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悪役令嬢幼女編
悪役令嬢は仕立て屋を驚かすⅡ
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「私としては侍女服の新しい形を見せていただき、制作に携わらせてくださっただけでなく、見たこともない素晴らしい宝石を世に出る前に見せていただけたという名誉をいただけましたので、こちらの方からお代を支払いたいくらいなのでございますが」
一息でつらつらと言葉を並べてお金を受け取ることを拒否するオーキッドさんをなんとか言いくるめ、お金が受け取れないのならばせめて先ほど絶賛していた琥珀で手を打ってもらおうとしたのだが、思わぬ侵入者に邪魔をされてしまった。
「最近のエルはやけに活動的だけど、今回のは少し問題があるね」
お父様は私を捕まえると私を膝の上に乗せ、ソファに座った。
「オーキッドが呼んでくれなかったらどうなっていたことか。君がただの服飾馬鹿で良かったよ」
「恐れ入ります」
私が琥珀の話を持ち出した時、オーキッドさんがオーキッドさんを呼び出した時に使った魔道具と対になっているデザインの魔道具でお父様を呼び出したのだ。
「世に出ていない宝石の価値は計り知れませんからねぇ」
オーキッドさんは優雅にお茶を嗜みながらテーブルに置かれた琥珀の薔薇を見た。琥珀の薔薇は小さな紺色の座布団のようなものに乗せられ、さも高級品であるかのような扱いを受けている。
テーブルの上のメイド服はルイーテによって撤収され、代わりに真ん中に琥珀、私達の前にお茶が各自置かれている。
2人の会話からすると、どうやら私がこの世界に存在していないはずの琥珀を簡単にオーキッドさんに譲ろうとしたことが問題ならしい。
「オーキッドはこの宝石をどう見る?」
「どれだけの量が流通するかによりますが、この銅貨ほどの大きさでこれほどの細工が施されていれば大金貨1…いえ、大金貨3枚はくだらないでしょう。細工が無ければ1枚ですね」
この国のお金は小さい順に銅貨、銀貨、小金貨、大金貨となっていて円やドルなどの単位は特に無く、ただ銅貨1枚銀貨1枚などと枚数で数えられている。
銅貨は500枚で銀貨に、銀貨は20枚で小金貨に、小金貨は10枚で大金貨に換金される。
アイリスの雑貨屋で買った鉛筆は1本銅貨3枚だったため、鉛筆のデザインから鉛筆をHi-○niとすると日本円で150円くらいであるため、銅貨1枚50円ということになる。それならば銀貨は2万5千円、小金貨は50万円、大金貨は500万円だ。
オーキッドさん曰く琥珀の薔薇は大金貨3枚でいっせんごひゃくまんえん。うん、いっせんごひゃくまんえん。
「まあ、妥当だね」
え、おとうさま、いっせんごひゃくまんえんですよ?7歳の幼女の工作がいっせんごひゃくまんえん?わあ、すごい。お家が建っちゃうよ。
「これから先この宝石が手に入るのならいっそのこと商会を立ち上げてみては?」
「委託ではなくインヴィディアで商会を?」
「ええ、宝石に細工を施してからブランドとして出せばご婦人方がこぞって買いに走るでしょうね」
「だそうだけどエルはどうしたい?」
ちょっと話が高度すぎてよくわかりませんでした、すみませんお父様。
私はハンナのメイド服計画のオリジナルブローチを作るために琥珀を作り出しただけなのだが、なんだか大掛かりなことになってきたぞ。
「私はただ私の専属侍女の侍女服に使おうとこの宝石細工を作っただけですし、お父様方のお話は難しくてわからないのでお任せします。もし宝石を売りたいのであれば、宝石自体はまだ研究段階ではありますがかなりの量を流通させることはできますよ」
市場に出して琥珀があまりにも高価になってしまうと、せっかくのオリジナルスカーフリングがハンナに恐縮されてしまいそうだから、本当は私とハンナの間にとどめておきたくなった。ハンナは私とお茶を同席するのにも恐縮するくらいだったからね。
しかし、商人であるオーキッドさんがオーキッドさんのお店にも欲しいだとか商会を立ててうちのブランドとして売ると良いだとか、琥珀を市場に出すことを勧めているし、お父様も商会を立てるかは別として、結構乗り気なようだ。
「お嬢様、商会を設立なさるのならばまずは私の店にいくつか卸していただいても?お嬢様の侍女服のデザインから新たなる服のデザインがいくつか思い浮かびまして、それらに使用したいのですが」
