異世界コンビニ☆ワンオペレーション

山下香織

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第一部 第四章 これが私の生きる道

40・アラン

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 俺は荒木信吾。
 十七歳の高校二年生。
 日本人だ。

 俺は今、たぶん異世界に居る。

 簡単に言えば、トラックに撥ねられて、転生した先で魔王となっていた。
 
 死ぬ前の記憶もある。

 転生と言っていいのだろうか。
 俺は生まれたばかりの赤ん坊ではなく、既に十歳くらいに成長した子供の姿だ。
 
 もしかしたら、誰かの体を乗っ取ってしまったのかもしれない。

 目覚めた場所は、湖に囲まれた廃墟だ。
 天井も無く、床は剥がされ、外壁もほとんど残っていない程に崩れ落ち、この場所を囲む湖が丸見えだ。

 自分の手を見れば、ホログラムのように文字と数字が浮き出た。
 俺の知っている言語で『魔王・125000』と表示されていた。

 俺の周りには少女が三人居る。
 話しかけられたが、何を言っているのかさっぱりだ。

 少女たちを見ると、それぞれ――『天使・15600』『天使・11500』『人間|(仮)・36000』と表示が浮き出てきた。

 なんだよ天使って……なんなんだよ人間|(仮)って。

 ここは異世界という事でいいのか?
 俺は死んだんだな?
 転生したんだよな?

 平成生まれの俺には、ある程度の知識がある。
 アニメとラノベの知識だ。

 俺はこの状況で、まず諦めた。
 高校生だった、前の人生を。

 そして認めた。
 この世界と、十歳の少年として生まれ変わった俺自身を。

 信じられないからといって、現実を受け入れられないやつは馬鹿だ。
 目の前に見えるもの、感じるもの、すべてが現実そのものなのだ。
 自分の固定観念や先入観で判断して、受け入れられないからといつまでも否定していたら、たぶんこんな状況で生きて行けない。

 この廃墟はずっと昔から廃墟だったわけじゃない。
 たった今、崩れ落ちたのだ。
 たった今、生きるか死ぬかの何かがあったはずなのだ。

 俺を抱きしめてきた三人の少女の笑顔と、瞳の涙がそう語っていた。



 俺はたぶん、魔王として生まれ変わった。
 125000という数字は生命力か魔力だろう。

 少女の一人は杖を持っている。
 魔法がある世界で、俺のこの数字が魔力なのだとしたら、かなり凄い数値なんじゃないだろうか。
 なにせ天使でさえ、一万ちょっとなのだ。

 他に比べる人間も居ないから、分からないけどな。
 もう一人は|(仮)が付いている人間だからあてにならない。

 少女たちは皆、親しげに俺に接してくる。
 俺はこいつらと知り合いらしい。

 何で魔王の俺に天使が懐いているのか、さっぱり分からない。
 魔王と天使じゃ、水と油くらい相反するイメージがある。

 それなのに、こいつらときたら、俺の体にベタベタと引っ付いてくる。
 今の俺と、同じくらいの年齢にしか見えない少女の体は――

 ……やべぇ、ちょ~やわらけ~。
 
 生まれ変わったのはいいが、言葉が分からないのは不便だな。

 そのうち杖の少女がなにやら呟き、俺たちは眩しい光に包まれたと思ったら、洞窟に一瞬で移動していた。

 転移ってやつか。――やはりこの世界には魔法が存在するのだ。
 
 どう見ても天然の岩にめり込んでいる、違和感たっぷりの木製の扉を開くと、広い空間にテーブルが一つだけの部屋がそこにあった。

 白い髭を生やした爺さんが一人と、白いワンピースの少女が一人、テーブルを囲んで居る。
 俺と目が合った爺さんが何やら話しかけてくるが、やっぱり何を言っているのか分からない。

 日本語以外わかんねーよ。――そう言ったら爺さんが左手を俺に向けて何かを呟いた。

「これで分かるようになったじゃろ。ワシは神じゃ。おぬし随分と若返っておるが、アランの意識は残っておらんのか?」

 マジかよ。なにこの謎翻訳。
 てか、神様って……おっと、これは何かチートな能力でも貰えるパターンか?

「俺の言葉も分かるのか?」
「もちろんじゃ。これくらいの事は神であるワシにとっては朝飯前じゃ。フォッフォッフォッ」

 青い髪の天使が爺さんに説明を始めた。

「ジダルジータ様、実はアランは魔王となり、おそらく前世の記憶と本来の魔力を取り戻しております」
「ふむ、そうみたいじゃな。まあよい。とりあえず天使どもを返してもらうとするか。よいな? アランよ、どのような形であれ、おぬしの求めていた魔力が手に入ったのじゃ。天使を返還したのち、自らの人生を考え、選び、歩め」

 アランって俺の事か?
 
