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第一部 第三章 魔王と勇者
36・魔法学院へようこそ!
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「ようこそいらっしゃいました。当学院の学院長をやっております、オルリードと申します。以後お見知りおきを」
院長室へと通された私たちは、学院長と面会しました。
杖こそ持ってはいませんが、魔法使い然としたローブを羽織り、ロングヘアーの燃えるような赤髪とは対照的な、穏やかで優しそうな笑顔を浮かべた女性です。
オルリード学院長は立派な机の向こう側で立ち上がり、握手を求めてきました。
この異世界でこんな挨拶をされたのは、初めてではないでしょうか。
「はじめまして。サオリと申します。隣の子はラフィーです。この度は突然に訪問してしまって、申し訳ありません」
「いやいや、いいのですよ。見学したいという方は大抵突然来たりしますから。それにシルバニア家と縁のある方を門前払いするはずもありませんし。お二人とも入学希望という事でよろしいですか」
「あ、はい」
その突然来るという人にしても、紹介状は持ってきているだろうし、私みたいに誰の紹介も無しに、本当に突然の訪問をする人は居ないのではないでしょうか。
それでも迷惑そうな表情は少しも見せず、ニコニコとしているオルリード学院長は、本当に歓迎してくれているように見えます。
「本当に突然なのですけど、本日の見学は可能でしょうか」
「はいはい、大丈夫ですよ。でもその前に一つだけお聞かせくださいね。……入学希望と伺いましたがサオリさんとラフィーさんの得意な魔法は何か教えて下さいな」
得意な魔法……魔力も無い私が使える魔法なんてありません。
天使の羽根ペンを使ってなら可能ですが、それは本当は神様の力なので、私の魔法というわけではありません。
ラフィーは何の問題もないでしょうけど。
でも魔力も無いのに、魔法学校に入学したいので見学させろと言うのもおかしな話です。
ここは適当に話を合わせる事にしました。
「えっと……よく使うのは転移魔法で、たまに蘇生魔法を使ったりします」
「はい!?」
突然、机の上に被さるように身を乗り出したオルリード学院長は、驚いた顔をしています。
私、まずい事を言ってしまったのでしょうか。
……そういえば、転移魔法はSランクでもめったに使える人は居ないというような事を聞いたかもしれません。
そして蘇生魔法は使える人などこの世界に居ないと、誰かが言っていたような……。
「そ、そ、そ、それは本当ですか!?」
「あ、えっと、その」
オルリード学院長は、なんだか目をキラキラと輝かせています。
どうしましょう。
「蘇生魔法はともかく、転移でしたらこの場でも可能ですよね? 本当に出来るのでしたら、是非見せていただきたいのですが、よろしいですか?」
言ってしまったものは仕方ないですね。
私はショルダーバッグからノートと羽根ペンと、小さなインク壺を取り出しました。
「あの、詠唱とかは出来ないので、ノートに書いていいですか」
「ああ、魔法陣ですか? それはもちろんですけど、でもそんな小さなものに書くのですか?」
「魔法陣というか、えっと、簡略文字列? とか言うものです」
オルリード学院長は、またしても机の上に身を乗り出して、顔を近づけてきました。
「魔法陣の簡略化!? いったい誰に教わったのです!? 火を熾すとか小さな魔法ならまだしも、転移魔法を簡略化するとか、そんなものを開発できるような者がこの世界に居るのですか!?」
あぅ……何だか話がどんどん大きくなってしまっているような気がします。
さすがに、神様に教わったとは言わない方がいいでしょうね。
「えっと、とりあえずやってみますね」
ノートを開くと、既に途中まで書きこんである魔法の簡略文字が、ずらりと並んでいます。
