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悪役令嬢幼女編
悪役令嬢は店舗をデザインしたといえるのだろうかⅡ
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「きっちりと間に合わせますよ、リヴラール殿には広告塔となって頂かねばなりませんからね」
オーキッドさんはメモ帳に何かを書き付けると切り離し、お母様に手渡した。お母様はそれを確認すると左手の中指にはめられていた指輪に収納した。
お母様の指輪は収納機能が付いている魔道具で、衣装箪笥1つ分くらいのものが収納できるらしい。
ちなみに私も琥珀運搬用に本日限定で1つだけ貸してもらっている。
「それでは、エルちゃんも来たことだしさっそく始めましょうか」
「ではまず私の間取り図を見ていただきたいです」
私はお母様の隣に座ると指輪からスケッチブックを取り出し、テーブルに置いた。
店舗の形がわからなかったため長方形の部屋を想定して考えたのだが、なかなか良く書けているのではなかろうか。間取り設計とかは初めてだけど。
「えぇと、つまり……その、こちらは」
「お洋服を置くところです」
「では、こちらは」
「宝石細工を置くところです」
「エルちゃん、あなた、絵は上手なのに間取りは下手ね」
お母様は私からスケッチブックを受け取ると次のページに、私の間取り図もどきを参考にした間取り図を書き直した。
「間取りはマス目を基準に考えるの。ただ円を描いてその中に文字を書いただけではダメよ。距離感が分からないもの。マス目が無いときは基準になる長さを決めて近くに書いておくのよ」
お母様が書いた間取り図はパソコンか何かで書いたかのような、物件探しの資料に使われているような一目で物の位置関係がわかるものだった。お母様、何者ですか。
「夜会の嫌がらせ対策のために必要だからエルちゃんも覚えるのよ」
どうやら貴族夫人の中ではマイナーな屋敷の外観の様式や間取りの様式の名前を持ち出してマウントを取ろうとするご婦人方がいるらしい。知っていれば特に何も言われはしないが、知らずに何も返すことができなければ不勉強だと馬鹿にされるのだとか。面倒な人もいるものだ。
「ちなみにここの様式はリブ・ヴォールトよ」
リブ・ヴォールトは確かランスのノートルダム大聖堂の内装の様式と同じだ。リブは肋骨のことで肋骨のようにアーチが連なっていることからきた名前だったはずだ。教科書で見たよ前世の。
お母様からリブ・ヴォールトの他にもクリアストーリーやらフライング・バットレスやらのの話も聞いたのだが、生活必需品の水などとは違って建築様式は前世の英語やフランス語といった言語の名前のままだった。
一体ここはヨーロッパのどこのあたりを想定して作られた世界なんだ乙女ゲーム製作陣よ。人名やら街並みを見ればドイツ風なのかもしれないけど。リブ・ヴォールトとかのゴシック様式も元々はゴート人、つまりドイツ人風のって意味だしね。
「あ、そうじゃなくて店内の内装を考えるんだったわね。すっかり話し込んでしまったわ」
私も一瞬お店のことを忘れかけてたよお母様。
「構いませんよ。では、気を取り直して。この間取り図ですと入口側が比較的値段の安いもの、奥に行くにつれて高価なものということでよろしいですか。そうなると私としては服は壁沿いにずらりと並べたいと思うのですがいかがでしょう」
「あ、壁にはその、おしゃれな雰囲気の絵を数点飾ってみたいのですが」
「それならば値段の桁が変わる境目に飾るとお客様にも、店員にもわかりやすいかもしれませんよ」
なるほど。オーキッドさんはすでに自分の店を持っているだけあって頼もしい。
「そういえばこの広いホール以外にも部屋があるみたいなのですがそれは何に使えばいいのでしょうか」
「それは個別の商談に使うといいわ。あと、オーダーメイドのお洋服の採寸をする部屋もなければならないもの」
今更思ったことなのだが、この間取りの話し合いに私はいらないのではなかろうか。
「あら、そうだわ。エルちゃん、商品にする宝石の見本は持って来たかしら」
「はい。細工はまだしていませんが」
私は指輪から出した布をテーブルに広げてから琥珀をいくつか取り出した。
