異世界コンビニ☆ワンオペレーション

山下香織

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第二部 第二章 追跡者

66・蘇る暗殺者

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 魔王城跡地は魔族にとって、不可侵領域だったのでしょうか。
 何故なら湖を抜けて魔族領の大地に足を踏み入れた途端、スマホのセンサーには結構な数の光点が表示されました。
 巨大な湖の中心の孤島から五キロ以内は、どこにも魔族の反応は無かったのにです。

 湖を渡るのに使った二艘の手漕ぎのボートを、ポケットにしまっているフォウに訊ねました。

「フォウ、どんな感じ?」
「はい、かなりの数の魔族のものと思われる魔力が感じられます。おおむねそのセンサー通りなのではないでしょうか」

 スマホに映る光点は既に、画面の上部にたくさん広がっています。

「これで特定の魔族を探す事は出来ないのかな……」

 結局はフォウの魔力感知よりも、少しだけ広い範囲を走査スキャン出来るというだけのものだったみたいです。
 
 私たちが今、立っている場所は一面の草原で見通しもいい所ですが、遠目に深い緑の森も見えます。
 おそらく魔族はその森に集まっているのでしょう。

「仕方ない……戻りますか」

 スマホのセンサーが、一応は使えるものだという事は分かりました。
 他の検索ワードは後でまた調べてみましょう。
 とりあえずここに長居は無用です。

 サーラに転移を頼もうとしたその時、フォウとサーラが同時に、森の方角に向かって素早く振り向きました。

「さ、サオリ様……あの……」
「高速で接近するものがあります。他とは明らかに違う、高魔力のものです」

 口が早く回らないサーラに被せるように、フォウが報告します。
 やはりと言いますか、サーラもフォウ同様に魔力感知に長けているのだと思います。
 私はスマホのセンサーを、再度見直しました。

「これは……」

 画面には数々の白い光点が散らばっていましたが、たった一つだけ、もの凄いスピードで移動している光点があって、それは赤でした。

「魔力量は色で識別されるのかしら」
「サオリ様、ご判断を! もう来ます!」

 フォウが焦りを見せるだなんて、そんなに油断出来ない相手なのでしょうか。
 でも、何がやって来るのかくらいは、確認しておきたい所です。

「サーラはすぐに転移出来る状態で待機して! フォウはこれから来る相手を出来るだけ観察して、少しでも情報を得られるようにして!」
「はい……サオリ様」
「かしこまりました」

 相手も私たちの魔力を感知して、様子を見に来たのかも知れません。
 やって来る魔族のその姿を確認してからでも、戦闘は回避してすぐに脱出する事は可能でしょう。
 サーラの無詠唱の転移魔法は、私がノートに文字を書くよりも早く、展開出来るのですから。
 ただ、フォウが『行ける』と言うのであれば、この場で倒してしまってもいいのですけれど。
 その場合は上手く行けば、魔王の居場所を知るチャンスにもなります。

「ニナとラフィーと、カーマイルはサーラに付いていて!」
「なの」
「こーな」
「ふん」

 それは空からやって来ました。
 私たちの手前、百メートル程離れた上空で急停止したそれは、真っ黒な姿で、同じく真っ黒な翼を広げていました。
 全身真っ黒という事と逆光も手伝って、この距離では表情も窺えません。

 フォウが緊張をはらんだ声を上げました。

「この魔力は、まさか……ジーク!?」

 え? その名前は……私の記憶にもあったはず。
 確かフォレスの過去の記憶です。

「サオリ様! 危険です、撤退を!」
「サーラ!」

 パシン! と空気が切り裂かれて、私たちは瞬時に転移しました。
 次の瞬間には、昨日野営した川べりの場所に居ました。

「フォウ、ジークって……」

 私には分かっていました。
 合体したフォレスの過去の記憶にあるその名前は、妖精の森に現れた魔族の幹部で、アランたちのパーティーとたった一人で渡り合って互角に戦った者の名前です。

「その魔族って、妖精の森で死んだのではなかったの?」
「はい、そうです。けれどもさっきのアレは、魔族の姿でしたけれど、間違いなくジークの魔力でした」

 全身真っ黒で、蝙蝠のような翼を背中に生やしたその姿は、魔族としての本当の姿だったのでしょうけれど、フォレスの記憶の中のそれは、トラベラーズ・ハットにマントという一見、人間の姿をしていました。

 まさか、生き返ったというのでしょうか。

「ただ、おかしな事に、ジークの魔力の中に、違う何かを感じました」
「どういう事?」
「分かりません。何か別のものと合体……そう、サオリ様がフォレス様と合体している時のようなものを感じました」

 魔族が何かと合体して、生き返ったとでも言うのでしょうか。
 とてもいやな予感がします。

「ニナもあれがジークだと感じた?」

 ニナもフォウと一緒に、妖精の森で遭遇しているはずです。

「うんなの。あれはジークなの。間違いないの……でも」
「でも?」
「半分、妖精の匂いがしたなの」
「妖精……」

 フォウが違う何かを感じると言っていたそれは、ニナによると妖精のものだそうです。
 フォレスの記憶では、ジークという魔族は妖精の森でアランたちと戦い、最期はフォレスの『エナジー・ドレイン』で魔力を吸い取られて死んでいます。
 そしてその死体は森に埋められました。
 
「森に埋められたジークが私と同じように妖精と合体したとでも? それで生き返ったと言うの?」
「可能性はあります。ただ合体とは違うかも知れません。私たちと戦った時は既に森の精気を吸い取って自分の力として溜めていました。……なので、合体というより森の精気を吸収した結果なのではないでしょうか。だからニナも妖精の魔力とは言わずに、匂いと言ったのだと思います。妖精も森の精気を吸収する存在ですから」

 でもその後、ローランドの進軍によって妖精の森は燃やされて、跡形もなくなっています。
 それまでに復活していたというのでしょうか。
 森が存在していなければ、その精気は発生しないのです。

「何にせよ強敵には違いないわね……アレが魔王になっているという可能性はあるの?」
「それはありません。魔王なら魔王として感じ取れます」

 アランたちが森でジークと戦った時、サーラはジークの罠によって魔王城へと転移させられていて一緒ではありませんでした。
 とは言え、天使二人とSランクの魔法探偵の少女と、さらには杖と同化する前の竜の子のルルも居たパーティーに、ほぼ互角に渡り合ったという実力は侮れません。

「そんなものが蘇っているとしたら、やっかいね」

 私はショルダーバッグから、ノートと羽根ペンを取り出しました。
 フォウとニナが言うのですから、ほぼ確定的だとは思うのですが、この目で見て確認せずにはいられませんでした。

「埋めた場所は……フォレスの記憶で私にも分かるわ。行ってみましょう」

 ジークが埋められた場所、妖精の森へ――
 
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