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第一部 第四章 これが私の生きる道
51・魔王と私と食堂で
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何故魔族は大軍を率いてシルバニア国へと進軍したのか。
何故ローランドは魔族軍を指揮しているのか。
魔族の目的はおそらく魔王との接触なのではないでしょうか。
でもそれだと何故二十万もの軍勢で来なければならないのでしょう。
誰か代表を立てて、こっそりと迎えに来ればいいのではと思います。
「ねえカーマイル。魔王を迎えるのに二十万の軍勢って必要なの?」
お客様の居ないコンビニの店内で、皆思い思いに座るなり壁に寄り掛かるなりして、考え込んでいます。
ラフィーはカウンター内のタバコの陳列棚に寄り掛かっている私に後ろから抱っこされて寝ていますが……。
私はカウンターの上にちょこんと座っているカーマイルに話しかけました。
「さあ? 私には魔族の習性は分からないので何とも言えませんが、それが魔王に対する敬意なり礼儀なりという事は考えられますね」
「魔族が魔王を味方に迎える事が前提か? 倒しに来たという可能性は?」
いつもの席――カウンター前のお弁当のオープンケースに寄り掛かって立っているエリオットが、カーマイルに訊ねます。
「この世界に存在できる魔王は一人です。違う魔王がもう一人の魔王を邪魔に思ってという線はないはずなので、迎えに来たと考えるのが妥当ではないでしょうか。二十万程度の魔族では魔王一人に敵わない事くらい誰でも分かります」
「迎えに来たついでにこの国を滅ぼして、ここに魔王城でも建てるんじゃないのか?」
エリオットが怖い事を言いますが、魔族の考えが分かるわけもないので何とも言えません。
「とりあえずサオリ、魔王に相談ですね」
「えええ……」
カーマイルに促され、魔王アランに相談する事になりました。
そのまま説得もしなければならないのでしょうか。
「今から?」
「早い方がいいのではないですか?」
私は渋々、ノートと羽根ペンを取り出して――
「エリオットも行く?」
訊ねましたが――
「俺は遠慮するよ」
エリオットは魔王に会いたくないそうです。
「じゃあちょっと行ってきます」
カーマイルとラフィーをお供に、魔法学院へと転移しました。
◇ ◇ ◇
夕方の学院はとても静かでした。
もう授業は終わっているのでしょうか。
「フォレスはじっとしていてね」
(はい、サオリ様……)
魔王を倒せば元のアランを取り戻せると信じているフォレスが、本当にじっとしていてくれるかは分かりませんが、とりあえずその言葉を信じます。
渡り廊下を抜けて特別棟へと向かう途中でオルリード学院長と鉢合わせました。
「あらあら、サオリさん。本日の授業はすべて終了ですわよ」
「こんにちは、オルリード学院長。今日はアランに会いに来ました」
授業も終わっているのなら、もうここには居ないのかもしれませんね。
――と思いましたが。
「えっと確か、授業には出ていませんでしたが、ご飯を食べに来たとかで食堂へ行っていると思います」
どうやらまだ居るようです。
「そうですか、食堂ですね。行ってみます」
「サオリさんも特待生なのですから、食堂のメニューはすべて無料ですよ。何か食べていかれたらどうです?」
「こーな!」
ラフィーはその気満々のようですね。……そうしますか。
「はい、ありがとうございます」
「それにもうちょっと授業にも顔を見せてくれてもいいのですよ?」
「はい……すいません」
特待生として入学はしたものの、授業を受けた事は一度もありませんでした。
今はそんな場合でもないのですが、落ち着いたらそのうち受けてみようとは思います。
「では、失礼します」
食堂の場所をオルリード学院長に訊きました。
どうやらいつもの教室の、すぐ隣だったようです。
観音開きの扉を抜けると、広々とした空間にテーブルがいくつも並んでいました。
食事中の人もちらほらと居るようです。
アランは――
すぐに奥の方の席に陣取っている、アランパーティーが目につきます。
やはりオーラというか、その存在感が圧倒的です。
何よりもアランの周りのテーブルには、誰一人座っていないのでそこの空間だけが浮き上がっているのです。
「よう。メシ食いに来たの?」
まだ入り口に立っている私を目ざとく見つけたアランが、先に声を掛けてきました。
とりあえず私はそれをスルーして、食堂のルールが分からないので厨房と繋がっているカウンターへ向かい、受付の女性に訊ねます。
「今から食事は出来ますか?」
「こーな?」
受付の女性はニコリと笑うと、一枚のメニューを差し出してきました。
「こちらからお選びください。それと生徒の認証の為にここに指を当ててくださいね」
メニューの一部を指し示します。
認証?