最初から書くとやたらと時間が掛かってしまうので、あらかじめ書いておいて、最後の一文を加えるだけで発動できるようにしておいたのです。
一度発動させると、この文字列は消えてしまうので、使ったら書いての繰り返しです。
一文字か二文字残しだと魔法円が展開されてしまうので、三文字分を空白にしてあります。
その三文字は暗記してあります。
転移魔法の書いてあるページを開きました。
転移魔法は何度も使うので、それだけをいっぱい書いた転移専用のページを作ってあるのです。
「では、ちょっと転移してみますね」
ラフィーはそのまま残して、私は最後の三文字と行き先――コンビニでいいですよね――の記述を、その文字列に加えました。
パシュン! と、空間が切り裂かれて、私はコンビ二に戻りました。
一瞬で、誰も居ないバックルームに移動したのです。
チラリとお店のカウンターを覗いたら、カーマイルがお客様にポーションを売っている所でした。
どうやら仕事は真面目にこなしているようです。
たぶんお客様のいらっしゃらない時は、床かカウンターの上で寝ているのでしょうけど。
さて……えっと、何か証拠に持って帰った方がいいのでしょうか。
でもその場で消えたのだから、それが証拠と言えますよね。
そういえば、どこに転移するとも言っていませんでした。
私はそのままトンボ返りで、魔法学院に戻りました。
一度行った場所なら、いつでも何回でも行けるのです。
院長室のさっきとまったく同じ場所に、空間を切り裂いて私は出現します。
「ただいまです」
「おかえりー、おねえちゃん」
可愛い妹が、ポケーっとした顔で迎えてくれました。
オルリード学院長は――
机に乗り出したままの姿勢で、目を大きく見開き、顎が外れそうなくらいに口を開いて固まっていました。
「今転移したのですけど、分かっていただけましたか?」
「……」
しばらく沈黙が続きます。
じっと待っていると、そのうち硬直から解かれたオルリード学院長は、私に漸う訊ねてきました。
「あ、あの……サオリさんは……Sランクの方ですか? いやSランクでも転移をそんなに簡単に出来る者なんて、めったに聞かないですが……」
やっぱり私は、やらかしてしまったのでしょうか。
Sランク……エリオットとか、あの勇者さんのランクですよね。
転移魔法は、私なんかが人前で使っていい魔法ではなかったかもしれません。
「私は冒険者登録はしていないので、ランクは持っていません」
ここは正直に答えます。
「そう……なのですか」
ちょっと居心地が悪くなってしまったので、ここで話を逸らそうと、ラフィーを指差しました。
「あ、この子の魔法も見ますか? たぶん何でも出来るんじゃないかと思いますけど」
「え? ええ。えっと……ラフィーさんは得意な魔法はありますか?」
何とか持ち直したオルリード学院長は、ラフィーに向き直って訊きます。
「ラフィー? とくいなまほー? んー? ばくえん?」
何故か疑問形で爆炎と答えるラフィー。オルリード学院長の私への関心を、一時的にラフィーに移す事に成功はしましたが、何か嫌な予感がします。
「爆炎ですか? 炎系と答えずに、爆炎……。それはもしかして炎系最上級の極大魔法の『爆炎』の事でしょうか?」
その魔法なら私のノートにも、簡略文字列が書かれています。
神様の洞窟で貰った『お品書き』にあったものです。
そして妖精の森で使おうとして、フォレスに慌てさせた魔法でもあります。
その時は、森を消滅させる気ですかと、フォレスに怒られました。
「まさかここで極大魔法を発動されても困るので――」
オルリード学院長が言いかけた時、ラフィーは既に、可愛らしくも気の抜けた掛け声を放っていました。
「うー、やー」
次の瞬間、院長室の窓が割れ、外が真っ赤に染まりました。
「うわー! 何てことを!」
オルリード学院長の叫びが、部屋に響きます。
