異世界コンビニ☆ワンオペレーション

山下香織

文字の大きさ
44 / 107
第一部 第四章 これが私の生きる道

44・勇者サオリ

しおりを挟む
 お店コンビニに戻ってきました。
 それはもう逃げるように。

 フォレスは合体を解いてくれません。

「お願いだから無茶だけは止めて、フォレス」

 体が馴染んできたのでしょうか。
 声が二重に聞こえなくなりました。
 
 私の声でもフォレスの声でもなく、完全に融合した声になっています。

「私からもお願いです。サオリ様……どうかあの、魔王を倒してください」

 フォレスがそう言った時、お店の外に馬車が停まりました。
 ランドルフが巡回に来たようです。

「何かあったのかい?」
「ランドルフ! 実は――」

「サオリ、何だか声がおかしいぞ。体調でも悪いのか?」
「えっと……これは」

 ランドルフに一通り説明をします。
 フォレスの事、魔王の事、そして――

「どうか、どうか魔王討伐のご協力を! ランドルフ様」
「おっと、いきなりサオリじゃなくなるんだな……魔王討伐とは、穏やかじゃないね」

 私はバックルームから例のもの・・・・を持ちだしてきます。

「ランドルフ、見て。ほら……私も持てるの」
「それは……聖剣じゃないか、サオリ」

 魔力の高い天使が持てた事から、予想はしていました。

 フォレスと合体して、尚且つ天使からドレインで魔力を供給された私には、この聖剣エクスカリバーを持つ事が出来るのです。

 聖剣エクスカリバー。
 勇者のみが持つ事を許された剣。

 実際は高魔力の者ならば、誰でも持つ事が出来るという剣なのです。

 私の細い腕でも軽々と持つ事が出来ます。

 柄を握った瞬間に魔力が剣に注ぎ込まれ、まるで腕と一体化したような感覚で、すぐに馴染みました。

「サオリが勇者の資格を? これは驚きだ」
「だからってあの魔王を倒せるとは思えないの。ランドルフもそう思うでしょう?」
 
 元勇者のローランドは、聖剣を持っていたはずなのに敗れているのです。
 正確には魔王にさえなっていない、サーラという女性に殺されているのです。
 そのサーラは今、魔王の側近です。

 そして肝心の魔王は、私と同郷なのです。
 いくら異世界とはいえ、私が人殺しなど、出来るわけがありません。

「あの魔王は規格外だからね。魔王だけじゃなく、一緒にいる連中も桁外れときてるからサオリが敵う相手じゃないよ」
「そうよね? だけどフォレスが諦めてくれないのよ」

「ただ、さっき聞いた話じゃフォレスの能力は『エナジードレイン』だと言うじゃないか。もし聖剣で魔王の『絶対防御』を破れたら、かなり有効なスキルだとは思うけどね」
「そうですよね? ランドルフ様! やれば出来ますよね!?」

 ランドルフが余計な事を……今のフォレスにそんな事を言ってしまったら、諦めるどころか余計に火が点いてしまいます。

「焚きつけないでランドルフ。私は無理だと思うわ」

 ランドルフは私をじっと見つめ、何やら考えています。

「フォレスとやら、ならちょっとその力を試してみないかい?」
「試す?」

 嫌な予感しかしません。

「最近、西の洞窟にAランクの魔物が住みついてしまって、そこで採掘作業をしている連中を脅かしているんだ」
「魔物……ですか」

「勇者の資格を持った君なら、Aランクの魔物くらい楽勝で倒せるんじゃないかな。もしそれさえ出来ないと言うのなら魔王は諦めた方がいいと思うよ」
「はい! 余裕です! ランドルフ様」

 これは……もしその魔物を倒す事が出来なかったら、フォレスに諦めさせるチャンスなのではないでしょうか。
 ならば、ランドルフと相談して――

「サオリ様、インチキはいけませんわ。ランドルフ様と協力して魔物を倒せなくさせようとしても無駄です」

 合体をしているので、私の考えが筒抜けでした……。

「いや、実際ちょっと困っていてね。討伐依頼は出しているんだが、Aランクの魔物の討伐となるとSランク冒険者じゃないと厳しいからね。今、王都には手の空いているSランクがいないらしい」
「そこで私の出番なのですね。ランドルフ様」

