異世界コンビニ☆ワンオペレーション

山下香織

文字の大きさ
43 / 107
第一部 第四章 これが私の生きる道

43・これが私の生きる道

しおりを挟む
 フォレスの記憶を覗いた私は、この森で起きたアランパーティーと魔族との死闘を振り返ります・・・・・・

 それは一人の魔族と、アランパーティー五人の戦いでした。

 天使二人と、竜に変身した少女に加え、魔法探偵の少女も居たにも関わらず、たった一人の魔族に手も足も出なかったのです。

 アランを守ろうとして、フォレスの片腕が失われました。

 そのフォレスを助けるべく、合体を試みるアラン。

 その結果――

 ドレイン能力を手にしたアランは、その力をもって魔族を打ち破ります。

 フォレスの記憶にあるアランは十歳の少年ではありませんでした。
 立派な青年です。

 そしてこのアランは、とても――

 とても心の優しい男性でした。
 あの学院で見たアランとは別人のようです。

 アランと一度合体しているフォレスの記憶から、私にもアランの過去が見えます。

 この世界で魔力無しという、忌み子として疎外されながら生きてきたアランは、天使と出会った事で人生が変わりました。

 前世の記憶を持たない、転生に失敗した者。

 転生者特有の特別な能力も何も無く、本来あるべきはずの魔力は反転してマイナス値となり、いっさいの魔法が使えない『転生失格者』。

 魔法ありきの世界で、魔力の無い者がどのようにして生きてきたのか、どれだけ虐げられてきたのか、そんなアランの人生が垣間見えました。

 フォレスは妖精の森に来るまでのアランしか知りません。

 その後、どのようにして魔王になったのかは分かりませんが、アランは少年の姿になり、本来の魔力を取り戻し、そして前世の記憶も甦らせたのです。

 それが私の見た、アラキシンゴという十歳の少年です。

『サオリ様の住んでいた世界って、私にはまるっきり未知の世界なのですね。……それよりも、これが今のアラン様……』

 フォレスが私の記憶を見て、感想を漏らします。

『とても、あのアラン様には思えません。いったい何があったのでしょう』
『やっぱり別人なの?』

 同名の別人だとしたら、フォレスの知るアランは何処に行ったというのでしょう。
 この森から魔王の居城へと向かったはずなので、そこから行方知れずというのでしたら、もうこの世には……。

『サオリ様の記憶だけでは分かりませんが、実際に会ってみればその魔力を見て判断がつきます。私はアラン様の魔力をまだ表に出ていないマイナスの力だったとはいえ、この身を持って知り尽くしていますから』

 そうなるとやはり、一度会わせなければフォレスも納得出来ないでしょうね。

『なら、やっぱり確かめに行かないとね。フォレス。まだ一ヶ月も経っていないけど、どうする? すぐに会いに行ってみる?』
『はい、すぐに確かめたいです。サオリ様。どんな姿になっていたとしても、アラン様が生きていると、確信したいのです』

 私はこの後、すぐに後悔する事になりました。



  ◇  ◇  ◇



『アラン様を返してください!』

 私と合体したまま、私の姿でフォレスがアランに詰め寄ります。
 
 私たちは学院へと転移すると、すぐにアランパーティーと会えました。

 ですが出会ってすぐに、フォレスの知るアランの魔力だと確認出来たものの、その容姿だけでなく人格さえも別人となっていた事に、フォレスは戸惑い、落胆し、怒りを露わにしました。

「ちょっと待てよ。あんたサオリじゃねえの? 声がダブってるけど、誰かに憑依されてんのか? 返してくれと言われても俺は俺だし、元のアランは綺麗さっぱり消えちまったみたいだぜ」
『そんな! お願いだからアラン様を! アラン様を返してください!』   

 私はどうしていいか分からずに、この身をフォレスに任せています。
 
「それよりも、こないだの子はどうなった? まさか……死んじまったか?」
『ラフィ―はあの後すぐに回復したから何も心配はありません。こちらこそ突然攻撃してしまって、ごめんなさい』

 私が割って入って、答えました。

「あの状態からすぐに回復しただって? そいつはすげえな……てかマジで二重人格的な? 大丈夫か? あんた」
『混乱するかもしれませんが、憑依でも二重人格でもありません。ちょっと……合体しているだけです』

『お願いですから、アラン様を!』

 フォレスは大好きなアランの魔力を近くに感じて、自分を抑えきれなくなっているようです。

 今にもアランに飛びかかりそうな自分の体を抑えつつ、私の言葉でアランに訊ねました。

『あなた、フォレスという妖精の事は覚えていない? 妖精の森で生まれた、あなたの子供よ』
「マジかよ。元のアランってのは子持だったんかよ。つーかわりぃな、子供作った覚えなんてねぇわ。俺、童貞だし」

