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8話
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「来るな来るな来るなぁぁーー!!!!!!」
新たに現れた水球から、高圧力の水流が放たれる。先程よりもさらに強力。数で分散させた分を一つに集め威力を高めてある。
人の肉を骨ごと削り取る威力は確かに脅威だが、生憎とこちらの肉体は特別製。
削れる肉は無く、脅威を押し流すにはいたらない。
「何なんだよ…!!なんで俺がこんな目に……!!」
男は倒れた身体を無理矢理起こし、水を噴射しながら一歩でも遠く離れようと背を向ける。
逃げの一手。この行いが、さらなる逆鱗を踏み抜くとも知らずに。
「立ち向かって来ることすらしないのか」
目の前のこいつは何だ。
格下を痛ぶり、事件を演出し、手に持つ勝利は全て脚本通り。
ヒーローを語りながら、俺/怪人に背を向け逃げ出す。
こんなモノが、ヒーローなのか。
「あぁ、なんて、無様」
ほんの少し、一握りもない僅かな期待も尽きた。
「クソクソクソクソ!!!!」
背中を見せ逃げる男は足元に水を纏わせ、滑るように加速する。
男にとって勝利とは常に計算された先にあるモノ。戦いとは始まる前に勝っておくべきで、今日の筋書きにこんな乱入者は想定していない。
期待の新人。次期エース候補。作り上げたイメージは、結局のところ虚構に過ぎず、真に窮地に陥れば、残されるのは本質のみ。
「逃げられるわけがないだろ」
怪人の前では嘘も誇張も崩れ去る。
こんな風に。とても容易く。
「なぁ?似非ヒーロー」
「!?!?!?!?」
一歩、二歩、三歩。足を踏み締める度に加速する。
加速する度に黒い布が風に靡き、紅い瞳は移動の軌跡に残光を焼き付け、暗闇を切り裂く。
この程度の逃走で、俺/怪人から逃げられるわけがない。
僅か三歩で、俺は男の正面に回り込んだ。
「くっ!?!?!?」
咄嗟に放たれる水球。
遅い、何もかもが遅すぎる。
水球が到達するよりも早く、俺の拳を男の腹部に叩き込む。
「かっ……!?」
貫く衝撃が男の体を宙に浮かせ、肺の空気を押し出す。
痛みに異能のコントロールを失い、水球は空中でただの水に霧散する。
「ふっ!」
宙に浮き無抵抗の体に、右足を振り抜く。
今の男に防御など出来るはずもなく、無様に瓦礫の山に突っ込んで行った。
「あっ……!!ぐっ……!!」
「立てよ。まだやれるだろ」
足は動く。異能だって使える。片腕はまだ健在。思考も回せる。
全ての策を、持ちうる力を、無様な逃走を、ありとあらゆる全てを、純粋な暴力で潰す。
「あぁぁぁぁーーーー!!!!」
瓦礫に埋もれながら男が取った一手は、大量の水の噴射。
肉を削る水のレーザーではなく、俺を押し流す為の純粋な質量攻撃。
「なんだ、まだ出来るじゃん」
洪水の如く押し寄せる水流。
大量の質量に対して、俺がやる事はどこまでいっても単純だ。
ただ拳を握り、放つ。
「--無駄」
渾身の一手は、圧倒的な暴力の前に飛沫と消える。
結局、男の行為に意味はなく。
定められた終わりは覆らない。
「くそ、くそぉ…!!なんだ、なんだよお前はぁ……!!なんでこんな事に……!!」
もう地面を這って逃げる意思すらない。完全に心が折れた。
俺が近づいても、瓦礫に倒れて喚くだけ。
「悪党を利用して何が悪い!!ただの犯罪者だろ!!掃除するついでに有効活用しただけだろうが……!!」
「……」
「俺は、悪くない……!!」
「もう、黙れ」
拳を握る。
大地を砕く一撃を、男の顔面に向けて振りかぶる。
容赦なく、躊躇いもなく拳は振り下ろされた。
「 」
衝撃は大地を伝い、瓦礫を崩す。
土埃が舞う中で、鮮血は上がらない。
「--殺すものかよ」
振り下ろされた拳は、顔に当たる直前にズレて地面を叩いた。
傷は負わなかったものの、死を垣間見た男は恐怖に耐えきれずに意識を手放した。
「お前を悲劇の英雄になんてさせてやらない」
ここで殺せば、怪人にやられた悲劇のヒーローとして処理される。
そんな事、させるわけがない。
