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第一章
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まだ時折肌寒いものの、もうテレビでは桜前線の情報が聞こえている。
現在はすでに47歳になりめっきり体力の衰えを感じる琢磨。
子供の頃はガキ大将で中学時代は不良少年。なんとか大学だけは卒業し、田舎に帰って親の家業を継いでいる。
自分で建てた家もある。妻や子供にも不自由はさせていない。荒くれだが気心の知れた従業員も居る。頭の痛いことがあるとすれば最近別れたはずの女が電話をかけてくるか、不景気を理由に支払いを渋るクライアントが時々居るくらいだ。
今朝の琢磨は機嫌が悪かった。
というのも、嫁が新しい服を買うということで朝食中ずっとうるさかったのだ。
好きなものを買えと言ってはいるが迷うのが女の楽しみということで、季節ごとに毎回同じような話を聞いている。
朝食が終わる頃ようやく、今度東京に行く長女と一緒に上京して住まいの準備と買い物をすればいいと言うことで一件落着した。
嫁にした女は小柄でくるくるとした目がかわいい女の子だったと思い出すと微笑まずにいられないが、
今は3人の子供を産み育て、しっかりと肝っ玉母さんだ。体系も少しぽっちゃりしてきた。
長女はこの春から東京の大学に行く。
長男は大学受験に突入するし、次女は今年入る高校に困るくらいにデキが悪い。
実際に、ツテを探して頼むこみようやく高校に入れたのだ。
逃げるように事務所に来てお茶を飲んでいると、「社長、山野コーヒーの店長さんがお見えです」と事務員が内線で知らせてきた。
中学でクラスメイトだった山野正吾は、一度もこの街を出ることなく地元で喫茶店を始めた。自家焙煎という触れ込みのコーヒー豆が美味しいからと事務員が定期的に注文しているようである。
取り立てて仲がよかったこともなかったが、クラスメイトのよしみだと正吾がいつも言うので、従業員達は社長の友達の店としてよく利用しているようだった。
電話で注文すると正吾は手の空いた時間にコーヒー豆を届けにくる。
いつもは事務員に渡して琢磨には会わずに帰るのだが、めずらしくこともあるものだ。
「通してくれ」と琢磨が言うと、「どうも、どうも!」と相変わらずの惚けた口調で正吾がドアを開けた。
「いつもご注文ありがとうございます」と言うので、「いやいや、いつも届けてもらって悪いな」と一応社交辞令を言う。
「今日は何か?」と促すと、「え~っと、同じクラスだったカンナって覚えてるだろう?」と言った。
「結構お前とは喋ってたような気がするけど?」と言う。
カンナといえばあのカンナしかいないだろうなと、目を細めながらおぼろげな記憶をたどってみる。
「小野寺カンナだよ」と正吾が言った。
「あぁ、小野寺な。20年以上も前のことだぞ、ちょっと待て。顔ははっきり思い出せない」
「そうか?結構印象の強い子だったけどなぁ」
「お前達はよく一緒に遊んでたんじゃないか?」
「あぁ、カンナと麻里子が仲良かったからなぁ」と言う。
正吾はその当時同じクラスの麻里子と付き合っていたのだ。
「なんとなく思い出したわ。はっきりとじゃないけど」と正吾が言うと、
「昨日ふらりと店にやってきて、お前のこと聞いてきた」
「ふ~ん」
「何でも仕事の相談をしたいらしい」
「へ?仕事かぁ?引っ越してきたんかな」
「あいつさ、長いことここ離れてたから、お前がカンナのこと覚えてるかどうかわからんと心配してた。一応俺から話してみてくれって言うんだわ」
「直接電話くれればいいのに」
「うん。それでも最初は電話かけ難いんだと」
「そうなんか」
「話聞いてくれるようだったら、2~3日のうちに電話するってさ」
「わかった」
「あのさ、カンナ、離婚して帰ってきたらしい」
