【完結】まずは結婚からで。〜出会って0日、夫夫はじめました〜

小門内田

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第ニ章

day.29

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結局、誰かもう1人を探す羽目になってしまった俺は、途方に暮れながら、トボトボと自宅の最寄り駅周辺を歩いていた。
そもそも、女子で、しかも冬悟とも知り合いでっていったら、1人しか思い浮かばない。
ただ、連絡先も知らなければ、もちろん、住所も知らない。
ってか、立場上、どの面下げて会えばいいのかもわからない相手を、誘えるはずがない。

「はあ~ぁ。何でこんなことに…。」

がっくりと項垂れていた顔をふと上げると、視界の端に、見知った人物が飛び込んできた。
ま、まさか!?

「さ、小百合さん!?」

「あら、純也さん、ごきげんよう。お久しぶりですわ。」

偶然だとは思うが、まさかこのタイミングで会うなんて。
小百合さんは、自身の車に乗り込もうとしていたところだったようだ。

とりあえず、気乗りはしないが、当たって砕けとこ。
誘った既成事実を作ってさえおけば、最悪浩二も3人で諦めるだろうし。

だけど、やっぱりまだ小百合さんと話すのは、緊張してしまう。
あまり近づき過ぎないようにしながら、なんとかいい感じに誘える会話を考える。

「あ、うん、久しぶり。あのさ、小百合さん。突然なんだけど、ネズミーランドとかって、好き?」

しかし、俺の脳みそでは、気の利いた話題なんて思い付かなかった。
ド直球で聞いてしまい、小百合は何事かと不思議そうにしている。

「えぇ、好きですけど……?」

これ、次の言葉を発して大丈夫なのだろうか。
ゴクッと息を呑んでから、えぇい!と無理やり本題に入った。

「あのさ、もし、よかったらなんだけど、俺と冬悟と俺の友達と一緒に行かない?」

「フフッ。まぁ、純也さんったら。私をお誘いになられるなんて、いい度胸ですこと。」

ニコッと顔は微笑んでいるのに、その少し低くなった声に、身体がガタガタと震え出す。
恐すぎて、視線を合わせられず、あっちこっちに泳がせる。

「ご、ご、ごめんなさい。でも、あの、そのぉ…。」

「冗談ですわ。何か理由がおありなのでしょう?お聞かせくださる?」

ひどく狼狽えた俺を見て、小百合さんはクスクスと笑った。
その怒ってなさそうな様子に、ほっと胸を撫で下ろす。

「うん。それが、かくかくしかじかで」

マジで、何でこんなことになっているんだろう。
元婚約者に、相手を横取りした今妻が相談とか、完全に頭おかしいだろ。
だけど、上手い嘘も思いつかなくて、今までの経緯をありのまま話した。
ただ、話している間中ずっと、変な汗が止まらなかったのは、言うまでもない。

「…なるほど。お話よくわかりましたわ。」

最後まで何も言わず聞いてくれた小百合さんは、俺が話し終えると、そっと頷いた。

「でも、やっぱり、嫌ですよね。俺らと行くなんて。」

「嫌ですわね。」

ズバッと真顔で、かつド正面から断られた俺は、思わず心にダメージをくらい、うっとよろめく。

「ですよね~。ごめんなさい…。」

やっぱり無理じゃん!と心の中で泣いていると、クスクスと楽しそうな笑い声が聞こえてきて、ちらっと小百合さんの方を見る。

「冗談ですわ。ご一緒しても構いませんわよ。」

「えっ!?本当に!!??」

まさか本当に来てくれるなんて、思ってもみなかった。
驚いている俺に、但し、と付け加えられる。

「勘違いなさらないでくださいね。これは、この前の非礼のお詫びですから。」

「は、はぁ~い。」

最後にしっかりと釘を刺されてしまった。
だけど、来てくれるだけでもありがたい。

しかし、大きな問題は残ったままだ。

「あの、誘っておいてなんですが、冬悟が来てくれるかどうかは、まだわからないです。あんまり行きたくないみたいなんで。」

申し訳なさそうにそう言うと、小百合さんは驚いたような顔をした。

「あら?本当にそう思ってらっしゃるの?」

「えっ?」

間抜けな声を出してしまい、クスッと悪戯に笑われる。

「純也さんもまだまだですわね。」

「?」

「そのうちきっと、おわかりになられますわ。」

そう言った小百合さんは、それ以上を教えてくれることはなく、ただ優しくニコッと微笑んだ。




小百合さんも無事に誘えたし、残すは冬悟だけとなった。
浩二も小百合さんも、当然冬悟は来るみたいに思っているが、冬悟は本当に行きたくないのかもしれない。
もし来ないなら、2人に謝って、3人で行こうなどと考えていると、カチャと玄関の扉が開いた。
昨日の今日のため、遠巻きに顔をそっと覗かせる。