 神様が何か言っていたが、俺はさっきから自分の力の違和感と戦っていた。
 体の奥底からもの凄い力が湧いてくるのだが、これをどうすればいいのかまったく分からないのだ。

 俺ってもしかして、魔法が使えない?
 この溢れる力って、魔力だよな? たぶんそんな気がする。
 それが使えないだと?

 神様を見ると『神・55555』という表示が見える。
 俺の半分くらいか、――もしかして神様って俺より弱いんじゃね?

 で? 今、天使を返せって言ったのか、こいつ。
 
 俺は少し考えたが、天使たちに魔法を教わって、魔王としてこの世界でヒャッハーしてやろうと思いついた。
 一人で何も知らない世界で生きて行くより、誰かのサポートがあった方がいいに決まっている。

 そして何よりも俺の心の奥に、この天使たちと離れたくないという気持ちがあった。
 たぶん俺が乗り移る前の記憶の名残なのだろう。

 俺の知らない俺の記憶が、この体に刻まれているのだ。

わりぃが神様、天使たちはまだしばらく貸しておいてくれ。いいだろ?」
「おぬし、天使をなんだと思っておる、そうそう天使を好きに使えるはずが――」

「んだとコラ!?」

 俺は神様を一睨みした。
 それだけだ。

 それなのに――

「ぴぎゃーーーっ!」

 奇声を上げて逃げやがった。

 逃げたというか、全身から燃えたように煙を噴き出したと思ったら、突然消えやがった。

「おい、どこ行ったんだよ神様」

 青い髪の天使が俺に近づいてきて、説明してくれた。

「アラン、……アランは今、『魔王の波動』のスキルの一部、『魔王の威嚇』を使いました。神ジダルジータ様はその直撃を受けて、瀕死となってお逃げになられました」

 よく分からないが、魔法は使えないけど魔王のなんとかっていうスキルは発動出来たようだ。
 そして俺はやはり、アランという名前で間違いないらしい。

 アラン――もしお前の意識が戻れるのなら、俺はいつでも返してやる。
 だからそれまでは、俺にこの体を貸しておいてくれ。
 俺は俺で一生懸命に生きてやるから……さ。

 てか、神様にチート能力貰い損ねたじゃん。
 まあ、この世界の言葉が分かるようにはして貰ったけど。

「なあお前ら、俺はお前たちとどういう付き合いをしてきたのか知らねえ。……まったく覚えてねぇんだよ」

 邪魔者は居なくなった。あとは天使たちを説得するだけだ。
 さすがに無理やり連れて行くというのは、ちょっといただけない。

「知らねえけど、俺の心のどこかでお前らと離れたくないって気持ちがあるんだよ。俺はその気持ちを信じる事にした。だから俺と一緒に来てくれねぇか? 無理にとは言わねえ……けど、一緒に来てくれると……たぶん嬉しい」

 正直な気持ちだ。

 俺の知らない俺の記憶の中で、こいつらはきっと特別な存在だったはずだ。
 それはたぶん、こいつらにとっても同じはずなんだ。

 だから、ほら。
 こいつらの選択は――



「どうせ一年で、答えを出さなければなりませんよ」

 この部屋に最初から居た白いワンピースの少女は、そう呟くと神様を追うように姿を消した。



  ◇  ◇  ◇



 天使が二人と人間|(仮)が一人、仲間になった。
 天使ニナ、天使フォウ、人間|(仮)サーラだ。

 人間|(仮)のサーラという少女には、言葉をしゃべる杖も一緒だ。
 この杖はどうやら、竜の子が『大魔導師の杖』という魔法の杖と合体したものらしい。
 杖が勝手に飛び跳ねて、「ウチ、ルルだよー」とか何かしゃべってやがる。

 よく分からんが、さすが異世界。――ファンタジー感ばっちりだ。

 洞窟を出た俺たちは、近くの王国の王様を脅し……もとい、協力を得て王都に屋敷を貰った。

 そこで天使たちに魔法を教わろうとしたら、こいつら全員、無詠唱で魔法を感覚的に使うので、基本は分からないときやがった。

 という事で再度王様を脅し……もとい、協力を得て王都にあるという魔法学院に入学させて貰った。
 魔法を教えてくれる学校があるって知って、マジ感動した。

 魔王としての俺のスペックは、桁違いの魔力と、『魔王の波動』という威圧系のスキル。
 それと常時発動型の、『魔王の絶対防御』という何でも攻撃を跳ね返しちゃうスキル。

 これを破るには、聖剣エクスカリバーが必要らしい。なんか聞いた事ある気がする! その剣の名前!

 魔法は使えないけど、とりあえず最強っぽいから、異世界でもすぐに死ぬとかなさそうだ。

 これで攻撃魔法とか覚えちゃったら、マジ最強じゃね?
 魔王ヒャッハーで異世界を満喫できそうじゃん。

 勉強なんてまともにした事も無かった俺だけど、魔法学院――

「マジで楽しみなんですけど!」


   
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