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第一部 第四章 これが私の生きる道

41・アラン2

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 期待に胸を膨らませ、挑んだ魔法の授業は初日で挫折した。 

 なんだよ魔法理論って。魔力の種類だって? オド? マナ? やべえ、何言ってるのか全然わかんねぇ。

「で、あるからこの事は、エネルギーと質量を相互に変換可能であることを示していて……」

 赤い髪のどう見ても十代の少女が教壇に立ち、黒板に何やら書いているのだが、さっぱり分からない。

 そもそも魔法って何?
 平成生まれの現代っ子の俺からしたら、それは奇跡そのものだ。

 それをこいつらは、原理なり構造なりを理解して使っている。
 まさに奇跡を自分の意思で起こしているのだ。

 だいたい世界そのものが違うのだ。
 世界を構成する物質だか粒子だか知らないが、俺の居た世界に無かったものが存在していて、それが利用されている。
 
 俺はアインシュタインじゃない。一介の高校生だ。
 そんなもの理解できるわけがなかった。

「やってらんねぇ、マジやってらんねぇ」

 という事で、二日目からは登校拒否生徒になった。
 もう一週間、ひきこもっている。

 リビングのソファで横になってゴロゴロしていると、俺の目の前でフォウのやつが、暖炉に魔法で火を点けた。
 
「なあ、それって簡単そうだけど、マジどうやってんの?」
「どうと言われましても、わたくしくらいになりますと、もうイメージだけで勝手に発動しているようなものですから、詠唱の基本とかはやはり、学院で勉強した方がよろしいかと思います」

 そうは言っても、初日でちんぷんかんぷんだった俺には、とてもこの先魔法のなんたるかを理解できる自信はない。

「この有り余る魔力を使えないって、マジ宝の持ち腐れじゃん? けど授業とかさっぱり分からないじゃん? どうすりゃいいんだよ。魔法がいっさい使えない魔王とか、マジウケるんですけど」
「魔法が使えなくても、アランには魔王のスキルがありますから、ほぼ無敵ではないでしょうか」

 いや、そういうんじゃないんだよ。
 俺的には格好よく魔法を使いこなして、気持ちよくヒャッハーしたいんだよ。

「この世界には魔物とかだって居るんだろう? そういうのを攻撃魔法で、ズバーンと退治とかしてみたいじゃん」
「そんな魔王のオーラを出していたら、魔物には懐かれてしまいますよ」

「そういうもんなの?」
「むしろ人間の方が今のアランにとっては、敵みたいなものだと思いますけど」

「マジで?」

 魔王っていう肩書きのせいで、人間に狙われてもおかしくないって事か。

「そういや魔王と言えば、勇者あたりが倒しに来るとかあるんじゃね?」
「ありますよ」

「あるのかよ」
「おそらく一年以内にアランの前に勇者が現れて、討伐しようとすると思います」

 なんで一年以内って分かるんだよ。
 てか勇者とか見てみたい。

「ただ、勇者と名乗る者が千人集まっても、魔法の使えない今のアランに勝てる確率はゼロですよ」
「そうなの? 俺ってばそんなに強いの?」

「その魔力値から発動されるスキルは、極大魔法を数百放つよりもおぞましい結果を生むと思います。既に神であるジダルジータ様でさえも滅ぼしかけました」

 どんだけだよ。
 それでも俺は魔法が使いたいんだけどな。

 王様から貰ったこの屋敷には、天使のニナとフォウ、人間|(仮)のサーラが一緒に住んでいる。
 全員無詠唱で魔法が使えるメンバーだ。
 とりあえず、見て観察する事から始めたが、魔法のイメージがまったくつかめない。