「おかえり、冬悟。」

「…あぁ。」

返事はしてくれる。
だけど、やっぱり気まずい。
この感じだと、答えは昨日と同じなんじゃないかと思い、話をなかなか切り出せない。

「純也。」

俯いていると、突然名前を呼ばれ、ぱっと顔を上げる。
すると、何やら紙袋を押し付けられた。

何だろうと中身を見ると、それは以前、俺が冬悟と買い物をしていた時に、食べたいと思って見ていた、お高いフルーツタルトだった。
その時も、欲しいのかと聞かれたが、買ってもらってばかりも悪いと思い、断ったものだった。

思わず、冬悟の顔を見る。

「えっ?これ…。」

「…昨日は悪かった。浩二クンと行くのが、お前が楽しめる最善だと思ったんだが、どうやら、お前の気持ちを踏み躙ってしまっていたようだ。」

伏せられた瞳にかかる長い睫毛が、僅かに揺れる。

冬悟のその申し訳なさそうにしている表情と、いつも俺のことをちゃんと見ててくれていたこと、そして、俺が欲しがっていたものをずっと覚えていてくれたことに、キュンと胸がときめき、じわっと心が温かくなっていく。

こんなことされたら、許さないヤツなんていない。

「俺もごめん。でも、俺の気持ちをわかってもらえなくて、悲しかった。」

紙袋を机に置いて、そっと手を伸ばし、冬悟の首に腕を回す。

「俺は浩二じゃなくて、“冬悟と”楽しいを共有してぇの。俺らはああいうテーマパークは初めて同士かもしれねぇけど、冬悟と一緒なら、俺は何でも楽しめる自信しかねぇよ?だから、一緒に行こ?お願い。」

ぎゅっとそのまましがみつくと、優しく抱き締め返してくれた。

「…わかった。」

「やった!嬉しい!!」

へへっと笑い、じっと冬悟を見つめる。
そして、そっと顔を近づけ、唇が触れようとする寸前で、ピタッと動きを止めた。
こんな時に限って、すごく大事なことを思い出してしまったのだ。

「あのさ、言い忘れてたんだけど、その、4人で行くことになったから。俺と冬悟と、浩二と、それに小百合さんの…。」

「おい、どうして1日も経たない内にそんなに人数が増えているんだ?…それはいいとして、どうして小百合さんが来ることになっている?」

さっきの甘い雰囲気はどこへやら、途端に不機嫌そうにピクッと眉を顰められる。
そして、しがみついている俺を、冬悟はべりっと剥がした。

冬悟とキスできるチャンスなんて、滅多にねぇから、さっさとキスしておけばよかったと後悔したが、もう遅い。

「え~っと、その、かくかくしかじかで…」

事の経緯を説明すると、はあぁっと長い溜息を吐かれ、頭を抱えられた。

「…わかった。もういい、好きにしろ。」

「勝手に決めて、ごめん。でも、俺、冬悟と行きたいのは、本当で…!」

やっぱり行かないと言われるんじゃないかと不安になり、必死に引き留めようとする俺の頬に、そっと大きな手が触れる。

「…別に悪いとは言っていない。それに、だから行かないとも言わんから、そんな顔をするな。」

その言葉にほっとして、コクッと頷くと、その手はゆっくりと離れていった。

「後はお前達で適当に決めろ。」

それだけを言い残して、冬悟はスタスタと俺から離れていった。

やった!!
冬悟と一緒に行けるの、すっげぇ嬉しい!
こうなったら、絶対に冬悟を楽しませてみせるからな!

そう気合いを入れ、わくわくしながら指折り数えて、その日を待ち焦がれた。
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