ラフィーが窓の外に向かって放った極大魔法『爆炎』は、向かいに見えた校舎を直撃して爆発しました。
もの凄い爆発音が轟き、校舎が一気に燃え上がります。
「うわわわわ! ま、ま、まさか無詠唱で瞬時に極大魔法が発動されるなんて……どうしましょう! どうしましょう! うわー! どうしましょう!」
オルリード学院長はパニックです。
一瞬、『犯罪者』という単語が頭を過った私は、すぐにラフィーにお願いしました。
「駄目よラフィー! すぐに消して! 水よ水!」
「あい、おねえちゃん」
またしても、可愛らしくも気の抜けた、うー、やーを口にして、左手を窓の外に向けるラフィーは、私に分からない魔法を発動させます。
これは……水系と言っていいのでしょうか。
校舎の上空に突然雨雲が広がり、豪雨が降り注ぎます。
燃え盛った校舎は、みるみると鎮火され、あっという間に火の手はおさまりました。
「気象操作の魔法ですって!? そんな、まさか……炎とは別に、雷と風の属性さえも極めているとでも言うのですか!?」
オルリード学院長の驚愕の叫びが聞こえますが、私には魔法の事は何も分からないので、凄い魔法を使ったんだな、くらいにしか思えません。
「でも……何でもアリなのね。天使って」
私は関心しましたが、窓の外の真っ黒に焦げた校舎を見て、逃げたくなりました。
これは……大事件なんじゃないでしょうか。
校舎の中の人たちが無事なのか、すぐに確かめに行かなければ――
そう思った所で、オルリード学院長が落ち着きを取り戻して、言葉を発します。
「よかった……校舎が無事なら中も大丈夫です。この学院の校舎には――外側は今の魔法で破られはしましたが、校舎の内側も同じく強力な魔法防御結界が施されていますから。まああの大爆発で中に居た生徒たちは驚いたでしょうけど……しかし、あの防御結界を破り、校舎を真っ黒に焦がす程の魔法とは、恐るべし極大魔法……ですね」
どうやら中は安全みたいです。本当によかった……危うく犯罪者になる所でした。
いやいや、校舎を燃やした時点で、既に犯罪者ではないでしょうか。――どうしましょう。
「あ、あの……すいません。えっと、その、どうしましょう」
『弁償』の二文字が、頭の中を掠めます。
焦げた校舎の改修費なんて、いったいいくら掛かるのでしょう。
お城のような見た目からして、絶対何億と掛かるにちがいありません。
咄嗟にお店の売り上げを計算します。
えっと、十億くらいなら大丈夫でしょうか。
毎日のポーションの売り上げが莫大なので、足りなくても分割払いにしてもらえれば、何とかなるはずです。
何しろお店の商品には原価がありませんから、利益は貯まる一方なのです。
「ああ、心配しなくても大丈夫ですよ。サオリさん。破壊さえされていなければ、魔法で修復可能です。校舎の中に居た人も無事ですから、ご安心ください」
ほっ。と胸を撫で下ろしました。
「本当にごめんなさい。ほら、ラフィーも謝って」
「いや、いいのですよ。魔法が見たいと言ったのは私ですし、まさか無詠唱の極大魔法が見れるとは思っていませんでした」
その時のオルリード学院長の目が、キラリと光った気がしました。
「じゃあ一応、見学はさせてもらえるのでし――」
「では、入学はいつからになさいますか? 明日からでも当学院は歓迎いたしますよ」
私の言葉に被せるように、オルリード学院長は言い放ちます。
「え?」
「あなたたちのような逸材を見逃すわけには行きません。入学を許可します。クラスは……特Sクラスしかありませんね。……極大魔法に転移魔法……うふふ。凄いわぁ、素晴らしいわぁ」
目をうっとりとさせて、何やら妄想に耽りだしたオルリード学院長は、どうやら私たちの入学を決定してしまったようです。
「あの、見学したいのですが……」
「そんなの、入学してからゆっくり見て回ればいいじゃないですか! そうそうあなたたちは特待生扱いにします。学費はいっさい掛かりません。学食も食べ放題です」