『ひどい! その魔力はアラン様のものです。……お願いですから……返して……』
「そのフォレスってのと今、サオリが合体してるのは分かったけど、俺にはフォレスの事なんて分かんねえし、責任取れとか言われても困るぜ。……てか、そっちの子……また違う天使連れてんのかよ? あんた」
 
 アランの視線がカーマイルに向いていますが、カーマイルは面倒くさそうに、そっぽを向いています。

「第五天使ですね。あなたからも言って下さい。このアランに攻撃をすると先日の第三天使と同じ結果になるという事を」

 青い髪の、アラン側の天使が忠告をしてきます。
 フォレスの次の行動を察したのでしょう。
 
 合体をしている私には分かりました。
 フォレスは『エナジードレイン』を使ってアランの魔力を奪おうと考えていたのです。

 魔力を奪った所でアランが帰ってくるわけでもないと思うのですが、フォレスはそうする事でしか自分の知るアランと繋がれないと感じているようです。

『お願いだから落ち着いて、フォレス。このアランには、こちらの能力は何も効かないみたいなの』
『だって、サオリ様……そこに……そこにアラン様が……アラン様の魔力があるのです。私……私……どうしたら』

 カーマイルがようやくこちらを向いて、口を開きました。

「魔王の『絶対防御』ですね。それは勇者の剣、エクスカリバーでしか破れないものですから、何もしない方が賢明ですよ、サオリ……の中のフォレス」

 聖剣エクスカリバーは、勇者にしか持てない剣です。
 そこでふと思いました。

 今、フォレスと合体している私なら、もしかしたら持てるのではないでしょうか。
 天使から魔力をドレインしている状態ですから、聖剣を持つのに必要な魔力値はクリアしているのかもしれません。

『聖剣が……あるのですね、サオリ様』
『え? ちょっとフォレス』

 私の考えを読んだフォレスの思考が、危ないものに変わりました。

『この魔王を倒せば、もしかしたら元のアラン様に戻るのではないでしょうか、サオリ様』
『ちょっと待って、フォレス――』

「おいおい、目の前で俺を討伐する相談とかウケるんですけど。その聖剣とやらを持ってきてもたぶん、俺はやられないよ」
 
 自信満々のアランですが、私もそう思います。
 けれど、元のアランを取り戻したいフォレスは違いました。

『そんな事、やってみなければ分かりません!』
「いいぜ。やれるもんなら、やってみな」 
 
 ちょっと待って下さい。
 そんな事になって、戦いになった時に、使われるのは私の体ではないでしょうか。

『フォレス、お願いだから無茶はやめて、私の体で戦っても無理よ』
『サオリ様、ごめんなさい。私……どうしてもアラン様を取り戻したいのです』

 私、怖いのも痛いのも嫌です。無理です。
 それなのにフォレスときたら、完全に火が点いてしまったようです。

 フォレスの思考が、私の頭の中に流れてきます。

 どうしても……アラン様を……取り戻したい。
 愛しい人の魔力が……違う人のものになっているのが……許せない。

 だから……だから……サオリ様には悪いですけど……私……私。
 この道を行くしか……無いのです。

 私には……これ以外にはもう……生きる意味も……理由も無くなりました。

『これが私の、生きる道なのです』


  
しおりを挟む
感想 9

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

どうも、命中率0%の最弱村人です 〜隠しダンジョンを周回してたらレベル∞になったので、種族進化して『半神』目指そうと思います〜

サイダーボウイ
ファンタジー
この世界では15歳になって成人を迎えると『天恵の儀式』でジョブを授かる。 〈村人〉のジョブを授かったティムは、勇者一行が訪れるのを待つ村で妹とともに仲良く暮らしていた。 だがちょっとした出来事をきっかけにティムは村から追放を言い渡され、モンスターが棲息する森へと放り出されてしまう。 〈村人〉の固有スキルは【命中率0%】というデメリットしかない最弱スキルのため、ティムはスライムすらまともに倒せない。 危うく死にかけたティムは森の中をさまよっているうちにある隠しダンジョンを発見する。 『【煌世主の意志】を感知しました。EXスキル【オートスキップ】が覚醒します』 いきなり現れたウィンドウに驚きつつもティムは試しに【オートスキップ】を使ってみることに。 すると、いつの間にか自分のレベルが∞になって……。 これは、やがて【種族の支配者(キング・オブ・オーバーロード)】と呼ばれる男が、最弱の村人から最強種族の『半神』へと至り、世界を救ってしまうお話である。

