悪の組織に人体改造された俺、目覚めると組織が壊滅していたので、ヒーローを目指してみようと思います。

銀猫

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7話

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 走れ走れ走れ走れ!!
 烈風を追い風に、限界まで強化した足で大地を蹴る。
 沈む太陽を追いかけるように、加速する足は車すら追い越して、目的地まで止まる事なく駆けていく。

「……っ!」

 メッセージの発信源は、コンビニ強盗をした怪人がいた街。未だ復興を終えておらず、人も少なく瓦礫と廃墟の多い場所故、脛に傷を抱えた者達が潜伏するにはもってこいだ。
 何かあったとしても、隠れる場所の多いここなら逃げ切れる筈。下垣は結社が壊滅しても捕まらず、のうのうと平和に生活するぐらい生き汚い。

 だから大丈夫。大丈夫だと無理矢理言い聞かせる。
 
「見えた……!」

 メッセージが届いてから10分も経たずに、目的地に辿り着いた。
 住む人の少ない街の中で、更に人気の少ない一角。
 壊れかけの民家が並び、薄い光をなんとか放つ壊れかけの街灯が、二つの人影を映し出していた。

 グッタリと街頭に座り込む男に、特徴的な青色の髪をした男が、紅い液体の入った注射器を刺す。
 注射器の液体が身体に入り込むと、男の身体が大きく変化する。肉体は膨れ上がり、人とかけ離れた異形を作るも、肉体は燃え尽きた炭のように力無く四肢を投げ出している。

 カッと、血が沸騰した。
 知っている。今怪人に変えられた男を、俺は知っている……!!

「………!!!!」
「なんだ!?」

 体を浮かせる程の剛風が青髪の男を吹き飛ばし、男がいた位置に走り込む。

「おっさん!!下垣のおっさん!!」

 反応は、ない。
 怪人はただ無言を貫く。

「おい君、そいつは怪人だ。危ないから離れなさい」

 ピクリとも動かない体からは、生命の鼓動を感じない。
 炎と熱を纏う筈の身体に触れるも、伝わるのは冷たい金属の感触だけ。

「……ちげえよ」
「何?」
「この人は怪人じゃない。ただの戦闘員だ……!!」

 下垣は戦闘員であることに誇りを持ち、怪人には敬意を払っていた。
 怪人とはなんたるかを、何度も何度も聞かされたから分かる。下垣が怪人になる事は絶対になく、無理矢理作り替えられた体は、侮辱以外の何でもない。

「……あぁ、なんだ。それの知り合いか。見られたかと思って焦ったじゃん」

 怒りが込められた視線で俺と下垣の関係を察した男は、取り繕っていた善人の雰囲気を取り払う。

「全く、呼んでるなら呼んでるって言えよな。殺しちまったから人質にもならないじゃないか」
「やっぱりテメェか」
「全然言う事聞いてくれなくてさぁ。何聞いても知らないやらないってうるさいのなんの。もう面倒になっちゃって」

 男の言葉を一つ聞くたびに、体の温度が上昇していくのが分かる。
 体が、心が燃えるように熱い。

「あんた、ヒーローだろ。なんでこんな事してんだ」

 この男を知っている。コンビニ強盗の怪人を捕まえたと報道されていたヒーロー。ホテルの事件で真っ先に駆けつけたのも確かコイツだ。

「君らみたいなのには分からないだろうけどね、ヒーローってのは大変なんだ。上に行くには人気と実績が必要なの」
「人気?」
「そ、ヒーローで稼ぐには必要なわけ。だけど、そこらのしょっぱい事件をいくら解決したところで、ダークマターを倒した昔のヒーローには叶わない」
「だから、俺達を利用してるのか」
「ちょうどいいんだ、でかい弱みを持ってるくせにそこまで強くない。これほど利用できるゴミは他にないよ。ちょいと脅せば、小さな火種をでかい花火にしてくれる」

 戦闘員は間違いなく悪人だ。例え殺したとしても、世間からは感謝されるだけ。ダークマターに対する憎しみは、人々に深く染み込んでいる。
 計画に協力して成功すれば見逃す。協力しなければ殺すと言われれば、彼等は協力する以外に道はない。

「ホテルもあんたの仕業か」
「あれ?分かっちゃった?結構仕込み大変だったのに、怪我人一人に負けちゃうんだもん。おかげで俺が超人気ヒーローになる傑作シナリオがおじゃんだ」

 これが、ヒーローだって?
 自分で仕込んだ事件を解決して人気を得ようとする愚か者が、何の後ろめたさもなくヒーローを名乗っている。
 
「随分とお喋りなんだな」
「こういうのは溜め込むより、誰かに吐き出した方が楽なの。どうせお前らじゃ聞いた所で何もできやしないし」

 男が指を鳴らすと、男の周辺にサッカーボールぐらいの水球が五つ現れる。
 水を操るの異能。なるほど、だから最近炎の怪人をよく見るのか。水を操れるなら炎など楽な相手。
 最近の怪人は、この男が押収したモノをこっそり横流ししているのだろう。

