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勘違い
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勘違い
ヴェルナー様こと中身宏敏さんは青ざめてぐったりとしたまま僅かな荷物を持ちエルヴィンさんに担がれていた。
そのまま診察ベッドに横にされた。
「体が弱い青年みたいだな…。ううむ。肺の病か…。心臓も少し悪いのか」
「ヴェルナーさん…何で…」
あたしは持っていた手荷物を漁ると薬が二つ出てきた!一つはあたしの。もう一つはシャーリィさんが作ったもの。そして紙束と炭で作った鉛筆。絵を描く為のものか。推しは売れない画家にこの先成長するんだっけ。
「あんたこの人の知り合いかい?」
「えーと…まぁ…」
と答えにくそうに言うとエルヴィンさんは
「まぁ…言いにくいなら無理に聞かんよ…薬草が足りないから採ってこよう。ついでに山菜もな」
と近くの林へとエルヴィンさんは籠を持ち出かけた。その間あたしは看病した。バケツに井戸水を入れ手拭いで絞り頭に置いたり、汗をかいたら身体を拭いてやった。あらやだね。宏敏さん、いい身体。
おっといけない!邪心が。
「う…」
と呻くと宏敏さんが目を覚まして驚いた様にこちらを見た。
そしていきなり起き上がり
「アイリーン様っ!ご無事で!うっ…」
とくらりと倒れそうになるのを支えた。ひー!推しとの急接近!!
「ヴェルナーさん…あんたの方がふらふらだよ、寝てな。話はそれからだ」
とベッドに戻そうとしたら手を掴まれたじゃないか!
「アイリーン様っ!良かった!死んでない!!」
「は?」
「急にいなくなったから…自害でもしに行ったのかと!あんな手紙まで残して!」
とギュッと手に力を入れられて心配してくれたのが伝わった。
「ヴェルナーさん…すまないね。自害なんて勘違いだよ」
「えっ…?」
「ヴェルナーさんに迷惑かけるわけには行かなくてね。あたしがいちゃいずれヴェルナーさんの家にも操作が入るだろうし、消えた方がいいと思ったんだよ。別に自害する気はないけどね、ほとぼりが冷めるまで身を隠そうと思ってね」
と言うとヴェルナーさんは恥ずかしそうに手を離し
「な…なんだ…よ、良かった。僕はてっきりアイリーン様が…一人で死に場所を求めて彷徨う姿が頭に浮かんで」
「ははは!あたしがねぇ!あたしは毒殺はされても自ら死ぬ様な情けないことはしないさ!言ったろ!どうせ死ぬなら終活してからさ!
まぁ、財産もないけどさ!あ、もうあたしに様なんて付けなくてもいいよ!家からも勘当されてるんだ!と言うか娘を閉じ込めて納屋に監禁する酷い親なんて知らないよ!ああ、お母様とレビルドは別にしてやる」
と言うと
「え…納谷に?侯爵令嬢が!?今まで?……」
と驚いた様に言う。
「王子様との縁談が無くなったんだ。後ろ盾もコネも失ったからお父様が怒っても当然だろう。うちはあたしのせいで没落するかもしれないんだ。王子一つの機嫌でね。
だからあたしはもう家には戻れそうにないよ。戻る気もないがね。フロングレスト修道院に行くなんて御免さ!
わざわざ追いかけて心配してくれて悪かったね。ヴェルナーさん」
と言うと
「僕、色々と誤解してたみたいで…。僕貴方やシャーリィさんからもらった薬もゴホッまだ飲んで無くて……でも決めました。僕は…」
するとヴェルナー様があたしの薬を掴み飲み干した。
「ゴホゴホッ!!しょっ、しょっぱい!!」
と言うから背中をさする。
「大丈夫かい?ヴェルナーさん、ゆっくり飲みなよ!一気になんて!」
「す、すみません…」
赤くなり顔を手で隠すヴェルナー様!うんうん、推しはいいねぇ!中身も宏敏さんだし。
「それで…これからどうするんですか?」
「あたしかい?…そうだね、しばらくはここで世話になるよ。エルヴィンさんいい人だしね。掃除や家事を手伝ってやるって言ったんだ」
と言うとヴェルナー様がもじもじしながら
「あのぅ…僕も…ここに居てもいいですか?」
「ん?でも…ご家族が心配するよ?」
「大丈夫です。本当に薬の効果があるのか経過も見たいし、エルヴィンさん?にもお話しておきたいです」
と言うと山菜採りを終えたエルヴィンさんが帰ってきて
「兄さんも目が覚めたか!全く美女と美青年で絵になるね!」
と言われてヴェルナーさんが真っ赤になっている。若者をからかう気持ちもわかるよ。あたしもエルヴィンさんの立場なら冷やかしてただろうね。
「あの、助けていただきありがとうございました!…それでその、ご迷惑で無ければここに暫く置いてもらいたいのですが」
と言う。エルヴィンさんは
「兄さん、随分と回復したね。顔色もいい。さっきとは大違いだ。まぁいいよ、理由があるんだろ?若い恋人達の邪魔するつもりはないがわしの前でいちゃつきなさんなよ」
と釘を刺された。ヴェルナーさんは首を振り
「滅相もない!僕なんか、この方の恋人だなんて!!」
と否定したがあたしも面白くなり
「ひひひ、あたしはそうでもないけどね。ああ、ヴェルナーさんさえ良かったらいつでもなったげるよ!!」
と投げキッスまでしてみせた。ババアの投げキッスなんて嫌だろうけど今あたし若い身体だし美人だから許されるだろ。
「ほほう、面白い奴らだな!ははは二人ともとりあえずここにいるといい!」
とエルヴィンさんは笑った。
ヴェルナー様こと中身宏敏さんは青ざめてぐったりとしたまま僅かな荷物を持ちエルヴィンさんに担がれていた。
そのまま診察ベッドに横にされた。
「体が弱い青年みたいだな…。ううむ。肺の病か…。心臓も少し悪いのか」
「ヴェルナーさん…何で…」
あたしは持っていた手荷物を漁ると薬が二つ出てきた!一つはあたしの。もう一つはシャーリィさんが作ったもの。そして紙束と炭で作った鉛筆。絵を描く為のものか。推しは売れない画家にこの先成長するんだっけ。
「あんたこの人の知り合いかい?」
「えーと…まぁ…」
と答えにくそうに言うとエルヴィンさんは
「まぁ…言いにくいなら無理に聞かんよ…薬草が足りないから採ってこよう。ついでに山菜もな」
と近くの林へとエルヴィンさんは籠を持ち出かけた。その間あたしは看病した。バケツに井戸水を入れ手拭いで絞り頭に置いたり、汗をかいたら身体を拭いてやった。あらやだね。宏敏さん、いい身体。
おっといけない!邪心が。
「う…」
と呻くと宏敏さんが目を覚まして驚いた様にこちらを見た。
そしていきなり起き上がり
「アイリーン様っ!ご無事で!うっ…」
とくらりと倒れそうになるのを支えた。ひー!推しとの急接近!!