「こーな?」
食べ放題にすぐさま反応したラフィーは、興味津々です。
「じゃあ明日からでいいですかね!? サオリさん、ラフィーさん。王立魔法学院へようこそ!」
院長室へと通された私たちは、学院長と面会しました。
杖こそ持ってはいませんが、魔法使い然としたローブを羽織り、ロングヘアーの燃えるような赤髪とは対照的な、穏やかで優しそうな笑顔を浮かべた女性です。
オルリード学院長は立派な机の向こう側で立ち上がり、握手を求めてきました。
この異世界でこんな挨拶をされたのは、初めてではないでしょうか。
「はじめまして。サオリと申します。隣の子はラフィーです。この度は突然に訪問してしまって、申し訳ありません」
「いやいや、いいのですよ。見学したいという方は大抵突然来たりしますから。それにシルバニア家と縁のある方を門前払いするはずもありませんし。お二人とも入学希望という事でよろしいですか」
「あ、はい」
その突然来るという人にしても、紹介状は持ってきているだろうし、私みたいに誰の紹介も無しに、本当に突然の訪問をする人は居ないのではないでしょうか。
それでも迷惑そうな表情は少しも見せず、ニコニコとしているオルリード学院長は、本当に歓迎してくれているように見えます。
「本当に突然なのですけど、本日の見学は可能でしょうか」
「はいはい、大丈夫ですよ。でもその前に一つだけお聞かせくださいね。……入学希望と伺いましたがサオリさんとラフィーさんの得意な魔法は何か教えて下さいな」
得意な魔法……魔力も無い私が使える魔法なんてありません。
天使の羽根ペンを使ってなら可能ですが、それは本当は神様の力なので、私の魔法というわけではありません。
ラフィーは何の問題もないでしょうけど。
でも魔力も無いのに、魔法学校に入学したいので見学させろと言うのもおかしな話です。
ここは適当に話を合わせる事にしました。
「えっと……よく使うのは転移魔法で、たまに蘇生魔法を使ったりします」
「はい!?」
突然、机の上に被さるように身を乗り出したオルリード学院長は、驚いた顔をしています。
私、まずい事を言ってしまったのでしょうか。
……そういえば、転移魔法はSランクでもめったに使える人は居ないというような事を聞いたかもしれません。
そして蘇生魔法は使える人などこの世界に居ないと、誰かが言っていたような……。
「そ、そ、そ、それは本当ですか!?」
「あ、えっと、その」
オルリード学院長は、なんだか目をキラキラと輝かせています。
どうしましょう。
「蘇生魔法はともかく、転移でしたらこの場でも可能ですよね? 本当に出来るのでしたら、是非見せていただきたいのですが、よろしいですか?」
言ってしまったものは仕方ないですね。
私はショルダーバッグからノートと羽根ペンと、小さなインク壺を取り出しました。
「あの、詠唱とかは出来ないので、ノートに書いていいですか」
「ああ、魔法陣ですか? それはもちろんですけど、でもそんな小さなものに書くのですか?」
「魔法陣というか、えっと、簡略文字列? とか言うものです」
オルリード学院長は、またしても机の上に身を乗り出して、顔を近づけてきました。
「魔法陣の簡略化!? いったい誰に教わったのです!? 火を熾すとか小さな魔法ならまだしも、転移魔法を簡略化するとか、そんなものを開発できるような者がこの世界に居るのですか!?」
あぅ……何だか話がどんどん大きくなってしまっているような気がします。
さすがに、神様に教わったとは言わない方がいいでしょうね。
「えっと、とりあえずやってみますね」
ノートを開くと、既に途中まで書きこんである魔法の簡略文字が、ずらりと並んでいます。
最初から書くとやたらと時間が掛かってしまうので、あらかじめ書いておいて、最後の一文を加えるだけで発動できるようにしておいたのです。
