宮廷画家は悪役令嬢

鉛野謐木

文字の大きさ
23 / 39
悪役令嬢幼女編

悪役令嬢は初めての商談に戸惑いを隠せないⅡ

しおりを挟む
お兄様によると私が描いた鉛筆画、草汁画全てに買いたい人が殺到しているという。
最初はお兄様の冗談かと思ったのだが、そうではないらしい。
先程個室に通されたのは私の絵を買いたいと言った人々で、絵の販売については一旦ヴェーラ商会の運営側で話し合わせて欲しいと伝え、待機してもらっているのだという。


「お店の商品ではないものを買うことなんてできるのですか?」


前世でもダメ元でお店のディスプレイを買おうとする人はいた。まあ、大抵は断られてしまうのだが。


「できるよ。なんなら屋敷に置いてある調度品も屋敷の主人に言って買うこともできる」


どうやらこの世界ではディスプレイ買いが当たり前のように行われているようだ。


「もし、私の絵を売るとしたらいくらになりますかね?銅貨5枚くらいでしょうか」


前世の美術館でポストカードは大体200円から500円だったし妥当だろう。
あ、でも原画だからもっともらっても良かったのかもしれない。あと額装費は別料金で。


「いやいや!なんでこうもまた過小評価なのかなぁ!仮に販売するとしても銀貨二、三枚は欲しいね。そこから話し合いか一番高い値段で買うと言った人に、という感じかな」


いやいやいやいや逆に過大評価だと思うのだが。
それともアレだろうか、本当に私が描いた絵が名画なのだろうか。
現に私の絵を買いたいと集まっている人がいるみたいだし。
本当に私の絵が名画だというのなら少しくらいはお小遣い稼ぎに売ってみてもいいよね。
まあ、大体の欲しいものはお父様が買ってくれるからお小遣いなんて本当はいらないんだけど。乙女ゲーム開始となる学園入学で万が一があった時の逃亡資金として貯めておこう。

「いえ、巨匠でもなんでもない無名の私の絵ですし、相場もわかりませんでしたので……あの、今回だけオークション形式でその値段を参考に今後販売していくというのはいかがでしょう。たまにヴェーラ商会の催しとして、店内に飾れないような大きなサイズの絵を出すのもいいですし」


「いいね。それじゃあさっそく行こうか」


「私も参加するのですか?」


できれば接客やらなにやらはプロにお任せして私は首を突っ込みたくはない。


「作者として紹介しようと思ってね」


「顔出しはダメです」


「顔出し?」


よく某青い鳥の呟きでアイコンと中の人の画像を貼るとフォロワーが増えるだの何リツイートで自撮りを貼るだのがあったが、私は絵は見てほしいが身バレはしたくない派だ。


「あ、えーと、おそらく私のような子供が描いたと知るとがっかりされてしまうかもしれないので、できれば私のことは紹介しないでください。あと作者紹介とかがあるのなら雅号を使いたいです」


「うーん……がっかりはされないと思うんだけどエルが嫌なら無理には人前には出さないよ。あとエルは雅号を持っていたんだね?」


いや、持ってない。というか絵を売るつもりなんてなかったから考えもしなかった。
今考えるにもまめだいふくやらぽめぽめ侍やらしか思い浮かばない。
が、いいことを思いついた。

「いえ、持っていないのでお兄様につけていただこうかと」



「なんだって! 僕にそんな大役を?」


「どうしてもお兄様につけていただきたいのです。どうかよろしくお願いしますお兄様」


必殺、他人任せ。
私のネーミングセンスはあまりよろしくなさそうだしお兄様に任せれば大丈夫だろう。
お兄様のネーミングセンスは知らないけど。お土産と同じような謎の雰囲気の名前だったら嫌だな。


「エルザ」


お兄様は顔を上げ私の方をまっすぐと見て言った。


「エルザなんてどうだろう」



しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

乙女ゲームの悪役令嬢、ですか

碧井 汐桜香
ファンタジー
王子様って、本当に平民のヒロインに惚れるのだろうか?

