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第3章
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田所が夕方にお掃除の人が来るのでそのままで良いと言ったが、それなら尚のことシーツが乱れたままというわけにもいかず、真理亜はなんとか見られるようにシーツを整え枕をぽんぽんと叩いて膨らませた。
ゲストルームから使ったタオルをとってきて洗濯機に放りこむ。
田所がこのタワーマンションを購入したこと、お掃除はご実家から週に数回お手伝いさんがやってくることなどを聞いたので真理亜はそれ以上のことはしなかった。
どうりでショールームみたいにどこもかしこも綺麗なはずだ。
「気が済んだか?」
「はい。お待たせしました」
化粧直しの道具はいつもバッグに入っているので、簡単にお化粧をすませた真理亜はバッグと上着を手に持って田所にお礼を言った。
「ほんとうに有難うございました。お借りしているTシャツは後日お返ししますので」
「ああ、わかった。特に返却は不要だが、君はそうは思わないだろうな」
「はい。妹さんのでしょ?無断で借用してるだけでも心苦しいのに、いただくわけにはいきません」
「会社には持ってくるなよ?」
「はい、了解です」
田所のからかうような口調に真理亜はおどけるように答え、二人は顔を見合わせて笑った。
「あの、私、滅多なことでは田所さんのお立場を言いふらしたりしませんから」
やがて笑いが収まると真理亜は田所に約束した。
「ああ、そうしてくれると助かる」
真理亜は心得ましたというようにひとつ頷いた。
「別に秘密ではないのだが、あまり大きな声でも言いたくない」
「そうでしょうね。女子社員の噂の餌食になりますよ、この情報は」
真理亜がどうしてこんな高級マンションに住めるのかと質問したら、買うだけの資金があったからだと田所は答えた。
そして会社のオーナー一族であることも。
田所が30歳代で人事部の課長になった理由も納得がいく。
そう遠くない時期に役員となっていくのだろう。
「さ、準備はいいか?」
「はい」
真理亜が頷いても田所は動かずにじっと真理亜を見ている。
「あの、お玄関はどちらですか?」
田所は目を瞠ってから笑い始めた。
「だって、どこから来たのか全然記憶がないんですよ」
ようやく動き出した田所の後ろを「田所さん、笑いすぎです。こんなに笑い上戸だって知りませんでした」と、真理亜はブツブツ呟きながらついて行った。
リビングの突き当たりのドアをあけると玄関ホールになっていた。
広い大理石の床に真理亜の靴が揃えられている。
深夜に大きな田所が屈んで小さな靴を揃えている姿を想像して微笑んでしまった真理亜に、
「何ニヤニヤしている?」と田所が聞いた。
「いえ、なんでも・・・」
「可笑しなヤツだな、まったく」
そういう田所も目尻に笑い皺がまだ残っている。
無愛想で怖い人かと思ったら今日はたくさん笑っていると真理亜はほっとしていた。
「あ、Tシャツをお返しするために連絡先を教えていただいていいですか?」
真理亜が慌ててバッグから携帯を取り出すと、メール着信のランプがついていた。
ゲストルームから使ったタオルをとってきて洗濯機に放りこむ。
田所がこのタワーマンションを購入したこと、お掃除はご実家から週に数回お手伝いさんがやってくることなどを聞いたので真理亜はそれ以上のことはしなかった。
どうりでショールームみたいにどこもかしこも綺麗なはずだ。
「気が済んだか?」
「はい。お待たせしました」
化粧直しの道具はいつもバッグに入っているので、簡単にお化粧をすませた真理亜はバッグと上着を手に持って田所にお礼を言った。
「ほんとうに有難うございました。お借りしているTシャツは後日お返ししますので」
「ああ、わかった。特に返却は不要だが、君はそうは思わないだろうな」
「はい。妹さんのでしょ?無断で借用してるだけでも心苦しいのに、いただくわけにはいきません」
「会社には持ってくるなよ?」
「はい、了解です」
田所のからかうような口調に真理亜はおどけるように答え、二人は顔を見合わせて笑った。
「あの、私、滅多なことでは田所さんのお立場を言いふらしたりしませんから」
やがて笑いが収まると真理亜は田所に約束した。
「ああ、そうしてくれると助かる」
真理亜は心得ましたというようにひとつ頷いた。
「別に秘密ではないのだが、あまり大きな声でも言いたくない」
「そうでしょうね。女子社員の噂の餌食になりますよ、この情報は」
真理亜がどうしてこんな高級マンションに住めるのかと質問したら、買うだけの資金があったからだと田所は答えた。
そして会社のオーナー一族であることも。
田所が30歳代で人事部の課長になった理由も納得がいく。
そう遠くない時期に役員となっていくのだろう。
「さ、準備はいいか?」
「はい」
真理亜が頷いても田所は動かずにじっと真理亜を見ている。
「あの、お玄関はどちらですか?」
田所は目を瞠ってから笑い始めた。
「だって、どこから来たのか全然記憶がないんですよ」
ようやく動き出した田所の後ろを「田所さん、笑いすぎです。こんなに笑い上戸だって知りませんでした」と、真理亜はブツブツ呟きながらついて行った。
リビングの突き当たりのドアをあけると玄関ホールになっていた。
広い大理石の床に真理亜の靴が揃えられている。
深夜に大きな田所が屈んで小さな靴を揃えている姿を想像して微笑んでしまった真理亜に、
「何ニヤニヤしている?」と田所が聞いた。
「いえ、なんでも・・・」
「可笑しなヤツだな、まったく」
そういう田所も目尻に笑い皺がまだ残っている。
無愛想で怖い人かと思ったら今日はたくさん笑っていると真理亜はほっとしていた。
「あ、Tシャツをお返しするために連絡先を教えていただいていいですか?」
真理亜が慌ててバッグから携帯を取り出すと、メール着信のランプがついていた。
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