「これはまた……昨日見せていただいたものとはまた変わった色合いのものですね。これもまた良い。こちらの緑がかったものでまた服のデザインが浮かんでしまいましたよ。はじめはネクタイの結び目にと思っていましたが、スーツのボタンにも良いですね。ドレスならば胸元だけではなく腰にぐるりと一周縫い付けるのも良い」
「うーん、そうねぇ……絨毯は全部青系統に変えるべきね。それとも宝石を置く台座だけ青にするべきかしら。ああ、でもそれでは色合いが分かりにくくなるものも出てしまうし、宝石毎に台座の色を変えたら統一感がなくなってしまうしどうしましょう」
創作意欲が向上して自分の世界に入りかけたオーキッドさんとお母様。服と店舗とジャンルは違えど似た者同士の香りがする。
「とりあえずお二人ともこちらの世界に戻っていただいても良いですか」
「失礼いたしました」
「ふふ、ごめんなさいね」
「オーキッドさんのお店に首だけや手だけのマネキンは置いていませんか」
「いえ、聞いたこともありませんね」
この国の宝石やアクセサリーは座布団のような台座に置かれて展示されるもので、テレビショッピングでよく見かけるような首のマネキンは存在していないようだ。
「装着した時の見た目がわかりやすいように、こう、装着する部位だけのマネキンを用意するのはどうでしょうか」
私はスケッチブックに首だけのマネキンと手だけのマネキンを描いて見せた。
「なるほど、分かりやすいだけでなく目新しさもあって良いですね。青い絨毯に白い直方体の台座を設置してその上面も青に、そしてマネキンを置けば」
「決まりね。あとはそれらを注文するだけね。楽しみだわ」
内装のデザインを考える、と聞いていたからもっと細かいところまでデザインを考えるのかと思ったのだが、私たちが話し合ったのは商品の配置の仕方と絨毯の色とマネキンのことのみ。これで良いのか。
「私も何かできることがあればお手伝いします。マネキン作りとか……」
前世で首と手は水粘土で死ぬほど作ったからね。あ、そういえば価格の境目に飾る草汁画も量産しなければ。
草汁画第一号は緑だけだったし、値段が高くなるにつれて色を増やしても良いかもしれない。
帰ったら草汁画量産とマネキン作りだろうか。
いや、まず夕飯だわ。
私たちはあまりたいそうな話し合いをしていたわけでもないはずなのに外はだいぶ暗くなっていた。
オーキッドさんはメモ帳に何かを書き付けると切り離し、お母様に手渡した。お母様はそれを確認すると左手の中指にはめられていた指輪に収納した。
お母様の指輪は収納機能が付いている魔道具で、衣装箪笥1つ分くらいのものが収納できるらしい。
ちなみに私も琥珀運搬用に本日限定で1つだけ貸してもらっている。
「それでは、エルちゃんも来たことだしさっそく始めましょうか」
「ではまず私の間取り図を見ていただきたいです」
私はお母様の隣に座ると指輪からスケッチブックを取り出し、テーブルに置いた。
店舗の形がわからなかったため長方形の部屋を想定して考えたのだが、なかなか良く書けているのではなかろうか。間取り設計とかは初めてだけど。
「えぇと、つまり……その、こちらは」
「お洋服を置くところです」
「では、こちらは」
「宝石細工を置くところです」
「エルちゃん、あなた、絵は上手なのに間取りは下手ね」
お母様は私からスケッチブックを受け取ると次のページに、私の間取り図もどきを参考にした間取り図を書き直した。
「間取りはマス目を基準に考えるの。ただ円を描いてその中に文字を書いただけではダメよ。距離感が分からないもの。マス目が無いときは基準になる長さを決めて近くに書いておくのよ」
お母様が書いた間取り図はパソコンか何かで書いたかのような、物件探しの資料に使われているような一目で物の位置関係がわかるものだった。お母様、何者ですか。
「夜会の嫌がらせ対策のために必要だからエルちゃんも覚えるのよ」
どうやら貴族夫人の中ではマイナーな屋敷の外観の様式や間取りの様式の名前を持ち出してマウントを取ろうとするご婦人方がいるらしい。知っていれば特に何も言われはしないが、知らずに何も返すことができなければ不勉強だと馬鹿にされるのだとか。面倒な人もいるものだ。
「ちなみにここの様式はリブ・ヴォールトよ」
リブ・ヴォールトは確かランスのノートルダム大聖堂の内装の様式と同じだ。リブは肋骨のことで肋骨のようにアーチが連なっていることからきた名前だったはずだ。教科書で見たよ前世の。