最低のEランクと追放されたけど、実はEXランクの無限増殖で最強でした。

みこみこP
ファンタジー
高校2年の夏。 高木華音【男】は夏休みに入る前日のホームルーム中にクラスメイトと共に異世界にある帝国【ゼロムス】に魔王討伐の為に集団転移させれた。 地球人が異世界転移すると必ずDランクからAランクの固有スキルという世界に1人しか持てないレアスキルを授かるのだが、華音だけはEランク・【ムゲン】という存在しない最低ランクの固有スキルを授かったと、帝国により死の森へ捨てられる。 しかし、華音の授かった固有スキルはEXランクの無限増殖という最強のスキルだったが、本人は弱いと思い込み、死の森を生き抜く為に無双する。

45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる

よっしぃ
ファンタジー
2巻決定しました! 【書籍版 大ヒット御礼!オリコン18位&続刊決定!】 皆様の熱狂的な応援のおかげで、書籍版『45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる』が、オリコン週間ライトノベルランキング18位、そしてアルファポリス様の書店売上ランキングでトップ10入りを記録しました! 本当に、本当にありがとうございます! 皆様の応援が、最高の形で「続刊(2巻)」へと繋がりました。 市丸きすけ先生による、素晴らしい書影も必見です! 【作品紹介】 欲望に取りつかれた権力者が企んだ「スキル強奪」のための勇者召喚。 だが、その儀式に巻き込まれたのは、どこにでもいる普通のサラリーマン――白河小次郎、45歳。 彼に与えられたのは、派手な攻撃魔法ではない。 【鑑定】【いんたーねっと?】【異世界売買】【テイマー】…etc. その一つ一つが、世界の理すら書き換えかねない、規格外の「便利スキル」だった。 欲望者から逃げ切るか、それとも、サラリーマンとして培った「知識」と、チート級のスキルを武器に、反撃の狼煙を上げるか。 気のいいおっさんの、優しくて、ずる賢い、まったり異世界サバイバルが、今、始まる! 【書誌情報】 タイトル: 『45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる』 著者: よっしぃ イラスト: 市丸きすけ 先生 出版社: アルファポリス ご購入はこちらから: Amazon: https://www.amazon.co.jp/dp/4434364235/ 楽天ブックス: https://books.rakuten.co.jp/rb/18361791/ 【作者より、感謝を込めて】 この日を迎えられたのは、長年にわたり、Webで私の拙い物語を応援し続けてくださった、読者の皆様のおかげです。 そして、この物語を見つけ出し、最高の形で世に送り出してくださる、担当編集者様、イラストレーターの市丸きすけ先生、全ての関係者の皆様に、心からの感謝を。 本当に、ありがとうございます。 【これまでの主な実績】 アルファポリス ファンタジー部門 1位獲得 小説家になろう 異世界転移/転移ジャンル(日間) 5位獲得 アルファポリス 第16回ファンタジー小説大賞 奨励賞受賞 第6回カクヨムWeb小説コンテスト 中間選考通過 復活の大カクヨムチャレンジカップ 9位入賞 ファミ通文庫大賞 一次選考通過

合成師

盾乃あに
ファンタジー
里見瑠夏32歳は仕事をクビになって、やけ酒を飲んでいた。ビールが切れるとコンビニに買いに行く、帰り道でゴブリンを倒して覚醒に気付くとギルドで登録し、夢の探索者になる。自分の合成師というレアジョブは生産職だろうと初心者ダンジョンに向かう。 そのうち合成師の本領発揮し、うまいこと立ち回ったり、パーティーメンバーなどとともに成長していく物語だ。

クラス転移したら種族が変化してたけどとりあえず生きる

あっとさん
ファンタジー
16歳になったばかりの高校2年の主人公。 でも、主人公は昔から体が弱くなかなか学校に通えなかった。 でも学校には、行っても俺に声をかけてくれる親友はいた。 その日も体の調子が良くなり、親友と久しぶりの学校に行きHRが終わり先生が出ていったとき、クラスが眩しい光に包まれた。 そして僕は一人、違う場所に飛ばされいた。

魔王を倒した勇者を迫害した人間様方の末路はなかなか悲惨なようです。

カモミール
ファンタジー
勇者ロキは長い冒険の末魔王を討伐する。 だが、人間の王エスカダルはそんな英雄であるロキをなぜか認めず、 ロキに身の覚えのない罪をなすりつけて投獄してしまう。 国民たちもその罪を信じ勇者を迫害した。 そして、処刑場される間際、勇者は驚きの発言をするのだった。

【完結】おじいちゃんは元勇者

三園 七詩
ファンタジー
元勇者のおじいさんに拾われた子供の話… 親に捨てられ、周りからも見放され生きる事をあきらめた子供の前に国から追放された元勇者のおじいさんが現れる。 エイトを息子のように可愛がり…いつしか子供は強くなり過ぎてしまっていた…

処理中です...