「私ではなくエルに聞くのはずるい手だね。もしかしなくてもだが、エルに商会を立てさせようとしているのはこの宝石を服に取り入れたいけど、君の店で取り扱えば販売に時間を取られて服が作れなくなるからかな」
「ご明察です」
オーキッドさんが戯けたように肩をすくめるとお父様は呆れたような顔をした。
「オーキッドさんの新しいお洋服のデザイン楽しみです」
オーキッドさんの仕立ては完璧だった。フリルの角度までが図面と一緒なのはもはや狂気を感じるほどだ。そんな人がデザインする服に興味がないはずがない。しかもあのメイド服がベースだとなおさらだ。
私とオーキッドさんが意気投合したのを察してかお父様は困ったように笑って、詳細はまた後日ということにしてお開きになった。
その日のうちに商会設立の準備が忙しくなり、お父様が書類とにらめっこを始めたり、お母様が店舗となる物件の資料を吟味していたのだが、私は何もすることがなく、暇だったので琥珀を生成した。
どうやら私の人工琥珀は温度によって色が変わるようで、その変化の様子を見ているのが楽しくて机の上に様々な色の琥珀を量産してしまった。
夕食の時間になり、食堂で席に着くと、商会の話になった。
まず、商会自体はすでに書面上では設立したらしい。名前はヴェーラ商会で取り扱い品目は琥珀をメインにした宝石やアクセサリー、オーキッドさんのお店とのコラボ洋服。店舗の開店予定日は一週間後。幾ら何でも早すぎませんかお父様方。今日話があったばかりですよね。
開店に向けて私は明日からお母様が押さえた店舗の内装のデザインをお母様とオーキッドさんと話し合うことになった。
ちなみに事の発端となったハンナのメイド服計画はお父様にちゃんと許可をもらって、明日からハンナの侍女服になる。そのほかに、お母様とハンナには試作品のテスター兼広告塔になってもらってヴェーラ商会の商品を広めてもらうことになった。お父様にハンナに琥珀のスカーフリングを使ってもらっても大丈夫かどうかを聞いた時、商会を運営している貴族は夜会で付き人にさりげなく商品の二、三段階下のものを持たせてアピールするらしい。
それ故、ハンナが今の所超高級品である琥珀を常用していてもなんら問題になることもないという。
まあ、ハンナが恐縮して受け取ってくれないかもしれないという問題があるかもしれないのだが。
_________________________
本物の琥珀、我々が住む世界ではルースで一辺3cmほどでも4万円はくだらないそうですよ。すごいですね。
一息でつらつらと言葉を並べてお金を受け取ることを拒否するオーキッドさんをなんとか言いくるめ、お金が受け取れないのならばせめて先ほど絶賛していた琥珀で手を打ってもらおうとしたのだが、思わぬ侵入者に邪魔をされてしまった。
「最近のエルはやけに活動的だけど、今回のは少し問題があるね」
お父様は私を捕まえると私を膝の上に乗せ、ソファに座った。
「オーキッドが呼んでくれなかったらどうなっていたことか。君がただの服飾馬鹿で良かったよ」
「恐れ入ります」
私が琥珀の話を持ち出した時、オーキッドさんがオーキッドさんを呼び出した時に使った魔道具と対になっているデザインの魔道具でお父様を呼び出したのだ。
「世に出ていない宝石の価値は計り知れませんからねぇ」
オーキッドさんは優雅にお茶を嗜みながらテーブルに置かれた琥珀の薔薇を見た。琥珀の薔薇は小さな紺色の座布団のようなものに乗せられ、さも高級品であるかのような扱いを受けている。
テーブルの上のメイド服はルイーテによって撤収され、代わりに真ん中に琥珀、私達の前にお茶が各自置かれている。
2人の会話からすると、どうやら私がこの世界に存在していないはずの琥珀を簡単にオーキッドさんに譲ろうとしたことが問題ならしい。
「オーキッドはこの宝石をどう見る?」
「どれだけの量が流通するかによりますが、この銅貨ほどの大きさでこれほどの細工が施されていれば大金貨1…いえ、大金貨3枚はくだらないでしょう。細工が無ければ1枚ですね」
この国のお金は小さい順に銅貨、銀貨、小金貨、大金貨となっていて円やドルなどの単位は特に無く、ただ銅貨1枚銀貨1枚などと枚数で数えられている。
銅貨は500枚で銀貨に、銀貨は20枚で小金貨に、小金貨は10枚で大金貨に換金される。