「へぇ。まぁ今時珍しいことでもないさ」
「あぁ、そうだな」
「オバサンになってたか?」
「ん~~、ま、会えばわかるわ」と正吾はニヤリと笑って帰って行った。
現在はすでに47歳になりめっきり体力の衰えを感じる琢磨。
子供の頃はガキ大将で中学時代は不良少年。なんとか大学だけは卒業し、田舎に帰って親の家業を継いでいる。
自分で建てた家もある。妻や子供にも不自由はさせていない。荒くれだが気心の知れた従業員も居る。頭の痛いことがあるとすれば最近別れたはずの女が電話をかけてくるか、不景気を理由に支払いを渋るクライアントが時々居るくらいだ。
今朝の琢磨は機嫌が悪かった。
というのも、嫁が新しい服を買うということで朝食中ずっとうるさかったのだ。
好きなものを買えと言ってはいるが迷うのが女の楽しみということで、季節ごとに毎回同じような話を聞いている。
朝食が終わる頃ようやく、今度東京に行く長女と一緒に上京して住まいの準備と買い物をすればいいと言うことで一件落着した。
嫁にした女は小柄でくるくるとした目がかわいい女の子だったと思い出すと微笑まずにいられないが、
今は3人の子供を産み育て、しっかりと肝っ玉母さんだ。体系も少しぽっちゃりしてきた。
長女はこの春から東京の大学に行く。
長男は大学受験に突入するし、次女は今年入る高校に困るくらいにデキが悪い。
実際に、ツテを探して頼むこみようやく高校に入れたのだ。
逃げるように事務所に来てお茶を飲んでいると、「社長、山野コーヒーの店長さんがお見えです」と事務員が内線で知らせてきた。
中学でクラスメイトだった山野正吾は、一度もこの街を出ることなく地元で喫茶店を始めた。自家焙煎という触れ込みのコーヒー豆が美味しいからと事務員が定期的に注文しているようである。
取り立てて仲がよかったこともなかったが、クラスメイトのよしみだと正吾がいつも言うので、従業員達は社長の友達の店としてよく利用しているようだった。
電話で注文すると正吾は手の空いた時間にコーヒー豆を届けにくる。
いつもは事務員に渡して琢磨には会わずに帰るのだが、めずらしくこともあるものだ。
「通してくれ」と琢磨が言うと、「どうも、どうも!」と相変わらずの惚けた口調で正吾がドアを開けた。
「いつもご注文ありがとうございます」と言うので、「いやいや、いつも届けてもらって悪いな」と一応社交辞令を言う。
「今日は何か?」と促すと、「え~っと、同じクラスだったカンナって覚えてるだろう?」と言った。
「結構お前とは喋ってたような気がするけど?」と言う。
カンナといえばあのカンナしかいないだろうなと、目を細めながらおぼろげな記憶をたどってみる。
「小野寺カンナだよ」と正吾が言った。
「あぁ、小野寺な。20年以上も前のことだぞ、ちょっと待て。顔ははっきり思い出せない」
「そうか?結構印象の強い子だったけどなぁ」
「お前達はよく一緒に遊んでたんじゃないか?」
「あぁ、カンナと麻里子が仲良かったからなぁ」と言う。
正吾はその当時同じクラスの麻里子と付き合っていたのだ。
「なんとなく思い出したわ。はっきりとじゃないけど」と正吾が言うと、
「昨日ふらりと店にやってきて、お前のこと聞いてきた」
「ふ~ん」
「何でも仕事の相談をしたいらしい」
「へ?仕事かぁ?引っ越してきたんかな」
「あいつさ、長いことここ離れてたから、お前がカンナのこと覚えてるかどうかわからんと心配してた。一応俺から話してみてくれって言うんだわ」
「直接電話くれればいいのに」
「うん。それでも最初は電話かけ難いんだと」
「そうなんか」
「話聞いてくれるようだったら、2~3日のうちに電話するってさ」
「わかった」
「あのさ、カンナ、離婚して帰ってきたらしい」
「へぇ。まぁ今時珍しいことでもないさ」
「あぁ、そうだな」
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