この学院の扉はロックを解除するのに、生徒の掌を当てる事で解除できる仕様でした。
おそらく魔力認証でしょう。そうすると私では無理なので、ラフィーを抱っこしてカウンターの上に乗せました。
フォレスと合体している今の私の魔力は、この学院に登録していません。
「はい。ラフィー、ここに指を当てて」
「うん」
指を当てた部分がうっすらと赤く光ります。
「あら、特待生の方ですね。どうぞ好きなのを選んでください。すべて無料です」
色で選別しているのでしょうか、特待生だとすぐに分かってくれたようです。
「ラフィー、どれでも食べていいって。どれがいい?」
「えっとねー、これとこれとこれー」
メニューには写真は載っていないのですが、ラフィーが指したものにはすべて、『肉』の文字が書かれていました。
「私はラフィーのちょっとだけ貰うからいいわ。カーマイルは?」
「私も結構です」
「はい、かしこまりました。お好きな席に着いてお待ちください」
注文を済ませると、あらためてアランの居るテーブルへと向かいます。
「こんにちは」
「おっす。俺に用?」
テーブルの空いている席に座ると、私はすぐに切り出しました。
「魔族がこの王都に向けて進軍しています。その数は二十万」
「知ってる」
え!?
今、知ってると言いました?
「知ってるの? どうして?」
サーラのような大魔法使いが居るのですから、もしかしたら外の状況も魔法で知る事が出来るのかもと、一瞬思いましたがちょっと違いました。
「王様に訊いた。俺に何とかしてくれとも言われた」
「王様から……」
国王が直接アランに教えたようです。
「魔族の目的は何なの? 魔王のお迎え?」
「たぶん、な」
「あなたはどうするつもりなの?」
世界の終焉も迫っているのです。
この魔王の動向によっては、それが早まってしまう事もあるかもしれないのです。
「どうするって言われてもな、俺に魔族領へ行く気もないし、魔族をなんとかしようって気もない」
「でも魔族はここに向かっているのよ? そのうちあなたの前に現れるわ。その時はどうするの?」
アランは少しだけ考える素振りを見せると、私に向き直りニヤリと笑いました。
あ、この人今、何かを思いついたようです。
「王様には何とかしろって言われたけど、それは撃退できるならしろって事らしい」
「うん」
テーブルに足を乗せ、ふんぞり返るアランは私に指を差します。
「その二十万の魔族を撃退する事に決めた。そしてお前も同行しろ」
「え?」
何で私が二十万の魔族の前に出なければならないのでしょう。
ローランドの件もまだどうするか決まっていないのに。
「で、その撃退方法なんだが、サオリから魔法を教えてもらって、その魔法で俺がやる」
「えええ……」
忘れていました。
この人に魔法を教える事になっていたのでした。
「いいか? ちゃんと教えろよ? でなけりゃ俺以外が全滅って事もあり得るぞ?」
脅しているようですが、このメンバーにサーラが居る限り、全滅は無い事くらい私にも分かります。
天使よりも上位の魔法を使えるサーラだけで、本当は何とかなるのではないでしょうか。
「えっと……」
私が言い淀んでいると――
「ご注文の方~! お待たせいたしました!」
カウンターの方から女性の声が、広い食堂に響きました。
本当にもう……どうしましょう。
何故ローランドは魔族軍を指揮しているのか。
魔族の目的はおそらく魔王との接触なのではないでしょうか。
でもそれだと何故二十万もの軍勢で来なければならないのでしょう。
誰か代表を立てて、こっそりと迎えに来ればいいのではと思います。
「ねえカーマイル。魔王を迎えるのに二十万の軍勢って必要なの?」
お客様の居ないコンビニの店内で、皆思い思いに座るなり壁に寄り掛かるなりして、考え込んでいます。
ラフィーはカウンター内のタバコの陳列棚に寄り掛かっている私に後ろから抱っこされて寝ていますが……。