アイリスの雑貨屋で買った鉛筆は1本銅貨3枚だったため、鉛筆のデザインから鉛筆をHi-○niとすると日本円で150円くらいであるため、銅貨1枚50円ということになる。それならば銀貨は2万5千円、小金貨は50万円、大金貨は500万円だ。
オーキッドさん曰く琥珀の薔薇は大金貨3枚でいっせんごひゃくまんえん。うん、いっせんごひゃくまんえん。
「まあ、妥当だね」
え、おとうさま、いっせんごひゃくまんえんですよ?7歳の幼女の工作がいっせんごひゃくまんえん?わあ、すごい。お家が建っちゃうよ。
「これから先この宝石が手に入るのならいっそのこと商会を立ち上げてみては?」
「委託ではなくインヴィディアで商会を?」
「ええ、宝石に細工を施してからブランドとして出せばご婦人方がこぞって買いに走るでしょうね」
「だそうだけどエルはどうしたい?」
ちょっと話が高度すぎてよくわかりませんでした、すみませんお父様。
私はハンナのメイド服計画のオリジナルブローチを作るために琥珀を作り出しただけなのだが、なんだか大掛かりなことになってきたぞ。
「私はただ私の専属侍女の侍女服に使おうとこの宝石細工を作っただけですし、お父様方のお話は難しくてわからないのでお任せします。もし宝石を売りたいのであれば、宝石自体はまだ研究段階ではありますがかなりの量を流通させることはできますよ」
市場に出して琥珀があまりにも高価になってしまうと、せっかくのオリジナルスカーフリングがハンナに恐縮されてしまいそうだから、本当は私とハンナの間にとどめておきたくなった。ハンナは私とお茶を同席するのにも恐縮するくらいだったからね。
しかし、商人であるオーキッドさんがオーキッドさんのお店にも欲しいだとか商会を立ててうちのブランドとして売ると良いだとか、琥珀を市場に出すことを勧めているし、お父様も商会を立てるかは別として、結構乗り気なようだ。
「お嬢様、商会を設立なさるのならばまずは私の店にいくつか卸していただいても?お嬢様の侍女服のデザインから新たなる服のデザインがいくつか思い浮かびまして、それらに使用したいのですが」
「私ではなくエルに聞くのはずるい手だね。もしかしなくてもだが、エルに商会を立てさせようとしているのはこの宝石を服に取り入れたいけど、君の店で取り扱えば販売に時間を取られて服が作れなくなるからかな」
「ご明察です」
オーキッドさんが戯けたように肩をすくめるとお父様は呆れたような顔をした。
「オーキッドさんの新しいお洋服のデザイン楽しみです」
オーキッドさんの仕立ては完璧だった。フリルの角度までが図面と一緒なのはもはや狂気を感じるほどだ。そんな人がデザインする服に興味がないはずがない。しかもあのメイド服がベースだとなおさらだ。
私とオーキッドさんが意気投合したのを察してかお父様は困ったように笑って、詳細はまた後日ということにしてお開きになった。
その日のうちに商会設立の準備が忙しくなり、お父様が書類とにらめっこを始めたり、お母様が店舗となる物件の資料を吟味していたのだが、私は何もすることがなく、暇だったので琥珀を生成した。
どうやら私の人工琥珀は温度によって色が変わるようで、その変化の様子を見ているのが楽しくて机の上に様々な色の琥珀を量産してしまった。
夕食の時間になり、食堂で席に着くと、商会の話になった。
まず、商会自体はすでに書面上では設立したらしい。名前はヴェーラ商会で取り扱い品目は琥珀をメインにした宝石やアクセサリー、オーキッドさんのお店とのコラボ洋服。店舗の開店予定日は一週間後。幾ら何でも早すぎませんかお父様方。今日話があったばかりですよね。
開店に向けて私は明日からお母様が押さえた店舗の内装のデザインをお母様とオーキッドさんと話し合うことになった。
ちなみに事の発端となったハンナのメイド服計画はお父様にちゃんと許可をもらって、明日からハンナの侍女服になる。そのほかに、お母様とハンナには試作品のテスター兼広告塔になってもらってヴェーラ商会の商品を広めてもらうことになった。お父様にハンナに琥珀のスカーフリングを使ってもらっても大丈夫かどうかを聞いた時、商会を運営している貴族は夜会で付き人にさりげなく商品の二、三段階下のものを持たせてアピールするらしい。
それ故、ハンナが今の所超高級品である琥珀を常用していてもなんら問題になることもないという。
まあ、ハンナが恐縮して受け取ってくれないかもしれないという問題があるかもしれないのだが。
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