「死んで楽になんてさせるものか」
俺は倒れた男を無視して、下垣の元に歩く。
肉体を無理矢理怪人へと変えられた下垣の手元には、見覚えのある黒い端末が握られている。
「やっぱり、抜け目ないなおっさん」
ここに来て初めて、俺は怪人形態で異能を使う。
「因子解放、機械怪人アンドロボイド」
人間形態と異なり、今の俺なら身体に宿る全ての異能を制限なく120%の出力で行使できる。
俺は異能を使い、下垣の持つ端末をハッキング。端末は録音機能が稼働し続けており、コレまでの俺と男との会話が収まっていた。
録音データから男の音だけを抽出し、ネットの海に放流しながら、各方面無差別に送りつける。
「生き地獄を味わい続けろ」
これで、コイツのただの犯罪者。二度とヒーローとして日の目を浴びる事はない。
永遠に求めた結果は手に入らない。
「……さよなら、だな」
戦いは終わった。
少々派手に暴れ過ぎた。もう少しすれば異変を嗅ぎつけた警察なりヒーローなりがやってくる。
早くここを離れなければならない。
下垣を連れていきたい。だけど、男の犯罪証拠として残さなければ。
「コイツは、貰っていくよ」
仮に死体を持って行っても、俺ではまともに埋葬できない。だから、後はヒーロー達に任せよう。
俺は、形見として端末を持っていく事にした。
この端末は、戦闘員としての下垣の誇り。
せめて、誇りだけでも持って帰りたかった。
「……」
時間はとっくに夜。闇夜に紛れ、俺はこの場を後にする。
怪人の身体能力を使えば、家に帰るのに数分もかからなかった。
「ただいま」
返ってくる返事はない。
怪人形態を解除し、俺は自分の荷物をまとめる。
下垣は死んだ。いずれ身元を特定され、この場所も捜査される。
もう、ここにはいられない。
「……こんなに、広かったっけ」
小さな一室なのに、今だけはやけに広く見えた。
名残惜しい気持ちを押し殺し、俺は鞄一つに満たない荷物を持って部屋を出る。
あの男の話や、ここに残された数少ない痕跡から俺/怪人はいずれ捜索されるだろうが、この家を出てしまえば戸籍も個人情報も持たない俺を見つけられることなど不可能だ。
最悪、顔を変えてしまえばいい。
「今まで、ありがとうございました」
行ってきます、とは言えなかった。もう、ここに返ってくる事はないから。
だから、せめて最後に感謝だけは伝えて俺は家を後にする。
「……」
行く頭なく道を歩く。
夜になっても街灯が明るく外を照らし、沢山の人が俺の横を通り抜ける。
通り過ぎる人たちは、皆誰もが俺と違って目指す先があるのだと思うと、ひどく寂しい気持ちになった。
「これからどうしようか」
日常は奪われた。今の俺に、いつも通りはない。庇護はなく、この身一つで生きていかねば。
「どうしよう、かな」
思い浮かぶのは、先程の男だった。
ヒーローを語りながら、悪党を利用し利益を貪る。アレの何がヒーローだ。ただの屑じゃないか。
今は超常が溢れ混迷した事態。アイツみたいな屑は他にもいて、今ものうのうと生きているんだろう。
なら、俺だってやって良いはずだ。この身に宿る力を使えば、好き放題生きていける。やろうと思えばもう一度結社を作ることだってできる。
渦巻く力に身を委ねれば、きっと楽だろう。
「でも、俺は--」
俺には出来ない。あんな生き方はしたくない。
だって、俺はもっと素晴らしい生き方を知っているから。
『だって私、ヒーローですから』
俺は、あの背中をかっこいいと思ってしまった。どうしようもなく、憧れたのだ。
だから、だから、だから俺は--
「目指してみるか」
擬きなんかじゃない、本当のヒーローってやつを。
ヒーローになる為に何をすればいいのか分からない。けれど、目指すものが出来た。
「――見つけた」
これからどう歩もうか悩んでいた俺を呼ぶ声。
ギュッと服の袖を強く掴まれる。
「ずっと探してたんです」
可憐な声に振り返ると、端正で綺麗な顔立ちをした黒髪の少女が俺の目を見返す。
俺は、彼女を知っている。
「ようやく見つけた。私の、恩人」
燃えるホテルの中で拉致され、後一歩の所で怪人に変えられそうになっていた少女。