私はカウンターの上にちょこんと座っているカーマイルに話しかけました。
「さあ? 私には魔族の習性は分からないので何とも言えませんが、それが魔王に対する敬意なり礼儀なりという事は考えられますね」
「魔族が魔王を味方に迎える事が前提か? 倒しに来たという可能性は?」
いつもの席――カウンター前のお弁当のオープンケースに寄り掛かって立っているエリオットが、カーマイルに訊ねます。
「この世界に存在できる魔王は一人です。違う魔王がもう一人の魔王を邪魔に思ってという線はないはずなので、迎えに来たと考えるのが妥当ではないでしょうか。二十万程度の魔族では魔王一人に敵わない事くらい誰でも分かります」
「迎えに来たついでにこの国を滅ぼして、ここに魔王城でも建てるんじゃないのか?」
エリオットが怖い事を言いますが、魔族の考えが分かるわけもないので何とも言えません。
「とりあえずサオリ、魔王に相談ですね」
「えええ……」
カーマイルに促され、魔王アランに相談する事になりました。
そのまま説得もしなければならないのでしょうか。
「今から?」
「早い方がいいのではないですか?」
私は渋々、ノートと羽根ペンを取り出して――
「エリオットも行く?」
訊ねましたが――
「俺は遠慮するよ」
エリオットは魔王に会いたくないそうです。
「じゃあちょっと行ってきます」
カーマイルとラフィーをお供に、魔法学院へと転移しました。
◇ ◇ ◇
夕方の学院はとても静かでした。
もう授業は終わっているのでしょうか。
「フォレスはじっとしていてね」
(はい、サオリ様……)
魔王を倒せば元のアランを取り戻せると信じているフォレスが、本当にじっとしていてくれるかは分かりませんが、とりあえずその言葉を信じます。
渡り廊下を抜けて特別棟へと向かう途中でオルリード学院長と鉢合わせました。
「あらあら、サオリさん。本日の授業はすべて終了ですわよ」
「こんにちは、オルリード学院長。今日はアランに会いに来ました」
授業も終わっているのなら、もうここには居ないのかもしれませんね。
――と思いましたが。
「えっと確か、授業には出ていませんでしたが、ご飯を食べに来たとかで食堂へ行っていると思います」
どうやらまだ居るようです。
「そうですか、食堂ですね。行ってみます」
「サオリさんも特待生なのですから、食堂のメニューはすべて無料ですよ。何か食べていかれたらどうです?」
「こーな!」
ラフィーはその気満々のようですね。……そうしますか。
「はい、ありがとうございます」
「それにもうちょっと授業にも顔を見せてくれてもいいのですよ?」
「はい……すいません」
特待生として入学はしたものの、授業を受けた事は一度もありませんでした。
今はそんな場合でもないのですが、落ち着いたらそのうち受けてみようとは思います。
「では、失礼します」
食堂の場所をオルリード学院長に訊きました。
どうやらいつもの教室の、すぐ隣だったようです。
観音開きの扉を抜けると、広々とした空間にテーブルがいくつも並んでいました。
食事中の人もちらほらと居るようです。
アランは――
すぐに奥の方の席に陣取っている、アランパーティーが目につきます。
やはりオーラというか、その存在感が圧倒的です。
何よりもアランの周りのテーブルには、誰一人座っていないのでそこの空間だけが浮き上がっているのです。
「よう。メシ食いに来たの?」
まだ入り口に立っている私を目ざとく見つけたアランが、先に声を掛けてきました。
とりあえず私はそれをスルーして、食堂のルールが分からないので厨房と繋がっているカウンターへ向かい、受付の女性に訊ねます。
「今から食事は出来ますか?」
「こーな?」
受付の女性はニコリと笑うと、一枚のメニューを差し出してきました。
「こちらからお選びください。それと生徒の認証の為にここに指を当ててくださいね」
メニューの一部を指し示します。
認証?