 ああ……このまま私の体を使って、魔物の討伐なんて行かされるのでしょうか。

「ご心配なく、サオリ様。戦闘はすべて私にお任せください」



  ◇  ◇  ◇



「本当に俺も行かなくていいのかい?」

 次の日、何だかんだと魔物の討伐をするため、洞窟へと向かう事になってしまいました。

「来てほしい……けど、天使が二人も居るから大丈夫よ、ランドルフ」

 洞窟までは馬車で約一日との事です。
 ランドルフに案内をと思っていましたが、フォレスがそれには及びません、と断ってしまいました。

 カーマイルとラフィーも一緒に連れていきます。
 これ以上ない程の、強力な守り神です。

「なんで私も行かなければならないのでしょう。お店はいいのですか」

 私の監視も仕事のはずのカーマイルは、お店番の方が楽でいいみたいです。

「お店は騎士団の人たちが時間を決めて交代で見張ってくれるらしいから大丈夫よ、カーマイル。売り子はできないけど」
「売らなきゃ意味がないじゃないですか」

「じゃあ頼んだよ。洞窟の場所は渡した地図の通りだ。気を付けて行くんだよ、サオリ」
「はい、すぐに帰ります。ギルドの方にもよろしくお伝えくださいな、ランドルフ」

 冒険者ギルドの正式な討伐依頼として受けたので、魔物を討伐すれば報酬も出ます。

 幌付きの馬車も、騎士団からお借りしました。
 御者台にはカーマイルが乗り、馬車を操縦します。

 幌付きの荷台にラフィーと聖剣を抱えた私が乗り込んだのを確認したカーマイルは、すぐに馬車を走らせました。

「では、ちょっと行ってきますね」
「ああ、無事を祈る」
 
 魔物の討伐だなんて、いつから私は冒険者になったのでしょう。

 しかも聖剣なんて持っちゃっています。
 いくら異世界に転移してきた身とはいえ、こういうのは私は望んでいないのです。



  ◇  ◇  ◇



 カーマイルはひたすら、馬車を走らせます。
 馬が疲れた頃を見計らって休憩はとりますが、その時に私に回復魔法を施させ、すぐにまた出発するカーマイル。
 ほとんど走り通しという無茶っぷりです。

「カーマイル、もうちょっと休憩しない? 私、お尻が痛いんだけど……」
「何を言っているのですか、サオリ。こんな事はさっさと終わらせて帰った方がいいに決まっています」

 一度行った事のある場所ならば、転移魔法で移動できるのですが、初めて行く場所ではそうはいきません。

 ほとんど丸一日を走り切り、洞窟に着いてしまいました。
 
「着いたみたいよ、ラフィー」
「うみゅ」

 ずっと寝ていたラフィーが目を擦ります。

 か、可愛い……。

 天使は十二人居るらしいのですが、このラフィーが一番可愛いのではないでしょうか。
 見ているだけで癒されます。

「あそこに人が居ますよ、サオリ」

 見れば洞窟の入り口付近に、男性が三人程集まっています。

「行ってみましょう」

 近づいて行くと、向こうから声を掛けてきました。

「旅人かい? この洞窟には近寄らない方がいいぞ。面倒な魔物が住みついてる」
「あ、ギルドの依頼でその魔物を討伐に来た者です」

 男の人は一瞬だけ怪訝な顔をしましたが、私の持つ剣を見て驚愕の顔へと変わりました。

「聖剣! これはこれは勇者様でしたか! 失礼いたしました。私はこの近くの村の者で、ちょうど洞窟の様子を見に来ていたのです」

 世に知れ渡っている聖剣。
 聖剣を持てるイコール勇者という事で、何も疑っていないようです。

 男性三人は突然の勇者の登場に、喜びを露わにしています。
 私は勇者でもないのですが、面倒なので説明はしません。

「そうでしたか。中の様子はどうですか?」
「実は勇者様、一匹の魔物によってこの洞窟での採掘作業が止まってしまっているのです」

 魔物は一匹だけだったようです。

「Aランクの魔物だと聞きました」
「それですが勇者様。あいつはAどころか、AAダブルもしくはAAAトリプルでもおかしくないくらいにやっかいなヤツです。なんと言っても不死身ときてるんですから」

 不死身と聞いて、ちょっと引っかかりました。

「そんな魔物が居るのですね……ちなみにどんな魔物でしょうか?」

 男性の次の言葉を聞いて、私はほぼ確信してしまいました。

「それが聞いてビックリの魔物でしてね、勇者様。なんとそいつはただのスライムなんですよ! スライムがAランク指定魔物とか聞いた事ないでしょう?」

 不死身の……スライム。

「え、エリオット!?」


  
しおりを挟む
感想 9

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

勇者の隣に住んでいただけの村人の話。

カモミール
ファンタジー
とある村に住んでいた英雄にあこがれて勇者を目指すレオという少年がいた。 だが、勇者に選ばれたのはレオの幼馴染である少女ソフィだった。 その事実にレオは打ちのめされ、自堕落な生活を送ることになる。 だがそんなある日、勇者となったソフィが死んだという知らせが届き…? 才能のない村びとである少年が、幼馴染で、好きな人でもあった勇者の少女を救うために勇気を出す物語。

どうも、命中率0%の最弱村人です 〜隠しダンジョンを周回してたらレベル∞になったので、種族進化して『半神』目指そうと思います〜

サイダーボウイ
ファンタジー
この世界では15歳になって成人を迎えると『天恵の儀式』でジョブを授かる。 〈村人〉のジョブを授かったティムは、勇者一行が訪れるのを待つ村で妹とともに仲良く暮らしていた。 だがちょっとした出来事をきっかけにティムは村から追放を言い渡され、モンスターが棲息する森へと放り出されてしまう。 〈村人〉の固有スキルは【命中率0%】というデメリットしかない最弱スキルのため、ティムはスライムすらまともに倒せない。 危うく死にかけたティムは森の中をさまよっているうちにある隠しダンジョンを発見する。 『【煌世主の意志】を感知しました。EXスキル【オートスキップ】が覚醒します』 いきなり現れたウィンドウに驚きつつもティムは試しに【オートスキップ】を使ってみることに。 すると、いつの間にか自分のレベルが∞になって……。 これは、やがて【種族の支配者(キング・オブ・オーバーロード)】と呼ばれる男が、最弱の村人から最強種族の『半神』へと至り、世界を救ってしまうお話である。

