宮廷画家は悪役令嬢

悪役令嬢幼女編

悪役令嬢はマネキンを作りたい

みなさまごきげんうるわしゅう。わたくし、エルヴェラール＝フィオン＝インヴィディア７歳ですわ。
どうやら私は昨日、帰りの馬車に乗り込んでからすぐに眠ってしまい、そのまま起きなかったらしい。せっかくマネキンを作ろうと意気込んでいたというのになんたる失態。幼女の体不便。
まあ、マネキンを作ろうと意気込んだところで石膏が無いからすぐには作れないのだが。
幸い、石膏はアイリスの雑貨屋で取り扱っているようだったため、取り寄せてもらっている。朝一で注文の手紙を送ったのだがすぐに魔道具を通じて返事が来て、曰く二、三時間後には届けられるとのこと。
届くのを待っている間、私は製図がてらに手のデッサンをしてみようと思った。
開いた手は手の甲を五角形として考え、その五角形に縦線を引き、四角形と三角形に分割する。三角形が親指の付け根、四角形が4本指の付け根に当たる。四角形の真ん中にさらに一本縦線を引くと人差し指中指の付け根と薬指小指の付け根に分割され、指の付け根の配置関係が分かりやすくなる。
五角形の真ん中に横線を引き、その横線を一辺とした五角形を描く。この五角形は指だ。別に扇型で考えても構わないのだが、私は扇型を描くのが苦手だったためいつも五角形で考えていた。それに扇型と違って五角形で考えると肉のパーツごとに分割しやすいし、握った形やピースサインなどといったものや様々な角度にも対応できる。手の形に合わせて変形させればいいからね。
私は五角形指をもとに4本指は長方形で、4本指とは生える角度が違う親指は直方体で描いた。
ざっくりとアタリがとり終わると、私は親指側から光が当たっていることを想定して小指側に先に黒を置いておいた。
それから指の節に当たる部分にも薄く黒を置き、各指の第二関節の真ん中から手首の付け根の真ん中に向かって線を引くと、その線が筋になる。その筋の両脇に第三関節の影を置くと手の甲らしさが一気に出る。
ちなみに筋自体を描き込む時は第二関節の両脇のところから先ほど引いた筋を中心に第二関節を底辺とした細い逆三角形を描くと、その三角形が筋の形になる。
ちなみに私の手は白魚の手でそこまで筋張ってもいないし丸みを帯びているため、手の筋は第三関節から横指一本分したあたりから消え入るようにした。
ここから徐々に影を足していって指や手の形を正確に描き出していき、微調整をすると手が出来上がる。
私は満足して他のポーズを描き始めようとして、ふと気がついた。
ヴェーラ商会のアクセサリーは幼女向けではなかったということに。
私が描いた手は私の手を見ながら描いたためザ・幼女という感じの手だ。ヴェーラ商会のターゲットにしている客層はお母様の同世代から上あたりだ。手の大きさに差がありすぎて着用の参考にならないかもしれない。あ、でも幼女の手を皿にして加工前のものを展示するのは天使の手のようで可愛いかもしれない。
私はスケッチブックに両手を皿のようにしている幼女の手を一案として描いておいた。
ヴェーラ商会に来るであろうお客さんの手はおそらく大半が爪が少し長めの大人の手だ。ハンナを見本にしよう。

しばらくすると私の部屋に石膏が運び込まれた。
私は錬金空間を作ると石膏と水を一対一の割合で混ぜた。
そういえば変形の魔法は固体を変形することはできたのだが、液体はどうなのだろうか。
私は石膏と水の混合液を錬金空間で手の形になるように思い浮かべながら変形させ、固まるまで二十分待つのは面倒なので成長促進魔法をかけた。
できたのは幼女の手の皿。どうやら変形の魔法は液体も自由に変形させることができるようだ。
錬金空間で作った手の皿は型取りの石膏像と違ってつなぎ目が無く、表面が滑らかで綺麗だ。
私は幼女の手の皿の他に幼女がものをつまんでいるようなポーズの手を作った。
幼女シリーズはかなりの量を作ったため、次はハンナの手をモデルに作ろうと思う。