73歳転生悪役令嬢の終活

白黒

文字の大きさ
上 下
9 / 13

大掃除

しおりを挟む
 ヴェルナー様(宏敏)さんがあたしを心配し追いかけてきてくれたことは嬉しかったしあたしの薬を飲んでくれた。その事に感動する。

 ヴェルナー様はまず咳や肺の方が治った様でゴホゴホ言わなくなった。エルヴィンさんも不思議そうだった。

「ううむ、治っとる。不思議だな」
 と言った。

「息を吸うの苦しかったけど…普通に吸えます…」
 診察中上半身裸だからあたしはドキドキするよ。ほほ!若い身体いいねぇ!推しゲームの時は病弱設定なヴェルナー様は顔無しヒロインが押し倒してしまうというラッキーシチュがあったがね。

「まぁ、良くなったとはいえ君にはまだ体力がないから少しずつ鍛えたりすればいい」

「やだよ、エルヴィンさん!ヴェルナーさんがゴリラみたいになったらどうすんだい」

「「ゴリラ!!?」」
 しまった!この世界にゃゴリラはいないのかい!」

「何ですか、そのゴリラって?」

「あはは、やだね、あたしの想像した動物だよ!!こうムキムキで大きな体躯に毛むくじゃらでウホウホいいながら胸を叩くのさ」
 とゴリラのモノマネをしだすと二人とも爆笑した。

「お嬢さん、笑わせないでくれ」

「笑いは健康にいいんだよ!知らないのかい?」
 と言うとヴェルナー様の美しい笑顔が見えた。お腹を抱えて笑ってる。

「そんなに面白かったかい?ふふ、良かったよ。

 さて!とりあえず、一通りこの診療所を掃除しないとね!明日からとりあえず大掃除だよ!家具の裏にも埃がありそうだね」

「僕も手伝います!」
 とヴェルナー様も、やる気を出していた。

 *
 それから次の日は大掃除で家具の移動やらブラシでゴミを吐いた後水を流してゴシゴシとブラシで擦りカビ臭い窓を開けて新鮮な空気を入れた。エルヴィンさんとヴェルナー様は大きな薬棚を運んだり、ベッドなんかを運んだりした。汗だくで。

 床を乾かす間は洗濯をしたり洗い物をして時間を潰す。途中でランチタイム。軽いサンドイッチみたいなものを作って出した。宏敏さんも若りし頃はあたしのサンドイッチを上手いと食べてくれたっけね。初めてのデートに張り切ってサンドイッチを作って行ったんだ。

 懐かしい光景を思い浮かべていたが、知らない野菜達だが味が似ている、知っているものと組み合わせて作った。
 卵はやはり何の鳥のかわからないが聞くわけにもいかない…。

 ヴェルナー様がキッチンに来て

「手伝いましょうか?」
 と言った。

「お皿だけ並べてくれると助かるよ!」
 と言って笑うとヴェルナー様が

「あ、はい!」
 と慌てて洗い立てのお皿を取りに行ってあたふたしてしまったのか一枚割っちまった!

「ぎゃっ!ごごご!ごめんなさい!!」
 と謝る。
 あたしは素早く手を取り

「そんなこといいよ!それより怪我しなかったかい?傷になってないかい!?」
 とジッと手をジロジロ見る。
 推しの手に傷でもついてばい菌が入ったら大変だよ!!

 どこも怪我してなくて良かったとホッとしてヴェルナー様の顔を見ると真っ赤じゃないか!まさか!熱があるのかい!?

「ヴェルナーさん!あんた真っ赤だよ!こりゃ大変だ!外に運んだベッドを木陰に寄せて休んどくれ!」
 と言うとヴェルナー様が

「え…これは…違…」
 とか言っていたが引っ張って連れて行く。何故か薬瓶を磨いていたエルヴィンさんはニヤニヤとしていた。

 ベッドは木陰に移動してあった。

「さあ、横になんな!無理しちゃダメだよ!!」

「いやあの!違くて!えっとぉぉ!」

「ほら熱が上がるよ!!安静にしな!!今、水持ってくるよ!!」
 とあたしは井戸に走った。

「あ、ああの!あ、アイリーン…さささん!」
 と声がしたが気にせず井戸へ行き水を汲み木のコップに注ぐ。
 この世界ではガラスは高級品だからね。窓だって庶民の家にはほとんどない。ただの木をまどにしている。

 急いで戻るとちゃんと寝転んで頭から被っていた。窒息しちまうよ。

「ヴェルナーさん、ほら」
 と差し出すとようやく真っ赤な顔を出して受け取った。

「ど、どうも…」
 ごくこくと飲んでいる。
 飲んだコップを受け取りにっこりするとまた赤くなる。

「ほらとりあえず眠っておきな!」

「いや、家具を運ばないと!」

「そんな身体で何言ってんだい!後はあたしがやるよ!」

「一人では無理です!エルヴィンさんと腰が痛いと言っていたし!ぼ、僕なら少しやすめば頑張れますから!」
 と何故か必死だ。

「仕方ないね。軽いものを運ぶんだよ」

「ええ?だ、大丈夫ですよ。そんなアイリーンさ、さささんこそ軽い物を!」
 と言い合ってるとエルヴィンさんが横から入り

「なら二人で運べ」
 といい、荷物をドカっと置いた!

「エルヴィンさん…」
 こうしてあたしとヴェルナー様が一緒に荷物を運ぶことにした。木箱を二人で挟み持ち中々綺麗な顔が近くにあるとドキドキするね。ヴェルナーさんはまだ顔が赤く時折目線を逸らした。

「大丈夫かい?寝ていなくて?」

「大丈夫です!!」
 とキッパリ言いあたし達は家の中に荷物を往復して入れた。ベッドは三人がかりで入れる。


 *
 荷物を運び入れ、家具の配置も少し変え新しい綺麗なミルケ診療所ができた!
 皆でミルクで乾杯をする!

「綺麗になったな!信じられない!妻がいた時みたいだ!」
 としんみりエルヴィンさんが言う。

「アイリーンさんがここまで掃除できるなんて驚きました。こうしゃ…むぐ!」
 思わず侯爵家と言いそうになるヴェルナー様の方を手で隠した。
 おっとまた赤くなってる窒息したら大変だ。と手を離すとエルヴィンさんはその光景をニヤニヤして見ていた。

「なんだい?」

「いや別に!若い二人に幸福あれ」
 と祈られた。
しおりを挟む

処理中です...