この日最後に起こったのは、ホテルから助け出した少女との、奇跡的な再会だった。
新たに現れた水球から、高圧力の水流が放たれる。先程よりもさらに強力。数で分散させた分を一つに集め威力を高めてある。
人の肉を骨ごと削り取る威力は確かに脅威だが、生憎とこちらの肉体は特別製。
削れる肉は無く、脅威を押し流すにはいたらない。
「何なんだよ…!!なんで俺がこんな目に……!!」
男は倒れた身体を無理矢理起こし、水を噴射しながら一歩でも遠く離れようと背を向ける。
逃げの一手。この行いが、さらなる逆鱗を踏み抜くとも知らずに。
「立ち向かって来ることすらしないのか」
目の前のこいつは何だ。
格下を痛ぶり、事件を演出し、手に持つ勝利は全て脚本通り。
ヒーローを語りながら、俺/怪人に背を向け逃げ出す。
こんなモノが、ヒーローなのか。
「あぁ、なんて、無様」
ほんの少し、一握りもない僅かな期待も尽きた。
「クソクソクソクソ!!!!」
背中を見せ逃げる男は足元に水を纏わせ、滑るように加速する。
男にとって勝利とは常に計算された先にあるモノ。戦いとは始まる前に勝っておくべきで、今日の筋書きにこんな乱入者は想定していない。
期待の新人。次期エース候補。作り上げたイメージは、結局のところ虚構に過ぎず、真に窮地に陥れば、残されるのは本質のみ。
「逃げられるわけがないだろ」
怪人の前では嘘も誇張も崩れ去る。
こんな風に。とても容易く。
「なぁ?似非ヒーロー」
「!?!?!?!?」
一歩、二歩、三歩。足を踏み締める度に加速する。
加速する度に黒い布が風に靡き、紅い瞳は移動の軌跡に残光を焼き付け、暗闇を切り裂く。
この程度の逃走で、俺/怪人から逃げられるわけがない。
僅か三歩で、俺は男の正面に回り込んだ。
「くっ!?!?!?」
咄嗟に放たれる水球。
遅い、何もかもが遅すぎる。
水球が到達するよりも早く、俺の拳を男の腹部に叩き込む。
「かっ……!?」
貫く衝撃が男の体を宙に浮かせ、肺の空気を押し出す。
痛みに異能のコントロールを失い、水球は空中でただの水に霧散する。
「ふっ!」
宙に浮き無抵抗の体に、右足を振り抜く。
今の男に防御など出来るはずもなく、無様に瓦礫の山に突っ込んで行った。
「あっ……!!ぐっ……!!」
「立てよ。まだやれるだろ」
足は動く。異能だって使える。片腕はまだ健在。思考も回せる。
全ての策を、持ちうる力を、無様な逃走を、ありとあらゆる全てを、純粋な暴力で潰す。
「あぁぁぁぁーーーー!!!!」
瓦礫に埋もれながら男が取った一手は、大量の水の噴射。
肉を削る水のレーザーではなく、俺を押し流す為の純粋な質量攻撃。
「なんだ、まだ出来るじゃん」
洪水の如く押し寄せる水流。
大量の質量に対して、俺がやる事はどこまでいっても単純だ。
ただ拳を握り、放つ。
「--無駄」
渾身の一手は、圧倒的な暴力の前に飛沫と消える。
結局、男の行為に意味はなく。
定められた終わりは覆らない。
「くそ、くそぉ…!!なんだ、なんだよお前はぁ……!!なんでこんな事に……!!」
もう地面を這って逃げる意思すらない。完全に心が折れた。
俺が近づいても、瓦礫に倒れて喚くだけ。
「悪党を利用して何が悪い!!ただの犯罪者だろ!!掃除するついでに有効活用しただけだろうが……!!」
「……」
「俺は、悪くない……!!」
「もう、黙れ」
拳を握る。
大地を砕く一撃を、男の顔面に向けて振りかぶる。
容赦なく、躊躇いもなく拳は振り下ろされた。
「 」
衝撃は大地を伝い、瓦礫を崩す。
土埃が舞う中で、鮮血は上がらない。
「--殺すものかよ」
振り下ろされた拳は、顔に当たる直前にズレて地面を叩いた。
傷は負わなかったものの、死を垣間見た男は恐怖に耐えきれずに意識を手放した。
「お前を悲劇の英雄になんてさせてやらない」
ここで殺せば、怪人にやられた悲劇のヒーローとして処理される。
そんな事、させるわけがない。
「死んで楽になんてさせるものか」
俺は倒れた男を無視して、下垣の元に歩く。
肉体を無理矢理怪人へと変えられた下垣の手元には、見覚えのある黒い端末が握られている。