「ヴェルナーさん…あんたの方がふらふらだよ、寝てな。話はそれからだ」
とベッドに戻そうとしたら手を掴まれたじゃないか!
「アイリーン様っ!良かった!死んでない!!」
「は?」
「急にいなくなったから…自害でもしに行ったのかと!あんな手紙まで残して!」
とギュッと手に力を入れられて心配してくれたのが伝わった。
「ヴェルナーさん…すまないね。自害なんて勘違いだよ」
「えっ…?」
「ヴェルナーさんに迷惑かけるわけには行かなくてね。あたしがいちゃいずれヴェルナーさんの家にも操作が入るだろうし、消えた方がいいと思ったんだよ。別に自害する気はないけどね、ほとぼりが冷めるまで身を隠そうと思ってね」
と言うとヴェルナーさんは恥ずかしそうに手を離し
「な…なんだ…よ、良かった。僕はてっきりアイリーン様が…一人で死に場所を求めて彷徨う姿が頭に浮かんで」
「ははは!あたしがねぇ!あたしは毒殺はされても自ら死ぬ様な情けないことはしないさ!言ったろ!どうせ死ぬなら終活してからさ!
まぁ、財産もないけどさ!あ、もうあたしに様なんて付けなくてもいいよ!家からも勘当されてるんだ!と言うか娘を閉じ込めて納屋に監禁する酷い親なんて知らないよ!ああ、お母様とレビルドは別にしてやる」
と言うと
「え…納谷に?侯爵令嬢が!?今まで?……」
と驚いた様に言う。
「王子様との縁談が無くなったんだ。後ろ盾もコネも失ったからお父様が怒っても当然だろう。うちはあたしのせいで没落するかもしれないんだ。王子一つの機嫌でね。
だからあたしはもう家には戻れそうにないよ。戻る気もないがね。フロングレスト修道院に行くなんて御免さ!
わざわざ追いかけて心配してくれて悪かったね。ヴェルナーさん」
と言うと
「僕、色々と誤解してたみたいで…。僕貴方やシャーリィさんからもらった薬もゴホッまだ飲んで無くて……でも決めました。僕は…」
するとヴェルナー様があたしの薬を掴み飲み干した。
「ゴホゴホッ!!しょっ、しょっぱい!!」
と言うから背中をさする。
「大丈夫かい?ヴェルナーさん、ゆっくり飲みなよ!一気になんて!」
「す、すみません…」
赤くなり顔を手で隠すヴェルナー様!うんうん、推しはいいねぇ!中身も宏敏さんだし。
「それで…これからどうするんですか?」
「あたしかい?…そうだね、しばらくはここで世話になるよ。エルヴィンさんいい人だしね。掃除や家事を手伝ってやるって言ったんだ」
と言うとヴェルナー様がもじもじしながら
「あのぅ…僕も…ここに居てもいいですか?」
「ん?でも…ご家族が心配するよ?」
「大丈夫です。本当に薬の効果があるのか経過も見たいし、エルヴィンさん?にもお話しておきたいです」
と言うと山菜採りを終えたエルヴィンさんが帰ってきて
「兄さんも目が覚めたか!全く美女と美青年で絵になるね!」
と言われてヴェルナーさんが真っ赤になっている。若者をからかう気持ちもわかるよ。あたしもエルヴィンさんの立場なら冷やかしてただろうね。
「あの、助けていただきありがとうございました!…それでその、ご迷惑で無ければここに暫く置いてもらいたいのですが」
と言う。エルヴィンさんは
「兄さん、随分と回復したね。顔色もいい。さっきとは大違いだ。まぁいいよ、理由があるんだろ?若い恋人達の邪魔するつもりはないがわしの前でいちゃつきなさんなよ」
と釘を刺された。ヴェルナーさんは首を振り
「滅相もない!僕なんか、この方の恋人だなんて!!」
と否定したがあたしも面白くなり
「ひひひ、あたしはそうでもないけどね。ああ、ヴェルナーさんさえ良かったらいつでもなったげるよ!!」
と投げキッスまでしてみせた。ババアの投げキッスなんて嫌だろうけど今あたし若い身体だし美人だから許されるだろ。
「ほほう、面白い奴らだな!ははは二人ともとりあえずここにいるといい!」
とエルヴィンさんは笑った。
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