「やっぱり基本か、……基本を理解しないと駄目なのか」
「学院に戻りますか?」

 戻った所で結局はあの難解な授業など理解できるはずもない。

 だが、習うより慣れろだ。
 少しでも魔法というものの存在の近くに身を置く事で、何か覚えるきっかけも出来るかもしれない。

 ここでこいつらと一緒に居ても、レベルが違いすぎて何も吸収できないからな。

「そうだな。とりあえず学校に通うくらいはするか」
「では、わたくしたちもご同行いたします」

「なの」

 きっかけが欲しい。

 魔法を覚えるきっかけが。
 最初に何かを掴んでしまえば、あとはこの桁違いの魔力でどうにでもなる気がする。

「なあ、確認するぞ」

 俺はリビングに集まっている全員に向けて聞いた。

「ニナは天使の中で唯一回復魔法が使えるんだよな。そして風魔法が得意」
「なの」

 フォウに視線を向ける。

「フォウは光の極大魔法が得意。そして最高レベルの結界の展開。……だな?」
「そうですね」

 次にサーラだ。

「サーラはその杖を持っている限り、何でも出来る。回復も再生も極大攻撃も防御も、そして転移さえも」
「は、はい……えと、ルル様と合体した事で、この『大魔導師の杖』も、なんかパワーアップしたみたいです……」

 ルルというのは竜の子だ。
 実体のある女の子だったらしいが、あの廃墟での戦いの際、次元魔法とやらの巻き添えで杖と合体しちまったらしい。

 あの廃墟では魔王になりかけたサーラに、アランパーティーが戦いを挑んでほぼ全滅。
 アランはその時に死んだ。

 アランが死んだ事のショックがきっかけで、魔王の欠片から自分の意思を取り戻したサーラが、魔王の因子をアランに移植する事で、本来なら出来ないはずの蘇生を成功させる。

 蘇生したアランは、封印されていた前世の記憶と魔力を取り戻した。

 アランは二十五歳だったというが、魔王となって蘇生した時には、十歳の体になっていて、二十五歳のアランの意識は閉ざされた。
 
 ――それが今の俺だ。

 この世界で二十五年生きたアランの記憶は俺には無く、トラックに撥ねられて死んだ記憶の続きが、この世界でのあの廃墟からなのだ。

「で、俺におまえらみたいな魔法を使える見込みは、この先あると思うか?」

 ぶっちゃけないように思えるが、訊いてみる。

「それはアランの努力次第なのではないでしょうか」
「なの」

 努力ねぇ……。

「アランの魔力値ならどんな魔法が使えても不思議ではありません。それが使えないというのなら覚えるまでです」
「まあいいや。とりあえず学校には通う事にする。明日からだ」

「はい」



  ◇  ◇  ◇



 という事で登校を再開する事にした俺だが、その初日の教室で日本からの転生者らしき女と遭遇した。

 女の名はサオリ――
 日本語をそのまんましゃべってやがった。
 他の連中には、この異世界の言葉として伝わっているらしい。
 
 気持ちの昂ぶりを抑えきれずに話かけたが、もう一人の少女に絡まれた。

「魔王、倒す。仕事~」

 どういうわけか、魔王だとバレている。――その俺に向かって、攻撃魔法を放ちやがった。



 俺の目の前に、真っ黒に焦げた少女が転がっていた。

 今日付けで編入してきた二人の内の一人が、俺に攻撃を仕掛けてきたのだ。
 それも極大魔法ときたもんだ。

 シュゥゥと煙を吐き出すその小さな体は――

 やべぇ、殺しちゃったかも。
 魔王の絶対防御というスキルは本当に無敵らしい。
 
 そして、そのスキルは精神攻撃をも防御する。
 ――つまり、俺が少女の死体を見たとしても、動揺する事もなく、平静を保っていられるのだ。
 
「な、何を!?……いえ、それよりも!」

 もう一人の女――サオリがバッグからノートとペンを取り出すと、何やら書き込んだ。

 と思ったら焦げた少女と共に、一瞬で転移して消えやがった。

「おいおい。転移って使えるやつほとんど居ないんじゃなかったの?」

 サーラは使えるが、それを使いこなす術者はこの世界にほとんど居ないと聞いていたのだ。

「転移魔法が使える者は限られます。それは確かですが……今のは発動の早さがサーラ並みでした」

 日本の転生者だとしたら、どうやって魔法を覚えた?
 やべぇ、マジ聞きたい。

 明日も来るかな? 
 あの少女が死んだとしたら、もう来ないかもしれない。

 そしたらこっちから訪問してでも、話を聞きに行こう。

「登校してよかったぜ。どうやら魔法を覚えるきっかけが掴めそうだ」
  

  
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