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第一部 第三章 魔王と勇者
38・邂逅
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「ラフィー!」
私の足元に転がる、黒い塊。
ラフィーだったもの――元天使の、真っ黒に焦げてプスプスと煙を出して燻る、一回り小さくなった体が転がっていました。
「な、何を!?……いえ、それよりも!」
一瞬だけ、私の目の前に立つ少年を睨み、すぐにショルダーバッグからノートと羽根ペンを取り出します。
転移のページ、残り三文字と行き先を記入。
コンビニのバックルームに一瞬で転移した私は、パニックになっていました。
◇ ◇ ◇
教室に案内された私とラフィーは、静まり返った室内の様子を眺めていました。
魔王らしき男の子を視界に捉えます。
「こちらへ」
オルリード学院長に促されて、教壇の前に立ちます。
「今日からこのクラスに編入する事になりました、サオリさんとラフィーさんです。仲良くしてあげて下さいね」
もの凄く簡単な紹介を終えて、オルリード学院長は私とラフィーの席を教えてくれます。
「一番後ろの並びの席の、どこにでも座って構いませんよ。見た通りこれだけの人数しか居ませんから、他に座りたい席があればお好きにして下さいね」
私とラフィーはゆっくりと、教室の後ろの方へと移動します。
途中で、金髪巻き髪の女の子が一人、その二列後ろに男の子一人に女の子が三人、並んで座っています。
想像していた例の魔王メンバーはすぐに分かりましたが、フォレスの言っていた魔法探偵や竜の子は、ここには居ないのでしょうか。
魔王と離れて座っている、金髪巻き髪の子がそのうちの一人なのでしょうか。
そして、クラスにたった一人だけの男の子。
この男の子が――
魔王ね。
黒髪に黒い瞳、まるで日本人のような印象を受けましたが、やはり顔つきは西洋風で、ランドルフが言っていた十歳くらいというのはほぼ正確みたいですね。
黒いレザー風のピッチリとした服装と黒いブーツ。所々に見える鎖のアクセサリーが、どこかのロックバンドを意識しているかのようです。――子供ですけど。
その少年の左の席に、金髪の美少女。右の席にラフィーのような青髪の美少女。
さらに青髪の隣に茶髪の十五~十六歳くらいの、杖を背中に背負って、恥ずかしそうに俯いている大人しそうな少女。
魔王パーティーだ。……左右の美少女はラフィーに似ています。私から見たら、天使にしか見えません。
天使ニナとフォウ。そして、杖を持った少女が魔王になりかけたという、サーラという子なのでしょう。
一気に冷や汗が吹き出しました。
魔力の無い私にも分かる、魔王とそれに近い者、サーラのオーラは、とてつもない威圧感を伴っています。
不思議なのは、天使のラフィーを見ても、ラフィーが向こうの天使を見ても、何の反応もしない事です。
「よろしくお願いします……」
私は小さく呟くように挨拶をしながら、一番後ろの席へと向かいました。
「もうすぐ担当の先生が来ますから、それまでお待ちくださいね」
オルリード学院長はそう言うと、教室を出て行ってしまいました。
私は席に着き、三列先の魔王のグループを観察しようとしたら、その魔王が突然振り向いたものですから、私と目が合ってしまいました。
「ねえ」
後ろを振り向いた魔王――アランが私に話しかけてきます。
「アンタ……何で日本語しゃべってるの?」
「え?」
どういう事でしょう。
何故私の言葉が日本語だと分かるのでしょうか。
確かに私はこの世界では、普段は日本語をずっと話しています。
この世界の謎翻訳機能によって、それらはすべてこの世界の言語に変わり、他の人に伝わっているはずなのです。
そして今この少年が口にした言葉も、日本語でした。
口の動きとその言葉が、合っていたのです。
謎翻訳機能が働いていたなら、海外ドラマの吹き替えのように、口の動きに違和感があるのです。
「サオリって言ったよな。……アンタ、日本からの転生者か!? まじかよ!」
私は何も答えていないのに、この少年は何かを確信したように、一人で盛り上がっています。
まさか、この少年……アランは日本の――
でも神様の言っていた数ある宇宙からの転生では、同じ星の者がこの世界に来る事なんて奇跡のような確率しかないと聞いています。
本当にそんな奇跡があるのでしょうか。
しかも同じ日本人としてなんて。
「俺は荒木信吾、見た目は十歳だが本当は十七歳の日本の高校生だ」
やっぱり転生者!?
