宮廷画家は悪役令嬢

鉛野謐木

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悪役令嬢幼女編

悪役令嬢は初めての商談に戸惑いを隠せないⅠ

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ヴェーラ商会の記念すべき一号店のオープン当日。
開店を前にして私がそわそわしていると、接客担当に選ばれた人々が緊張のあまりに小刻みに震えているのが見えた。


「プロでも緊張するものなんだなぁ」


「いえ、これは武者震いですよ。ここに連れてきた者は合格発表で泣いていましたから」


ヴェーラ商会の服飾部門はオーキッドさんのお店で働いている人の中からオーキッドさんのお眼鏡にかなった人だけがこの場に立っている。
小耳に挟んだ話、オーキッドさんの選別試験はとても厳しかったようで、三段階あった試験のうち一段階で40人ほどの受験者が12人ほどになったらしい。
最終的に残ったのはたったの3人で、後日改めて再試験をするそうだ。
再試験が終わるまで3人はフルタイムフル出勤だ。ああ、なんてブラックオーキッドさん。
アクセサリー部門、宝石部門もインヴィディア家の使用人の中から選ばれている。しかし、さすが公爵家勤めの使用人というべきか、姿勢においても接客態度においても、志願した人々皆が完璧で中々甲乙つけがたく申し訳ない話、ヴェーラ商会の制服が似合うか似合わないかで選ばせてもらった。
ヴェーラ商会の制服は私とオーキッドさんがデザインしたものだ。
女性はグレーのシャツに紺色のカマーベストのパンツスタイルで部門ごとの色のリボンタイをヴェーラ商会の店員である証となる星と雪の結晶の間のようなデザインの琥珀でできたピンで留めている。
男性は紺色のジャケットに紺色のパンツスタイルでネクタイは部門ごとの色、そしてヴェーラ商会の証は胸元にブローチとしてつける。
部門ごとのネクタイは服飾部門が赤、アクセサリー部門が青、宝石部門が黄だ。私は彼らを心の中で信号機と呼ぶことにしている。
女性信号機は宝塚のように凛々しい姿でかっこいいし、男性信号機は爽やかな王子様系の俳優みたいだ。
いつか信号機ズを目当てに来る客ができそうだ。

店が開くとご婦人方が旦那さんらしき人にエスコート、というより旦那さん方を引っ張るような形で我先にと入店してきた。
客が来ないかもしれないという心配は杞憂に終わってよかったのだが、ご婦人方の獲物を狙う目が怖かった。
ご婦人方はアクセサリー、宝石、服飾にちょうどいい具合に散らばり、店員たちの接客もうまくいっているようだ。
時折私の絵を観てくれる人もいて少し嬉しいと思った。
私の絵は結局白黒の鉛筆画、緑の草汁画、緑とピンクと黄色の草汁画をそれぞれ2組ずつ用意して飾っている。
絵の題材は黒髪の少年とハンナと名前が分からない花だ。黒髪の少年は鉛筆画で剣を振るっている躍動感ある絵で、ハンナは緑の草汁画で描いた紅茶を淹れる手順、名前が分からない花は庭にあった花で見た目はマリーゴールドに近いのだが、ひとつひとつが大きく、薔薇のように木に咲く花だ。その花の枝を3本と草汁抽出用に落ちた花をいくつかもらって描いたものだ。

私が草汁画を描いた時を思い出していると、さっそく商談が始まったようで個室に通された人々がいた。
個室に通すのは大量購入や商会同士の商談、王族や上位貴族といったいわゆるVIPたちとの商談だ。
まだ開店して十数分しか経っていないのだが中々良い流れになってきたように思える。


「お嬢様、会長が相談があるとのことでございます」


さっそく問題でも起きたのだろうか。お兄様が待つ部屋に向かうとお兄様が頭を抱えて待っていた。


「お兄様、どうかされましたか」


「どうもこうもないよ! 大変なことになったんだ」


お兄様は顔をがばっとあげると鬼気迫る表情でこちらを見た。
商品に不備でもあったのだろうか。価格設定に問題があったのだろうか。何が起こったのかは分からないが、私は何か良からぬことが起きたのかと思い、生唾を飲んだ。


「エルが描いた名画を買いたいという人が多すぎるんだ!」


はい???


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