いっとう愚かで、惨めで、哀れな末路を辿るはずだった令嬢の矜持

空月
ファンタジー
古くからの名家、貴き血を継ぐローゼンベルグ家――その末子、一人娘として生まれたカトレア・ローゼンベルグは、幼い頃からの婚約者に婚約破棄され、遠方の別荘へと療養の名目で送られた。 その道中に惨めに死ぬはずだった未来を、突然現れた『バグ』によって回避して、ただの『カトレア』として生きていく話。 ※悪役令嬢で婚約破棄物ですが、ざまぁもスッキリもありません。 ※以前投稿していた「いっとう愚かで惨めで哀れだった令嬢の果て」改稿版です。文章量が1.5倍くらいに増えています。

メインをはれない私は、普通に令嬢やってます

かぜかおる
ファンタジー
ヒロインが引き取られてきたことで、自分がラノベの悪役令嬢だったことに気が付いたシルヴェール けど、メインをはれるだけの実力はないや・・・ だから、この世界での普通の令嬢になります! ↑本文と大分テンションの違う説明になってます・・・

婚約破棄?王子様の婚約者は私ではなく檻の中にいますよ?

荷居人(にいと)
恋愛
「貴様とは婚約破棄だ!」 そうかっこつけ王子に言われたのは私でした。しかし、そう言われるのは想定済み……というより、前世の記憶で知ってましたのですでに婚約者は代えてあります。 「殿下、お言葉ですが、貴方の婚約者は私の妹であって私ではありませんよ?」 「妹……?何を言うかと思えば貴様にいるのは兄ひとりだろう!」 「いいえ?実は父が養女にした妹がいるのです。今は檻の中ですから殿下が知らないのも無理はありません」 「は?」 さあ、初めての感動のご対面の日です。婚約破棄するなら勝手にどうぞ?妹は今日のために頑張ってきましたからね、気持ちが変わるかもしれませんし。 荷居人の婚約破棄シリーズ第八弾!今回もギャグ寄りです。個性な作品を目指して今回も完結向けて頑張ります! 第七弾まで完結済み(番外編は生涯連載中)!荷居人タグで検索!どれも繋がりのない短編集となります。 表紙に特に意味はありません。お疲れの方、猫で癒されてねというだけです。

悪役令嬢、休職致します

碧井 汐桜香
ファンタジー
そのキツい目つきと高飛車な言動から悪役令嬢として中傷されるサーシャ・ツンドール公爵令嬢。王太子殿下の婚約者候補として、他の婚約者候補の妨害をするように父に言われて、実行しているのも一因だろう。 しかし、ある日突然身体が動かなくなり、母のいる領地で療養することに。 作中、主人公が精神を病む描写があります。ご注意ください。 作品内に登場する医療行為や病気、治療などは創作です。作者は医療従事者ではありません。実際の症状や治療に関する判断は、必ず医師など専門家にご相談ください。

【完結】悪役令嬢は婚約者を差し上げたい

三谷朱花
恋愛
アリス・デッセ侯爵令嬢と婚約者であるハース・マーヴィン侯爵令息の出会いは最悪だった。 そして、学園の食堂で、アリスは、「ハース様を解放して欲しい」というメルル・アーディン侯爵令嬢の言葉に、頷こうとした。

悪役令嬢のビフォーアフター

すけさん
恋愛
婚約者に断罪され修道院に行く途中に山賊に襲われた悪役令嬢だが、何故か死ぬことはなく、気がつくと断罪から3年前の自分に逆行していた。 腹黒ヒロインと戦う逆行の転生悪役令嬢カナ! とりあえずダイエットしなきゃ! そんな中、 あれ?婚約者も何か昔と態度が違う気がするんだけど・・・ そんな私に新たに出会いが!! 婚約者さん何気に嫉妬してない?

悪役令嬢はモブ化した

F.conoe
ファンタジー
乙女ゲーム? なにそれ食べ物? な悪役令嬢、普通にシナリオ負けして退場しました。 しかし貴族令嬢としてダメの烙印をおされた卒業パーティーで、彼女は本当の自分を取り戻す! 領地改革にいそしむ充実した日々のその裏で、乙女ゲームは着々と進行していくのである。 「……なんなのこれは。意味がわからないわ」 乙女ゲームのシナリオはこわい。 *注*誰にも前世の記憶はありません。 ざまぁが地味だと思っていましたが、オーバーキルだという意見もあるので、優しい結末を期待してる人は読まない方が良さげ。 性格悪いけど自覚がなくて自分を優しいと思っている乙女ゲームヒロインの心理描写と因果応報がメインテーマ(番外編で登場)なので、叩かれようがざまぁ改変して救う気はない。 作者の趣味100%でダンジョンが出ました。

処理中です...