でも……たとえそうだとしても……そんな。
彼の言っている事が本当だとしたら、そしてその彼が魔王なのだとしたら。
そんな運命の少年を、誰が討伐できるというのでしょうか。
私が混乱して何も言えないでいると、ラフィーが珍しく口を挟んできました。
「第二天使と第四天使。なんで魔王退治しないの。勇者、どこ?」
天使は勇者と共に、魔王を倒す宿命を背負っています。
ラフィーはこれでも、その宿命に忠実なのです。
「はじめまして、第三天使。ここに居るアランは魔王ではあるのだけど、本来の魔王とは違うのです」
「なの」
天使二人が口を開きます。
青髪の天使はとても知的に見えますが、金髪の天使は何だかラフィーに似た印象です。
青髪の天使の挨拶によって、お互いに天使と認識はしていても、ラフィーもこの二人の天使も、会った事は無かったのだという事が分かります。
だからさっきのような反応だったのだと、納得しました。
「魔王、倒す。仕事~」
ラフィーはアランに向かって、左の掌を向けました。
「駄目! ラフィー、待って!」
「無駄ですよ、第三天使」
私の制止も聞かず、ラフィーは攻撃を仕掛けました。
掌が赤く光った瞬間、目の前が真っ赤に染まり――
一瞬だけ目を瞑った私が、その目を開いた時には――
「ラフィー!」
真っ黒に焦げたラフィーが転がっていたのです。
◇ ◇ ◇
咄嗟に逃げる事を選択した私は、コンビニへ転移しました。
一緒に転移するために触れたラフィーの体は燃えるように熱かったはずですが、そんな感覚など忘れてしまえるほど、私の心は動揺し、不安と絶望に埋め尽くされていました。
お店に戻ってから、真っ先に蘇生魔法を使いました。
やられてからそんなに時間も経っていないので、すぐに効果があると思いましたが、何の変化も起きません。
「なんで!? どうしよう……どうしよう」
バックルームで、蘇生魔法が効かなくてパニックになっていると、お店のカウンターの方から、カーマイルがやってきました。
「何をしているのですか、ラフィーは死んではいませんよ。さっさと回復魔法を施してください」
それを聞いた私は、泣きながら回復魔法のページを開いて羽根ペンを走らせます。
簡略文字列を書き終わった直後、緑の光と共に徐々に再生されていくラフィーを見て、更に泣き出してしまいました。
ラフィーに触れた時に負った手の火傷も、ついでとばかりにすぐに治ってしまいます。
「ラフィー! ごめんなさい。私……まさか……こんな事になるなんて」
神様の力の宿った羽根ペンによる回復魔法は、再生魔法も兼ねていて、着ている服さえも元に戻してしまいます。
この力に気付いたおかげで、いまだにお店にはコーラもコロッケも在庫があるのです。
しかし、この世界では神様の持つ能力を別にして、魔法に限って言えば無から有を創り出す魔法は存在しません。
もしかしたらこの魔法は、対象の時間を巻き戻しているのかもしれません。
「ラフィー! ラフィー!」
あらかた元の姿に戻ったラフィーは、まだ目を覚ましません。
私はずっと眠れる天使を抱きしめて、泣いていました。
私の足元に転がる、黒い塊。
ラフィーだったもの――元天使の、真っ黒に焦げてプスプスと煙を出して燻る、一回り小さくなった体が転がっていました。
「な、何を!?……いえ、それよりも!」
一瞬だけ、私の目の前に立つ少年を睨み、すぐにショルダーバッグからノートと羽根ペンを取り出します。
転移のページ、残り三文字と行き先を記入。
コンビニのバックルームに一瞬で転移した私は、パニックになっていました。
◇ ◇ ◇
教室に案内された私とラフィーは、静まり返った室内の様子を眺めていました。
魔王らしき男の子を視界に捉えます。
「こちらへ」
オルリード学院長に促されて、教壇の前に立ちます。
「今日からこのクラスに編入する事になりました、サオリさんとラフィーさんです。仲良くしてあげて下さいね」
もの凄く簡単な紹介を終えて、オルリード学院長は私とラフィーの席を教えてくれます。
「一番後ろの並びの席の、どこにでも座って構いませんよ。見た通りこれだけの人数しか居ませんから、他に座りたい席があればお好きにして下さいね」
私とラフィーはゆっくりと、教室の後ろの方へと移動します。
途中で、金髪巻き髪の女の子が一人、その二列後ろに男の子一人に女の子が三人、並んで座っています。
想像していた例の魔王メンバーはすぐに分かりましたが、フォレスの言っていた魔法探偵や竜の子は、ここには居ないのでしょうか。
魔王と離れて座っている、金髪巻き髪の子がそのうちの一人なのでしょうか。
そして、クラスにたった一人だけの男の子。
この男の子が――
魔王ね。
黒髪に黒い瞳、まるで日本人のような印象を受けましたが、やはり顔つきは西洋風で、ランドルフが言っていた十歳くらいというのはほぼ正確みたいですね。
黒いレザー風のピッチリとした服装と黒いブーツ。所々に見える鎖のアクセサリーが、どこかのロックバンドを意識しているかのようです。――子供ですけど。
その少年の左の席に、金髪の美少女。右の席にラフィーのような青髪の美少女。
さらに青髪の隣に茶髪の十五~十六歳くらいの、杖を背中に背負って、恥ずかしそうに俯いている大人しそうな少女。