一度発動させると、この文字列は消えてしまうので、使ったら書いての繰り返しです。
一文字か二文字残しだと魔法円が展開されてしまうので、三文字分を空白にしてあります。
その三文字は暗記してあります。
転移魔法の書いてあるページを開きました。
転移魔法は何度も使うので、それだけをいっぱい書いた転移専用のページを作ってあるのです。
「では、ちょっと転移してみますね」
ラフィーはそのまま残して、私は最後の三文字と行き先――コンビニでいいですよね――の記述を、その文字列に加えました。
パシュン! と、空間が切り裂かれて、私はコンビ二に戻りました。
一瞬で、誰も居ないバックルームに移動したのです。
チラリとお店のカウンターを覗いたら、カーマイルがお客様にポーションを売っている所でした。
どうやら仕事は真面目にこなしているようです。
たぶんお客様のいらっしゃらない時は、床かカウンターの上で寝ているのでしょうけど。
さて……えっと、何か証拠に持って帰った方がいいのでしょうか。
でもその場で消えたのだから、それが証拠と言えますよね。
そういえば、どこに転移するとも言っていませんでした。
私はそのままトンボ返りで、魔法学院に戻りました。
一度行った場所なら、いつでも何回でも行けるのです。
院長室のさっきとまったく同じ場所に、空間を切り裂いて私は出現します。
「ただいまです」
「おかえりー、おねえちゃん」
可愛い妹が、ポケーっとした顔で迎えてくれました。
オルリード学院長は――
机に乗り出したままの姿勢で、目を大きく見開き、顎が外れそうなくらいに口を開いて固まっていました。
「今転移したのですけど、分かっていただけましたか?」
「……」
しばらく沈黙が続きます。
じっと待っていると、そのうち硬直から解かれたオルリード学院長は、私に漸う訊ねてきました。
「あ、あの……サオリさんは……Sランクの方ですか? いやSランクでも転移をそんなに簡単に出来る者なんて、めったに聞かないですが……」
やっぱり私は、やらかしてしまったのでしょうか。
Sランク……エリオットとか、あの勇者さんのランクですよね。
転移魔法は、私なんかが人前で使っていい魔法ではなかったかもしれません。
「私は冒険者登録はしていないので、ランクは持っていません」
ここは正直に答えます。
「そう……なのですか」
ちょっと居心地が悪くなってしまったので、ここで話を逸らそうと、ラフィーを指差しました。
「あ、この子の魔法も見ますか? たぶん何でも出来るんじゃないかと思いますけど」
「え? ええ。えっと……ラフィーさんは得意な魔法はありますか?」
何とか持ち直したオルリード学院長は、ラフィーに向き直って訊きます。
「ラフィー? とくいなまほー? んー? ばくえん?」
何故か疑問形で爆炎と答えるラフィー。オルリード学院長の私への関心を、一時的にラフィーに移す事に成功はしましたが、何か嫌な予感がします。
「爆炎ですか? 炎系と答えずに、爆炎……。それはもしかして炎系最上級の極大魔法の『爆炎』の事でしょうか?」
その魔法なら私のノートにも、簡略文字列が書かれています。
神様の洞窟で貰った『お品書き』にあったものです。
そして妖精の森で使おうとして、フォレスに慌てさせた魔法でもあります。
その時は、森を消滅させる気ですかと、フォレスに怒られました。
「まさかここで極大魔法を発動されても困るので――」
オルリード学院長が言いかけた時、ラフィーは既に、可愛らしくも気の抜けた掛け声を放っていました。
「うー、やー」
次の瞬間、院長室の窓が割れ、外が真っ赤に染まりました。
「うわー! 何てことを!」
オルリード学院長の叫びが、部屋に響きます。
ラフィーが窓の外に向かって放った極大魔法『爆炎』は、向かいに見えた校舎を直撃して爆発しました。
もの凄い爆発音が轟き、校舎が一気に燃え上がります。