お母様からリブ・ヴォールトの他にもクリアストーリーやらフライング・バットレスやらのの話も聞いたのだが、生活必需品の水などとは違って建築様式は前世の英語やフランス語といった言語の名前のままだった。
一体ここはヨーロッパのどこのあたりを想定して作られた世界なんだ乙女ゲーム製作陣よ。人名やら街並みを見ればドイツ風なのかもしれないけど。リブ・ヴォールトとかのゴシック様式も元々はゴート人、つまりドイツ人風のって意味だしね。
「あ、そうじゃなくて店内の内装を考えるんだったわね。すっかり話し込んでしまったわ」
私も一瞬お店のことを忘れかけてたよお母様。
「構いませんよ。では、気を取り直して。この間取り図ですと入口側が比較的値段の安いもの、奥に行くにつれて高価なものということでよろしいですか。そうなると私としては服は壁沿いにずらりと並べたいと思うのですがいかがでしょう」
「あ、壁にはその、おしゃれな雰囲気の絵を数点飾ってみたいのですが」
「それならば値段の桁が変わる境目に飾るとお客様にも、店員にもわかりやすいかもしれませんよ」
なるほど。オーキッドさんはすでに自分の店を持っているだけあって頼もしい。
「そういえばこの広いホール以外にも部屋があるみたいなのですがそれは何に使えばいいのでしょうか」
「それは個別の商談に使うといいわ。あと、オーダーメイドのお洋服の採寸をする部屋もなければならないもの」
今更思ったことなのだが、この間取りの話し合いに私はいらないのではなかろうか。
「あら、そうだわ。エルちゃん、商品にする宝石の見本は持って来たかしら」
「はい。細工はまだしていませんが」
私は指輪から出した布をテーブルに広げてから琥珀をいくつか取り出した。
「これはまた……昨日見せていただいたものとはまた変わった色合いのものですね。これもまた良い。こちらの緑がかったものでまた服のデザインが浮かんでしまいましたよ。はじめはネクタイの結び目にと思っていましたが、スーツのボタンにも良いですね。ドレスならば胸元だけではなく腰にぐるりと一周縫い付けるのも良い」
「うーん、そうねぇ……絨毯は全部青系統に変えるべきね。それとも宝石を置く台座だけ青にするべきかしら。ああ、でもそれでは色合いが分かりにくくなるものも出てしまうし、宝石毎に台座の色を変えたら統一感がなくなってしまうしどうしましょう」
創作意欲が向上して自分の世界に入りかけたオーキッドさんとお母様。服と店舗とジャンルは違えど似た者同士の香りがする。
「とりあえずお二人ともこちらの世界に戻っていただいても良いですか」
「失礼いたしました」
「ふふ、ごめんなさいね」
「オーキッドさんのお店に首だけや手だけのマネキンは置いていませんか」
「いえ、聞いたこともありませんね」
この国の宝石やアクセサリーは座布団のような台座に置かれて展示されるもので、テレビショッピングでよく見かけるような首のマネキンは存在していないようだ。
「装着した時の見た目がわかりやすいように、こう、装着する部位だけのマネキンを用意するのはどうでしょうか」
私はスケッチブックに首だけのマネキンと手だけのマネキンを描いて見せた。
「なるほど、分かりやすいだけでなく目新しさもあって良いですね。青い絨毯に白い直方体の台座を設置してその上面も青に、そしてマネキンを置けば」
「決まりね。あとはそれらを注文するだけね。楽しみだわ」
内装のデザインを考える、と聞いていたからもっと細かいところまでデザインを考えるのかと思ったのだが、私たちが話し合ったのは商品の配置の仕方と絨毯の色とマネキンのことのみ。これで良いのか。
「私も何かできることがあればお手伝いします。マネキン作りとか……」
前世で首と手は水粘土で死ぬほど作ったからね。あ、そういえば価格の境目に飾る草汁画も量産しなければ。
草汁画第一号は緑だけだったし、値段が高くなるにつれて色を増やしても良いかもしれない。
帰ったら草汁画量産とマネキン作りだろうか。
いや、まず夕飯だわ。
私たちはあまりたいそうな話し合いをしていたわけでもないはずなのに外はだいぶ暗くなっていた。
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