【完結】まずは結婚からで。〜出会って0日、夫夫はじめました〜

小門内田

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第一章

day.19

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大学まで送ってもらったはいいものの、内容が内容なだけに、昨日の話を浩二にできる筈もなく、悶々と1日を過ごすことになった。

帰る頃、またアイツと鉢合わせするんじゃないかという恐怖が襲ってきて、きょろきょろと挙動不審になりながら校門を出ようとする。
すると、不審な動きをする人影を見つけ、バッと近くの物陰に隠れた。
気付かれないように、そろっと確認すると、それは、見知った人物が、うろうろと徘徊している影だった。

「周さん!?」

驚いて、思わず声を上げると、周さんはこちらに気付いたようだ。
くるっと振り返り、俺を認識すると、ぱっと顔を明るくして、こちらに近づいてきた。

「これはこれは、奥サマ!奇遇ですネ!もしや、ここは奥サマの通われる大学ですカ?」

「そうだけど、こんなところで会うなんて、珍しいですね。」

俺的には、冬悟の秘書であるこの人が、会社から離れたこんなところにいることの方が、奇遇過ぎだと思う。

「この辺に少し用事がありましテ。つかぬことをお聞きしますが、この辺の土地勘って、あったりされまス?」

「うん。一応、周辺のことならわかるけど、どうかしたんですか?」

すると、周さんは手に持っていたスマホを差し出し、俺に地図アプリを見せてきた。

「ここに行きたいのですが、どうやら迷ってしまったようでしテ……。」

入力されていた目的地は、最近新しくできた大型商業施設だった。

もしかして、この人、ナビを使っても迷うレベルの方向音痴なのだろうか?

天才で完璧な周さんのイメージが、がらがらと崩れていく。

「あ、ここなら俺、わかりますよ!一緒に行きましょうか?」

そう提案すると、スッと実に見事で綺麗な90度のお辞儀を、深々とされてしまった。

えっ!?な、何だ!?

「あぁ!奥サマ!何とお優しいんでしょウ!是非とも、よろしくお願いいたしまス!」

あまりにも美し過ぎるそのお辞儀に、何かトラブルがあったのかと周囲の視線が集まり、ざわざわと人が集まってきた。

「しゅ、周さん!頭を上げて!早く行きますよ!」

謝罪させていると思われていることに気が付いた俺は、周さんの腕をぐいっと引っ張り、逃げるようにその場から立ち去った。





「いや~、アプリのナビは当てになりませんネ。無事にお使いができて、よかったでス。助かりましタ。」

両手に袋を提げた周さんは、安堵の表情を浮かべ、ホクホクとしていた。
その様子を見て、クスッと笑う。

「でも、意外でした。周さんが地図を読むのが苦手なんて。何でもできそうなのに。」

この施設まで送ったら、本当はここで別れて帰るつもりだった。
だが、施設内が思った以上に広く、周さんがまた変な動きをし始めたので、心配になって、最後まで付き合ったのだ。

「そんなことありませんヨ。実際に、地図は読めませんしネ。それに、熱い物を食べるのも苦手でス。」

「猫舌なんだ。」

失礼かもしれないけれど、可愛いと思ってしまい、フフッと笑ってしまう。
だが、周さんはそんなこと、全く気にしていないようだった。

「ところで、奥サマ。お帰りは電車ですカ?」

「そうだけど?」

今度は何だろうと、小首を傾げる。
すると、周さんは顔を輝かせ、ぱっと俺の手を取った。

「でしたら、お家までお送りさせていただきますヨ!私も電車ですのデ!」

「えっ?」

送ってもらうことよりも、別のことに驚いてしまった。

大企業の社長秘書が、車ではなく、電車移動だと!?
そんなことってあるのか!?

驚愕の表情を浮かべている俺の心の中を、周さんはどうやら察したようで、アハハと笑った。

「秘書といえども、私はしがないサラリーマンですのデ。出勤も、奥サマと同じように電車で移動しておりますヨ!」

「そうなんだ。」

超ハイスペックな冬悟に比べて、周さんは俺達と同様、普通の人なのかもしれない。
そう思ったら、もの凄く親近感が湧いてきた。

ただ、若干人よりも圧が強めなので、最寄り駅まででいいですとは、断れない。

「じゃあ……お願いします。」

「では、参りましょうカ!」

帰りの道中は、普段の会社での冬悟の様子を、面白おかしく聞かせてもらい、楽しかった。
2人で電車に乗っていると、突然、周さんのスマホがブーッと震えた。

「大丈夫ですか?」

「会社からではないので、大丈夫でス。防犯メールでしタ。私、こう見えても、小学生になる娘がいるものでしテ。何かあれば、流れてくるんでス。」

ほらと見せてくれたその情報に、思わず、あっ!と声を上げてしまった。

そこには、昨日の男が、別のわいせつ容疑で逮捕されたとの記載があった。
それ以外にも、俺の“客”であった人物が、全員何らかの罪で逮捕されていた。 

えっ、全員!?
嘘だろ!!??
ど、どういうことだ!?

思わず、その画面を2度見どころか、5度見してしまった。

「どうかされましたカ?」

「い、いえ、何も……。」

驚き過ぎて、今も心臓がバクバクしている。
だけど、もうあの男と鉢合わせになることはないのだと思うと、心の底から安心した。

本当に家の前まで送ってくれた周さんは、帰り間際に、自身の名刺を渡してくれた。

「もし、困ったこととかありましたら、お気軽に連絡してくださいネ!」

そう笑顔で伝え、俺がエントランスに入っていくまで、見送ってくれていた。

「……奥サマの気晴らしとご自宅までのお届け、メールが来たら見せろ、でしたネ。さて、社長からの任務は、これにて完了でス。まったく、心配なら、ご自身で全てされたらいいのニ。」

呆れながらも、口元を緩めた周さんが、近くに停めていた車に乗り込み、会社に戻っていったことなんて、俺は知らない。
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