春よ来い

mero.

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彼女の過去

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 彼女はいつも独りだ。ベッドに横になり、吸い込まれていくように一つ、また一つと落ちていく雪を見ている。
ここ1ヶ月、彼女には見舞いが来ていない。親が来てもおかしくないはずなのに。ふいに扉が開いた。
「優ー!元気だった?」
「大きな声出さないでよ。ここは病院だよ?」
「ごめんごめん。」
頭を搔く姉に少し呆れた。
「何で来たの?」
「なんでって酷い!見舞いに決まってるじゃん!」
「昨日も来たじゃん。たかが骨折だから、そんなに心配しないで。」
「うぅ…。」
姉は悲しそうな顔をして涙目になっていた。それを見て僕は、また姉に呆れた。それからしばらくして姉は帰った。姉は僕のことをとても可愛がり、くっついてくる。ホントひっつき虫みたいに。でも、たまに姉の存在をありがたく感じることがある。それは、僕が辛い時だ。僕が辛い時、姉はそれを感じ取って、僕をそっとしておいてくれる。いつもは姉から話しかけてくるくせに、その時だけは、僕に何も話しかけない。僕は、それは姉なりの優しさなんだと思う。
「さっきの、誰ですか?」
ふいにか細い声が聞こえた。壊れてしまいそうなくらいに、儚い声が。声のした方に視線を送ると、そこには彼女がいた。相変わらず外の景色を眺めながらだけど、確かに彼女の方から声がした。
「姉だよ。」
「お姉ちゃんかぁ。いいですね。」
「兄弟いないの?」
「はい。だから、優しいお姉ちゃんが欲しいです。」
「僕の姉はブラコンだけどね。」
僕がそう言うと、彼女は笑った。初めて笑った。本当に気持ちよさそうに笑ったんだ。無邪気な笑い声だった。
「名前、なんて言うの?」
「小林 真冬。真冬って呼んでください。」
「真冬なんて可愛らしい名前だね。」
「そんなことないです…。あなたは?」
「僕は星空 優。優って呼んで。それで、真冬はなんでずっと敬語なの?タメ口でいいよ。僕もタメ口だし。」
「敬語でしたか?ごめんなさい…。」 
「え、謝る必要ないよ。」
「私、敬語が癖で。タメ口は無理そうなので、これからも敬語でもいいですか?」
僕は、あまりにも変な質問だったので、つい笑ってしまった。
「別にいいけどさ、タメ口でも全然いいからね?気が向いたら、タメ口で話してほしいな。」
「はい。分かりました。」
それで僕は、彼女にずっと気になっていたことを言ってみた。
「そういえば、僕には家族や親戚の人が見舞いにくるけど、真冬には来ないね。寂しくないの?」
すると、彼女は外の景色から視線を外して俯いた。彼女は重たい口をゆっくりと開いた。
「…私には、いないので…。」 
いないって…?彼女はそう言ったあと、もう何も話さなくなった。
                ※                    ※                    ※                  ※
 「うんぎゃぁぁぁぁーーーーーーーー」
「泣かないで…」
「うんぎゃぁぁぁぁーーーーーーーーーー」
「もう泣かないで…お願い…」
「わぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁー」 
「お願い…」
私の両親は、もう精神的に限界だった。毎日夜泣きする私は両親にとって、とても迷惑な存在だった。私は両親をたくさん困らせた。私の家庭はとても貧乏だったから、毎日朝早くから夜遅くまで、お母さんはパートにお父さんは会社に行っていた。そこら中にカップ麺やペットボトルのゴミが散らかっていた。二人はまともなご飯を食べてなくて、だんだん体がボロボロになっていった。なのに赤ちゃんだった私は毎日泣いてご飯も食べようとしなくて両親を困らせた。二人はもう、限界だった。
 ある日、一緒に住んでいたおじいちゃんとおばあちゃんが老人会に行っていた。その間に、両親は地獄のような日々から抜け出したくて首を吊って自殺した。この話をあとからおばあちゃんに聞いた。両親は私のいる毎日が嫌になったんだと思う。私が生まれてきたせいで両親は自殺した。私が生まれて来なければ、両親は死ななかった。
                ※                   ※                   ※                  ※
 「私は、いらないんです。」
ふいに彼女が口を開いた。
「生まれてきてよかったと思ったことがなくて…。ずっと先の見えない暗いトンネルを歩いてるような気持ちで毎日を生きてました。私の両親は、私が小さい頃に他界して、今は里親さんと暮らしています。」
すきま風が吹いたみたいだった。
「その里親さんも、私のことが嫌いみたいなんです。毎日殴られて蹴られます。」
彼女は少し悲しそうな顔をしていた。
「私は、愛想が悪いみたいです。頭も悪いみたいです。身体もボロボロで、『出来の悪い子供』らしいです。」
震えた声で続ける。
「私は、死んだ方がいいらしいです。」
僕は話す言葉が思いつかなかった。何を言っても、彼女に届きそうな気がしなくて。…外が妙に静かだった。
 
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