「じゃ、大人しく協力してもらおうか。そこのバカみたいになりたくないだろう?」
「……あ?」
「知り合いの情報教えろって言ってんのに、頑なに断ってきてさ。どんだけ痛めつけても知らないの一点張り。そのくせ最後にはお前に助け求めてるんだから、バカだよな。全部無駄じゃねえか」
「あぁ、そうだな、馬鹿だよ。本当に大馬鹿野郎だ」

 自然と両手に力がはいる。
 握りしめた手に爪が食い込み、両手の痛みでどうにか溢れ出る怒りを抑え込む。

「俺の事を売れば良かったんだ……!!自分で言ってじゃないか。俺より弱いくせに……!!馬鹿野郎が……!!」

 言ってたじゃないか。いざとなったら俺の事を売るって。なのに何で、自分の命をかけてまで俺の事を守ろうとしたんだ。
 こんなやつに売られたって、俺なら問題ないのに、なんで……!!

「っ……!!」

 下垣がどうして俺を守ろうとしたのかは分からない。だけど、最後まで自分の命よりも、俺を守ろうとしたのは事実だ。

「……あんた、こいつを利用する気だろ?」

 俺が指し示したのは、怪人の死体。

「もちろん」
「なら、させるわけにはいかないな」

 戦う理由が、ここにある。

「こいつは、殺されても文句は言えない正真正銘の悪党さ」

 ヒーローに討たれるなら文句は無い。
 被害者に復讐されるのもしょうがない。
 下垣のやってきた事を思えば、殺されるのも当然だ。

「だけどな、お前みたいな屑が利用して良い命じゃねえんだよ……!!」

 けれど、ヒーローを名乗るだけのクズに利用されるのは話が違う。

「なに復讐?まさかやり合うつもり?」

 男の周辺に漂う水球の一つから、高圧力の水流が俺の足元に向けて放たれる。
 細い水流はコンクリを砕き、深い溝を作る。これが後四つ。

「力の差が分かった?俺とお前じゃ勝負にならないの」
「確かに、そうだな」

 男の言う通りだ。これは戦いではない。
 怪人と戦えるのはヒーローと、同じ怪人ぐらいだ。
 俺の前にヒーローはいない。いるのはただの、屑野郎だけ。
 なら、これから起こるのは戦いにあらず。怪人による一歩的な蹂躙だ。

「ここに、オワリを告げる」

 今、俺の全てを曝け出す。

「変身」

 言葉と共に、肉体の内に閉じ込めていた力を解き放つ。曝け出された力は黒い光となり、俺を中心に空高く立ち昇る。
 闇より暗く、夜空を塗り潰す漆黒の奔流。風は荒ぶり、大地は悲鳴をあげる。
 どうにか光を灯していた街灯は砕け、廃墟は瓦礫の山に姿を変えた。

「――■■怪人、■■■」

 黒い光が弾け飛ぶ。力の奔流から現れたのは、どこまで黒い漆黒の怪人。
 他の怪人達と違い、大きく人を外れる事なく、全身に薄い装甲を纏った黒い人型。怪人と呼ぶには酷く地味だ。
 数少ない特徴といえば、マフラーのように首に巻きつけた黒い布と、闇を燃やすような二つの紅い瞳。

「な、なんだ、なんだお前は……!」
「屑に教える名はなくてね」

 俺の名前は、認めた相手にしか告げない。

「名も知らない怪人に蹂躙されて終わる。これがお前の結末だ」
「ふ、ふざけるなぁ!!!!」

 放たれる四つの高圧水流を、俺は正面から体で受け止める。

「……は?」

 コンクリを砕いて見せた水流。だが、圧倒的に足りない。この程度では、俺の体に傷をつける事すら出来はしない。
 だって俺は、結社が作り上げた最終兵器。最強の怪人だ。

「え?」

 一歩足を動かしただけで、男は俺を見失った。
 無様に立ち尽くす男の背後に立ち、左腕に向けて右手を振るう。

「ああぁぁぁあーー!?!?!?腕が、腕がぁ!?」

 ヒーローってのは頑丈だ。ボールのように勢いよく瓦礫に突っ込んでも、左腕を押さえてのたうち回るだけですんでいる。

「上手いもんだろ?こう見えて手加減は得意なんだ」

 能力は使わない。純粋な暴力のみで怪人の恐怖を刻みつける。
 全てが未知に包まれたまま、一方的に蹂躙される事がこいつのオワリ。

「抗ってみせろよ自称ヒーロー」
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