「やっぱり、抜け目ないなおっさん」
ここに来て初めて、俺は怪人形態で異能を使う。
「因子解放、機械怪人アンドロボイド」
人間形態と異なり、今の俺なら身体に宿る全ての異能を制限なく120%の出力で行使できる。
俺は異能を使い、下垣の持つ端末をハッキング。端末は録音機能が稼働し続けており、コレまでの俺と男との会話が収まっていた。
録音データから男の音だけを抽出し、ネットの海に放流しながら、各方面無差別に送りつける。
「生き地獄を味わい続けろ」
これで、コイツのただの犯罪者。二度とヒーローとして日の目を浴びる事はない。
永遠に求めた結果は手に入らない。
「……さよなら、だな」
戦いは終わった。
少々派手に暴れ過ぎた。もう少しすれば異変を嗅ぎつけた警察なりヒーローなりがやってくる。
早くここを離れなければならない。
下垣を連れていきたい。だけど、男の犯罪証拠として残さなければ。
「コイツは、貰っていくよ」
仮に死体を持って行っても、俺ではまともに埋葬できない。だから、後はヒーロー達に任せよう。
俺は、形見として端末を持っていく事にした。
この端末は、戦闘員としての下垣の誇り。
せめて、誇りだけでも持って帰りたかった。
「……」
時間はとっくに夜。闇夜に紛れ、俺はこの場を後にする。
怪人の身体能力を使えば、家に帰るのに数分もかからなかった。
「ただいま」
返ってくる返事はない。
怪人形態を解除し、俺は自分の荷物をまとめる。
下垣は死んだ。いずれ身元を特定され、この場所も捜査される。
もう、ここにはいられない。
「……こんなに、広かったっけ」
小さな一室なのに、今だけはやけに広く見えた。
名残惜しい気持ちを押し殺し、俺は鞄一つに満たない荷物を持って部屋を出る。
あの男の話や、ここに残された数少ない痕跡から俺/怪人はいずれ捜索されるだろうが、この家を出てしまえば戸籍も個人情報も持たない俺を見つけられることなど不可能だ。
最悪、顔を変えてしまえばいい。
「今まで、ありがとうございました」
行ってきます、とは言えなかった。もう、ここに返ってくる事はないから。
だから、せめて最後に感謝だけは伝えて俺は家を後にする。
「……」
行く頭なく道を歩く。
夜になっても街灯が明るく外を照らし、沢山の人が俺の横を通り抜ける。
通り過ぎる人たちは、皆誰もが俺と違って目指す先があるのだと思うと、ひどく寂しい気持ちになった。
「これからどうしようか」
日常は奪われた。今の俺に、いつも通りはない。庇護はなく、この身一つで生きていかねば。
「どうしよう、かな」
思い浮かぶのは、先程の男だった。
ヒーローを語りながら、悪党を利用し利益を貪る。アレの何がヒーローだ。ただの屑じゃないか。
今は超常が溢れ混迷した事態。アイツみたいな屑は他にもいて、今ものうのうと生きているんだろう。
なら、俺だってやって良いはずだ。この身に宿る力を使えば、好き放題生きていける。やろうと思えばもう一度結社を作ることだってできる。
渦巻く力に身を委ねれば、きっと楽だろう。
「でも、俺は--」
俺には出来ない。あんな生き方はしたくない。
だって、俺はもっと素晴らしい生き方を知っているから。
『だって私、ヒーローですから』
俺は、あの背中をかっこいいと思ってしまった。どうしようもなく、憧れたのだ。
だから、だから、だから俺は--
「目指してみるか」
擬きなんかじゃない、本当のヒーローってやつを。
ヒーローになる為に何をすればいいのか分からない。けれど、目指すものが出来た。
「――見つけた」
これからどう歩もうか悩んでいた俺を呼ぶ声。
ギュッと服の袖を強く掴まれる。
「ずっと探してたんです」
可憐な声に振り返ると、端正で綺麗な顔立ちをした黒髪の少女が俺の目を見返す。
俺は、彼女を知っている。
「ようやく見つけた。私の、恩人」
燃えるホテルの中で拉致され、後一歩の所で怪人に変えられそうになっていた少女。
この日最後に起こったのは、ホテルから助け出した少女との、奇跡的な再会だった。
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