この学院の扉はロックを解除するのに、生徒の掌を当てる事で解除できる仕様でした。
おそらく魔力認証でしょう。そうすると私では無理なので、ラフィーを抱っこしてカウンターの上に乗せました。
フォレスと合体している今の私の魔力は、この学院に登録していません。
「はい。ラフィー、ここに指を当てて」
「うん」
指を当てた部分がうっすらと赤く光ります。
「あら、特待生の方ですね。どうぞ好きなのを選んでください。すべて無料です」
色で選別しているのでしょうか、特待生だとすぐに分かってくれたようです。
「ラフィー、どれでも食べていいって。どれがいい?」
「えっとねー、これとこれとこれー」
メニューには写真は載っていないのですが、ラフィーが指したものにはすべて、『肉』の文字が書かれていました。
「私はラフィーのちょっとだけ貰うからいいわ。カーマイルは?」
「私も結構です」
「はい、かしこまりました。お好きな席に着いてお待ちください」
注文を済ませると、あらためてアランの居るテーブルへと向かいます。
「こんにちは」
「おっす。俺に用?」
テーブルの空いている席に座ると、私はすぐに切り出しました。
「魔族がこの王都に向けて進軍しています。その数は二十万」
「知ってる」
え!?
今、知ってると言いました?
「知ってるの? どうして?」
サーラのような大魔法使いが居るのですから、もしかしたら外の状況も魔法で知る事が出来るのかもと、一瞬思いましたがちょっと違いました。
「王様に訊いた。俺に何とかしてくれとも言われた」
「王様から……」
国王が直接アランに教えたようです。
「魔族の目的は何なの? 魔王のお迎え?」
「たぶん、な」
「あなたはどうするつもりなの?」
世界の終焉も迫っているのです。
この魔王の動向によっては、それが早まってしまう事もあるかもしれないのです。
「どうするって言われてもな、俺に魔族領へ行く気もないし、魔族をなんとかしようって気もない」
「でも魔族はここに向かっているのよ? そのうちあなたの前に現れるわ。その時はどうするの?」
アランは少しだけ考える素振りを見せると、私に向き直りニヤリと笑いました。
あ、この人今、何かを思いついたようです。
「王様には何とかしろって言われたけど、それは撃退できるならしろって事らしい」
「うん」
テーブルに足を乗せ、ふんぞり返るアランは私に指を差します。
「その二十万の魔族を撃退する事に決めた。そしてお前も同行しろ」
「え?」
何で私が二十万の魔族の前に出なければならないのでしょう。
ローランドの件もまだどうするか決まっていないのに。
「で、その撃退方法なんだが、サオリから魔法を教えてもらって、その魔法で俺がやる」
「えええ……」
忘れていました。
この人に魔法を教える事になっていたのでした。
「いいか? ちゃんと教えろよ? でなけりゃ俺以外が全滅って事もあり得るぞ?」
脅しているようですが、このメンバーにサーラが居る限り、全滅は無い事くらい私にも分かります。
天使よりも上位の魔法を使えるサーラだけで、本当は何とかなるのではないでしょうか。
「えっと……」
私が言い淀んでいると――
「ご注文の方~! お待たせいたしました!」
カウンターの方から女性の声が、広い食堂に響きました。
本当にもう……どうしましょう。
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