魔王パーティーだ。……左右の美少女はラフィーに似ています。私から見たら、天使にしか見えません。
天使ニナとフォウ。そして、杖を持った少女が魔王になりかけたという、サーラという子なのでしょう。
一気に冷や汗が吹き出しました。
魔力の無い私にも分かる、魔王とそれに近い者、サーラのオーラは、とてつもない威圧感を伴っています。
不思議なのは、天使のラフィーを見ても、ラフィーが向こうの天使を見ても、何の反応もしない事です。
「よろしくお願いします……」
私は小さく呟くように挨拶をしながら、一番後ろの席へと向かいました。
「もうすぐ担当の先生が来ますから、それまでお待ちくださいね」
オルリード学院長はそう言うと、教室を出て行ってしまいました。
私は席に着き、三列先の魔王のグループを観察しようとしたら、その魔王が突然振り向いたものですから、私と目が合ってしまいました。
「ねえ」
後ろを振り向いた魔王――アランが私に話しかけてきます。
「アンタ……何で日本語しゃべってるの?」
「え?」
どういう事でしょう。
何故私の言葉が日本語だと分かるのでしょうか。
確かに私はこの世界では、普段は日本語をずっと話しています。
この世界の謎翻訳機能によって、それらはすべてこの世界の言語に変わり、他の人に伝わっているはずなのです。
そして今この少年が口にした言葉も、日本語でした。
口の動きとその言葉が、合っていたのです。
謎翻訳機能が働いていたなら、海外ドラマの吹き替えのように、口の動きに違和感があるのです。
「サオリって言ったよな。……アンタ、日本からの転生者か!? まじかよ!」
私は何も答えていないのに、この少年は何かを確信したように、一人で盛り上がっています。
まさか、この少年……アランは日本の――
でも神様の言っていた数ある宇宙からの転生では、同じ星の者がこの世界に来る事なんて奇跡のような確率しかないと聞いています。
本当にそんな奇跡があるのでしょうか。
しかも同じ日本人としてなんて。
「俺は荒木信吾、見た目は十歳だが本当は十七歳の日本の高校生だ」
やっぱり転生者!?
でも……たとえそうだとしても……そんな。
彼の言っている事が本当だとしたら、そしてその彼が魔王なのだとしたら。
そんな運命の少年を、誰が討伐できるというのでしょうか。
私が混乱して何も言えないでいると、ラフィーが珍しく口を挟んできました。
「第二天使と第四天使。なんで魔王退治しないの。勇者、どこ?」
天使は勇者と共に、魔王を倒す宿命を背負っています。
ラフィーはこれでも、その宿命に忠実なのです。
「はじめまして、第三天使。ここに居るアランは魔王ではあるのだけど、本来の魔王とは違うのです」
「なの」
天使二人が口を開きます。
青髪の天使はとても知的に見えますが、金髪の天使は何だかラフィーに似た印象です。
青髪の天使の挨拶によって、お互いに天使と認識はしていても、ラフィーもこの二人の天使も、会った事は無かったのだという事が分かります。
だからさっきのような反応だったのだと、納得しました。
「魔王、倒す。仕事~」
ラフィーはアランに向かって、左の掌を向けました。
「駄目! ラフィー、待って!」
「無駄ですよ、第三天使」
私の制止も聞かず、ラフィーは攻撃を仕掛けました。
掌が赤く光った瞬間、目の前が真っ赤に染まり――
一瞬だけ目を瞑った私が、その目を開いた時には――
「ラフィー!」
真っ黒に焦げたラフィーが転がっていたのです。
◇ ◇ ◇
咄嗟に逃げる事を選択した私は、コンビニへ転移しました。
一緒に転移するために触れたラフィーの体は燃えるように熱かったはずですが、そんな感覚など忘れてしまえるほど、私の心は動揺し、不安と絶望に埋め尽くされていました。
お店に戻ってから、真っ先に蘇生魔法を使いました。
やられてからそんなに時間も経っていないので、すぐに効果があると思いましたが、何の変化も起きません。
「なんで!? どうしよう……どうしよう」
バックルームで、蘇生魔法が効かなくてパニックになっていると、お店のカウンターの方から、カーマイルがやってきました。
「何をしているのですか、ラフィーは死んではいませんよ。さっさと回復魔法を施してください」
それを聞いた私は、泣きながら回復魔法のページを開いて羽根ペンを走らせます。
簡略文字列を書き終わった直後、緑の光と共に徐々に再生されていくラフィーを見て、更に泣き出してしまいました。
ラフィーに触れた時に負った手の火傷も、ついでとばかりにすぐに治ってしまいます。
「ラフィー! ごめんなさい。私……まさか……こんな事になるなんて」
神様の力の宿った羽根ペンによる回復魔法は、再生魔法も兼ねていて、着ている服さえも元に戻してしまいます。
この力に気付いたおかげで、いまだにお店にはコーラもコロッケも在庫があるのです。
しかし、この世界では神様の持つ能力を別にして、魔法に限って言えば無から有を創り出す魔法は存在しません。
もしかしたらこの魔法は、対象の時間を巻き戻しているのかもしれません。
「ラフィー! ラフィー!」
あらかた元の姿に戻ったラフィーは、まだ目を覚ましません。
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