「うわわわわ! ま、ま、まさか無詠唱で瞬時に極大魔法が発動されるなんて……どうしましょう! どうしましょう! うわー! どうしましょう!」
オルリード学院長はパニックです。
一瞬、『犯罪者』という単語が頭を過った私は、すぐにラフィーにお願いしました。
「駄目よラフィー! すぐに消して! 水よ水!」
「あい、おねえちゃん」
またしても、可愛らしくも気の抜けた、うー、やーを口にして、左手を窓の外に向けるラフィーは、私に分からない魔法を発動させます。
これは……水系と言っていいのでしょうか。
校舎の上空に突然雨雲が広がり、豪雨が降り注ぎます。
燃え盛った校舎は、みるみると鎮火され、あっという間に火の手はおさまりました。
「気象操作の魔法ですって!? そんな、まさか……炎とは別に、雷と風の属性さえも極めているとでも言うのですか!?」
オルリード学院長の驚愕の叫びが聞こえますが、私には魔法の事は何も分からないので、凄い魔法を使ったんだな、くらいにしか思えません。
「でも……何でもアリなのね。天使って」
私は関心しましたが、窓の外の真っ黒に焦げた校舎を見て、逃げたくなりました。
これは……大事件なんじゃないでしょうか。
校舎の中の人たちが無事なのか、すぐに確かめに行かなければ――
そう思った所で、オルリード学院長が落ち着きを取り戻して、言葉を発します。
「よかった……校舎が無事なら中も大丈夫です。この学院の校舎には――外側は今の魔法で破られはしましたが、校舎の内側も同じく強力な魔法防御結界が施されていますから。まああの大爆発で中に居た生徒たちは驚いたでしょうけど……しかし、あの防御結界を破り、校舎を真っ黒に焦がす程の魔法とは、恐るべし極大魔法……ですね」
どうやら中は安全みたいです。本当によかった……危うく犯罪者になる所でした。
いやいや、校舎を燃やした時点で、既に犯罪者ではないでしょうか。――どうしましょう。
「あ、あの……すいません。えっと、その、どうしましょう」
『弁償』の二文字が、頭の中を掠めます。
焦げた校舎の改修費なんて、いったいいくら掛かるのでしょう。
お城のような見た目からして、絶対何億と掛かるにちがいありません。
咄嗟にお店の売り上げを計算します。
えっと、十億くらいなら大丈夫でしょうか。
毎日のポーションの売り上げが莫大なので、足りなくても分割払いにしてもらえれば、何とかなるはずです。
何しろお店の商品には原価がありませんから、利益は貯まる一方なのです。
「ああ、心配しなくても大丈夫ですよ。サオリさん。破壊さえされていなければ、魔法で修復可能です。校舎の中に居た人も無事ですから、ご安心ください」
ほっ。と胸を撫で下ろしました。
「本当にごめんなさい。ほら、ラフィーも謝って」
「いや、いいのですよ。魔法が見たいと言ったのは私ですし、まさか無詠唱の極大魔法が見れるとは思っていませんでした」
その時のオルリード学院長の目が、キラリと光った気がしました。
「じゃあ一応、見学はさせてもらえるのでし――」
「では、入学はいつからになさいますか? 明日からでも当学院は歓迎いたしますよ」
私の言葉に被せるように、オルリード学院長は言い放ちます。
「え?」
「あなたたちのような逸材を見逃すわけには行きません。入学を許可します。クラスは……特Sクラスしかありませんね。……極大魔法に転移魔法……うふふ。凄いわぁ、素晴らしいわぁ」
目をうっとりとさせて、何やら妄想に耽りだしたオルリード学院長は、どうやら私たちの入学を決定してしまったようです。
「あの、見学したいのですが……」
「そんなの、入学してからゆっくり見て回ればいいじゃないですか! そうそうあなたたちは特待生扱いにします。学費はいっさい掛かりません。学食も食べ放題です」
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