと会えました。白い髭が見事なおじいさんです。
白いローブを纏った姿は、いかにも神様っぽいです。
「おや、どちら様かな?」
「サオリです! 元の世界に戻れる方法は分かりましたか!?」
「冗談じゃよ、フォッフォッフォッ。えっと、戻る方法はまだ思いついておらんのじゃ。それよりも元気にしておったか? この世界での生活は慣れたかの?」
「真面目に考えてくれていますか? そもそも私、なんでこの世界に来ちゃったのかも分からないんですけど」
やっと会えたのです、今日は納得のいくまで話を訊かなければ帰れません。
「この世界では定期的に転生者が生まれるのじゃが、そのための力は神様であるワシが使っておる。そしてその目的は魔王討伐のための、勇者の素質を持った者の発掘と育成じゃ。なにしろ魔王を討伐しないとこの世界は滅んでしまうからのぉ。で、おぬしが転生ではなく、転移して来たわけはワシにもまだ分かっておらん」
え? 魔王を討伐するための勇者を育てるために転生?
だとしたら、あのローランドは……。
というか、私は本来死んで転生するはずだったのでしょうか。
それが何らかの原因で失敗して、死ぬ前に転移してきたという事なのかもしれません。
「そうじゃ。そなたが今考えているであろう勇者ローランドは、転生者なのじゃ」
「そんな……だって彼はコンビ二の建物を見ても、何も反応していなかったわ」
「フォッフォッフォッ。そうじゃろうな。やつはそなたとは違う世界からの転生者じゃからのぉ」
「違う世界!?」
「そなたの居た世界がすべてと思うとるようじゃの。いいかよく聞け、そもそもそなたが信じておるであろう宇宙とは一つではないのじゃ……」
そこからの神様の話は、私には難しすぎました。
はっきり言って何を言っているのか、分かりませんでした。
私の知っている宇宙とはそれ自体が星のようなもので、その宇宙という星が無限に広がるさらなる宇宙があって、世界のすべてが繋がっているという、荒唐無稽なお話が延々と続き、私の頭はパンク寸前になりました。
「えっとつまり、たくさんの世界があって、それらはみんな繋がっていて、いろんな世界からの転生者がこの世界にやってくる……といった感じなのでしょうか」
「まあ、概ねそんな所じゃ」
「だとしたら、私と同じ世界の人がこの世界に転生するなんて確率は、無いに等しいですね」
「そう思うじゃろ? 普通はそうなんじゃが……この世界は今、ちょっと面白い事になっておる」
神様はニヤリと笑うと、意味深な事を言いだしました。
「それはどういう事なのですか?」
「フォッフォッフォッ。それはじゃな、そなたの目で確かめるがよい」
いずれ分かる、という事でしょうか。
「カーマイルは私を勇者にして、魔王の討伐をって言っていましたけど、それは可能なのですか?」
「ほう、カーマイルがそんな事を」
神様のその表情を見たら、言ってはいけない事を言ってしまったような気になりました。
そういえばカーマイルってここの仕事を放りだして、私の所でずっと酔っぱらっているのでした。
カーマイルは立場的に、まずい状況にあるのかもしれません。
だとしたら、余計な事は言わない方がいいかもしれませんね。
「まぁカーマイルはいいのじゃが、そなたが勇者にのぉ。なるほど、それはそれで面白い事になるやもしれんのぉ」
「出来るのですか?」
「勇者認定はやろうと思えばできる。聖剣を持てればそれで勇者じゃ。じゃが今のおぬしが今の魔王に立ち向かったとしても、死ぬだけじゃがな」
「じゃあ止めます」
「はやっ! 止めるのはやっ!」
「だって死ぬの嫌ですし」
死亡確定遊戯など、誰がやるものですか。
世界が滅ぶと言われても、私がどうこうするものでもないと思います。
「お店の結界はどうなりますか?」
神様が戻ったら、お店の結界を元に戻すと言っていたはずです。
「ふむ、選ぶがよい、サオリよ。店に結界を取り戻して天使たちを返還するか、天使たちをそのまま連れて、魔王討伐の道を歩むか」
え? 条件付きですか? いまさらラフィーと離れるのは忍びなく、魔王討伐は無理ゲー。選びようがないじゃないですか。
しかもこの神様、魔王討伐を私にさせるって、今考えたんじゃないのですか。
カーマイルの話を聞いて、さっきなるほどと言っていたばかりじゃないですか。
「さっき私が魔王討伐に向かっても、死ぬだけだとおっしゃったじゃないですか。その私にそれをやれと?」
「ふむ。確かに今のおぬしが魔王と対峙しても、何も出来ずに殺されるじゃろう。だがしかし、おぬし以外に今の魔王の相手を出来る者も居ないのも事実なのじゃ」
「どういう事ですか?」
「魔王に会えば分かる。おぬしだけがその可能性を秘めておるのじゃ」
本当に何を言っているのか、分かりません。
「会えば分かるのですか? 魔王と?」
「そうじゃ。もし会話が成り立つのであれば、そなたが有利になるやもしれん」
「でも、向こうも天使が二人も付いているのですよね? 天使はこっちの味方なのではないのですか?」
「う、頭の痛い所じゃが、あれは成り行きでどうにもならなかったのじゃ。まさかあやつが魔王になるとも思っておらなんだ」
魔王――アラン。
妖精フォレスのパパさん。
そして天使が二人も味方をするという人物。
私も少し、この魔王に興味が湧いてきました。……少しだけですけど。
「でも勇者ローランドの話では、サーラという女性が魔王になりかけていたと聞いたのですけど」
「確かにそうじゃ。魔王になりかけたサーラがアランを殺してしまっての、我に返ったサーラがアランを生き返らせるために魔王の因子を譲った結果、アランは生き返ったが魔王となって生まれ変わってしまったのじゃ」
魔王誕生の秘密が、やっと分かった気がします。
色々と複雑な事情もあるようですね。
魔王の因子とか意味が分かりませんけど、私には関係のない事です。
でも話を聞いていると、その二人や天使との絆は、とても深いものなのではないかと推察出来ます。
「では、とりあえずラフィーと別れたくないので、魔王討伐のルートでお願いします」
「そうか、ならばそのまま天使を連れて行くがよい。ラフィーもよいな? この者に協力するのじゃぞ」
「こーな」
討伐するとは言っていません。――出来るとも思えません。
私はラフィーと別れたくないだけなのです。
「それと、本当に私が元の世界に帰れる方法を考えてくださいね。神様」
「うむ。分かっておる。そのうち何か思いつくじゃろう」
どうにもあてにならない神様です。
「では、今日の所はこれで帰ります。ありがとうございました」
「まずは魔王に会って話をしてみるがよい。今の魔王ならすぐに殺される事もないじゃろう。話さえ出来れば、攻略方法が見えて来るかも知れんぞ」
私に魔王を攻略するなんて、大それた考えはありません。
と、思っていたら釘を刺されました。
「カーマイルのやつに逐一報告させるからの。そのためにやつはおぬしの元に置いておくのじゃ」
むむむ。
神様を舐めてはいけませんね。
ならば形だけでも、魔王討伐の振りをしておくまでです。
「では、神様。ごきげんよう」
「さらばじゃ」
まだ何か訊く事があったような気もしましたが、私の神様との出会いはこんな感じで終わりました。
魔王を討伐してこの世界を救う。
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