最低のEランクと追放されたけど、実はEXランクの無限増殖で最強でした。

みこみこP
ファンタジー
高校2年の夏。 高木華音【男】は夏休みに入る前日のホームルーム中にクラスメイトと共に異世界にある帝国【ゼロムス】に魔王討伐の為に集団転移させれた。 地球人が異世界転移すると必ずDランクからAランクの固有スキルという世界に1人しか持てないレアスキルを授かるのだが、華音だけはEランク・【ムゲン】という存在しない最低ランクの固有スキルを授かったと、帝国により死の森へ捨てられる。 しかし、華音の授かった固有スキルはEXランクの無限増殖という最強のスキルだったが、本人は弱いと思い込み、死の森を生き抜く為に無双する。

ゲームの悪役パパに転生したけど、勇者になる息子が親離れしないので完全に詰んでる

街風
ファンタジー
「お前を追放する!」 ゲームの悪役貴族に転生したルドルフは、シナリオ通りに息子のハイネ(後に世界を救う勇者)を追放した。 しかし、前世では子煩悩な父親だったルドルフのこれまでの人生は、ゲームのシナリオに大きく影響を与えていた。旅にでるはずだった勇者は旅に出ず、悪人になる人は善人になっていた。勇者でもないただの中年ルドルフは魔人から世界を救えるのか。

45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる

よっしぃ
ファンタジー
2巻決定しました! 【書籍版 大ヒット御礼!オリコン18位&続刊決定!】 皆様の熱狂的な応援のおかげで、書籍版『45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる』が、オリコン週間ライトノベルランキング18位、そしてアルファポリス様の書店売上ランキングでトップ10入りを記録しました! 本当に、本当にありがとうございます! 皆様の応援が、最高の形で「続刊(2巻)」へと繋がりました。 市丸きすけ先生による、素晴らしい書影も必見です! 【作品紹介】 欲望に取りつかれた権力者が企んだ「スキル強奪」のための勇者召喚。 だが、その儀式に巻き込まれたのは、どこにでもいる普通のサラリーマン――白河小次郎、45歳。 彼に与えられたのは、派手な攻撃魔法ではない。 【鑑定】【いんたーねっと?】【異世界売買】【テイマー】…etc. その一つ一つが、世界の理すら書き換えかねない、規格外の「便利スキル」だった。 欲望者から逃げ切るか、それとも、サラリーマンとして培った「知識」と、チート級のスキルを武器に、反撃の狼煙を上げるか。 気のいいおっさんの、優しくて、ずる賢い、まったり異世界サバイバルが、今、始まる! 【書誌情報】 タイトル: 『45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる』 著者: よっしぃ イラスト: 市丸きすけ 先生 出版社: アルファポリス ご購入はこちらから: Amazon: https://www.amazon.co.jp/dp/4434364235/ 楽天ブックス: https://books.rakuten.co.jp/rb/18361791/ 【作者より、感謝を込めて】 この日を迎えられたのは、長年にわたり、Webで私の拙い物語を応援し続けてくださった、読者の皆様のおかげです。 そして、この物語を見つけ出し、最高の形で世に送り出してくださる、担当編集者様、イラストレーターの市丸きすけ先生、全ての関係者の皆様に、心からの感謝を。 本当に、ありがとうございます。 【これまでの主な実績】 アルファポリス ファンタジー部門 1位獲得 小説家になろう 異世界転移/転移ジャンル(日間) 5位獲得 アルファポリス 第16回ファンタジー小説大賞 奨励賞受賞 第6回カクヨムWeb小説コンテスト 中間選考通過 復活の大カクヨムチャレンジカップ 9位入賞 ファミ通文庫大賞 一次選考通過

合成師

盾乃あに
ファンタジー
里見瑠夏32歳は仕事をクビになって、やけ酒を飲んでいた。ビールが切れるとコンビニに買いに行く、帰り道でゴブリンを倒して覚醒に気付くとギルドで登録し、夢の探索者になる。自分の合成師というレアジョブは生産職だろうと初心者ダンジョンに向かう。 そのうち合成師の本領発揮し、うまいこと立ち回ったり、パーティーメンバーなどとともに成長していく物語だ。

クラス転移したら種族が変化してたけどとりあえず生きる

あっとさん
ファンタジー
16歳になったばかりの高校2年の主人公。 でも、主人公は昔から体が弱くなかなか学校に通えなかった。 でも学校には、行っても俺に声をかけてくれる親友はいた。 その日も体の調子が良くなり、親友と久しぶりの学校に行きHRが終わり先生が出ていったとき、クラスが眩しい光に包まれた。 そして僕は一人、違う場所に飛ばされいた。

処理中です...