気まぐれな七夕と少女

たもたも

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ふわふわなベッドと財布

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 お腹がいっぱいになって満足げな笹葉は、ようやく言うことを聞いてくれるようになった。これ以上どこか変なところへ行かないように手をつなぎ、エレベーターに乗って布団売り場のある二階に向かった。

「あーっと、布団売り場は……あったあった」

 エレベーターを降りたすぐのところにあった二階のマップで、布団売り場の位置を確認。フロアのかなり奥の方で、女性下着売り場の手前だ。二人は道なりに沿って布団売り場を目指す。子供向けの店は三階に集中しているので、笹葉はかなり大人しめだ。特に会話もなく、二人は目的地に到着した。

「ベッドがありますよ!」
「そうだな……っておい」

 着いて早々、笹葉はベッドに興味津々だ。天斗との手つなぎをほどき、靴を脱いでお試しができる展示用のベッドにダイブした。

「ふかふかでふわふわです~。もうこれにしましょうよ!」
「無理だ。置き場所がない」

 手狭なワンルームの天斗の部屋に、ベッドなど置けるスペースはない。それに、チラリと見えたベッドの値段は四万五千円。天斗の財布もふわふわと浮かんでしまうくらいに軽くなるお値段だ。

 天斗は笹葉をほったらかして布団コーナーへ足を進めた。目につく位置にあるものは、聞き馴染みのない鳥の羽を使った高級品ばかり。天斗はそれらには目もくれず、売り場奥の安い布団が売られているところで足を止めた。

「ふむ……これでいいか」

 手に取ったのは三千円の無地の布団。商品ポップには通気性や伸縮性などが良いと書いてはあるが、天斗の決め手は完全に値段だった。

 買い物であれこれ悩むのは性に合わないので、同価格帯の商品と比較することもなく、その布団の箱を脇に抱える。

 布団屋に到着して購入商品決定までたったの三十秒。天斗は笹葉を回収するため、ベッドコーナーへ向かおうとした。

 その時、一つの商品が目に入った。

「……」

 それは、親子用の寝具三点セット。マットレス、布団、枕がついており、マットレスと布団は既定のサイズよりも一回り大きく、枕は大きい枕と小さい枕がついている。値段は六千五百円。

「…………」
 
 天斗はその商品の前で立ち尽くしていた。いつもの調子なら、たった一週間の付き合いの笹葉のことを考慮して家具を揃えるなど論外だと言い切るだろう。コスパが悪いし、一週間後には邪魔にしかならない。しかし、天斗は今考えている。なぜ、立ち止まってしまったのか。なぜ、素通りしなかったのか。なぜ、「こっちのほうがいいな」と思ってしまったのか――――。







「あのベッドふかふかでしたね~」
「俺は触ってないから知らん」
「寝っ転がればよかったじゃないですか」
「誰が触ったか分からないものは極力使いたくない」
「へ~」

 天斗の軽い潔癖症ぶりを笹葉は軽く受け流す。天斗の愛想の悪さはいつでもフルスロットルだ。現在、二人は会計を済ませ、エレベーターに向かっている。二階は生活雑貨の店がほとんどなので、特に寄り道もない。

 天斗は六千五百円の大きな家具を両手で抱えながら、笹葉の少し前を歩いていた。
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